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地龍のダンジョン奮闘記!  作者: よっしゃあっ!
第九章 死龍~千年の祈り~

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6.女性に年齢の話はNG

 


 それは今より昔の事―――。


 ある雨の日の出来事だった。


 その女性は息を切らしながら必死に駆けていた。


 女性はは酷いありさまだった。

 秘書の様なぴっちりとした服装はその所々は破れ、血が滲んでいる。

 手に持った捻じれた杖にも所々血が付着していた

 戦闘の跡だ。

 人懐っこい猫を思わせる瞳にも余裕は感じられなかった。

 それでも彼女は走る速度を緩めない。


 そして、目的の屋敷にたどり着き、力任せに扉を開けた。


 『はぁ……はぁ……』


 玄関を入ってすぐの広いホールには一人の少女が佇んでいた。

 十五、六歳ほどの美少女だ。

 黒い寝巻の様な服に、白衣だけを羽織った出で立ち。

 全てを見透かすような赤い瞳、腰まで届くほどの長い銀髪は先端部分で適当に結えられている所為か、所々が寝癖の様にはね返っている。

 その手には同じく血に塗れた捻じれた杖が握られていた。

 少女は此方に気付いたのか、視線を向けてきた。

 

 『……あら?どうしたのよ、リアス?そんなに焦って?』

 

 その頬についた血を拭いながら、なんてことの無い様に少女は口を開く。

 彼女の周りは血だまりになっていた。

 あちらこちらに先ほどまで人だった“何か”が散らばっている。

 その中で少女は不気味に嗤っていた。

 そして、少女を見た女性は安堵の笑みを浮かべた。


 『……ご無事でしたか、エリベル様』

 『当たり前よ、誰にモノ言ってんのよ』


 何でもない事の様にその少女―――エリベルは言う。

 その視線は血だまりの中に沈む“何か”に向けられるが、その瞳には失望の色がありありと浮かんでいた。


 『なんとか急いで駆け付けたのですが……既に終わったようですね』


 まあね、と何でもない事の様にエリベルは言う。


 『禁術を使ってゴーレムに人の魂を融合させようとした邪法の集団って聞いてたんだけど、所詮はインテリの頭でっかちばっかりだったわね。大したこと無かったわね』

 『……既にエリベル様の力は霊王級に達しています。この程度の者達では物の数に入らないでしょう』

 『そうなのよねー……私の力ってそん位まで強くなってるのよね。伝説の勇者や魔王位なんだっけ?はぁ……なのに、どうして私達はこんな草の根運動しなきゃいけないのかしらね……』

 『仕方がありませんよ、国の要請ですから。それに今は戦争中ですし』

 『はぁー面倒臭いわねー……』


 そう呟くエリベルの声はどこか疲れていた。


 エリベル・レーベンヘルツは戦争が嫌いだ。

 絶大な力を持っている彼女でも止める事の出来ない戦争が嫌いだ。

 何よりも、自分が作った魔道具が人殺しの道具に使われることが大嫌いだ。

 そんな事の為に作ったんじゃないのに。

 そんな事の為に考えたんじゃないのに。


 魔族との戦争が始まって既に三年。

 未だに戦争は終わる兆しを見せない。

 いつまでたっても終わる事の無い戦争と、いつまでたっても出来る事の無い恋人に彼女の心は徐々に疲弊していた。

 恋人が出来ない、腹いせに敵の組織を潰す、それでも戦争が終わらない、戦争が終わらないから恋人が出来ない、腹いせに町の公園で見かけたリア充共を爆発させる、国の御用になって姉とリアスがお偉いさんに頭を下げる、保釈代わりにこうして任務に駆り出される、の悪循環は彼女の精神を蝕んでいた。

 凡そ恋人と戦争は関係の無い気がするが、というか九割方自業自得な気がするが、それは置いておこう。


 パラパラと資料を見ながらエリベルは溜息をつく。


 『はぁ……こいつらの研究データ見たけど、碌なもんじゃないわね。こんなの私は何年も前に思いついてたわよ。まあ……実際やるとこいつらみたいに面倒臭い立場になるからやらなかったけどね』

