2.されどアースは動かず、踊らず
さてと、魔石も食べて腹も膨れた事だしこれからの事を考えるとしよう。
とりあえずは………ふぅぁぁ……眠いな……。
お腹いっぱいになったら眠くなってきた。
よし、ちょっと寝てから考えるとしよう。
と言う訳で、おやすみー。
暗転。
おはよう。
このフレーズを言うと、なんか日常に戻ったって感じがするなー。
実際には問題山積みなんだけどね。
ははっ。
あと脱皮してた。
ぺりぺりと剥がして、片付けをデッサン型達にしてもらう。
ふぅ。
さて、腹も膨れて、眠気も収まったしこれからの事について考えよう。
深層の通路をとてとて歩きながら考えをまとめる。
どうでもいいけど、考え事する時ってじっとしてるより、歩いたりしてた方が色々思い浮かぶよね。
とりあえず今ある問題は―――。
ファーブニルとエリベルのダンジョンとの融合及びダンジョンの強化。
俺の母親とグウィブの動向や情報収集。
聖龍と聖地との交易。
もうすぐ開催される大陸会議について。
とりあえずはこんなもんか。
とりあえず、ダンジョン融合についてはギジーとツムギに任せておけば大丈夫だろう。
この間俺が考えたアイディアも実装されてたし、あれがもっと増えればダンジョンの防衛にはかなり役立つはずだ。
まあ、その所為で地上が多少騒ぎになるかもしれないけど。
その辺りの解決策もギジーに送信しておいた。
ギジーならなんとかしてくれるだろう。
アイツ、俺が思ってる以上に進化してたみたいだし。
「あ、お父さん」
後ろから声がした。
『お、ツムギじゃないか』
振り返るとそこに居たのはツムギだった。
『ダンジョン改変能力』を持つ魔物――道外しの少女であり、俺の眷属でもある魔物。
何気にアンに続く第二の眷属だったりする。
まあ、そうだと気付いたのは最近になってからだけど。
見た目的にはトレスと同じ小学生の高学年か、中学生くらい。
髪も肌も服装も全てが真っ白の少女。
唯一、瞳の色だけがキャラメル色だ。
くりっとした可愛らしい瞳も、黄金色の髪留めによって前髪が整えられたため露わになっている。
そして、特定の人物以外には“見えない”という変わった特性を持っている。
エリベルがその特性も解析してる最中だけど、どういう法則で見える人と見えない人がいるのかはまだわかっていない。
『帰ってたのか?』
「うん。ファルの具合も良くなってるし、エリベルさんに報告しようと思って」
ファル―――鉱龍ファーブニルは、現在自身のダンジョンの最下層にてエリベルの造ったカプセルに入って療養中である。
俺が入ってたのと同じ奴だな。
俺との戦いで受けた傷と、以前から進んでいた迷宮核の浸食を食い止めるためだ。
尤も俺のダンジョンとの融合が進んで以来、ファーブニルの中の迷宮核もすっかり大人しくなっているらしい。
まあ、目的がファーブニル―――器の延命なのだから、互いに利害が一致したって事だしな。
ただファーブニルと迷宮核を完全に切り離して、それぞれを別々に延命させる手段はまだ確立されてない。
「ファルがさ、最近いろんなこと話してくれるようになったんだ。昔ロブン達と一緒に冒険した時の事とか。すっごく面白いんだよ!」
本当に楽しそうにツムギは語る。
ここ最近、ツムギはよく笑う様になった。
ファーブニルと一緒に居られる今の状況が楽しくて仕方が無いんだろう。
『そっか、良かったな。でもあんまり我儘言ってファーブニルを困らせるなよ?』
「だ、大丈夫だよ。ファルが眠たくなったらきちんとお話は終わらせるし」
明らかに動揺してるが、まあいいか。
本格的にヤバければもうとっくにギジーやエリベルに連絡が行ってるはずだし。
「それじゃあお父さん。私エリベルさんの所に言って来るね」
『気を付けてな。アイツのセクハラには注意しろよ』
「大丈夫だよ。いざとなったら“改変”と“転移”使って逃げるから」
ツムギは笑顔でそう言って走り去っていった。
そう言えば以前エリベルにセクハラされかけた時、フロア丸ごと転移させて逃げたって言ってたなぁ。
あん時は大変だったなぁ……。
深層のフロアと、ファーブニルのフロアがごちゃ混ぜになってえらい騒ぎになった。
…………うん。
あの子も大概おかしな存在だよな。
ギジーもそうだけど、ファーブニルのダンジョンと融合して以来、俺の眷属達が更に強くなってるような気がする。
鎧武者のラセツだって、新参なのにとんでもない性能に仕上がったし。
まあ、いいか。
ダンジョンが強化されるのが良い事だしな。
ツムギが研究所に言ったのを確認して、俺も再び歩き出した。
はぁマジで聖地と母親の問題どうしたもんかなー……。
いろいろ事情を知ってそうなグウィブは現在聖地に居る。
でも、聖地への転移門はまだ開通していない。
行くとすれば。アッド山脈にある表層ダンジョンから移動していかなければいけない。
今回エルジャもそうやってこっちに来たわけだし。
これからの事を考えれば外に出ていろいろ動いた方が良いのも確かなんだよな。
何かいい方法は無いものだろうか?
