13.だからその地龍は、恥龍と呼ばれるのだろう
第五章はこれにて終了です。
はぁ……全く、とんだ空騒ぎだったわ。
ヴァレッド達がダンジョンから出たのを確認して、ようやく俺達は警戒態勢を解いた。
本当に、ただダンジョンに挑んでいたという感じだった。
全く何しに来たんだか。
エリベルやベルク辺りが、調べてみると言っていたから、そっちは任せよう。
アンや四長たちは急遽用意した対龍殺し用ダンジョンの後片付けに追われている。
そのまま残しておくと、色々他の階層に影響が出るからだ。
特に毒に関する部分とか。
森の四長たち、特に蛇のスーと蜘蛛のチュランは毒に非常に強い耐性を持っているので、活躍してくれている事だろう。
なぜか、アンも毒に強くなってたのには驚いたけど。
まあ、任せておけば問題は無いだろう。
俺はとりあえず、眠いので寝た。
暗転。
おはよう。
ぐっすり寝て、魔力もばっちり回復した。
あと、また脱皮した。
最近は、疲れた後に寝ると、よく脱皮するな。
あれかな?
成長期の子供が、たくさん遊んでぐっすり寝ると、良く育つやつ。
多分、アレと一緒だ。
だって、俺、地龍になってまだ二歳と半年くらいだし。
…………でも、なんかすごい濃い人生を、いや龍生を送ってるような気がする。
いや、まあ前世が灰色人生だったからそう感じるだけなのかもしれないけど。
俺はただのんびり寝てダラダラ過ごしたいだけなのに、なんでか周りが騒がしくなっているような気がする。
いや、考えるのはやめよう。
きっと、気のせいだ。
さー、魔石を食べよう。
脱皮したし腹が減って………あれ?
そこで俺は自分の体の変化に気が付いた。
『…………なんか、体の色が薄くなってないか?』
土色ぽかった表皮や鱗の色が少し薄くなっているような気がする。
白に近い茶色って感じだ。キャラメル色って表現の方がしっくりくるかな。
脱皮した時には気付かなかったけど、なんか色が変わってた。
今までは脱皮しても色が薄くなったことなんてなかったのに。
どうしたんだろうか?風邪かな?
確かエリベルの記録でも、地龍どころか、ほかの龍だって色が変わるなんてことなかったと思ったけど……?
聞いてみるか。
そう思って、俺はエリベルの研究室に向かった。
深層エリベルの研究室にて――――
「あら、アース、おはようかしらね。もう、昼だけど」
紫色の不気味な液体が入った試験瓶を片手にエリベルはこちらを見る。
何というか、白衣を着た骸骨ってすげーシュールだな。
以前俺が、ローブの代わりに、こんなのを着てみたらどうだと、研究者っぽい白衣を作ってみたら、いたく気に入ったらしく、良く身に着けている。
よほど気に入ったのか、何着も俺にせがむ始末だ。
自分で作ればいいのに。
あ、ベルクが隅で倒れている。いや、寝てるのか。
「あら?」
直ぐに、俺の変化に気が付いたようだ。
じっくりと俺の体を観察するように見る。
あんまりじりじり見るなよ、照れないけどさ。
「………オシャレ?」
『そんな訳ないだろう』
「冗談よ」
ふふふとエリベルは笑う。骸骨が笑う姿は実に不気味だ。
眼窩の青い焔が怪しく揺らめいている。
………ホントに冗談だよな?
なんか、一緒に外に出た辺りから、コイツは冗談をいう事がけっこう多くなった気がする。
何でだろうか?
『んで、なんで色が変わったのか分かるか?』
説明をしてくれる気になったのか、エリベルは持っていた試験瓶を机に置いた。
「“変色”ね。珍しい現象じゃないわよ。まあ、龍で起こるのは初めて見たけど」
『変色?』
「文字通りの意味よ。まあ、大抵は“体色”と“魔力”の事を指して言うわね。成長過程の魔物に、稀に見られる現象でね、何らかの外部影響を受けて自身の魔力が変化しちゃうのよ。その魔力の変化が、体表にも表れて、体の色が変わる現象。それが“変色”よ。異常個体と呼ばれる個体は、大抵“変色”しているヤツが多いわ」
ぺらぺらとエリベルは説明してくれる。
流石、エリペディアさんだ。
博識だぜ。
そう言えば、前にウナが色違いのオークをギルドのクエストで仕留めたとか言ってた気がする。
結構手ごわくて、その時の報酬が、いつもよりも高額だったと喜んでいた。
「ていうか、アンタも“変色”は見たことがあるでしょう?」
『え?』
そんなのあったっけか?