 『思っても行動しないで自重しようとする辺り、お嬢様はまだまともでおられましたね。安心しました』

 『それ褒めてんの?』

 『無論、馬鹿にしています』


 にっこりとリアスはほほ笑む。


 『おーけーその喧嘩言い値で買ってやるわ。表に出なさいリアス』

 『さーお嬢様、早く後始末をしましょう。こんな禁術の集団、早くこの世から消し去ってしまいましょう』

 『おい、スルーすんなよ、ねえ、ちょっと!』


 ぼりぼりとバツが悪そうにエリベルは頭を掻く。


 『……あ、そうだリアス、ちょっと手伝ってほしいんだけど』

 『……?どうしたんですか?』

 『実験体にされてた内の一体が、まだ生きてたのよ。出来れば保護したいんだけど』

 『左様ですか、分かりました。……まさか、小さな子供だったのですか?』


 保護という名の拉致監禁調教奴隷という言葉がリアスの頭に浮かぶ。

 目の前の少女ならやりかねない。

 いや、嬉々としてその手を犯罪に染めるだろう。

 だが、エリベルは首を横に振った。


 『いいえ、巨人族のおっさんよ。どうやら一人だけ魂をゴーレムに定着することに成功したらしいのよ。ちょっと興味があるし、向こうが望むならお手伝いさんにでもしようかなと思うんだけど』


 よかった。

 どうやら杞憂だったようだ。

 ホント良かった、色んな意味で。


 『……お優しいですね、エリベル様は。本当に……”誰に”対してでも』

 『はっ…?なんの事よ?勘違いして貰っちゃ困るけど、私は私がしたいからそうするだけよ。言っとくけど、私に倫理だの、道徳だのを説くは間違ってるわ。興味なければ、そのまま見殺しだしね』

 『ふふふ、そうですね。そういう事にしておきましょう。それで、肝心の実験体はどちらに?』

 『ああこっちよ。名前が何て言ったかしら?たしか、確かベルクとか言ったかしら。こっちの研究室の方に――』


 そう言って二人は血だまりの中を歩いてゆく。


 そして――――。


 その光景を、『俺』は額縁の外から眺めていた。


 ………何だ、この夢?

 

  額縁の中に映し出されているのは、間違いなく生前のエリベルの姿だ。

 そして、もう一人の女性。

 リアスと呼ばれた秘書風の女の人だ。

 何だこの映像?

 

 「―――さい――」


 そのまま二人は研究所の奥へと進んでゆく。

 そしてその足取りが、ある研究室の前で止まった。

 ここにその研究体が~とかどうとか言ってる。


 これってもしかしてエリベルの生前の記憶か?

 眷属と主の魔力回廊が強まると互いに影響を受け合うってエリベルに聞いた事があるけど、これもその一種なんだろうか?

 でもなんだってこんな夢を見てるんだ?


 「―――きなさいって」

 

 あれ?

 でも、そうなると、俺が見た夢もあいつらに流れちゃうって事じゃん。

 やだ、なにそれすごい恥ずかしいじゃん!

 あの鯖味噌関連の狂った夢は、最近は見無くなったけど、その他にも妙な夢を見る事が多くなったんだよ。

 最近なんて、俺が冒険者になってダンジョンで無双しちゃったりする夢だって見たし。アレ久々に人間だった頃の姿の夢だったなー。

 俺もう地龍として生きていきたいって思ってたけど、ああいう夢を見るって事はまだ人間だった頃に未練でもあるのかな?

 まあ、いいか。


 額縁の中ではエリベル達が巨大なカプセルの前でなんか端末をいじくってるところだ。


 ……ていうか、この夢いつになったら終わるんだろうか?


 なんかお腹もすいて来たし、そろそろ目が覚めないか―――。


 「―――いい加減起きなさいよ!このクソ駄龍!」

 『おぐほぁっ!!』

 

 突如として俺の頭に衝撃が走った。

 どうやら誰かが俺の頭に蹴りを入れられたらしい。

 がばっと起き上がる。

 涎を拭いながら蹴られた方を見ると、そこには何とも言えない表情?を浮かべた骸骨賢者が居た。

 眼窩の炎が不機嫌そうに揺らめいている。

 あれ?なんで怒ってらっしゃるの?

