18.幕引きと再会
遅れてすいません……(´;ω;`)
ホントこの時期の飲み会と仕事の引継ぎの量は異常……
ガタガタと震えながらギブルの前に立ち塞がる金髪の少年。
その姿はどこかヤムゥの人間の時の姿を思わせる。
というか、そのまま小さくしたような……ていうか、コイツ今パパって言ったか?
パパ……えっ、P・A・P・A?
「バァルッ!テメェなんでここに来やがったっ!」
ヤムゥが吠える。
ボロボロになってもすごい迫力だ、
すると金髪の少年がビクッと震えた。
「だ、だってパパが……パパがぁ……」
泣き顔でしどろもどろに言葉を返す金髪の少年。
あ、やっぱヤムゥの子供か。
ギブルが戦わなきゃ子供を殺すとか言ってたし。
「結界を破った……?いえ、いくらヤムゥの子といえそんな力有る筈が……」
ギブルも予想外の事に驚いているのか、その手が止まっている。
その視線は目の前の天龍の親子ではなく、結界の亀裂に向いていた。
どちらかと言えばこの子じゃなくて、結界が破られたことに動揺してるみたいだ。
金髪の少年が入って来たところを見る。
ひびが入った窓ガラスみたいになってる。
その向こう側には元のダンジョンの景色が広がっている。
……あ、良かった。無事な部分もあったんだ。
ギブルの“錬金”で元のダンジョンの通路とかも取り込んで拡張したから相当な部分が組み替えられてるだろうけど。
………魔力回廊とか他のエリアとの接続とか大変な事になってそうだな。
ファーブニルの奴は大丈夫かな?
魔力回廊に異常が出るとアイツの延命に関わるだろうし。
これが終わったらツムギと一緒に行ってみるか。
それにしてもこの子どうやって此処に入って来れたんだ?
あんだけドンパチやってもびくともしなかった結界を破ったっていうのか?
この子にそんな力があるのか?
とてもそんな風には思えないけど……。
「ふぅー……ようやく破れたわね……」
そんな風に考えていると、結界の亀裂からエリベルが入ってきた。
その姿は生前の姿、つまり憑代のゴーレムだ。
長い銀髪をなびかせて俺の方に近づいてくる。
『エリベル……?』
「お、無事だったわね、アース。悪いわね、ギブルの張った結界解析すんのに結構時間かかったわ」
ギブルがエリベルの方を見る。
「……貴女が私の張った結界を破ったのですか?かなり強固にかけていた筈ですが?」
「あら、そうなの?へぇー、たかが数分で解析されるなんて随分強固な結界よねー」
にやにやと薄い笑みを浮かべるエリベル。
「……成程、参考にしておきますよ」
「ええ、どうぞどうぞ」
バチバチと視線を交わす二人。
今まで簡単にギブルに侵入を許していた意趣返しだろうか?
妙にすっきりしてるし……。
やっぱ深層の結界が破られたこと気にしてたんだな。
更にその視線はギブルと倒れている天龍に交互に向けられる。
「いきなりアースと天龍連れて転移するわ、ツムギんみたいにダンジョン改変するわ、随分常識外れな事するわねって呆れたけど……まあいいわ。決着も付いてたみたいだし、タイミングは良いわね。ていうか、何でギブルでっかくなってんの?魔力も桁違いに上がってるし」
そんなエリベルを睨み付けるのはヤムゥだ。
「エリベル……だと……?…テメェが……賢者……?なんだその弱々しい魔力は?聞いてた話と全然違うじゃねーか……」
その言葉にエリベルがピクリと反応する。
「……あら、私の事を誰から聞いたのかしら?私が生きてることを知ってるのなんて、そう多くない筈なんだけど」
「あぁ?そんなのどうでもいいだろうが」
冷たいエリベルの声音に対し、ヤムゥはどうでもいいとばかりに言い捨てる。
「ちっ……せっかくの賢者と思って意気込んでみりゃ、実態は弱体化してんじゃねーか……。おまけにギブルだと……。あの野郎……割に合わねーにも程があるぜ」
その声音はどこか投げやりな感じがしていた。
金髪の少年はそんなヤムゥの体を擦っていた。
ちょっと可愛い。
「……興が削がれた。俺様は帰るぞ」
そう言うとヤムゥの体が光に包まれる
だが、
「待ちなさいヤムゥ。まだ話は終わっていませんよ」
ギブルがそう言い、手をかざした。
次の瞬間、ヤムゥを包み込んでいた光が霧散する。
「悪いけど私達もまだアンタを帰すわけにはにはいかないわね。散々ダンジョンに被害出されてるんだし」
ヤムゥが二人を睨み付ける。
「あぁ?ギブルはともかくそっちの劣化賢者如きが何俺様に意見してんだ?」
ギロリとヤムゥがエリベルを睨み付ける。
その瞳に魔力が集中する。
なっ、まさかこの状況で攻撃するつもりか?
