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底辺から始める、《与える》だけの無双伝 ~えぇ、与えていただけですよ?でも実は……知らないうちに守られていました!!♪!!?~  作者: わっぱるぅ
第一章

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第六十一話 ヴォルタの日常と、キラのいたずら

一 穏やかな朝

 戦いから三日が経った。

 帝国の軍勢は撤退し、ヴォルタは静かな日常を取り戻していた。

 屋敷の台所で、ネッサがエプロンをつけて鼻歌を歌っていた。この三日間で、朝食を担当することが増えた。


「今日は——卵焼きに挑戦します!!」ネッサが言った。


「卵焼き?」ヴィナが覗き込んだ。

「アルクさんに教えてもらって!! だし巻きってやつです!! ふんわりするように巻くのが難しくて!!」

 卵を溶いて、出汁を混ぜる。フライパンに流す。巻く——と思ったら、崩れた。


「あっ!!!」


「落ち着け」ヴィナが言った。「もう一度やれ」

「ヴィナさん、見ててくれるんですか!?」

「暇だからだ」ヴィナは言った。椅子を引いて座った。「——やり直せ。今度は、もう少し手早く巻け」

 もう一度。今度は少し形になった。

「できた……!! なんか卵焼きっぽい!!」

「上出来だ」ヴィナは言った。一口食べた。「……甘い。でも、出汁の風味がある。なかなかいい」


「ヴィナさんに褒めてもらえた!!!」

「褒めすぎるな。まだ形が歪だ」

「でも褒めてもらえた!!!」

 ヴィナが口の端を上げた。「……うるさい」でも、もう一切れ食べた。


 アルクが台所に来た。「いい匂いがする」


「アルクさん!! 卵焼きできました!!」ネッサが差し出した。

 アルクが一口食べた。「うまい。出汁がちゃんと入っている」

「本当ですか!!!」ネッサが飛び跳ねた。

「本当だ」


「もうっ!! アルクさんが言うと、なんかすごく嬉しいんですよね!!」

「俺が言っても、ヴィナが言っても、同じじゃないか」

「違います!!」ネッサが言った。「全然違います!!」

 ヴィナが、静かにもう一切れ取った。何も言わなかったが——少し嬉しそうだった。


二 キラのいたずら

 朝食の後、屋敷でゆっくりしていたとき、異変があった。

 ガドルが「俺の斧がない!!」と叫んだ。

 全員が集まった。

「確かにここに置いておいたのに!!」ガドルが言った。

「なくなるはずがない」バルガが言った。「屋敷の中で」

「でも、ないんだ!!」


 アルクが、手のひらを感じた。キラの気配が、いつもより活発だった。

「……キラ」アルクは言った。

 キラが、アルクの手のひらに現れた。

 いつもより、少し形がはっきりしている。丸い目が、アルクを見ている。尻尾がゆらゆら揺れている。


 そして——小さな手に、何かを持っていた。

 斧の、ミニチュアだった。

 手のひら大の、完璧な複製の斧。細部まで、本物と同じ作りだ。


「……複製した!?」アルクは言った。

「本物はどこだ!!」ガドルが叫んだ。

 キラが、くるりと振り返った。屋敷の棚の上を指した。

 本物の斧が、棚の上に置いてあった。

「……棚の上に移動させておいたのか」アルクは言った。「複製を見せるために?」


 キラが、小さな手でミニチュア斧を差し出した。ガドルに向かって。

「……くれるのか」ガドルは言った。

 キラが、ゆらゆらと体を揺らした。「どうぞ」というように。

 ガドルが、ミニチュア斧を受け取った。「……精巧だ。全く同じ形をしている」


「複製の能力が、こんな使い方もできるのですか」リィナが手帳を取り出した。「形状の完全複製——サイズの縮小も可能ということは、逆に拡大も?」


 キラが、リィナを見た。少し首を傾けた。


「今は縮小のみ、ですか」リィナは言った。「でも、これは重要な能力です。今度、何かに使えるかもしれない」

「実用的だ」ヴィナが言った。

「キラ、面白いことをするな」アルクは言った。

 キラが、アルクの指をぎゅっと握った。嬉しそうに、体を揺らした。


