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普通男子と天才少女の物語  作者: 鈴懸 嶺
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超能力マニア

「おはようっす!神沼!」


「オッス、翔!」


 ここ最近、朝の登校途中から、こんな感じで俺に話しかけてくる男子生徒が急に増えた。教室にいても"おまえ誰?"という全く俺の記憶にない生徒や、あきらかに上級生と思われる生徒までぞろぞろと俺に近づいてきて声を掛けてくる。


 俺っていつからこんなに人気モノになったのだ?


 なんて俺が勘違いをする訳がない。


 あまりに普通すぎて風景に溶け込むことにかけては、"石化けの術か!!"と思わせる程の俺が、急にこんな目立ち始めるのは明らかにおかしい。


 もちろんその理由は、目立たない俺とは対極に位置する、校内で最も目立っている生徒の存在だ。


 その存在とは、転入以来未だに廊下を歩けば廊下がざわつき、そこにはすぐに人の輪が出来てしまう程のスター、ウィリス未惟奈に他ならない。


 だから、自力で未惟奈に近づくことをあきらめたプライドの低い男子生徒から順に"俺をダシに未惟奈とお近づきになる"という作戦に出ているということが想像できた。


 ウィリス未惟奈は、メディアに登場する時も決して愛想のいい方でない。そして困ったことにリアルの彼女はもっと輪を掛けて無愛想なのだ。


 だからせっかく勇気を出して声を掛けた男子に対しても清々しいまでの"塩対応"を繰り返しているらしい。


 そんな誰に対しても全く愛想のない未惟奈は、なぜか毎日俺と一緒に下校している。


まさか俺と未惟奈が付き合ってるなんて”誤解”をするヤツはいないようだが(いや、少しはしろよ?)もちろん放課後毎日、空手の練習を継続しているので未惟奈と俺は必然的に一緒に帰ることになる。


 そうなれば俺がどんなに目立たない男子であっても全校生徒から注目されて、"モテナイ男子にモテモテ"という嬉しくもなんともない状況になってしまっている訳だ。



                *    *    *



 放課後、いつものように俺が教室に残っていると廊下がザワザワと騒ぎ始めた。これも最近では見なれた光景になりつつある。通るだけで廊下がざわめく人間なんて一人しかいない。


 未惟奈が、二組の教室まで俺を迎えに来たのだ。


 まるで高貴な姫が"お通りになる"とばかりに、未惟奈が歩くと生徒が左右に”サッ”と分れて廊下を開ける。未惟奈は"それがあたりまえ"だとばかりに廊下の中央を堂々と歩いてくる。


 本人は決して悪気がある訳ではないのだろうが、当然こういった傲慢とも映る姿を快く思わない輩もいるのだろうと思う。もちろん女子ね。まあ、あれだけの強さをもってすれば返り討ちが恐ろしくていじめるヤツなんていないだろうが……


 未惟奈は最近ではなんの躊躇もなく、クラスが違う俺のいる教室に入ってきて、いつものセリフを言う。


「翔、もう帰れる?」


「あ、ああ……」


 未惟奈は毎回"こともなげ"にそう言ってくるが未だに俺はこのやり取りにすら慣れない。


 それはそうだろう。未惟奈は未だに世間での注目度は抜群で、つい先日の"東北の高校に転入"というニュースだって全国版のスポーツコーナーで報道されるありさまだ。


 そんな"超"のつく有名人が、毎日俺を教室まで迎えに来れば顔がニヤけてしまう。


 俺だって綺麗過ぎる女性に心が騒ぐ平均的高校生男子なのだ。好きな女性は他にいるけどね!!




 俺は未惟奈と一緒に教室を出ようとしたところで、ある男子生徒から声を掛けられた。


「神沼翔、ちょっといいか?」


 俺の名前は知っているようだが、無論俺は"この顔"を知らない。背は175cmある俺と変わらないが、少し線が細く色白なので運動経験がないように感じた。


 そして隣にいた未惟奈は露骨に嫌な顔をしたので俺はヒヤヒヤしてしまう。


 また、この男も当然"未惟奈"狙いなのだろうと思って、俺は俺で内心ウンザリしていた。


 それにしても未惟奈と一緒にいるタイミングを狙って話しかけて来るとはなかなかのしたたか者だ。


「えっと、誰だっけ?」


 俺はワザとらしく"初対面だよね?"ということを伝えるためにそう応えた。


「ああ、突然呼びとめて悪いな。俺は3組の美影惣一だ」


 予想外に丁寧に詫びてきた美影と名乗ったその男は、未惟奈狙いと思っていたが隣にいる未惟奈には全く視線を移さない。


 俺はそこに少し違和感を感じた。


「えっと、なにかな?」


「この前の体育館での対戦の件だが」


 そう美影言うと、少しだけ未惟奈が反応して視線を彼に移した。最近、生徒からは未惟奈との下校ばかりが注目され、すでに1ヵ月も前の”対戦”に触れる人間はようやくいなくなってきたいたので少し意外に思った。