 

 「……さっさと起きなさい、このクソ駄龍。それ以上寝てたら素材として加工するわよ」


 『なんか朝から酷い言われようなんだけどっ!?』


 「?」マークを浮かべる俺に対し、エリベルの眼窩の炎は更に不機嫌そうにゆらゆらと燃え出した。


 「いいからさっさと眼ぇ覚ましなさい。……話があるわ」

 

 最後の言葉はやけに真剣だった。

 

 『……何かヤバい事でもあったのか?』


 俺がそう聞くと、エリベルは溜息をつきながら頭をぼりぼりと掻いた。


 「……ヤバいなんてもんじゃないわよ。そうね……“この私が本気で面倒臭がる程度の問題”って言えば理解できるかしら?」


 ナニソレ、とんでもなく厄介じゃないか。

 一瞬で眠気覚めたぞ。


 『………マジか?』

 「大マジよ。とりあえず、これ見て貰えるかしら?口で説明するよりも速いし」


 そう言ってエリベルは俺に手をかざす。


 記憶送信か。

 

 頭の中に様々な映像が浮かんでくる。

 これは……昨日のエリベルの記憶か?

 憑代に入って……ここは第零魔道研究所か。

 そこに居る地味な姿の女性。

 リアスの目的。

 死龍ウロヌス。

 その復活方法。

 その為に必要な物。

 

 エリベルが昨日第零魔道研究所で見聞きした出来事が頭の中に入ってくる。


 …………うわぁ、なにこれ?

 もう頭抱えて不貞寝したくなる位の面倒事が送られてきたんだけど……。

 

 「……理解できたかしら?」

 

 『理解したくないです……』


 なんか、泣きそう。

 なんかもう……ねぇ、何なのコレ?

 昨日の今日でこれは無いでしょ?

 俺昨日軽く死にかけたんだよ、覚醒した天龍の魔力に中てられてさ。

 その前の日はギブルがやって来たし。

 なんでこんなトンデモイベントが連日続くわけ?


 大陸会議始まってから碌な事ねぇな。

 初日はギブルがやって来て、二日目は天龍がやって来て、んで今日は死龍ですか、そうですか。


 はいはい、わかりましたよー。

 ――-ってふざけんなあああああああ!!

 あっさり吞み込めるわけないだろこんなの。

 重すぎて胃にもたれるわ!


 マジで俺の幸運値とかどうなってんだよ!

 呪われてるんじゃないのか、ギブルの血筋って……。

 厄介事引き寄せすぎだろ。


 ガリガリと頭を掻く。

 すると、ペロンと皮が剥けた。

 あ、脱皮だ。

 どうやらまた脱皮したらしい。

 ここ最近面倒事がある度に脱皮してるような気がするな……。


 ああ、嫌だ。

 もう色々突っ込みたいところがあるけど、とりえずは現実を見よう、うん。

 

 ふと、顔を上げると、エリベルがこっちを見ていた。

 落ち着くまで待ってくれてたらしい。


 「落ち着いたかしら?」

 『あーまだちょっと……』

 「んで、質問は?」

 『あれ?軽くスルーされてない?』


 まあ、いいか……だいぶ落ち着いたし。

 とりあえず、気になったのがその死龍とか言うやつの復活方法だ。

 エリベルが聞かされたその復活方法が―――。


 『……なあ、ダンジョンを“憑代”にして死龍ウロヌスは復活するってどういう事だ?』

 

 エリベルが頷く。


 「言葉の通りよ。ダンジョンを肉体の代わりにして、死龍ウロヌスは復活するらしいわ。それも八大ダンジョンクラスの強力なダンジョンを憑代にしてね」


 八大ダンジョンか。懐かしいな。

 俺が最初にダンジョンを作る際に参考にした未攻略の八つの巨大なダンジョン。

 エリベルの『賢者の迷宮』や、ハザン帝国の『ファーブニル』なんかがこれに当たる。

 と言っても、その二つは今は俺のダンジョンと融合した状態になってるんだけど。

 他にも強力な魔物が跋扈する『皇獣の迷宮』だったり、エリベルのダンジョンと同じ転移系の『グルエンブルクの迷宮』とかがある。

 随分参考にさせてもらった。

 ……まあ、ヴァレッドのクソ野郎にぶっ壊されたけどね。

 というか……。


 『つかさ、ダンジョンを憑代にするだなんて、実際そんな事って出来るのか?』

 「まあ、あり得ない話ではないわ。モノに魂を定着させる魔術、というか現象はアンタだって知ってるでしょう?」

 『え?』


 そう言われて俺は首をかしげる。

 すると、エリベルは呆れたようにため息をついた。


 「アンタねぇ……、ベルクと千手よ。あの二人もゴーレムに魂を定着させてたでしょう?まあ、ベルクの場合は元々の肉体だったから定着したし、千手の場合は結局暴走しちゃったけどね」


