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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第十章 魔王と三人の転生者

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4.レーナロイド・レイノルズ

レーナロイド「今回も私のターン!」

『転生……者……?』


「うん」


 レーナロイドは頷いた。


 転生者……日本人。


 黒縁のメガネ。

 長くも短くも無い黒い髪。

 どこにでも居そうな地味な容姿。

 雑踏の中ですれ違えば、顔も覚えられないような―――そんな“日本”ならありふれた女性。


 考えてみれば、何で今まで気づかなかったんだろうというくらい、彼女の容姿は日本人然としていた。


 転生者の存在について考えてなかったわけじゃない。


 俺と言う実例が存在する以上、他にも居たっておかしくはない。


 でも、心のどこかで、こう思ってたのも事実だ。

 そんなやつどこにも居ないって。

 だからこそ、彼女の容姿を見た時にも、日本人と言う選択肢を捨ててしまっていたんだろう。


「その感じだと、私以外の転生者にはあった事が無いのかな?」


 頷く。


「ま、そうだよね。滅多にいるもんじゃないし。私だって長い事生きてるけど、実際に会った数は片手で足りるしね……あ、そう言えば」


 不意に、レーナロイドは何かを思い出したように、俺の胸を触った。


『―――っ!?』


「ちょ、ちょっとクソ婆、何やってんの!?」


「安心しなって、別にとって食やしないよ」


 エリベルが声を荒げるが、レーナロイドはお構いなしに俺の胸をぺたぺたする。


「ふぅん……」

 

『な、なんだよ……?』


「いや、前よりもずいぶん馴染んだなと思って。水と油みたいな混ざり具合だったのにさ。なるほど、死龍との戦いは、君にとっても良い経験になったみたいだね」


 は?

 何の事だ?

 

「あれ、自覚無いのかい?まあ、今は別にいいか」


『?』


「ああ、ごめん、脱線したね。話を戻そう。ルギオス、準備を」


「はっ」


 ルギオスは近くにあるテーブルを引っ張って来て、手に持っていたカバンを開く

 何だろうかと見て見ると、中には大量のワイン、果物、チーズなんかが入っていた。

 それをどんどんテーブルの上に置いていく。

 え、何してんの?

 レーナロイドはテーブルに並べられたボトルを適当に開けて、グラスに注いだ。


「ぷはぁ。美味しいね」


「……昼間から飲むわけ?」


 え、突っ込むところそこなの?


「結構長い話になるからね。あ、紅茶とかコーヒーもあるよ?どれにする?」


 見ればワインだけでなく、コーヒー豆や様々な茶葉もある。

 他にも、ベーコンやパン、見たことないような果物まであった。


「……じゃあ、紅茶」


『俺も』


 選ばなきゃ話が進まないと思い、俺もエリベルも適当に頼む。

 すぐにルギオスが準備をし、ティーカップが二つ置かれた。

 一口すする。

 控えめに言って美味しかった。

 うん、こりゃプロの仕事や。


「んふふー、エリちゃんはただ紅茶飲んでるだけでも絵になるねー」


「うっさい。良いから、早く話しなさい」


「ちぇ、つれないなー……。まあ、いいか」


 ぽいっと、彼女は紫色のイチゴのような果物を口に含む。


「……アオバ君の事を話すなら、必然的に私の事も話さなくちゃいけなくなるね。さて、どこから話せばいいか……」


「あ、その前にちょっと聞きたいんだけど?」


「なに?」


「さっき言ってたのはどういう事?転生者?アンタが?」


「そうだよ。本城玲奈(ほんじょう れいな)。それが私の前世の名前さ。そう言えば、これはエリちゃんにも話してなかったね」


 何が可笑しいのか、レーナロイドはふっと笑う。


「ってことは、アンタもこいつと同じ地球の日本ってとこに住んでたわけ?」


「ん、そうなるね」


 エリベルはしばし、顎に手を当てて考え込む。


「……アンタとこいつが同郷……成程、なんか妙に納得できるわね」



「『なんで!?』」


 綺麗にハモッた。


「ちなみに、そこでアンタは何してたの?」


「お、エリちゃん、私の過去に興味持ってくれるかい?ふふ、嬉しいねぇ。私は日本に居た頃はね、学生をしていたんだよ!大学って言う、皆で勉強を学ぶところで、色んな資格を取る為に日々邁進していたのさ!」


