↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
115/163

宣戦布告

 チャンプアは数名の「取り巻き」と共に、俺と未惟奈の控室に顔を出した。


 しかし、その最初に放った言葉が「伊波と俺の仲がどうとか……」って、対戦相手への最大の関心がそれでいいのか?


 そもそも高野CEOから聞いた話では、チャンプアは俺の話を伊波から「凄い空手家がいる」と聞いて興味を持ったと聞いている。


 ただその真意は「俺の空手の実力に興味があった」という殊勝な理由でなく単にお気に入りの伊波が褒める俺への対抗心から、というなんともやっすい理由に違いないと悟った。


 俺は「試合はしない」というポリシーを無理やり曲げてでも引き受けて、さらにはこの日のために春崎須美の尽力で多くの「レジェンド」のもとを訪ね、芹沢薫子には俺のために毎月盛岡まで来て大気拳の指導までしてもらった。さらにウィリス父にフィジカルを徹底的に鍛え直してもらった。むろん未惟奈にいたってはほぼ毎日俺のトレーニングに必ず付き合ってくれた。この試合のためにこれだけたくさんの仲間の「協力」があったのだ。


 それをなんだ?「伊波がどうとか」ふざけるな。


「翔?どうしたの?怖い顔して」


 俺は無意識に奥歯をギリリと噛みすぎて、どうやら顔が歪んでしまったようだ。未惟奈に指摘された俺は、柄にもなく感情的になってしまったことに自嘲した。


「えっと、どちらさまですか?」


 俺は初対面の相手にいきなりふざけた問いかけをしてきた失礼極まりない行為に、壮大な皮肉を込めてそう尋ねた。


 今回のチャンプアとの試合は俺が高校生ということあり、事前の「記者会見」とか、その他もろもろの取材とかは一切していないので実はチャンプアと会うのは今が初めてだ。だからと言ってヤツの顔を知らないなんてことはもちろんない。むしろよく知っている。俺はチャンプアの映像はそれこそ入手できるものはすべて見尽くしている訳だから、顔どころかヤツの知りうる限りの情報をもっているという意味で、今この会場でチャンプアのことを一番知っているのは俺かもしれない程だ。


「おい、お前対戦相手の顔すらしらないのか?この高校生大丈夫か?」


 チャンプアの圧倒的な存在感の前に、影が薄すぎていることすら忘れてしまうほどの取り巻きの一人がそんなことを言って絡んできた。


「はあ?そんな訳ないでしょ?翔はいきなり挨拶もなしに話しかけてた”そちらさん”に嫌味を言ったのに気づけない?」


 負けず嫌いで、俺が好きすぎる?!未惟奈は俺が返すよりはやくそんなカウンターをその影の薄い奴に返した。


「ちょっ、ちょっとあんたたち……」


 さいきなりの険悪ムードに春崎さんが動揺の表情。


「これも大会を盛り上げるtrashトークと言うことで。春﨑さんも格闘技ライターなんだから大会盛り上げるためのネタにしたらいいじゃないですか」


 俺はしれっとそんなことを言った。


「初対面相手に、最初の一言が女子高生との仲がぁーとか……恥ずかしい」


 未惟奈がさらにチャンプアに追撃する。


 ここまで未惟奈に言われてしまうと、俺のいら立ちは影を潜め、今度はどんな顔をしていいの分からず微妙な表情になってしまった。。


 そんな俺を横目で見ながら未惟奈は肘で俺をつついた。


 ”あんたもなんか言いなさいよ!”ってことなんだろうが、未惟奈さん?ここで同じように突っかてると相手と同レベルになるぞ?……と目で伝えたのだが、伝わったのか、伝わらないのか……フン!とばかりにそっぽを向いて黙ってしまったところを見ると伝わったんだな。さすが仲のいい以心伝心なバカップル。


「それは悪かったな。神沼翔君。知ってると思うが、俺はチャンプア・プラムックだ」


 チャンプアは今のやり取りにまったく悪びれる様子もなく淡々とそう返してきた。この程度で心乱されないのはさすがと言っていいのか?単に図々しいだけなのか?これだけではまったく分からん。


「はじめまして、ですね。神沼翔です。今日はよろしくお願いします。それと、伊波さんとはただの友達なのでご心配なく」


 俺は未惟奈が代わりに感情を吐き捨ててくれたおかげで、イラついた感情はすでになく俺は俺で「淡々と」とそう返した。ただ伊波のことはこれ以上話題にされるもの面倒だからはっきりと伝えた。そうだよ、俺には未惟奈というスーパー彼女がいるんだぞ?それくらいのリサーチしておけよ?対戦相手なんだから……まあ、それは対戦とは関係ない情報だけどね。


「あははは。悪いな余計なことを聞いてしまって。あまりに伊波が君のことをしつこく話すものだから君に特別な感情があるのかと思ってね」


 ん?ん?そうなの?伊波はそんなに俺のこと熱く君に語ったの?

 そう言われると悪い気はしないな~。

 ワンチャン、伊波は俺のこと好きとかあるのかな?


 その時俺がどんな顔をしたのか知らんが、鋭い未惟奈が俺のそんなよこしまな心に気づかないわけがなくその未惟奈の刺すような視線が怖すぎた。


 今回の大会のテーマは随分と使い古され過ぎていると思うのだが「空手vsムエタイ」だ。だから今、チャンプアの取り巻きにいる男たちも「ムエタイ側」の出場選手なのだろう。


 俺は美惟奈の父、エドワード・ウィリスから最先端のフィジカルトレーニングを受けたから、かつてとは比べものにならないくらいに体型は格闘家のそれに近付いた。しかしそうはいっても所詮半年だ。どんなにトレーニングしても筋量増加は数キロが限度と聞いた。それに比べ、ここにいるムエタイ戦士はきっと誰もが幼少期から過酷な肉体改造をしきたはずだ。付け焼き刃の俺とはやはりどこか「ゴツさ」が違う。


「ほんとこの高校生はチャンプアと戦って大丈夫なのか?」


 例によって俺の身体を舐めるように観察したチャンプアの「取り巻き」がそう言い放ったのは俺の身体を見ての感想なんだろう。それは、馬鹿にしていると言うより心底俺のことを心配しているようにも感じた。  


「じぁな、神沼翔」


 そう言ってチャンプアは早々に俺たちの控え室を去って行った。


「何しに来たんだ、あいつ?話しは結局伊波の事だけ?とんだけ伊波のこと好きなんだよ、あいつは」


 俺は苦笑いを浮かべつつそうは言ったものの、チャンプアがここに来た「別の理由」に気づいていた。


 ふと横を見ると、美惟奈は去っていくチャンプアに鋭い視線を送っていた。


 フフフ……この様子だと美惟奈もそれに気づいてたに違いない。


 なるほど、これがチャンプアなりの戦線布告と言うことか……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。