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無加工  作者: noriduke
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1. 十五秒

放課後の更衣室で、私はスマホを横向きに構える。


画面の中の私は、全部わかっている。前髪は右から七対三、照明は窓からの自然光、笑うタイミングはビートの三拍目。「今日の放課後ルーティン」。サムネ映えする角度、コメントが伸びるキャプションの語尾、リアクション動画を誘う一言目の入り方。全部、もう身体に入っている。考えなくても指が動く。レンズの向こうに何万人がいるのか、数字ではわかっているけど、実感したことはない。ただ画面の中の自分が「いい感じ」であることだけが確かで、私はその確かさを頼りに毎日十五秒を切り取る。


撮影ボタンを押す。十五秒。

「おつかれ〜!」と手を振って、止める。再生。うん、いい。明るくて、ちょっとだけだるそうで、でも楽しそうな女の子。フォロワーが見たい「楓」。


保存。フィルター選択。投稿予約。スマホを閉じる。


練習着に着替えて廊下に出ると、窓ガラスに自分が映った。さっきまで画面の中にいたのと同じ顔。同じ身体。なのに、レンズを通さない自分は、いつもどこか輪郭がぼやけて見える。カメラの中では確かだったものが、生身になった途端にゆらぐ。


——これ、誰だっけ。


一瞬そう思って、すぐ笑った。何それ。中二病かよ。


教室でも部活でもLINEのグループでも、私はたいてい「聞く側」にいる。誰かが話し始めたら頷く、笑う、合いの手を入れる。それを嫌だと思ったことはない。居心地がいいとも思わない。ただ、そうしている自分が一番スムーズに回るから、そうしている。


今日も昼休みに美紀が彼氏の愚痴を言うのをずっと聞いていた。「ねえ、楓はどう思う?」と振られて、「うーん、でもそれ、好きだから怒ってるんでしょ?」と返す。正解がわかっている問いは楽だ。美紀は「それな〜」と笑って、話が次に進む。私の「どう思う」は、別に求められていない。求められているのは相槌と承認で、私はそれを正確に提供する。自動再生みたいなもの。再生ボタンを押したのが誰なのか、考えないようにしている。


ときどき思う。もし私が本当に思っていることを全部言ったら、この席に座っていられるだろうか。何が言いたいのか自分でもよくわからないんだけど、ただ「今出している自分」と「中にいる自分」がぴったり同じじゃない感覚がある。私だけかな?


部室のドアを開ける。「楓おそーい!」「ごめんごめん」。いつもの声、いつもの温度。ストレッチを始めながら、窓ガラスの違和感はもう消えている。消えたふりが上手いのか、本当に消えたのか。たぶん、どっちでもいい。考えなければ同じことだ。


私はそうやって、十七年間うまくやってきた。

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