12.またですか?ええ、そのようです。
とりあえず、逃げた。
うん、我ながら最低だとは思う。
でも、これはしょうがない。
そう自分に言い聞かせる。悪くない。俺は悪くない。
ギジーに頼んで、即座に転移門を開き、深層の森より離脱。
無論、トレス達もすぐに回収して貰った。
ちなみに俺やトレスが深層で遊んでいたことは、既にエリベルはご存じだったらしく迅速な対応をしてくれた。
さて、何発ぶたれるだろう……。
鱗や爪で見逃してくれればいいけど。
ガタブルになりながら、転移門によって、エリベルの研究所へ移動した。
「―――成程、分かったわ。まあ、とりあえず生きてるみたいだし、事情を聞いてみましょうか」
『あれ?なんか冷静な対応だな?』
てっきり、またアンタはー!みたいな感じで怒られると思ったのに……。
「何よ、その顔?ひょっとして、怒られるとでも思ってたの?」
『……思ってた』
「はぁ……しないわよ、別に。アンタに悪気があったわけじゃないし、今回のは事故みたいなもんだしね。それに、間違ったなら、ちゃんとやり直せばいいのよ」
………誰だコイツ?
俺の知ってるエリベルじゃない。
こんなきれいな賢者、俺は知らない。
もしやまた浄化されたのか?かつて一瞬だけ発現したあの“綺麗な賢者”に。
と思っていたら、
『―――先ほどのかくれんぼの映像を、エリベル様はこっそり隠し撮りしておられたのじゃ』
と、ベルクが思念通話で教えてくれた。
ああ、そゆことね。
深層の森には監視用の魔道具がいくつも配置されてるもんな。
ん?
でも、それだけであんな上機嫌?
と思っていたら、ベルクが補足してくれた。
『ちなみにその際に、トレス殿のズボンが木にひっかけてずり落ちるというハプニングがあってな。それで……その……エリベル様は、大層興奮なさってな。別室で自分を慰めておったのじゃ。じゃから……今は比較的冷静なのじゃ』
なにそれ、ヤバい。
ドン引きだよ。
全然大丈夫じゃねーよ、それ。
賢者が生身の肉体を手に入れた今、本格的にトレスやツムギの貞操がヤバい。
見ればエリベルは鼻歌を歌いながら、端末を操作している。
だがよく見れば、何度も内モモをこすり合わせている。
それに口元にはよだれの痕。
うわぁ……。
『なあ、ベルク……』
『分かっておる。隙を見て映像は削除する。後でどんな罰を受けようとも、やってみせよう』
『……悪いな、いつも損な役回りばかりさせて』
『構わんよ。一応アレでも、儂の主君じゃしな……』
『ホントあの性癖さえなければなぁ……』
『誰しも欠点はあるものじゃ。問題はそれが大きいか小さいか、許容出来るか出来ないか、それだけじゃよ……』
なんて大人な意見なんだ。
流石、ベルク。伊達にエリベルの下で働いていない。
そんな感じでちょっとしんみりしながら、俺とベルクの思念通話は終わった。
「二人とも、何やってんのよ。ほら、映像出るわよ」
深層の森の映像が映し出される。
そこには焼け焦げた女性が居た。
おー見事なまでにこんがりだー。
「アレ、この子って……」
エリベルが何かに気付く。
凄まじい勢いで端末を操作する。
早すぎて指先が見えない。
「やっぱり……この子、前に帝都で会ったギブルの眷属じゃない」
『えっ』
「魔力のパターンが同じだわ。えーっとなんて言ったかしら、ク……クスラ……違うわね、クシャスラ……だったかしら」
『ああ、そう言えば』
思い出した。
“嚇牛”クシャスラ。
戦いが終わった後に現れたギブルの眷属の内の一人だ。
牛みたいな角に、青い肌のグラマラスな美人さんだ。
なんか偉そうな感じの奴だったって記憶に残ってる。
「まあ、そのレベルじゃなきゃ、アンタのブレス喰らって原型留めてるわけないしね。気付いてた?アンタのブレス、また威力上がったのよ?」
あ、それは俺も思った。
撃った時の感覚が違ったもん。
地龍型ゴーレムの威力には及ばなくても、その七割くらいまでなら出せてた感じがした。
うん、俺もちゃんと成長してるんだね。