はぁっと、エリベルは溜息をつく。
「アンちゃんよ。アンタの記憶で見たけど、彼女もインペリアル・アントに進化するときに体色が変化してたでしょう?」
『あ、そういえば』
確か進化の魔石を食べて、アンが進化した時、体の色が灰色っぽい黒から完全な黒に変化していた。
「あれも、アンタの魔力、そして進化の魔石と言う外部要因によって魔力の質が変化したから起きた現象よ」
『成程なー。ん?そう考えると、俺は何で“変色”したんだ?』
「んー、一番考えられるのは……ストレスかしらね?」
いや、ストレスって……。
生活習慣病じゃないんだからさ。
「あの龍殺し達がやってきた影響かしらね。ダンジョンってのは、強い魔物や冒険者が侵入すると、その魔力の影響を受けるらしいからね。アンタが影響受ける程の魔力を持つクラスになると、“龍殺し”や“銀鬼”くらいしか考えられないしね」
あっけらかんとエリベルは言う。
「まあ、安心しなさいな。“変色”は悪い事じゃないわ。むしろ、より強くなろうとする防衛本能のようなものだからね。良かったじゃないの。アンタが怠けていても、地龍の本能が勝手にアンタを強化してくれているんだから」
それって、普段の俺が怠けものだって言いたいのか?
俺のそんな視線を受けても、エリベルはしれっとした感じだった。
「んじゃ、とりあえず、どういう感じに魔力が変化したか知りたいから腕出して」
『え、やだよ。どうせまた、注射するんでしょ?お医者様みたいに!』
注射怖いし。
いやだよ、痛いのは。
「子供か!あ、二歳だから、まだ赤ん坊か……。とにかく、我儘言うんじゃないの。さあ、腕を―――あっ、アンちゃん。丁度いいところに来たわ。こいつ抑えるの手伝って!」
え!
なんでこのタイミングで、アンが!?
そう言われて俺は思わず後ろを振り向いてしまう。
―――――そこには、誰もいなかった。
「ほい、ぶすー」
ぎゃああああああああああああああああああああ!!!
騙された!
腕に刺さる確かな感覚。痛い痛い痛い!
暴れたいのに力が入らない。力が抜けていく感覚――これは、魔術か!?
よく見たら、俺の足元に極小の魔術陣が展開されていた。
「ふっふっふ、力が入らないでしょう?つい最近開発した、魔力逓減術式っていうのよ。だんだんと、気付かないうちに、魔力と体力が吸い取られるっていう優れものよ。アンタには特別に、限界突破ver(すぐ効く・かなり効く)を使ってるわ。感謝しなさい」
そんな感謝しねぇよっ!
ていうか、そんな凄い術式造ったんなら、俺じゃなくてダンジョンに使えよ!
俺を実験体に使ってないか?
気のせいだと思いたい。
あっという間に、注射は終わり、採血が終了した。
痛かった。
まあ、魔石食べればすぐに傷は治るけどさ。
恨めしそうにエリベルを見ていると、彼女は何やら極彩色の球体から映し出される映像を眺めていた。
映像には何やら数値やグラフの様なものが映し出されている。
そして、一番最後の部分には、最終到達階層120層と映し出されていた。
何、だこれ?
『エリベル、この映像って何だ?』
「いや、まあ、ちょっとね。疑似迷宮核―――ギジーちゃんを使って、仮に、私が軍の指揮官として、このダンジョンに挑んだ場合のシミュレーションをしてみたのよ。軍の規模は、この間のボルヘリック軍と同じ規模で、私が指揮した場合、このダンジョンを攻略できるかどうかってね」
凄いな、そんなのシミュレーション出来るのか。
『へえ、それで結果は?』
「結論から言えば、攻略不可能」
『ほぉ……』
賢者の知略でも、無理だったと。
「時間が掛かりすぎるのよ。………兵站が維持できないわ。私達と違って、冒険者達には、このダンジョンでのショートカット手段が無いもの。多分、どんなに頑張っても、百層か、その辺りで息切れでしょうね」
確かに、食い物が無いとどうしようもないしな。
ダンジョン内にいる魔物は殆どがゴーレムだし、ダンジョン内での自給手段は、人間達にとって殆どないと言っていい。
仮に人間達が、何らかの自給手段を持ち込んできた場合、真っ先に俺達も潰しに行くだろうし。
なんだ、俺のダンジョン凄いじゃん。
これは、安心してもいいんじゃないか?
「まあ、いくつかの懸念はあるけどね。少しずつ修正していけば問題ないわ。表層が活性化して、人の出入りも良くなったし、以前の様に問答無用で破壊されるって事もないでしょうしね」
確かにな。
入り口部分の交易はだいぶ広がってきたし、それぞれの国もこのダンジョンの、正確には転移門の利便性を理解してくれた事だろう。
以前の様に、問答無用で“ダンジョン破壊”なんて使われない筈だ。
まあ、使われたとしても、一応の“対策”は用意してあるけど。
「龍殺しや銀鬼の目的については、まだ調べがついてないけど、その内分かるでしょうね。ダンジョン内部が完成しつつある以上、今後は地上での情報収集が主だった活動になってくるでしょうね」
『地上での情報収集か……』
となると、ウナやドス達の出番だな。
鳥や猫型など、町に紛れ込める動物型も外にはなってるけど、少し心もとないな。
………そろそろ、人型のゴーレム・ホムンクルスを増やすべきだろうか?
