神獣の執刀医 Case2 消化器内科医トモマサ・ウジハラ「ヤマタノオロチに対する経食道内視鏡止血術」5
「……痛い。」
心肺蘇生時に肋骨は必ず折れる。
逆に言えば肋骨を折らなければ有効な心臓マッサージはできない。
理屈では分かっているがいざ自分がやられるとたまったものではない。
そしてこの自称他称天才少女は患者がROSC(心拍再開)したことに気がついていない様だ。
懸命に挟部圧迫を続ける少女の腕を掴んで止める。
「クローディア、ROSC(心拍再開)した。」
何が悲しくて自分の心臓が動き出したことを自分で報告しないといけないのか。
二度と勘弁してほしい。
「ウジハラぁ…………ごめん、ごめんなさい!! 私がモニターの異常にもっと注意していれば……」
「俺も気が付かなかったんだ。お前が気にすることじゃない。」
初期研修医のミスは監督者の責任だ。クローディアのミスは監督者たる俺の責任となる。
クローディアには初めから一切の非が無い。
それに今回はどう見ても機材の問題だ。
今後対策を取るためにもまずは原因の究明を……いや、クローディアがここにいるということはそれすら解決済みか。
「ところでCPR(心肺蘇生)したってことはお前まさか……」
「あ? バックバルブマスク(袋のついた人工呼吸用のマスク)使ったに決まってんだろ。」
「ですよねー。医者ですもんねー。」
一転してクローディアが泣き顔から冷めた表情になる。
そもそも消化液まみれのこの状況でロマンもクソもないか。
なんとなく惜しいことをした気分だが仕方ない。
「ひとまず急場は乗り切ったとはいえ、当分はこの狭い船内か。」
「その件でウジハラ、生き返ったばっかりのところ悪いんだけどさ。」
「なんだ?」
「この新型VCEってさ、一人用なの。しかも救出作業でずいぶん酸素使っちゃった。」
「狭いのも納得だ。」
「んでもう一つ言うと後続の酸素補給用のカプセルは救出作業に手間取っているうちに全部流れてっちゃった。あるいは破損した。」
「へー。」
「そんでね、幻獣の場合だと腸管の長さはおよそ人間の2000倍、人間ならだいたい12時間位で排泄されるところを2000倍とは言わないけど20倍位は時間がかかるわけ。240時間。」
「なんとなく読めてきたぞ、つまり?」
「生き返ったばっかりのところ本当に申し訳ないんだけど……12時間以内にこのクソ長い小腸駆け抜けて。任せたぞ消化器内科専門医」
「…………」
いや、あのさ。限界まで努力するとは決意したけどさ。
流石に生き返った直後くらいゆっくりさせてくれねーかな。
##################診療報酬点数表##################
K282 内視鏡的消化管止血術 4,600点×3
D310 小腸内視鏡検査
3. カプセル型内視鏡によるもの 1,700点
※第一層試験の為全額病院負担
超超大型幻獣加算(総重量1000000kg以上の生物に限る) 300000%加算
計 41,400,000 点
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1035 サク市近郊
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排泄物にまみれたカプセルから吐物まみれの俺たちを引きずり出したROAの職員は、表情も変えずに俺たちをシャワールームにぶち込んだ。
こう、「汚染物ありましたから消毒しましたよ? 当然でしょう?」みたいな感じだ。
さすが世界最高峰の医療機関。汚染物には容赦がない。
その後採血やら点滴やらCTやら、検査のフルコースに放り込まれて経過観察入院となった。
クローディアもだ。
「クロちゃあああああああああん!! 聞いたわよ!? あのウジハラとせまいカプセルで二人っきりだったって!? 大丈夫!? 変なことされてない!? アフターピル(経口避妊薬)いる!?」
産婦人科幻獣医ビショップ・ゲッティンゲンがクローディアに駆け寄る。
つかそれはセクハラだろ……。
「あはは、ウジハラにそんな甲斐性あるわけないじゃないですか。」
「それもそうね!!」
「VCEの操作に必死でそんな暇なかったっつーの。」
「じゃあ、暇だったら手を出してたってことですかぁ?」
「うわさいてー、もう一度死ぬ?」
もうヤダこいつら。
「まぁ、よく頑張ったよウジハラ、クローディア。あんな状況でよく帰ってきた。これの後始末したら差し入れに行くけど、リクエストは?」
「あーそうか入院か……」
入院っつーことは緊急呼び出しも無くゆっくりできるのか……それはヤバイな、何ヶ月ぶりだ……?
「……酒持ってきてくれない? 久々に飲みたい。」
スッパーン。 ビショップから無言で平手を頂く。だめですかそうですか。
Tips 消化器内科は最も緊急呼び出しの多い科の一つ。なかなかお酒を飲むこともできない