『はぁ、上手くいかないもんだなぁ……どうしようか』
特にいいアイディアが浮かぶことも無く、俺は監視室へと向かった。
その頃、エリベルの研究所にて―――。
「―――そう……そう……ええ、分かったわ。それじゃあ頑張ってね。えぇ、こっちは大丈夫よ、それじゃあ」
そう言ってエリベルは極彩色の球体に触り通信を切る。
「……今の通信はウナ殿からですか?」
後ろで素材を整理していたベルクが訊ねる。
「ええ。定期的に外の状況を報告して貰うように頼んだの。どうやら、ウナちゃん達は無事にハザン帝国に到着したみたいね」
「そうでしたか」
「大変だったみたいよ。なにしろ道中で聖女の一人とその護衛がはぐれちゃったみたいだからね。まあ、無事合流したらしいけど。なんていったかしら?オリオン何たらって言う聖女らしいんだけど」
くすくすと面白そうにエリベルは語る。
「その所為で入国が少し遅れたみたいね。まあ、それでも会議の日程をズラす程の遅れではないらしいから、大陸会議は予定通りに行われるそうよ」
エリベルの手元には、ウナ達から記憶送信で送って貰ったものを写した大陸会議についての資料があった。
ベルクもそれに目を通す。
そこには会議に参加する各国の代表や重鎮の名前が記されていた。
「ほぅ、今回の参加者は随分と豪華ですな。各国の代表がそのまま参加してる国はもちろん、代理人も名の通った者ばかりではないですか」
「それだけ今回の大陸会議は力が入ってるって事でしょうね」
「ボルヘリック王国からの参加者は……レーナロイド様が参加されるのですか」
「そうね、あのクソ婆今はあの国の宰相やってるみたいよ。ま、どうせお飾りでしょうけど」
「興味の無い事にはとことん無関心な御方でしたからなぁ。エリベル様も良くあの方の屋敷で本を読んでいましたしね」
昔を思い出す様にベルクは語る。
「資料や蔵書に関してはレーベンヘルツ家よりも、レイノルズ家の方が質も量も上だったからね。ただ、あのクソ婆本人に関して言えば、私はどっちかと言えば嫌いだったわね。お姉ちゃんとは仲良かったみたいだけど」
「え?そうだったのですか?」
それは意外ですとベルクは軽く驚いた。
「そうよ。だってあのクソ婆、何考えてるか分かんないし、興味のある事にしか動こうとしないし、面倒事や厄介事が大好きな変人だったしね。好きになれるわけないじゃないの」
「…………そ、そうですか」
同族嫌悪と言うやつだろうか。
そっくりじゃないですか、と言おうとしてベルクは止めた。
まだ死にたくないからだ。
「そ、それはそうとエリベル様。今回の大陸会議の参加者は随分多いですな」
「それだけ各国で動きがあったって事でしょうね。それに今回は私達も無関係じゃなさそうだし」
「表層ダンジョンの転移門ですな」
エリベルは頷いた。
「ええ、間違いなく私達のダンジョンの事も議題に上がるでしょうしね。目を離すわけにはいかないわ」
アースのダンジョンの表層転移門は既に各国の――特に魔術都市エンデュミオンやハルシャルード聖王国、倭の国における流通に関して重要なポジションを担っている。
現在進行形で各国の転移門を利用した貿易は加速度的に増加しているのだ。
もはやどの大国も無視できないレベルにまで成長している。
おそらく今回の会議ではダンジョンの所有権や関税に関する正式な話し合いも行われるだろう。
うまくいけば、ファーブニルの様な国益扱いのダンジョンに認定されるかもしれない。
そうなれば万々歳だ。
そして、エリベルの狙いはそれだけではない。
いや、むしろ本命は別の所にある。
「ベルク、追跡の方はどうなってるの?ファーブニルの時は途中で撒かれちゃったけど」
真剣な声音でエリベルは訊ねる。
すると、ベルクは首を横に振った。
「残念ですが、今も同じような状態ですな。向こうも巧妙に魔力を隠しています。その為中々補足することが出来ず……」
「そう……」
悔しげにつぶやくベルクに対し、エリベルはぼりぼりと頭を掻く。
「でも今回は間違いなくあの女も動く筈よ。これだけの規模のダンジョンに成長したんだもの。向こうも無視できる筈が無いわ」
「ええ、そうですな」
そう。
エリベルの本命は大陸会議ではなく、そこに張った網に掛かる獲物の方だ。
リアス・アウローラ。
元レーベンヘルツ家筆頭顧問魔術師にして、エリベルに魔術を教えた師匠であり、自分を騙しその研究成果を奪い利用し、忽然とその姿を消した最低最悪のクソ野郎。
そして彼女はなぜかダンジョンに強い関心を抱いている。
特に八大ダンジョンの様な強大なダンジョンに。
であれば、八大ダンジョンの内、二つを取り込み、急激に成長したこのダンジョンをあの女が無視するはずがない。
必ず何らかのアクションを仕掛けて来る筈だ。
そして、それはおそらく次の大陸会議の時だろうとエリベルは予想していた。
だからこそ、様々な網を張っておく必要がある。
ウナとドスにも色々と頼んでおいた。
「待ってなさいよ、リアス……。今度こそアンタの尻尾を捕まえてやるわ」
決着をつける。
三日後の大陸会議。
そこで今度こそ二百年前の後始末をつけてやる。
エリベルは静かに決意を固めていた。
そして―――ここにも動き出す存在がいた。
???にて―――
暗く深い光も差し込まない地の底。
何も見ることが出来ないその中において、圧倒的な存在感を放つ存在がいた。
それが動くたびにズゥンズゥンと低い地鳴りが起きる。
「―――さて、そろそろ私もあの子に会いに行くとしましょうか」
ゆっくりとその体を動かし、彼女は動き始めた。
愛する我が子に会うために。
様々な思惑と存在が絡み合い、大陸会議は開催される。
物語は動き出す。
ただし………本来話の中心に居る筈の一匹の地龍を除いて。
主人公ェ………




