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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第十章 魔王と三人の転生者

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24.VS魔王軍 その五


 すまない、まとめきれなかったのです

 なので、分割


 第八エリアにて―――。


「ぬぅぅ……ござる!!」


 キン!キン!ギィィン!!と甲高い剣戟音が鳴り響く。

 何度も何度も、ラセツはアルマティの体を斬り付ける。


「気持ちいい!!」


 だが、アルマティは恍惚の表情を浮かべるだけで、傷は一切見られない。

 硬い。

 硬すぎる。

 あのウロヌスの“異形”すら斬り裂いたラセツの斬撃が、アルマティに傷一つつける事が出来ないのだ。すごく……硬いです。


「このっ!このっ!このっ!ござるっ!」


「気持ちぃぃぃぃ!!」


 最悪の相性。

 そう断言するほかになかった。

 これ程までに自分にとってやり難い相手が居るのか、ラセツは生まれて初めて歯噛みした。斬れないというのが、これ程悔しいものだとは。あと、キモい。


「今度はこっちの番だ!」


 アルマティの乱打。

 鉱龍を遥かにしのぐ硬度を誇る彼の拳は、攻撃に回れば最強の武器となる。

 とっさにラセツは腕をクロスしてガード。


「ぐっ……!」


 だが、踏みとどまる事は出来ず吹き飛ばされてしまう。

 壁に激突しようやく止まる。

 アルマティが近づいてくる。


「僕はね、戦いって恋愛と似てるんじゃないかって思うんだ」


 ……は?

 いきなり、何を言ってるんだろうか?


「互いの思考、能力のぶっかけ合い。そしてお互いの強みや、敏感な部分をさらけ出して、より深く自分の滾るソレを相手の膣内(なか)に挿入する……。これって、もはや疑似的なセ―――」


「ござあああああああある!!」


 叫び声を上げながら、ラセツはアルマティの戯言を封じる。

 聞くな。聞いちゃいけない。頭がおかしくなる。

 精神攻撃だ。心を強く持て。

 あとルビがおかしい。誤植だと思いたい。


「いいっ……!凄く良いよ、鎧武者君!こんなにも熱い戦いは初めてだ!」


「いいから死ね、ござる」


「……君が僕を殺せるならね。僕の死(初めて)……君に奪えるかい?」


 ―――ぞわっ。

 その熱い視線がラセツを射抜く。

 精神攻撃だ。なんて気持ち悪い。

 その精神的怯みが、一瞬のすきを生む。


「ほら、隙あり!」


 空いたお膣内(なか)にボディーブロー。

 アルマティの堅いソレがラセツにねじ込まれる。

 

「かはっ……」


 凄まじい衝撃がラセツを襲う。


 そして―――ビキッ!と、ラセツの鎧に“ひび”が入った。


「―――っ!?」


 ラセツに衝撃が走った。

 生まれてから誰も、傷付けることが出来なかった自分の鎧。

 それが―――傷つけられた。


「ふふ、君の鎧もなかなかだね……。殴った僕の手の方も痛くなるなん……て……?」


 アルマティの言葉が途中で止まる。

 理由は目の前に居る鎧武者。

 全くの無防備で幽鬼のようにただ立っている。


「……さない」


「ん?なんだって?」


「ゆる……さない」


 パパから貰った鎧に……ヒビ……キズ……傷を!!

 大事な鎧に傷をつけた!!

 それは何よりも大事な父と自分の絆を汚されたことに等しい。


 ゴシュゥゥゥゥ!!!と、ラセツの身体から湯気のようなものが吹き上がる。

 それは、可視化される程の圧倒的な魔力だ。


「許さない許さない許さない許さないユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイゆるさないゆるさない許さない許ユルゆる―――ぜっっっっったいに許さない!!!!!!」


 刹那、ラセツの魔力が爆発的に膨れ上がる。

 それは災害級を超え、厄災級―――そして更に―――。


「はは……これは、凄いね」


 その魔力の奔流にアルマティは引き攣った笑みを浮かべる。

 虎の尾を踏んだつもりだったが、どうやら自分が踏んだのは、それよりはるかに禍々しい存在だったらしい。


「でも―――だからこそ面白いじゃないか!」


 アルマティも力を解放し、全力で駆ける。

 ラセツも駆ける。

 拳が、斬撃が、激突する。

 凄まじい衝撃が走る!