そう思った次の瞬間、エリベルが手をかざす。
グシャッッ!!と何かが潰れる音が結界内に響いた。
ヤムゥの眼が見開かれる。
「……なんだとっ?」
その顔には明らかに驚愕の表情が浮かんでいた。
エリベルは傷一つ負っていない。
「―――“聖域干渉”。ようやくアンタの解析が終わったのよ。通常の状態ならともかく、そこまで弱体化してる今のアンタ位なら干渉出来るみたいね。つーか今何気に劣化賢者って言ったでしょ?殺すわよ?」
「……クソがッ」
「ふふふ、今、私とギジーで連携してアンタの魔力回廊を制御してるわ。その気になれば、その体をボロボロの泥水に変える事だって出来るのよ?それでもいいかしら?」
くつくつと笑いながらエリベルは言う。
その姿をヤムゥは憎らしげに睨み付けた。
どうやら本当らしい。
その体を擦っていたバァルが声を上げる。
「え、えりべるしゃん!パパに……ひ、ひどいことしちゃダメ!」
「ああ、大丈夫よバァルたん~。これ以上動いたら怪我に響きますよーって警告しただけだからねぇ~……ぐへへへへ」
一転気持ち悪い顔を浮かべるエリベル。
「………ほ、ほんと?」
「そうよ、私を信じなさい。ほら、この顔が嘘をついてるように見える?ぐへへ」
「…………(じー)」
「そんな疑いの眼差しを向けないでよ……。あぁ、でもそんなバァルたんもくぁわいいわねぇ……ぐへへ、舐めたいわねぇ……」
頬が紅潮して息が荒く、涎を垂らしている。
どうしよう、凄く気持ち悪い。
ホント凄くどうしようもなく気持ち悪い。
聖域干渉って言ってた凛々しい表情がどこにもない。
ほらバァルが怯えてる。
すいません、うちの眷属が変態で……。
『ていうか、エリベル。なんでお前がその……えっと、バァル?天龍の子供と一緒に居るんだ?』
興奮したエリベルの手が己の下腹部にのびようとしていたので、俺は阻止するように質問した。
「それは私も聞きたいですね」
ギブルもエリベルの方を見る。
するとエリベルは手を止めて俺達の方を見た。
「ああ、そうね。先にその事から話をしましょうか。実は―――」
その後エリベルの話を掻い摘んで説明すると、こんな感じだった。
俺がギブルと共に中層に転移した後、ギブルは天龍も巻き込んだ大規模な結界を張った。
これは外部からの接触すら断絶する結界だったらしく、俺との通信が完全に途絶えた状態になってたらしい。
それをエリベルとギジーが解析し、ここへ介入したとの事だ。
口にするのは簡単だけど、想像を絶するほどの難易度だっただろう。
さわり程度だけ記憶送信で解析した結界の術式を見せてもらっただけで頭が焼き切れそうになった程複雑な術式だった。
ショタを見て頬を紅潮しながら己を慰めようとする姿からは想像も出来ないが、それでもやはりエリベルだからこそ、この短時間で結界を破り介入することが出来たのだろう。
その辺りは流石賢者と言わざるを得ない。
ちらりとエリベルを見る。
「………うへへ」
バァルを見ながら息荒げに切なそうに太ももをこすり合わせていた。
放っておけばすぐにでもナニしそうな勢いだ。
…………流石賢者(笑)と言わざるを得ない。
そしてそんな変態にロックオンされてプルプル震えている少年―――バァル(怯え)を発見したのは俺が中層に転移した直後の事らしい。
