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素敵な女性

 結局、檸檬の必死の説得もあり維澄さんはうちに泊まることになった。そして帰宅後、維澄さんがシャワーを浴びている間、檸檬から維澄さんへの想いを切り出してきた。


「翔はもう気付いてるよね」


「え?何が?」


「だから、私の維澄さんへの気持ちが恋愛感情で間違いないってこと」


「ああ、最近の檸檬を見てれば気付くって」


「フフ、そうか。はたから見てもそう見えるんだ」


 檸檬は嬉しそうにほほ笑みながらそう言った。


 前回、俺に自分が同性愛者である可能性をカミングアウトする時には苦悩の表情を見せていた。ただ今日の檸檬は全く違っていた。ただ好きな人ができて嬉しいという気持ちが表情に現れていた。


「お似合いだと思うよ」


「え?女性同士だよ?」


「うん。でもなんか俺にはそう見えた」


「嬉しいこと言うな、翔は」


 きっと檸檬は俺が気を使ってそんな聞き心地のいい言葉を使っていると思ったのだろう。でも案外これが本音だったのだ。檸檬は一般的な女子高生と比して頭一つ飛びぬけて美人であることは、今の北辰高校でもマドンナ的な存在であることをみれば明らかである。その檸檬にふさわしい男性という想像をめぐらした時、俺には全く想像することができなかった。ただあの維澄さんの姿を見た瞬間、檸檬にふさわしい相手と素直に思ってしまった。


 

「できた弟だろ?」


「知ってるよ。翔はいい男だよ。私の自慢の弟」


 いつもの檸檬ならこんな返事は間違っても返してこない。「調子に乗るな!」の一言でも返ってくるものと思っていたから思わず動揺してしまった。


「ど、どうしたんだよ、急に」


 それについては答えず檸檬は、優しい笑みを浮かべながら話題を変えた。


「未惟奈ちゃんとは上手くいってるの?」


「ああ、まあ……ボチボチかな」


「私ね。ちょっと心配してたんだ」


「え?何を?」


「だって翔、私のこと好きだったでしょ?」


「え!?」


 青天の霹靂とはまさにこのことだ。嘘だろ?まさか俺の気持ちがバレていたのか?


「気付いてないと思ってた?」


 俺はただただ絶句するしかなかった。


「アハハ、なにその顔。お姉さんを舐めてもらっては困るな。中学の終わりころかな……私のこと女性として意識したの」


「な、なんだよ。バレてたのか」


 俺は呻くようになんとかそれだけの言葉を漏らした。


「とうとう白状したか」


檸檬は揶揄うように言った。


「勘弁してくれ」


「アハハハ。だからさ、私のせいで翔が他の女の子に気持ちが向かわなくなったらどうしようと心配してたんだよ」


「もしかして、だから未惟奈との関係をさんざん煽ってたのか?」


「そう、だって翔は私の美貌を見て育ったわけじゃない?」


「なんだよその自慢話」


「違うわよ。だからきっとかなりの美人じゃなきゃダメなんだろうなって。その点、未惟奈ちゃんなら間違いないじゃない?」


「おいおい、俺が外見だけで女性を好きになってるみたいに言うなよ。俺はちゃんと内面を見て好きになるタイプだから」


 俺が外見にしか興味のない薄い男とか、失礼すぎるだろ?全く。


「じゃあ、翔は私の内面に惚れたってこと?」


 檸檬はまるで小悪魔のように魅惑的な笑みでそう言ったものだから俺は動揺して目をそらしてしまった。でも本心だけはしっかりと伝えた。


「そ、それはそうに決まってるだろ」


「またまた嬉しいこと言うねえ、あんたは。いまちょっとだけ未惟奈ちゃんに嫉妬しちゃったよ」


「ば、バカ言うな」


 なんだよ、さっきから檸檬の爆弾投下は!?


「でも最近でしょ」


「え?何が?」


「だから翔が自分で未惟奈ちゃんに魅かれていることに気付いたのがさ」


「なっ……」


 な、なんとそれにも気づいてたのか。俺は檸檬が俺の事をここまで理解してくれていて、自分のことのように心配してくれていたことに胸が熱くなった。俺の中で「姉」という存在の「やさしさ」が「恋愛感情」とは別に大きな存在としてあることにいまさら気付くことになった。


「姉ってすごいな」


 俺は正直に、自分でもかみしめるようにそう言った。


「安心したよ。翔が未惟奈ちゃんのこと好きになって」


 檸檬があまりに優しい姉の表情でいったものだから俺は不覚にも涙がこぼれそうになった。そしてこんな心配をしてくれていた檸檬はなんて素敵な女性だと改めて思った。


「私は維澄さんが好き。それはもう自分の中で否定できない事実になった」


 檸檬はあらたまって俺の方を向いてそう言った。


「ああ、分かってる」


「だからね、翔」


 俺はここで檸檬からバッサリと俺の恋愛感情に引導を渡されることを覚悟した。


 ただ檸檬の言葉は俺の予想とは違ったものだった。


「私は生涯、男性を好きになることは決してない」


「え?突然なに?」


「この意味わかる?」


「いや、ちょっと分からないけど」


「鈍いなあ、翔は」


「や、やめくれ、その言葉は俺の地雷ワードなんだから。いつも未惟奈に鈍いと叱られてる」


「まあ、仲の良いこと」


「からかうな」


「だからね……私にとって一番近いしい男性は生涯翔ってことよ」


 あ、そういうことか。俺と檸檬が姉弟という関係性は生涯継続されていく。将来檸檬が男性を愛することはきっとない。檸檬は近い将来維澄さんと恋人同士になる……その予想はたぶん当たる。



 俺の中で檸檬への気持ちが今、ようやくストンと腹の中に落ちた気がした。


「翔、大丈夫そうね」


「何が?」


「ずっと私への未練で悩んでたんでしょ?」


「え?それにも気づいてたの?」


「あたりまえでしょ?何年あんたと一緒に暮らしてると思ってるのよ」


 はは、かなわないな檸檬には。そこまで分かっていたとは。


「今の翔の顔を見れば未惟奈ちゃんはきっと安心すると思うよ」


「偉そうに」


「まあお姉さんだからね。かわいい弟には幸せになってほしいのよ」


 すると檸檬は急に俺に顔を近づけてきた。そしてなんと檸檬は俺のおでこに軽くキスをした。


「おい、いきなりなんだよ!」


「これが翔の初恋女性からの最後のプレゼント。さすがにファーストキスを私が奪っちゃ未惟奈ちゃんに悪いからおでこにしておいた」


「ど、どういうつもりだよ」


「よし!最終テスト合格かな。今ので動揺しないなら大丈夫だね」


 なんだと?俺の未練へのテストだったのか!?なんて姉だよ全く。


「うん。よかった」


 最後にそう言った檸檬の顔は、姉としての愛に満ちて、かつてないほど美しい姉の顔だった。世間的に見れば、俺の檸檬への気持ちは間違った恋心だったと思う。でも俺は檸檬という素敵な女性が初恋の女性だったことを心底嬉しいと感じた。


こんな素敵なお姉さんである檸檬のお話を読みたい人は前作

「檸檬色に染まる泉」をご覧ください


https://ncode.syosetu.com/n7349ey/

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