「君は空手部と紹介されていたが、空手部に所属していないな?」


 な、なんだよ?未惟奈と同じ突っ込みするなよ?おまえも俺に会いたくて空手部見学に行ったとかいいだすなよ?


 俺は少し怪訝な顔を返すと美影は言を繋いだ。


「君は空手ではなく、中国武術を学んでいるんじゃないのか?」


「はあ?」


 俺は美影のあまりに斜め上から問いに、どんな表情をしていいか分らずフリーズしてしまった。


「違うのか?」


「いや、逆にどうしてそう思ったのか聞きたいくらいだよ」


「俺は実は超能力に興味があるんだが」


「ええ?」


 美影はさらに話をとんでもない方向から放ってきたので、今度はまるで顔を歪めきった失礼な顔をしてしまったに違いない。


 たまにいるんだよね。中国武術は超能力を使えると本気で信じてるオカルトマニアが。きっとこいつはそんな輩だろうと思った。


 それなら早々に話切り上げないと面倒なトンデモ話に付き合わされるはめになる。おそらく全くの武道、格闘技に関して素人の美影にしたら、未惟奈が突然転がった姿は俺が超能力でも使ったようにでも見えたんだろう。


「翔?いつまで相手してんの?」


 さっきから露骨に不機嫌な顔を顕わにしていた未惟奈もついに我慢できなくなったのか、目の前の男に全く遠慮することなく”早く話を切り上げろ”とばかりに言ってきた。


「美影、俺はそう言った話に全く興味はないし、あれは間違いなく空手の技だ。きっと君の期待するものではないと思う。だから、もういいかな?」


「そうかなのか?でも……」


 そう言って、美影は初めて未惟奈の顔に視線を移した。


「でも君は彼女の”圧”を感じて、反応してように見えたんだけど、俺の勘違いだったか?」


 俺と、そしておそらく未惟奈の顔色も同時に一変していたと思う。


 未惟奈の圧だと?


 つい先日、全ての攻撃をかわされて不貞腐れていた未惟奈に俺が言った話と同じだ。


 ”未惟奈は感情の圧が強すぎる”


 いやいや、こんなオカルトマニアの言うことはアテにならない。あの状況からそれ位の妄想をしても不思議ではない。


 深い意味はない。


 俺は直ぐに一旦動揺した心を沈めた。


 しかし未惟奈はそうはいかなかった。


「君、名前なんだっけ?」


「さっき名乗ったけど?」


 この男は全く未惟奈に気後れすることなくそう言い放った。


「ごめんなさい。聞きそびれたから」


「そうか。俺は美影惣一だ」


「美影君、君が言う”圧”ってなんのこと?」


「君は感情が攻撃に乗りすぎているから、”神沼翔の身体に”先に反応されてるんじゃないか?」


 俺は一旦おさえた動揺がまた盛り返してしまった。


 未惟奈の顔が驚愕の顔の表情に変わった。


「ちょ、ちょっと美影?おまえは武道の経験はあるのか?」


 俺は慌てて、話に割って入った。


「いや、全くないけど?」


「じゃあ、なんでそんな結論に至った?おまえはあそこで何を見たんだ?」


「だから、俺は超能力の研究をしている。だからそのトレーニングとして気功法の鍛錬を毎日やっている」


「き、気功法だって?」


「ああ、だから彼女の”圧”まあ俺らのなじみのある言葉を使うなら”陽気”を君は察知して動いていたように見えた。だから君のバックボーンは空手ではなくて気を操る中国武術と思ったまでだ」




 俺の中では、まだ美影の言うことは半信半疑だが……


 それでも俺と、そしておそらく未惟奈もこの”美影惣一”という男の言葉を無視することはできない気持ちになっていた。

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