 地面が割れ、壁が壊れ、空気が震える。

 

 凄まじい太刀と拳の応酬。

 それはもはや他者が介入できる領域ではなかった。

 その証拠に、先程まで殺し合っていたスケルトン部隊も、魔王軍でさえも二人の戦いに巻き込まれない様、ダンジョンの隅で一緒になって震えていたのだ。


 そんな彼らを尻目に、二人の戦いはさらに激しさを増してゆく。



◇◆◇◆◇



 第六エリアにて―――。


 宣言通り、モルダ率いる魔王軍第八部隊は、あっという間にエルジャ達の待つ第十二階層までやって来た。

 それまでの間抜けっぷりが嘘の様に鳴りを潜め、最短最速でのダンジョン攻略を行い、ゴーレムの再配置などもお構いなしに此処まであっさりとやって来た。


「いやぁ、初めまして聖龍の皆様。私は魔王軍第八部隊隊長モルダと申します、はい。申し訳ありません、ここまで来るのに時間がかかってしまい」


 ぺこぺこと頭を下げながら、自己紹介をするモルダ。

 サラリーマンのような姿だが、もうその仕草に惑わされはしない。

 エルジャ達は油断なく構える。


「あれ?挨拶はなしですか?残念です」


 すっとモルダは片手を上げる。


「えーっと、それでは、みなさーん。かかって下さーい」


 エルジャ達と魔王軍第八部隊の戦いが始まった。

 モルダは六角棒を手に、エルジャに跳びかかる。

 彼の部隊の魔族達も、それに合わせる様に、他の聖龍達と戦闘に入った。


「さて、それじゃあ、私の相手は―――」


「燃えつきなさい!」


「うおおおっ!?」


 エルジャの炎がモルダの服を焦がす。

 『浄化』の癒しの炎ではない。攻撃用の、敵を灰燼に帰す破壊の炎だ。

 が、モルダはそれを紙一重で躱す。


「い、いきなり不意打ちとか、何を考えているんですか?」


 そもそも、不意打ちにいきなりも何もないと思うのだが。


「うるさいですわ!アース様のダンジョンは、婚約者であるこの私が守ります!」


「なっ!?エルジャ、僕はまだあきらめてないよ!」


 そもそも、婚約なんてしていない、妄言である。

 そして地味にショックを受けつつ、対抗意識を燃やすポロロ。


「ほぅ、彼の神災龍王の御子息は、“守護聖龍”の御息女と番いになると……。それはそれは、おめでとうございます、はい」


 パチパチと拍手を送るモルダ。

 祝福されるとは思っていなかったのか、エルジャが照れる。

 

「……ならば、尚の事私も頑張らなければいけませんね」


 六角棒を構え、突進。

 エルジャへ接近する。


「“炎よ―――っ!」


 すぐさま防御術式を展開しようとするが―――。


「火属性防御術式“炎鱗ノ鎧”ですか?……遅いですよ」


「な―――がはっ!?」


 エルジャの防御が発動するよりも早く、モルダの六角棒がエルジャを打ち付ける。

 強かに打ち付けられ、エルジャは地面を転がった。

 

「炎属性の防御魔術は、攻撃に比べて発動が遅いんです。コンマ数秒ほどですがね。なので、今の場合は、攻撃用の術式でカウンターを狙うべきでしたね、はい」


「くっ……」


 すぐに回復用の魔術を―――。


「回復術式はさらに時間を要します。痛みに耐えながらでも、まずは敵と距離を取らねば意味がありませんよ?」


 ―――する前に、モルダの攻撃がエルジャのわき腹に叩き込まれる。


「あがっ……ど、どうして……?」


「そんなに不思議ですか?私が、アナタの攻撃を先読みすることが?」


 エルジャは無言で頷く。

 モルダは自分の眼を指差した。


「鬼族の“眼”の力です。あとはまあ……単純な経験則ですね、はい」


「鬼族の……“眼”?」


「ええ。倭の国には『木を見て森を見ず』なんて諺があります。小さなことばかりを見て、全体を見ないという意味なのですが、鬼族の眼はその逆。『木を見て、森を見通す』事が出来るのです。個人差はありますがね。私の場合は感知能力を併用し、それを更に強化しました」


 だからこそ、未来視の様に、エルジャの動きを読むことが出来た。

 だからこそ、ダンジョンの一階を見ただけで全体構造を把握することが出来た。

 それこそがモルダの力。

 彼は余りにも常軌を逸した観察眼を持っているのだ。


「鬼族固有の術式は多いんですよ。この“眼”だったり、方角を決める占いや、個人の転移術式。あと呪術、呪いの類なんかも得意です。……まあ、最後のは使ったら死にますけど」


「……良いんですの?そんな情報を教えてしまって」


「構いませんよ。私にとってはあまり“意味の無い情報”ですし。私に闘い方を教えてくれた前の隊長……まあ、今は裏切り者ですが、その人も口の軽い方でしたからね。ハウロトさんは仕留めそこなったって言ってましたが、はてどこに居るのやら……」