 ワイングラス片手に、レーナロイドは嬉々として語る。

 へぇ、大学生かー。

 懐かしいな。

 あ、俺も三流大学だけど一応大学出てるんだよ。

 だがそれを聞いて、エリベルは目を細める。


「アンタが……学生?」


「そうだよ。むふー」


「嘘でしょ?」


「なんでだい!?」


「いや、だって到底信じられないわよ。つくならもっとマシな嘘つきなさいよ。大学なんてところには行かず、自宅に引き籠ってましたって言ってくれれば、素直に信じたのに」


「なんでだよ!信じてよ!嘘じゃないって!」


「嘘つきはみんなそう言うのよ」


「うわあああああああああああああん!エリちゃんのいじわるー!!」


 ……いいトシこいて泣くなよ。


「あの、エリベル様、余りレーナ様をからかわないで頂けますか?…………後始末が大変なので(ぼそり)」


「ん?ああ、ごめんなさい。んじゃ、話を戻しましょうか。ほらクソ婆、キリキリ話しなさい」


 自分から脱線させておいて、この言い草である。

 俺が言うのもなんだが、これは酷い。


「うぅ……分かったよう。ぐすん」


 鼻をすすりながら、目をこする地味子さん。


「……で、何の話だったっけ?」


『おいっ!?』


 話進まねぇ!!


「あー、ごめん、ごめん。そうだねー……。とりあえず、最初から話そう。私がこの世界に転生した時から」


 そう切り出して、レーナロイドは話し始めた。


「私がこの世界に転生したのは、もうずいぶんと昔だね。どれくらい昔か忘れる位、昔。当時は……うん、魔族と人間がすっごく戦争してた最悪の時代だったよ」


 レーナロイドは手に持ったグラスを弄ぶ。


「赤ん坊のころに、既に意識がハッキリしててね。覚えてたんだ、前世の事を。

びっくりしたよ。朝、目が覚めたら、急に赤ん坊になってるんだもん。

あれ、ここどこ?大学どうしようって思っちゃったよ。

そう言うのをネタにした娯楽はいくらでもあったから、自分の置かれた状況がそれだってすぐに気づいたよ。

こんなこと現実にあるんだーってね。

でもね………正直に言えば、泣きそうになった。

実際に体験してみると、ホントにナイワーって思うよ。

そう言うのに憧れる人なら、まだ良かったかもしれないけど、あいにくと私は前世での生活に満足してたからね。別に異世界に転生なんてしたくなかったんだ」


 彼女は、ふぅっとため息をつく。


「おまけに私には転生特典ってもんが、何もなかったからね。

チートも才能も、鑑定能力も、優れた容姿も、権力も何一つなかった。

貧しい家に生まれて、あとコミュ症だったし、最悪だったよ。

何度、神様ってやつを恨んだか分からないね。

何もかもが手探り状態のまま、私はただ必死にあの時代を生き抜いたんだ。物騒な時代だったよ。次の日に生きていられる保証なんてなかったからね。

毎日毎日毎日戦争戦争戦争。気が狂った方が楽なんじゃないかって思うくらいに狂った日常だったよ。

それでも、死にたくなかったから、必死に生き延びた。

信じられる?朝に挨拶したおばあちゃんが、夕方に生首になって地面に転がってるんだよ?それをカラスが、美味しそうについばんでるんだ。

下半身だけしかない女の股に突っ込んで笑ってるゴブリンやオーク、そしてそいつらを笑いながら殺して、自慢げに首を掲げる人間。

もう、とにかく日本で、平和に暮らしてた私には、異界―――いや、地獄としか思えなかった」


『……』


 レーナロイドの言葉に、俺は何も言い返せなかった。

 考えてみれば、俺は割とあっさりと現状を受け入れ、生きることが出来た。

 でも彼女にはそれが出来なかったのだろう。

 周りが、環境がそうさせなかったのだ。


「んで、色んなことに絶望しながらも、私は生き延びた。生き延びることが出来た。そうして二十歳になったころかな。私は“彼”に出会った。それからかな。私の日常は劇的に変わった。知識を得て、力を得て、おまけに物騒なあだ名までついた」


 ふふっと、懐かしむ様に語る彼女の表情には笑みがこぼれていた。


『……誰に出会ったんだ?』


 気になった。

 にやりと笑って、レーナロイドは答える。


「―――魔王さ」


 魔王……?