「んじゃ、とりあえず通信開くわね」
『ああ』
とりあえず通信を通して、クシャスラに声をかける。
『おーい』
『…………』
……返答がない。
というか、まったく起き上がらない。
ピクリともしない。
『……し、死んでないんだよな?』
「……生きてるはずよ?…………多分」
余りの無反応っぷりにエリベルも若干たじろいだ。
そして数分後。
ようやくクシャスラは目を覚ました。
状況が分かってないらしく、辺りをきょろきょろしてる。
『アレ……?ここは……私はどうして……?』
『あー目が覚めたか?』
『その声、アース様ですか!?わ、私はどうしてここに?確か、エルド荒野にたどり着き、アース様のダンジョンを目指したところまでは記憶にあるのですが、あの大穴に飛び込んだ辺りから記憶が―――うっ』
クシャスラはボロボロの腕で頭を押さえる。
あー、そうでしょうね。
飛び込んだ瞬間、ブレス喰らったからね。
……悪くない、俺は悪くない。
『気にするな、その大穴の上には、強力な結界やトラップが貼ってあったんだ。それに当たったんだよ』
という事にしておこう。
『そ、そうだったのですか』
あっさり信じた。
驚きのチョロさである。
『あれ?それにしても、アース様、一体どこに?声だけで姿が見えませんが……』
『ああ、いま俺はダンジョンの中から通信魔石で話しかけてるんだ。目の前に光る魔石があるだろ。こっちからは、そっちの姿も見えてる』
『あ、そう言う事ですか。しかし、その口ぶりからすると、この森はまだダンジョンですらなかったのですね』
『まあ、そう言う事になるな』
『素晴らしい魔力を感じます。流石、ギブル様の息子アース様です』
クシャスラは、すぅーっと深呼吸しながら、体の調子を確かめる。
どうやら大分意識がはっきりしてきたようだ。
「それで、私達のダンジョンに何しに来たのかしら?」
『その声……ああ、帝都で会った賢者とか言う魔術師ですか?私はギブル様より、アース様に伝言を承ってきたのですよ。というか、口の利き方に気を付けなさい、元人間風情が。星脈の眷属を相手に頭が高いですよ?』
「あら?その人間風情の作った結界やトラップに引っかかって、焼肉になったのはどこの誰なのかしらね?」
『……ゆ、油断していただけです。それに、力を制限されていなければあの程度のトラップなどっ……』
「それを世間一般では負け惜しみっていうのよね。あー、やだやだ、目の前の結果を受け入れられないなんて、流石、星脈の眷属は頭が高いのねぇ」
『だ、黙りなさい!元人間風情が!』
バチバチと通信越しにやり合う二人。
お前ら何でそんなケンカ腰なのよ……?
『あー、それで、ギブルから伝言って?』
埒が明かないので話を進めよう。
『あ、そうでした。ギブル様は現在、星脈のダンジョンで療養中なのですが、アース様に伝えておきたいことがあると……』
そう言ってクシャスラは懐からこぶし大の魔石を取り出した。
……服がぼろぼろで、あちこち大変な事になってるのは突っ込まないでおこう。
あ、揺れた。何がとは言わない。
『映像魔石か?』
『はい』
すると魔石が光りだし、立体映像が映し出された。
『―――可愛いアース、久しぶりですね』
石で出来た祭壇みたいな場所で、寝そべるギブルの姿が映し出された。
身体には奇妙な管が何本も巻きついている。
『こんな姿でごめんなさいね。ウロヌスとの傷がまだ癒えていないのです』
あれ、エリベルがファーブニルの治療に使ってたのに似てるな。
「私が使ってる治療具に似てるわね……」
エリベルも同じ感想を抱いていたらしい。
『今日クシャスラを遣わせたのは、貴方達にもあれからの事を、報告しておこうと思ったからです』
あれから……。
ウロヌスの事についてか。
『……ウロヌスの再封印は完了しました。もう、あの子が再び甦る事はないでしょう』
映像が切り替わる。
何もない四角い部屋だ、
その中心に黒い魔石が浮かんでいた。
