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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第十章 魔王と三人の転生者

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3.一人目の転生者

レーナロイド「私のターン!(キリッ)」

『エーリちゃーん!会いに来たよー!やっほーーーー!』


 緊張感のかけらもない声が、監視室に響き渡る。


 エルド荒野ダンジョン深層の森。

 そこに映し出された映像には、これまた緊張感のかけらも無いにへらっとした笑みを浮かべた地味ぃな女性が手を振っている。


 レーナロイド・レイノルズ。


 今まさに話題に上がっていた件の女性。


 え、ちょっとアナタの家燃えてるんだけど?

 何でそんな呑気でいられる訳?

 その隣で、顔の半分を仮面で覆い大剣を背負った男が、額に手をやってやれやれみたいな感じに俯いている。

 えーっと、確かルギオスなんちゃら……だったっけ?

 あとから聞いた話だと、彼は以前あのクソ龍殺しのヴァレッドをボコボコにしてくれてたらしい。

 個人的にはとてもお礼を言いたい。

 でも欲を言えばトドメまできちんと刺してほしかった。


 とまあ、それは置いといてだ。


 何なのこの状況?


 隣に居るエリベルも「は?」みたいな表情を浮かべてる。

 うん。骸骨の頃よりも表情が分かりやすいな。

 まあ以前も、眼窩の炎の揺れで大体は分かったけど。


『えーっと、エリベル……』


「ちょっと待って、話しかけないで、混乱してるから」


 あ、うん、それは良く分かる。

 俺だって意味わかんないよ。

 あの感じを見るに逃げてきたようにも見えないし。

 普通に会いに来たのかな?

 でも、タイミングがタイミングだしなぁ……。

 

『あっれー、おかしいな?この辺りまでくれば、もう向こうに声や映像は届いてると思ったんだけど』


 一方、こちらの反応が無いのが気になったのか、レーナロイドは首をかしげている。


『あの……レーナ様。お言葉ですが、事前に連絡とかはされていましたか?』


『え?』


『え』


『『…………』』


『……レーナ様?』


『あ、いや、その……そもそも連絡先、聞いてないし。……ぶっつけ本番?みたいな感じでイケるかなと……』


『イケるわけないじゃないですか!貴女よくそんなノープランで国の利権手放そうと思いましたね!?』


『だってしょーがないじゃないか!』


『しょうがないじゃありません!毎回毎回、貴女のノープランに付き合わされる私の身にもなって下さいよ!この一か月、引継ぎやら書類や雑務で碌に寝てないんですよ!?』


『あーあー!聞こえなーい!聞こえなーい!』


 何か言い争いを始めてるし。

 見たことあるなこの光景。

 ああ、アレだ。エリベルとベルクのやり取りにすっげー似てる。


「はぁー……アース、とりあえず回線繋ぐわ」


 だいぶ落ち着いたらしいエリベルが端末を操作する。

 

「もしもし?聞こえるかしら、クソ婆」


『―――!その声、エリちゃんかい!?やっほう!久しぶりだね。私に会えなくて寂しかっただろ。だから会いに来たんだぜい!いえい!あ、私もね、エリちゃんに会えなくて凄く凄く寂し―――』


 ピッ。

 エリベルは音声機能をオフにした。


「……ごめんなさい、アース。なんかもう話したく無くなって来たわ」


 ゴメン、それ俺も思った。


 うん。聞いてた通り、このヒト色々と拗らせてるわ。

 出来れば関わり合いたくないタイプだ。


 でも話を聞かない事には先に進まない。

 仕方なく、音声機能をオンにする。


『あれー?エリちゃんー!反応が無いんだけどー!どうしたのー?』


「うるさいわね。聞こえてるわよ」


『あ、良かった良かった。てっきり、私の声聞きたくなくて、音声カットしたのかと思っちゃったよ』


 それ正解。


『―――と、まあ冗談はこの位にして、ダンジョンに入れてくれないかい、エリちゃん。多分、色々と聞きたいことがあるんだろう?』


と、先程までのふざけた口調とは一転、レーナロイドは真面目な口調なった。


『例えば―――“雷斬り”について、とかさ』

 

 雰囲気が変わったのを察したのか、エリベルの表情も引き締まる。


『――-っ』


 ズキン。

 その名前を聞いた瞬間、再び頭に痛みが走る。


「そうね。確かに、“雷斬り”については色々調べてるわね。でも別に、アンタに聞かなくても―――」


『つまらない嘘は止めなよ、エリちゃん』


 エリベルの言葉を遮って、レーナロイドは言葉を紡ぐ


『あれから一か月経ってる。調べられるだけ、調べ尽くしたんじゃないかい?なら情報は頭打ちになってる筈だ。きっと得られたのは表面的な部分だけで、深い部分については分からなかったんだろ?』


 まるでこちらを見透かしているかのような口調。

 ……本当にさっきまでと同じ人物か?