脱皮もしたし、材料も充実してきた。
以前は動物型を作りすぎた為、自重していたが、地上ので活動も増えてくるとなると、ウナ達だけでは手が回らない可能性がある。
俺は外に出たくないし。
考え事をしていると、エリベルがジッとこっちを見ていることに気付いた。
「ところで、アース。アンタ、また外に出る気はない?たまには、外の空気を―――」
『ない』
即答。
「………憑代使っても?」
『やだ』
断固拒否。
そもそも、俺が外に出る理由が無い!
情報収取なら、ウナやドス達がやってくれるし。
「はぁ……まあ、良いわ。…………いざとなったら、無理やり連れだすから(ボソッ)」
『え、お前、今何つった?』
最後の部分が聞こえなかったが、なにやら恐ろしい言葉が聞こえた気がする。
「何でもないわよ。さー、ベルク、起きなさい!次の実験始めるわよ」
「――――はっ!?え、エリベル様?カニミソニーソの変態が、儂を襲って――」
「寝ぼけてんじゃないわよ!目ぇ覚ましなさい!」
パンパンとエリベルはベルクの頬を叩く。
痛そうだな。
うん。実験に巻き込まれる前に退却しよう。
俺はさっさと、エリベルの研究室を後にした。
『さて、とりあえずは寝室に戻るか……』
あそこに脱皮した皮がまだ残ってるはずだし、アレを使ってウナ達の弟か妹を作ってやるとしよう。
どんなのがいいかな?
いっそ、三人に聞いてみるか。
この時間帯なら、まだ三人ともダンジョン内部にいる筈だ。
俺は思念通話を飛ばそうとする。
『―――――あれ?』
思念通話を発信する前に、ふとあるものが目に入った。
通路だ。
俺の寝室に向かう、その壁に、見慣れない通路があった。
俺でも余裕で通れるくらいの、大きめのサイズだ。
『あれ?こんな通路、作ったっけ?』
俺はその通路をしげしげと眺める。
さっき研究室に向かう時にはこんな通路なかったし……。
あればいくら俺でも、気づくだろうしな。
通路の造り自体も、全然違う。土壁がむき出しになってる深層の壁と違って、この通路は石レンガによってきちんと舗装されている。
なんか、怪しいな……。
こんなあからさまに毛色の違う通路なんて不自然すぎる。
もしかして、エリベルの仕業か?
新しいトラップか何かだろうか?さっきの新術式と言い、この怪しげな通路といいい、よほど俺を実験体に使いたいのだろうか?
でも、残念。
何度も、その手に引っかかる程、俺もバカじゃないんだよ。
こんな怪しい通路入るわけないだろうが。
全くバカにして――――って、アレ?
そこで俺は通路に転がっている“それ”に目が行った。
魔石だ。
その通路には、一定間隔で魔石が置かれていたのだ。
更に、その奥には大量の魔石が石で出来た器に、山盛りに置かれているのが見える。
『お、ラッキー。丁度、腹減ってたんだよな』
俺は一番手前にあった、魔石を手に取って食べる。
ひょいぱく、ぼりぼり、ごっくん。
うん、美味い。
はっ!思わず、食べてしまった。
俺は周囲を見る。………反応は、無い。
………もう一個位なら大丈夫かな?
ちょっと足を延ばして、その奥にあった魔石をつまむ。
うん、美味い。
………あと、もう一個位なら大丈夫だろう、まだ行けるだろう。
そう思ってるうちに、気付けば山盛りに盛られた魔石の位置まで、入ってしまっていた。
そして、山盛りに盛られた魔石に手を伸ばした瞬間――――。
『アレ……?』
眩暈がした。
ぐにゃりと、周りの景色が歪んでゆく。
『ぐっ、し、しまった!やはり、罠だったか――――』
景色と共に、俺の意識はゆっくりと沈んでゆく。
―――――エェー……。
何やら、気の抜けた声が聞こえた気がした。
何だ?誰の声だ……?
徐々に暗転する視界。
完全に気を失う前に、またあの白い少女が見えた気がした。
表情までは分からなかったが、その口元はぽかんと開いているように見えた……。
―――――ナイワー……。
そして、俺は完全に気を失った。
第五章『貿易と防衛』 了
次章 第六章『道外しの少女とファーブニルの迷宮』編へ続く
嘘みたいだろ……。主人公なんだぜ、コイツ。
今後については、また活動報告に載せておきます。