中層第一エリアをうろうろしていた金髪の子供をギジーが発見し、エリベルに報告。
狂喜乱舞したエリベルはすぐさまバァルを拉致監禁しようとしたようだが、ベルクが拘束。
エルジャがバァルの事を知っていたらしく、彼女が出向きバァルを説得した。
バァルもエルジャの事は知っていた様で、こちらの言い分をあっさり信じたらしい。
その間にエリベルが拘束を抜け出し、バァルに暴行及び淫行をしようとしたところをベルクが全力解放の巨人形態でこれを阻止。ベルクが重傷を負った。
そしてエルジャの説得により、バァルは「パパが……めいわくかけてごめんなさい」とあっさり謝り、こちらに協力してくれることを約束したそうだ。
その間にエリベルが再び拘束を抜け出し、バァルを拉致監禁誘拐調教しようとしたがロブンがムスペルヘイムでこれを阻止。ロブンが重傷を負った。
そして、さあヤムゥを説得しようとした矢先に、俺とギブル、ヤムゥの反応がダンジョンから消失した為、それどころではなくなったという事で、急遽結界の解析に尽力した―――との事だった。
解析を行ってる間も常にエリベルはバァルの貞操を狙っていたらしく、スケルトン軍団が随時これを阻止。スケルトン軍団に壊滅的な被害が出たがバァルの貞操は守られた。
うん、色々突っ込みたい部分はあるけど、とりあえずあちら側も大変だったようだ。
………主に変態的な意味で。
ていうか天龍関係ないところで被害が出てるじゃねえかっ!
すいません、うちの眷属が変態で。
説明を終えたエリベルが再びバァルにセクハラをしようと手を伸ばすが、ヤムゥが聖域干渉の力を押しのけてこれを阻止。
エリベルの顔が忌々しげに歪んだ。
一連の説明を聞いていたギブルとヤムゥはまるで毒気が抜けれたかのような表情を浮かべていた。
さっきまでにピリピリした空気が嘘の様だ。
そんな風に考えていると、
『「アース様ああああああああああああああ!」』
「お父―さん!」「ぷるー!」
「お父さん!」「父上っ!……ござる」
アン、エルジャ、トレス、ぷるる、ツムギにラセツらも亀裂から入ってきた。
皆俺を見つけると我先にと近づいてきた。
一瞬、ヤムゥや巨大化したギブルに警戒していたが、それでも俺への心配が勝ったらしい。
『アース様……御無事で……ご無事で何よりでした……っ』
感極まったかのようにアンが口を開く。
あー…、アンは憑代の途中で強制的に遮断されたからな。
相当に心配していたんだろう。
ごめんな。
「……おいテメェ、エルジャか?」
ヤムゥが驚いたように俺に抱き着いてるエルジャを見る。
……ていうかそろそろ離れてくれませんかね?
動きづらいから。
「……お久しぶりですわね、ヤムゥ小父様」
「なんでテメェがここに居る?」
するとエルジャは一旦俺から離れて胸に手を当てる。
「そう言えば、ヤムゥ小父様には言っておりませんでしたわね!私がここに居る理由。それは私がアース様の婚約者だからですわ!いえ、正確に言えばその前の段階ですが、今は幼いアース様を私好みに染め上げ――ごほぁっ!」
『エルジャ、世迷言はそこまでです』
「エルジャちゃん、ちょっとうるさいから静かにしてくれないかしら?」
「ぷるっ!」
なんか叫んでいたエルジャをアン、エリベル、ぷるるの三人が黙らせた。
何やってんの?