『知りたいのなら、教えてあげるよ?エリちゃんが望むなら、私の知りえる全てをね』


「……」


 エリベルがこちらを見る。

 俺も頷く。


 エリベルは端末を操作し、転移門を開いた。



 ◇◆◇◆◇

 


 んで、場所は変わって、ダンジョンの外。


 場所は懐かしきエリベルの生前の研究場所『第零魔道研究所』である。

 

「……なんで、ここなんだい?」


 不満そうに声を上げるのは、地味魔女さん。

 後ろに控える騎士さんは、油断なく周囲を観察している。

 そんな警戒しなくても、別に罠なんて仕掛けてないって。


「アンタをいきなりダンジョンに招いたら、他の奴らが混乱するからに決まってるでしょうが」


 どかっとエリベルはその辺にある椅子に腰かける。

 俺もその隣に座る。

 ちなみに今の俺は、久々の蜥蜴人リザードマンの憑代に入っている状態である。

 本体で外なんて出たくないしね。

 本体のお守はベルクとスケルトン軍団が担ってくれてる。


 エリベルは本体のままだ。

 魔術が使えない彼女じゃ、憑代も使えないからな。

 でもきちんと魔道具は装備してるらしい。

 パッと見分からないけど、ローブの下に仕込んでるのか?

 

 ちなみに、エリベルは眷属達が混乱すると言っていたが、半分は俺の為だろう。

 多分、今からする話は俺の前世にも関わってくることだ。

 黙っていてほしいという俺の意図を組んでくれたのだろう。


「ふーん……ま、いいけどさ」


 渋々と言った感じで、レーナロイドも腰を下ろす。

 ルギオスは後ろで立ったままだ。


「んで、いきなり訪ねてきた理由を聞こうかしら?まさか、反乱に遭って、屋敷から逃げてきたなんて間抜けな理由じゃないでしょうね?」


「えっ?なにそれ、どういう事?」


 首を傾げるレーナロイドに対し、備え付けの端末を操作し、先程の映像を流す。


「え……なにコレ?私の家が……燃えてる……?」


 自分の屋敷の惨状を見たレーナロイドは、


「ええええええええええええええええ!ナンデ家ナンデ!?燃えてる!燃えてるんですけどおおおおおおおおおおおおおおお!?私のイェーガーああああああ!!」


 めっちゃ動揺してる。

 ムンクの叫びみたいなポーズになってる。


「え?何アンタ、知らなかったの?」


「知らないも何も、初耳だよ!ね、ルギオス!」


「はい、まあ。……ですが、こうなる事は簡単に予想出来てたでしょうに」


 混乱している彼女では埒が明かないと思ったのか、ルギオスは自分達の経緯を丁寧に説明してくれた。


 レーナロイドが宰相の任を下りた事。

 それに伴い、ボルヘリック王国における利権の全てを放棄した事。

 その後に事後処理の為に、拘留していたノアード家やレーベンヘルツ家の人間共を解放したこと等々、詳しく話してくれた。


 なんか所々に彼の苦労がにじみ出てるような感じがした。

 きっと苦労しているのだろう……。


「―――とまあ、そういう訳で、こうなるのは当然の結果だったと言う訳です。ただそれをレーナ様が予想していなかったと言うだけで……。私達が来るのと、屋敷が焼き討ちに会うのが重なったのは、本当に偶然なのです」


「ああ、成程。そういう事だったのね」


 納得したわ、とエリベルは小さくつぶやき、拳を構える。

 すぅっと、息を吸い込み―――。


「歯ァ食いしばれ、このクソ婆ッッ!!」


「ぎゃふん!」


 思いっきり、レーナロイドを殴り倒した。


「痛い!何すんのさ、エリちゃん!?」


「うるさい!死ねクソ婆!!」


「痛っ!いたいいたいー!やめて、ひっふぁらないでよー」


 あー、これあれだな。

 心配して損したとか思ってんだろうなー。

 いくら彼女が規格外に強いとはいえ、心配しない理由にはならない。

 エリベルはなんだかんだ言って、身内や知り合いに優しいもん。

 傍に控えてるルギオスも止めようとしてないし。


「はぁー……まあ、いいわ。話を戻しましょう」


「自分から脱線させておいて何を―――」


「あ゛ぁ゛!?」


「何でもないです、はい!」



 ……ところで、さっきから俺一言も話してないな。


 置物みたいになってる気がする。


 いや、まあそれはそれで、別にいいんだけどさ。


 ……気にしてないよ?