「ところで」ガドルが言った。ミニチュア斧を見ながら。「このサイズの斧を、部屋に飾ろうか」

「ぬいぐるみと並べるつもりか」バルガが言った。

「何が悪い」

「何も悪くない。俺も熊とうさぎのぬいぐるみの隣に、ミニチュアの大盾を置きたい」


「キラ、バルガにも複製してやってくれ」


 キラが、バルガを見た。それから——バルガの大盾に向かって、小さな手を伸ばした。

 ミニチュアの大盾が現れた。

 バルガが受け取った。「……ありがとう、キラ」


 キラが、体をゆらゆらさせた。照れているようだった。

「かわいい……!!」ネッサが叫んだ。「キラが照れてる!!!」


三 タークの変化

 その日の午後、灰爪亭に顔を出すと、タークが珍しく落ち着かない様子だった。

「タークさん、どうしたんですか!?」ネッサが言った。

「……なんでもない」タークは言った。書類を捲りながら、でも視線がアルクを追っていた。


「何か言いたそうだ」ヴィナが言った。

「言いたいことはない」タークは言った。

 しばらく沈黙があって——タークが書類を置いた。

「……一つだけ、聞いていいか」タークは言った。


「どうぞ」アルクは言った。

「帝国と戦っているのは、本当か」

「本当だ」

「勝てるのか」

「わからない」アルクは言った。「でも、やる」

 タークは、しばらくアルクを見ていた。それから、引き出しを開けて、何かを取り出した。


 小さな、メダルだった。傭兵時代のものらしい。


「……これは、俺が若い頃に使っていたメダルだ」タークは言った。「効果があるかはわからない。でも——持っていけ」

「タークさん……」ネッサが言った。

「礼はいらない」タークは言った。すぐに書類を捲り始めた。「邪魔するな、忙しい」

 アルクは、メダルを受け取った。「ありがとう、タークさん」

「だから礼はいらないと言った!!」

 ネッサが目を潤ませた。ヴィナが「お前は素直じゃないな」と小さく言った。タークが「聞こえてるぞ!!」と言った。

 ルミが、アルクの肩でぱたぱたと翼を揺らした。

「温かい人だ」ルミは言った。

「ああ」アルクは言った。


四 夜、屋敷の食卓

 その夜は、ネッサとアルクが一緒に料理を作った。

「一緒に作るのは初めてですね!!」ネッサが言った。

「そうだな」アルクは言った。「何を作るか決めたのか」


「肉うどんです!! この世界にも、うどんに似た麺があって。それと、前の世界の出汁の作り方を組み合わせたら——」

「面白い発想だな」

「えへへ!! アルクさんに見てもらいながら作りたかったんです!!」


 二人で台所に立った。ネッサが麺を茹でて、アルクが出汁を取った。


「こっちの昆布に似た海藻は——こう使うんだ」アルクは言った。「水から入れて、沸騰直前に出す」

「沸騰させちゃダメなんですか?」

「沸騰させると、えぐみが出る」

「なるほど!!」ネッサは真剣にメモした。「……あの、アルクさん」

「なんだ」

「こうして二人で料理してると——なんか、幸せだな、と思って」ネッサは言った。「すごく普通のことなのに」

「普通のことが、一番幸せなのかもしれない」アルクは言った。

「……そうですよね!!」ネッサは言った。顔が赤い。「またそういうこと言う!!」

「何かおかしいことを言ったか」

「おかしくないですが!! なんか!! もう!!」


 完成した肉うどんを、全員で食べた。

「……うまい」ヴィナが言った。「この世界の麺と、前の世界の出汁が合っている」

「新しい料理だな」ガドルが言った。「こっちの食材と、アルクの知識を組み合わせたら——いくらでも新しいものが作れそうだ」


「ネッサが作ったんだぞ、今日は」アルクは言った。

「え!?」ガドルが言った。「お前が作ったのか、ネッサ?」

「アルクさんに教えてもらいながらですが!!」

「うまいぞ」ガドルが言った。「本当に」

「ガドルさんに言われると、また違う嬉しさが!!」

「どういう意味だ」

「なんとなく!!」

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