 それって―――。


「魔王って、あの魔王?」


 エリベルが口を挟む。


「当たり前じゃないか。他にどの魔王が居るって言うんだい?長い長い歴史の中でも、“魔王”なんて呼称を付けられたのは今も昔も、ただ一人だけだ」


『それって、エリベルの石版にかかれてた?』


 かつて掘り起こした遺跡で見つけた魔王と勇者についての記述。

 エリベルの記録の中でも、特に詳しく載ってたんで良く覚えてるわ。

 ……魔王の石版掛布団にしてねてたなぁ……懐かしい。


「そうよ、魔王アジル。魔族―――今でいうところの亜人種の俗称なんだけど、それを引き連れて人間にケンカを売った魔族の親玉。んで、五百年前、死闘の末、勇者カディアスに討伐された……ってなってるわね」


 うん、そう書かれてた。

 と言っても、書かれてたのは勇者の記述が殆どで、魔王に関しての割合は少なかったけど。


「そう、その通り。でもそれは、正確じゃないんだよね」


「え?」


「魔王アジルは討伐されていない。今も“生きて”る」


「『―――ッ』」


 俺とエリベルは息を吞む。

 生きてるだって?

 

「相応の傷は負ったよ。勇者カディアスは強すぎたからね。その所為で長い長い眠りにつくことになった。当時の人類のお偉いさん方は、それを討伐したって公表したんだ。そして、それが史実にすり替えられた」


 レーナロイドはワインを呷る。


「そもそも、勇者と魔王の戦いは事実であって、事実じゃない。あれには隠された真実が存在するんだ。そして、それはエリちゃんや君にも無関係の事じゃあない、いや、むしろ、これからの君たちに大きく関わってくると言えるね」


「……どういうこと?」


「…………」


 ふぅーっとレーナロイドは大きくため息をついた。

 そして、意を決した様に口を開く。


「魔王アジル……。彼にはもう一つの呼び名がある。それは……」


 一旦息を吸って、彼女は言った。


「―――“皇獣”アジル・ダカール・“レイノルズ”」


『―――』


 “皇獣”。

 聞いた事がある。

 ギブルやこの間の死龍の時に会った“夢霧”ジョーカーと同じ神災級の魔物。

 だが俺が知ってるのは、その通り名だけだ。詳しくは知らない。


「……皇獣、ですって?」


 ぽつりと、エリベルが呟く。

 

「そう。……かつての神災龍王ギブルの眷属であり、元星脈第八階層守護者。そして、星脈のダンジョンで唯一の“地上”出身でありながら神災の座に上り詰めた獣。それが“皇獣”だ」