「………」
その様子をヤムゥはじっと見ていた。
「おい、ギブルの息子。まさかここはそこの劣化賢者じゃなくて、テメェのダンジョンなのか?」
『え?あ……そうです』
「あ、ちょっとアース!」
あ、しまった。
つい頷いてしまった。
「つまり、そこのインペリアル・アント……アンも、劣化賢者もテメェの眷属って事か?」
『……ああ、そうだよ』
「…………そうか」
少し考えたが、俺は素直に答えた。
これ多分、嘘ついても意味ないだろうし。
ヤムゥはじっとこちらを見る。
その視線に敵意は感じられない。
いや、むしろこれは……驚いているのか?
どうして?
その視線は俺の眷属達に順々に移り、次にギブルを見て、最後にもう一度俺の方を見た。
そして、
「……はっ」
ヤムゥの口元が歪む。
「クハハ……クハハハハハッ!クッハッハッハッハッハッハッ!!」
堰を切ったかのようにヤムゥは笑い出した。
ど、どうしたんだ突然?
皆、ヤムゥのその姿に唖然としている。
ボロボロの体を揺らしながら、鱗が剥がれようが傷口に泥が付こうがお構いなしにヤムゥは体を揺らして笑っている。
「ヤムゥ、何が可笑しいのです?」
ギブルが質問する。
「あぁ?何言ってんだ?これが笑わずにいられるかっ!ええ、ギブルよ?」
心底おかしいと言った風にヤムゥはギブルを見る。
「見ろよ!テメェのガキは!テメェが千年かけて出来なかった事をあっさりと成し遂げたんだぜ!?分かるか?頂点に立つテメェが!この世の全てと敵対しても戦い勝ち残るテメェが!どうあがいても出来なかったことを!どうあがいても手に入れられなかったものだ!これが笑わずにいられるかってんだ!ミュルスさんが見たら泣いて喜びそうな光景じゃねーか!クハハハハハッ!」
「………っ」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるギブル。
対照的に心底楽しいと言った表情でヤムゥは俺の方を見た。
その顔には今までのトゲトゲしさが全くなかった。
まるで憑き物が落ちたかのようだ。
「おい、ギブルの息子。アースとか言ったか?」
『え?あ、はい』
「ほらよ」
ヤムゥは何かを俺に放り投げる。
反射的にキャッチしたそれは野球ボール大の透き通った青色の魔石だった。
何だこれ?
手に持ってるだけでもわかる程の凄まじい魔力を感じるぞ。
「そいつをテメェにくれてやる。好きに使え」
『……えっ?』
いや、いきなり渡されても困るんですが?
ていうか何これ?
「そいつは俺様の“力”を込めた魔石だ。そいつにテメェの魔力を込めれば“天爪”や“天魔水月”といった俺様の力を行使できる。回数制限はあるがな」
『なっ……』
何だそれ?
とんでもない性能じゃないのか……?
「ちょっと貸しなさいアース」
横からエリベルが魔石を取り上げる。
「………本物、のようね。どういうつもり?」
「どうも何も、今回の詫びだ。似非賢者でもそれにどれ程の価値が在るかは分かるだろ?ソイツで手打ちだ」
そう言ってヤムゥは人の姿に戻った。
でも傷はそのまま引き継ぐのか、人の姿になっても随分傷だらけだ。
だが、人の姿に戻っても俺達は警戒心を解いていない。
エリベルやほかの眷属達も疑わしげな視線を向ける。
そりゃそうだろう。
今まで殺し合いをしていた相手がいきなりこんな事言ったって信じられる訳がない。
だが、
「はっ、信じられねーなら、“協定”でも何でも結んでやるよ。今の俺様は数百年ぶりにすこぶる良い気分だからな。なんなら、ダンジョンの強化にも協力してやってもいい」
本当に上機嫌そうにヤムゥは言う。
そこには一切の敵意や悪意が感じられなかった。
眷属達もそれを感じ取ったのか、少し警戒を解いた。
だが、ギブルは吠えた。