 ホントに気にしてないからね?

 普段からそんな感じだろとか、そんなこと言わないでね?



 ◇◆◇◆◇


 

「さあ、それじゃあさっさとアンタの知ってる情報を寄越しなさい。んで、喋ったらさっさと帰れ」


「エリちゃーん……流石にそれは辛辣すぎない?私今、ホームレスなんだよ?ほら、お泊りとかしてみたいなーって」


「アンタの話す情報が有益だったら、考えてやるわ」


「よし、じゃあ話そう」


 あっさりと姿勢を正して、レーナロイドはおっほんとわざとらしく咳をする。

 ウザい。


「あ、そうだ。話す前に確認しておきたいんだけどさ」


「……この期に及んで何よ?」


 あからさまに身構えるエリベル。


「いや、そんな身がまえないでよ。大したことじゃないさ。エリちゃんが、“雷斬り”について、調べようと思った理由は何でだい?」


「そんなのダンジョンの脅威になるかもしれないからに決まって―――」


「違うよね?」


 断言する様に、レーナロイドはエリベルの言葉を遮った。


「それだけなら、今まで集めた情報で事足りている筈だよね?彼の冒険者としての強さや経歴、仲間についての情報だけが必要なら、私に聞く必要なんてない筈だ。それ以外に理由があるなら、それはただ一つ―――彼の“同郷”についてだ」


「っ!?」


 エリベルがなんとか平静を保つ。

 俺も、何とかこらえることが出来た。

 このヒト普段とこういう時の温度差酷すぎだろ。


「“雷斬り”としての、冒険者としてのアオバ君じゃない。“斬嶋青葉”としての情報を欲している。それはつまり、エリちゃんの仲間に居るんだろ?彼の“同郷”が。となれば、それは―――」


 見透かしたように、レーナロイドは俺に視線を移す。

 ごくんと、出ない筈のつばを飲み込む。


「アース君、だったよね。……君かな、アオバ君の“同郷”は?」


『―――っ』


 ズキン、と。

 頭が痛くなる。

 以前とは違い、憑代も本体の五感がある程度フィードバックされるようになっている。

 だからこそ、この体でもあの痛みを感じてしまう。


「ふむ……」


 顎の手を当てて、何やら考え込むレーナロイド。

 ややあって、俺の方を見た。

 なんでしょうか?


「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど?」


『なんだ?』


 そして、レーナロイドの口にした言葉は、俺の想像を超えていた。



「―――【この言葉が、分かるかい】?」



 そう、言った。

 ただそれだけ。

 だが、俺の意識を奪うのには十分な言葉だった。

 衝撃が走った。

 だって、その言葉は―――。


「【その反応……よかった。一応英語やフランス語もしゃべれるけど、やっぱ発音とか怪しいからね。故郷の言葉で通じてよかったよ】」


「……?ねえ、クソ婆。アンタ、今なんて言ったの?」


 エリベルは首をかしげている。

 いま、レーナロイドが言った言葉が、何語なのか分からなかったのだろう。

 当然だ。

 分かる筈なんてない。

 だって、今レーナロイドが口にした言葉は―――。


『……日本語?』


 そう。

 俺の前世。

 人間だった頃に使っていた言葉。


 なぜ、レーナロイドがそれを使えるのか?

 その答えは簡単に予想出来た。


「うん、じゃあ改めて名乗ろうか、アース君。私の名はレーナロイド・レイノルズ」


 そして、と。



「―――前世での名は本城玲奈ほんじょう れいなって言うんだ」




 同郷の人間が、俺の前に姿を現した。




 はい。と言う訳で、だいたい予想されていた方も多かったと思いますが、レーナロイドさんは転生者です。ようやく出せたよ、この設定。

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