 どこか昔を懐かしむ様にモルダは語る。


「それで、話は変わりますがエルジャさん。そろそろ、“本気”になった方が宜しいのでは?」


 ぴくりと、エルジャの方が動く。


「何を……」


「だって、貴女方はダンジョンの中では“全力”を出せないじゃないですか。だから、こうして私に良いようにあしらわれてる」


 それは正しかった。

 聖龍の本領が発揮されるのは、地下ではなく、地上や空。

 地中ではその巨体故、身動きが取れなくなってしまう。

 成体の地龍が作り上げたダンジョンなら、まだしも広く作られているから、身動きがとれるだろうが、このダンジョンはアースの成長に合わせて造られている。

 彼女たちの本来の姿には狭すぎるのだ。


「本気を出していない貴女では、私としても不本意なのですよ。多分……耐えられないと思いますからね、はい」


 眼鏡の奥の眼光。全てを見透かすような視線。

 それが真っ直ぐにエルジャを捕える。

 耐えられない?それ程、自分の力に自信があるというのか、この男は?


「あるのでしょう?“奥の手”が。出し惜しみはしない方が、宜しいと思いますよ?」


「……」


 一体何を考えている?

 エルジャには、この男の考えが読めなかった。


「何を……考えてるんですの?」


「さあ、何でしょう?ですが、少なくとも本気にならねば、貴女は死にますよ?」


「……いいでしょう、ならば後悔しないで下さいませ!」


 エルジャは覚悟を決める。

 次の瞬間、ゴウッ!!っとエルジャの魔力が爆発的に膨れ上がった。

 身に纏っていたドレスには紅の龍を思わせる装飾が施され、その両手両足にも紅い龍の籠手、グリーブが装着される。いわゆるドレスアーマーと呼ばれる武装だ。

 手に持っていた日傘も、細かい宝石がちりばめられた美しいレイピアへと変化している。


「―――“龍装変化”」


 エルジャが変化したレイピアを振るう。

 爆発的な魔力の圧がモルダを襲った。


「ほぉ……これはこれは、素晴らしい。聖龍としての戦闘力を、人の身に圧縮したのですね。おそらく……“龍殺し”を参考にされたんでしょう?」


 その魔力の熱風に耐えながらも、モルダは自分の考えを披露する。

 その顔にはうっすらと冷や汗が滲んでいた。

 