「何を勝手な事を言っているのですか?貴方は可愛いアースのダンジョンを滅茶苦茶したのですよ。その報いを―――」
「テメェにそんなこと言う権利なんてねーだろ、ギブル。俺様は今テメェの息子と話をしてんだぜ?」
ヤムゥはクイッと俺を指差す。
「ついでに聞くがよ。俺様が水攻めした分の被害と、テメェが“錬金”でダンジョン滅茶苦茶にした分の被害。……どっちの被害がデカかったんだろうな?」
「えっ?」
「あー……、ぶっちゃけ被害の規模で言ったらギブルのやった方が大きいわね……」
「なぁっ!?」
多少遠慮した感じにエリベルが言うが、その発言にギブルがガーンとした感じで落ち込んだ。
「ちょ、ちょっと待って下さい!私は可愛いアースの為を思って……。そうだ、それなら今から再び“錬金”で元に戻します!それならいいでしょう?」
「いや、アレもう一回やられると、今度は地上の方がヤバい事になるのよね。そうなれば調査隊が派遣されかねないし、ツムギんやギジーに頼んで慎重に治してもらった方が良いわね」
「そ……そんなぁ……」
しょぼーんと落ち込むギブル。
さっきまでの威厳が嘘の様だ。
「おい、ギブルの息子アースよ。後で遣いの者を改めて寄越す。詳しい“協定”の内容はそいつに伝えろ。あまり度し難くない限りはそっちの要求は呑んでやるからよ」
本当にさっきまでとは別人の様だ。
一体何がそこまでヤムゥの変心を促したんだ?
ただ俺と眷属達を見ただけだというのに。
『………本当にダンジョンには手を出さないんだな?』
俺が改めてヤムゥに訊ねる。
「ああ、もう興味も微塵もねーよ。……いや、違うな。逆に興味が出てきた。テメェのダンジョンが……いや、テメェがこれから先そいつら眷属と共にどう歩んでいくのか……それを少しだけ見て見たくなった」
その視線は俺の方を向いていたが、何故かその言葉は俺ではなく違う、別の誰かに向けられていたような気がした。
寂しさの様な、懐かしさの様なそんな色々まじりあったような声音だった。
次にヤムゥはエリベルの方を見る。
「ああ、そうだ。おい、元賢者。俺にテメェの事を教えた奴からの伝言だ」
「元って何よ!?私は今でも賢者のつもりなんだけど?」
エリベルの怒声を無視してヤムゥは言う。
「『本を読むときに間食はするな』………確かに伝えたぞ」
それを聞いた瞬間、エリベルの眼が大きく見開かれた。
「……そう。成程、そういう事ね……」
温度を感じさせない驚くほど平坦な声だった。
心当たりがあるのか?
「はっ、今思えば、あの魔女はこの状況を予想してたのかもしれねーな。じゃないと殺す相手に伝言なんて言わねーだろうし」
まあいいと言ってヤムゥはバァルの手を取る。
そして手をかざすと、その体が光り輝いた。
転移の光だ。
今度はエリベルも干渉しようとはしなかった。
「じゃあ、あばよ」
「えっと……お、おさわがせしましゅた……」
淡い光と共に天龍の親子は去って行った。
最後にちょっと噛んだバァルは少し恥ずかしそうに頬を染めていた。
天龍が去ったのでさっきの事を聞いてみるか。
『なあ、エリベルさっきの伝言って―――』
「ヤバいわね……今のバァルたんの映像だけで三日はオカズに困らないわ……かぁわいいわねぇバァルたん……ハァ…ハァ…」
………なんかもう、後でいいか。
少しは自重してくれませんかねぇ……。
それからしばらくして、ギブルが精神的ショックから回復した。
「……それでは私も帰るとします」
そう言うとギブルの体が縮んだ。
今まで通りの十センチほどのミニ地龍だ。
どうやら自分の体のサイズを思い通りに調節できるらしい。
地味に凄い。
「では可愛いアース。改めて条件の確認です。百年後までに私に認められるくらいに強くなる事―――正確には“真の龍王種として覚醒する事”です。これが貴方の一人暮らしを認めるための条件です。良いですね」