 ああ、そう言えばそうか。

 その理屈で言えば、ダンジョンを憑代にして復活するって事もあり得ない話じゃない訳か。

 まあ、俺が言うのもなんだけど、龍王種って大概常識から外れた存在らしいしな。

 ギブル然り、天龍然り。

 覚醒した天龍なんて、俺魔力に中てられただけで死に掛けたし。


 「強大なダンジョンは莫大な魔力の塊だからね。魂の入れ物としては確かにこれ以上のものは無いでしょうね」

 『……ん?でもそうなると、定着させるべき魂はどうなるんだ?さっき見せて貰ったレーナロイドってやつの話だと死龍はどっかに封印されてるんだろ?』

 「……アンタ私の記憶正確に見たの?」


 呆れたと言った感じにエリベルは溜息をつく。

 すいませんね、流し見ですよ、どうせ。

 

 『正確に言えば封印されているのは“死龍の肉体”だけよ。魂は別。クソ婆が言うには、リアスはその死龍ウロヌスの“魂”を持ってるらしいのよ。それを定着させ、新たな肉体足り得る事が出来る強力なダンジョンを探してたって話なんだけど……」


 何やら考えているのか、そこでエリベルは言いよどむ。

 

 『ていうか、その……レーナロイド?って奴は信用できるのか?』


 こう言っちゃなんだが、胡散臭さ満点に見える。

 だが、エリベルは確信に近い口調で断言した。


 「一応情報そのものは信用してくれて大丈夫よ。あのクソ婆、こういう事に関しては、私に対してだけは絶対に嘘は言わないから。……まあ意図的に言わない事はあるでしょうけどね」


 あー、それは俺もそう思った。

 記憶で見せて貰ったレーナロイドって女はなんか食えない奴って言うか、知ってるけどあえて言わないって感じの雰囲気バリバリ出してたし。


 というか、あの口調や雰囲気、どっかで見た事あるんだよな……。

 どこだけっけ?


 「そもそも、ダンジョンを憑代にするなら、まずはダンジョンの深部まで潜る必要があるわ。私達のダンジョンだったら、少なくとも中層の最後のエリアか、深層までは居られない限りは、そう簡単に憑代にはされない筈よ」


 でも、とエリベルは言う。


 「用心と対策はしとくに越したことは無いけどね。憑代の術式は私も得意分野だし、とりあえずギジーに対抗術式を入力しておきましょう。龍王種相手にどこまで通じるか分からないけど、やらないよりはマシでしょうね」


 まあ、そんなこと言われてただのんびり構えてることなんて出来るわけないわな。

 俺だって苦労して作ったダンジョンが他人に利用されるなんてまっぴらごめんだし。


 「それに仮にダンジョンを憑代にするためには、そのダンジョンの深部まで潜らないといけないから、自然とリアスだろうと、その協力者だろうと姿を晒す羽目になるでしょうし、そうなったら、深部に来られる前にこっちの全戦力を持って叩けばいいだけよ」

 『……だな』


 エリベルの言い分に俺も頷く。

 こっちにはアンを筆頭とした眷属達に、ギジーもいる。

 ユグル大森林の魔物だって、大量のゴーレムだっている。

 ヤムゥみたいに覚醒した龍王種クラスでもない限りはそう簡単に深部まではいけない筈だ。

 そこで俺はふと気になったことを聞いてみた。


 『ところで一つ聞いていいか?』

 「なによ?」

 『その……お前が話した女性、レーナロイド…だったか?その、なんでクソ婆なわけ?』


 記憶送信で見た彼女の見た目はどう見たって二十代の女性だ。

 流石にクソ婆はあんまりだろうに。

 俺がそんな視線を向けると、エリベルは「はぁ?」と言った感じの声を出した。

 

 「何言ってんのよ?見た目はあんな感じだけど、あの女、私の生きていた時代から生きてるのよ?クソ婆で十分でしょうが」

 『あー成程な』


 つーことは少なくとも二百歳以上は確実って訳だ。

 そりゃあ婆呼ばわりもされるか。

 ……ん、待てよ?


 『……あれ?なあ、エリベル。その理屈で行くとお前も結構なババ――ぐほあっ!?』


 最後まで言う前に、捻じれた杖で俺は頬をぶたれた。


 「……それ以上言ったら、加工するわよこのクソ素材っ!」


 本気で叫ぶエリベルに、俺は即行で土下座した。




 考えてみればアースの眷属は年齢差が激しすぎますよね

 大概が一桁か三桁……

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