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異世界の鬼神は本日も盃を手放さない  作者: 二筆
第1章 居場所は作られていく
1/12

プロローグ

※この物語はフィクションです。登場する人物、団体、名称は架空であり、実在のものとは関係ありません。


※基本主人公の一人称視点で話が進み、それ以外のキャラの視点は三人称で進みます。


*本作は神話モチーフを含む異世界ファンタジーです。


*暴力表現はありますが、主軸は勝敗よりも日常と信頼にあります。

 丹波国。


 平安の世。


 人の世ではまだ千年も経ってはいない頃。


 山の中にある洞窟の御殿の中


 *


 盃を傾けた瞬間、酒は喉を通らず、身体の中で異変が起こった。

 先ほどまで交わしていた笑い声が、まだ畳の上に残っている気がする。

 

 指が動かない。足が言うことをきかない。


 「……なるほど」


 苦し紛れに、冷静を装ってみる。

 恐れや焦る顔など見せるわけにはいかない。

 

 息を吐いた。これは毒だ。ただの毒ではない。

 酒に混じる気配は、あまりにも上手く姿を消している。

 

 神の手が入っている。


 やり口が汚い。

 いくら”鬼”相手とはいえ、やりすぎだろう。


 視線を上げると、先ほどまで他愛のない話をしていたはずの山伏が、無言で刃を構えていた。

 

 その更に奥、柱の影で茨木(イバラキ)が数人に囲まれている。

 いくら鬼とはいえ、女一人に男が寄ってたかって鬼畜の所業といえる。


 濃褐色の直垂(ひたたれ)が血に濡れ、それでも抜かれた刀を下げず、歯を食いしばって立っている姿が見えた。


 逃げろ……茨木……。

 決して逃げないと分かっていても、願わずにはいられない……。


 詰んだな、これは。

 俺が甘かったのだろう……。

 他の連中は逃げれただろうか……?


 もはやどうにもならない状況に思わず笑い出しそうになる。


 「……そうか。人の世の宴には、終わりの合図もいらぬらしい」


 意味があるとは思わないが、悪態をつく。


 ただの嫌味だ。


 無言で刃を持ち上げる山伏。


 痺れが酷くなってくる。

 盃が手から落ち、音もなく二つに割れる。

 

 宝物が割れるのと同時に、自分の胸も傷つけられたような痛みを感じる。


 割れた盃から、眼が離せない。


 盃は、ただの器ではない。俺とサエを繋ぐ、唯一の形だった。


 サエ、すまない。


 「やり方は鬼よりも鬼らしいな」


 山伏を力の限り睨みつける。


 鬼に睨まれても全く動じない……覚悟が今までの者達とは違うらしいな。


 自分の正義を全く疑ってはいない。

 こちらの事など微塵も知りもしないくせに。


 すると突如、


 屋敷の奥に、わずかな光が差した。

 

 刀の光ではない。月明かりでもない。

 ただ静かに”場”をそっと撫でるような、優しい輝き。

 その光に、微笑みかけられた気がする。


 ……あたたかい。


 山伏が動揺する。


 「何をした!?」


 何もしてない。

 

 鬼が何でもできると思われているな。

 身体の痺れが酷くて息を吐くのも辛いこの状態でできることなどあるものか。

 奇妙な術など陰陽師やら狐やら狸の範疇だろう。


 慌てて山伏が太刀を振り下ろす。


 これは……まずいな。


 次の瞬間、屋敷の外では、夜明け前の空が音もなく白み始めていた。




*次話から異世界編が始まります。


3月1日 プロローグ、第1話

3月2日 第2話、第3話

3月3日 第4話


以降は火曜22時/金曜22時


の週2話ずつの投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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