『あ、はい……』
「よろしい。では、また会いましょう可愛いアース」
そう言ってギブルはいきなり姿を消した。
本当に突拍子もなく表れて、突拍子もなく消えるなあのヒト。
あとには俺と眷属達が残された。
「さて、それじゃあ私達も深層に戻るとしましょうか」
『そうだな』
その後俺達は為深層へと戻った。
ダンジョンの修復はギジーとデッサン型達が行う様だ。
簡単な話し合いをして俺達は各自解散した。
『ふぅー……疲れた』
本当に疲れた。
とりあえずもう寝たい。
ウナとドスへの連絡はギジーがやってくれるそうだ。
向こうからも特に何も連絡は来てないそうなので大陸会議の方は順調なのだろう。
俺も少し休んでからウナ達に連絡しよう。
向こうは向こうで大変だっただろうし……。
そんな風に思いながら俺は倒れ込むように寝床に横になった。
数秒も掛からない内に俺の意識は暗闇に沈んでいった。
そして、その日の夜―――。
エリベルは一人ダンジョンの外に出ていた。
長い銀髪をなびかせるその姿は生前の美女の姿。
つまり憑代だ。
既に辺りは暗く、星空が良く見える。
茫々に生い茂る草木をかき分けながら、エリベルは真っ直ぐと廃墟の中をを進む。
第零魔導研究所。
そこは以前アースとぷるると共に訪れた彼女の魔導実験場だ。
ほどなくしてエリベルは目的の部屋にたどり着く。
エリベルは思い出す。
かつて自分はとある人物の蔵書から本を拝借していた。
ベルクが持ってきた菓子を摘まみながら、この研究室で研究と読書に耽っていた。
その人物からよく注意を受けた。
『本を読みながらお菓子を食べるな』と。
わざわざこの研究所を訪れて、自分に注意した。
盗んだことは怒らないんかいと突っ込みを入れたが、相手はただ笑うだけだった。
ボロボロの通路を抜けると、その先には同じようにボロボロの研究室があった。
壁は崩れ、天井は吹き抜け、そこかしこから土ネズミの鳴き声が聞こえてくる。
そして、そこには予想通りに既に先客がいた。
その人物は壊れたテーブルの上に無作法に腰かけながらエリベルの方を見た。
軽く手を振りながら、
「やっぱり来てくれたんだね、エリちゃん」
気軽な感じで挨拶をした。
エリちゃん、そう言われてエリベルの表情が忌々しげに歪む。
自分をそう呼ぶ人間を彼女は二人しか知らない。
一人はもうこの世に居ない自分の姉。
そして、もう一人が―――、
「やっぱ今回の騒動の黒幕はアンタだったのね……」
「えー、そんな言い方は酷いね。私としては親切心でヤムゥを君のダンジョンにけしかけたつもりなんだけど?」
彼女はわざとらしく肩を上げておどけてみせる。
「天龍の長をけしかけるなんて、一体どんな理由があるのか説明してほしいモノね、この……クソ婆」
敵意むき出しのまま、エリベルはその人物に杖を向ける。
「流石にその言い方はあんまりじゃないかい?出来れば愛称のレーナと呼んで貰いたい。ちゃん付けも可。でも、さん付けは止めてほしい」
「アンタなんてクソ婆で十分でしょうが」
吹き抜けになった天井から月明かりがその女性を照らす。
そこに居たのは眼鏡をかけたこれと言って特徴の無い女性だった。
特徴の無いありふれた服装に、長くも短くもないありふれた髪型。
雑踏に入り込めばすぐにでも見失ってしまいそうな希薄な存在感の余りにも無個性すぎる女性。
「いんやあ、女性はいつまでも若くありたいものだよ、エリちゃん。……まあ、それはいいか。とりあえずまずは一言」
そこに居たのはボルヘリック王国三大貴族の一角、その現当主。
「―――やっほう、二百年ぶりだね、エリちゃん」
『レイノルズの魔女』レーナロイド・レイノルズ。
月明かりに照らされる中、平凡な女性はすぐに忘れてしまいそうな凡庸な笑みを浮かべた。
今までで一番長くなった……。