「正解ですわ。“龍殺し”のもつ“龍人形態”……。それを参考に、エリベル様と作り上げました。―――私の切り札ですわ」


「素晴らしい力です……いやはや、これは強そうだ」


 やれやれと肩をすくめる。

 それがエルジャの神経を逆なでした。


「では―――往きますわよ!」


 レイピアを構え、エルジャは突進した。


 そして―――勝負は一瞬で決した。



◇◆◇◆◇



 一方、第八エリアでも戦況に変化が見えてきた。


「うん……うん……ござる!!」


 そう呟きながら、ラセツが大太刀を振る。

 その斬撃が、アルマティの頬をかする。

 つぅっと血が流れた。


「っ!?」


 驚くアルマティ。

 さらに追撃を仕掛けんと、ラセツは大太刀を振るう。

 咄嗟に手でガードしようとするも、今度は腕が切り裂かれた。


「ぐああああああ!?」


 たまらず悲鳴を上げるアルマティ。

 即座に距離を取り、腕の状態を確かめる。かなり深いが、骨までには達していない。

 即座に“錬金”で止血と縫合を行い、強制的につなげる。即席だが、これならば戦闘に支障はない。

 幸運な事にラセツの追撃は無かった。

 その場から動かず、何かを確かめる様に何度か太刀を振るっている。


「ふぅー……どうしたんだい?急に斬れて、混乱してるのかな?」


 びっしりと脂汗を浮かべるアルマティ。呼吸も荒い。

 その顔には今までの余裕が感じられない。

 対するラセツは。


「……うん。慣れた、ござる」


「……………は?」


「凄く硬かったけど、ようやく慣れてきた……ござる」


「慣れ……だって?そんなもので僕の体を―――」


 そう言いかけて、アルマティは気付く。

 あの爆発的な魔力の上昇から、相手の体が変化している事に。


「な、なんだい、君……その体……その“色”は?」


 そう。ラセツの体が所々黒ずんでいるのだ。

 それは鎧だけでなく、ラセツの持つ大太刀もだ。

 まるで墨が紙にしみ込む様に、ゆっくりと彼の体が黒に染まっているではないか。


「馴染むのに大分時間がかかったです、ござる」


 ズズズズズズズズズズズと、ラセツの体がどんどん黒く染まってゆく。

 禍々しさをこれでもかという程に凝縮した黒い鎧と太刀。

 その姿に、アルマティだけでなく、彼の部下も、ダンジョンの仲間ですら震えていた。


「―――“魂魄変化・黒”」


 ズンッ!!!と凄まじい衝撃が、アルマティを襲った。


「なっ、馬鹿な―――ぐうううっ!」


 その衝撃で数メートル以上吹き飛ばされてしまった。

 何という凄まじい威力だ。

 だが、アルマティが驚いたのはそこではない。

 なぜなら今の衝撃は、魔術的な攻撃で起こったモノじゃないからだ。


 ただ、軽く太刀を振るっただけ。


 それだけで、あの衝撃が生まれたのだ。

 そして、気付く。

 ラセツから感じる魔力―――その根幹。魂が、変化している事に。


「まさか君は……相手の強さに合わせて、“魂”を変化―――いや“昇華”させているのかい?」


 こくりと、ラセツは頷いた。

 そんな馬鹿なと、アルマティは叫びたかった。

 相手に合わせて魂を変える?あり得ない!

 それはつまり、相手よりも強くなるよう自分の体を作りかえるという事。

 いわば、限定的な“進化”だ。なんだそれは!常識外れにも程がある。

 それは霊王級―――いや、その上にあるとされる神王級の魔術にすら匹敵する。

 そんな事が出来るわけ―――。


「あ……」


 そこまで考えて、アルマティは思い出す。

 居た。

 そんな行為を平然と行う規格外の存在が。

 破壊の権化ともいえる固有術式を持ち、相手に合わせて無限に進化する生物を生み出す能力を持つ一体の龍が。


「ああ……そうか、そう言う事か。だから、アジル様は君たちを殺せと……。正直、半信半疑だったけど、ようやく理解出来たよ……」


「何を言っている、ござる?」


「何でもない。ただの独り言さ。さあ、決着を着けようか」


 もはや、勝ち目はないに等しいだろう。

 なにせ相手は自分よりも強くなってしまったのだから。

 加えて、こちらの攻撃も見切られつつある。

 ここは撤退し、対策を立てた後、部隊を再編成するのが鉄則。

 だが、


「でも……だからこそ、滾るじゃないか!各自撤退!時間は僕が稼ぐ!」


 アルマティは部隊に撤退を指示。

 そして、彼自身は笑みを浮かべ、ラセツへ挑んだ。

 部下が撤退までの時間を稼がなくてはいけない。それが隊長としての仕事だ。

 故に、彼はここを引くわけにはいかない。引く事など出来ない。

 だが、それは半分建前。もう半分は、彼自身がこの強敵と戦いたいがため。

 なにより―――これ程の強敵を前にして、背を向ける事など、彼の誇りが許さない!


「はは……はははははははははは!!」


 気づけばアルマティは笑っていた。

 それに呼応するかのようにラセツも笑い声をあげていた。

 アルマティが殴る。

 ラセツが斬り付ける。

 その度荷凄まじい衝撃が起こる。

 地面が割れ、壁が砕け、天井が悲鳴を上げる。


 熱い。体がどこまでも加速する。

 自らの呼吸が、鼓動が、血の一滴までもが、ひたすらに熱い!

 これだ!この昂揚感なのだ!これこそが、自分の求める戦い!

 届かぬからこそ、手を伸ばす!それこそが、自分の命を賭けるに足る理由!


 殴る、殴る、殴る。


 斬る、斬る、斬る。


 笑う、笑う、笑う。


 戦う、戦う、戦う。


 腕が切り裂かれる。血だまりが出来る。

 これが戦い。自分と相手の全てをさらけ出し、混じりあう殺し愛。

 ああ、どこまでも素晴らしい。

 この時間が永遠に続けばいいのに。


 だが―――永遠の時間は終わりを告げる。

 カクン、と。

 アルマティの膝が崩れ落ちる。


「ああ……もう……限界かぁ……」


 左腕も、右足も切り落とされ、片手片足になっていた事にも気づかなかった。

 それ程までに、激しい戦いだった。……楽しい時間だった。

 後ろを見ると、彼の部隊は撤退に成功したようだった。

 肘から先の無い右腕で、アルマティはラセツに手を伸ばす。


「感謝……するよ……鎧武者君、僕は―――」


「ラセツ」


「え?」


「僕の名、ラセツ、ござる」


「…………そっかぁ……いい……名前…だ……ね。ふふ……ありが……と…う」


 最後にそう呟き、アルマティは倒れた。

 ―――死んだ。

 その亡骸を見下ろし、ラセツは太刀を鞘に納める。



「―――僕も楽しかった、アルマティ」




 第八エリア―――決着。

 



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