「……これがウロヌスの、今の姿って事ね」
直ぐにエリベルが察する。
アレがウロヌスの封印体で間違いないだろう。
映像越しでも、あの黒い魔石からは凄まじい魔力が感じられた。
でも、それ以上にあの魔石から感じるのは……。
―――ズキン。
映像が切り替わる。
再びギブルが映し出された。
『封印はグルファンが行いました。覚えていますか?そこに居るクシャスラと一緒に居た子です』
ああ、覚えてる……かろうじて。
“海帝”グルファン。
うん、確か……あれだ。ツムギを大人にしたような感じの女性だった筈だ。
『尤も、そのためにあの子はここを離れられなくなりましたが……。あの子もアナタに会いたがってましたよ?ふふ、アースは私の眷属達にも大人気なんです』
まるで我が子の自慢話のようにギブルは嬉しそうに語る。
ちょっと、照れる。
「なんにせよ、これでウロヌスの件は完全に片付いたと思っていいのかしらね?」
『多分、そうだろ』
「そう……終わったのね……」
エリベルは複雑そうな表情を浮かべた。
まあ、リアスの事を考えれば、エリベルにとっては何とも言えないだろうな。
ある意味、エリベルにとって人生を変える原因となった存在だし。
『あ、それともう一つ報告があります。まあ、こっちはついでみたいなものですが』
ピンと指を一本立てるギブル。
ん?何かまだあるのか?
まあ、ついでって言ってるし、そんな大したことじゃないんだろう。
『ハルシャから聞きましたが、皇獣アジルが復活したそうです。それで、多分近いうちに彼は眷属達と共に、貴方のダンジョンへ攻め込むでしょう』
…………ん?
『だから、頑張って迎撃してくださいね。大丈夫、アースなら出来ます』
……んんん?
『アジルの眷属には災害級や厄災級もゴロゴロいますが、アナタと眷属なら何とかなるでしょう。それにアジル自身もウロヌスよりちょっと弱い程度です。あの戦いを乗り越えたアースなら問題ないでしょう』
んんんんんんん?
『本当は手を貸してあげたいのは山々ですが、私はこの通り動くことが出来ません。なので、代わりと言ってはなんですが、そこに居るクシャスラを貸しましょう。自由に使ってもらって構いません』
『えっ?』
突然話を振られ、クシャスラが映像を見上げる。
『ちょっ、え、ギブル様!?私、そんなの聞いてないんですけど!?』
どうやら、彼女にとっても予想外の事だったらしい。
必死に問いかけるが、録画した映像が答えてくれる筈もない。
『あ、詳しい事はハルシャか、その眷属辺りにでも聞いて下さいね』
『て、転移魔術が発動しない!?ギブル様、もしかして私これが終わるまで帰れないんですか!?ギブル様!ギブル様ーーー!!?』
クシャスラが必死になってギブルに叫びかけるが、返答なんてある筈ない。
話は終わったようで、ギブルは画面の中で手を振っている。
『では、可愛いアース、また会いましょう。アナタがちゃんと力を覚醒し、真の龍王種になってくれるのを私はずっと待ってますよ―――』
と、そこで映像は途切れた。
「「「『……………』」」」
しーん……。
沈黙。
エリベルも、ベルクも、画面超しのクシャスラさえも沈黙。
圧倒的、静けさ。
とりあえず、あれだ。
一言だけ言いたい。
ふざけんなああああああああああああああああああああああああ!!
なんだよ!
ホント、なんなんだよ、あのヒトは!
あ、人じゃなかったか、龍か。
えっ、訳が分かんないんだけど!?
また厄介なのがやってくるの!?
あれだよな。
皇獣って魔王だよな!?
レーナロイドが言ってた神災級の魔物だよな!?
何でそんなのが俺のダンジョンに攻めてくるわけ!?
「これは……大変な事になったわね……」
流石のエリベルも頭を押さえている。
ベルクとクシャスラに至っては未だに放心状態だ。
ホント、もう……どうすんのよ、これ?
テッテレーン
くしゃすらが なかまに なった
パーティーに加えますか
▶ はい
いいえ
何で攻めて来るのかは次回説明します