 その瞬間、彼女と目が合った。

 ぞわっと、鳥肌が立つような気がした。


「遥か昔、私は彼と契約し、力と知識を手に入れた。分かっただろう?私が“魔女”と呼ばれる所以が。私はかつて、人類を裏切り、魔族と共に人間を滅ぼそうとしたんだよ」


 そう語る彼女の瞳には、底知れぬ感情が渦巻いていた。



 ◇◆◇◆◇



 一方、魔術都市エンデュミオン国境付近のとある監視塔にて―――。


「ふぁ~今日も平和だねぇ……」


 一人の男があくびをしながら呟く。


「だなぁ。見張りってのは、なーんもなきゃ、ただの暇人と変わりゃしねぇ」


「だな」


 がはははと、兵士たちは笑いあう。

 実際、彼らは暇だった。

 この監視塔は国境付近の魔物や盗賊団などに対応するために造られたのだが、この辺りは魔物が少なく、これと言って強い魔物も居ない。

 そして魔物が居なくなれば自然、治安は良くなり盗賊や野党の類も居なくなる。

 つまり、この近辺は平和なのだ。

 この監視塔の役割も殆ど形骸化していると言っていい。

 実際彼らには、緊張感などかけらも無く、花札の様なもので遊びながらのんびりと過ごしていた。

 そしてゲームに熱が入り始めた頃、ふと一人の兵士が口を開いた。


「そういや聞いたか、ハザン帝国の件」


「ああ、大陸会議中にとんでもねー事になったんだろ。噂じゃ、あの神災龍王が現れたって話だ。それに妙な魔物も大量に現れて、帝都は今も壊滅状態だっていうじゃねーか」


「ああ。その所為で、有名な冒険者も何人も死んだんだとよ。“音断ち”や“氷炎”、それにあの倭の国の大英雄“夜叉”ラウ・ランファンまで死んだらしーぞ」


「うわー、マジかよ。全員Sランクの超大物じゃねーか。俺ギルド長について行かなくてよかったわー」


「ばーか、俺やお前が重鎮の護衛任務なんて呼ばれるわけねーだろ」


「だよな。ていうか、ギルド長も良く生きて帰って来たもんだよな」


「あのヒトだって、元はSランクの凄腕冒険者だからな。あの人が死ぬとこなんて想像できねーよ」


「だな。ほら、そんな事より、もう一勝負やろうぜ。今度は負けねーぞ」


「おうよ。かかってきな、がはははは」


 軽口をたたきながら、男たちはのんびりとゲームを再開する。

 今日も今日とて、監視塔は平和だ。

 たとえ、他国(よそ)で何千人と死者が出たとしても、彼らにとっての日常はさほど変わらない。

 所詮は対岸の火事だ。

 日長一日、この辺境の監視を行い、こうして同僚と駄弁り、仕事を終えれば酒場に行って酒を飲み、寝る。

 それが彼らの変わらない日常であった。

 

 だが、その日はいつもと違った。


「……ん?なんだありゃ?」


「どうした?」


 ふと、外に視線をやった男があることに気付く。


「いや、あれ……。何か向こうから、土煙が上がってねーか?」


 そう言われてもう一人の男も視線を移す。


「……確かに。今日は大規模な演習をやるって連絡もなかったよな?」


「ああ」


 監視塔よりはるか遠くの荒野。

 そこから浮かび上がる大量の土煙。

 あれ程の砂塵が上がる程とすれば、相当な人数が必要になる。

 だが、大規模な演習があるなど、知らせは入っていない。

 一体何だろうかと、男は備え付けられた遠眼鏡を使う。

 そして、その表情が一気に青ざめた。


「なっ―――う、嘘だろ……?」


「どうした?」


 同僚のただならぬ様子に、もう一人の男が表情を変える。


「ま、魔物だ……!あの向こうに見える土煙の中……数えきれねーくれぇの魔物が居やがるっ……!オーク、キラー・アント、ゴブリン、グリフォンやレッサー・フェンリルまで!信じられねぇ!」


「はぁ?何言ってんだ、ちょっと貸せ―――!!?」


 そう言って遠眼鏡を奪い取った男の顔もみるみる青ざめた。

 そこには確かに何千、何万と言う魔物の大軍勢が映し出されていたからだ。

 それも一種類ではなく、様々な魔物の混成。

 にわかには信じがたい光景だった。


「おいおいどういう事だ!なんだよありゃ!?おい、早くギルドに通信回せ!魔物だ!魔物の大軍が攻めてきやがった!!」


 男たちは恐怖におびえながらも、己の職務に忠実に従う。

 すぐさま通信魔石を介し、ギルド本部へと連絡が入った。



 だがそれは、これから引き起こされる新たな火種の始まりに過ぎなかった―――。





 

レーナロイドさんがその後どうやって貴族になって、現在の地位になったのかは次回で説明します。


大学の件でふと思ったけど、エリベルが幼稚園や小学校の存在を知ったら発狂するんではなかろうか?(´・ω・`) 

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