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悪役令嬢はアクマでテンシだけどタイヨウにもなれる  作者: みやっこ
私が悪事を働くためには

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月明かり愛おしい夜に 過去回想

「絶対に隠密だからね。大声だしたり音たてたりしちゃだめだよ。誰か来たら私を置いて逃げてね。わかった?」


 私は、二人を連れて夜の森へと繰り出していた。

 連れて……と言いつつも、辺りの気配に気を配っているのはウラガで、暗すぎてこけそうになる私を支えるのはヘイツである。

  

 一緒に暮らすようになって一年過ぎた頃から気付いて……それ以前から薄々感じていたが認めたくなかった。


 私が、彼らを保護するつもりで、保護されているという事実に。


「リリ。風のあたる場所に立つな」


 イベントをこなせばこなすほど、あの力を使えば使うほど、私の体調は悪くなる一方だった。また推測でしかないが、リリファリアが病弱な理由はまさしくコレなのではないかと。

 幼少のころからこの力を持っていたのだとしたら。

 何かあってこの力を使うたび、熱を出して倒れ、だんだん体にガタが来ていたのではないかと……。


「リリ。こっち」


 ウラガが、私の前を歩き、風を遮ってくれる。

 ヘイツが、私の足元ばかり注視しながら歩いてくれる。


 たまに喧嘩するし、二人はあまり仲が良いとは言えないかもしれないけれど。


 私が駄目駄目なせいで、今や介護のプロになりつつあるよね。


 暮らしにくい空間を提供したことが功を奏した……なんて申し訳ない話だが、これ以外で彼らと仲良くなる方法はなかったのかもしれない。


 最初に大変な失敗をしでかした料理は、ウラガとヘイツが交代で行うようになり。

 たまに私がやろうとしたら、ウラガには、暇人の暇つぶしを取る気かと気を遣われ、ヘイツは、とくに楽しそうでもなんでもなく、ただ私にやらせたくないらしく淡々と作っていたので、邪魔できなかった。


 始めは仕方なく。次第に無理せず生活のリズムが合い始め。

 無言で過ごす時間が増えていった。


 気を抜いているときを共有する……とでもいうのだろうか。


 さすがにヘイツが私の寝ているベッドにもぐりこんできたときは驚いたが。

 怖い夢を見るのだと訴えられ、まだ子供だし渋々許可した。


 すると、ウラガまでくるようになった。

 どうしたのかと聞くと、背中を向けたまま、たまには空気のいいところで寝たい、と言われ納得した。


 とはいえ最初は、二人も私も、まったく眠れてなかった。

 あくびをしながら朝ごはんを食べていたから、たぶん。

 

 ほどなくぐっすり眠れるようになったのだけれど。

 それはもうぐっすりと。異世界で目を開けてからここまでぐっすり眠ったことはないってほどに。

 

 真夜中。ふと目が覚めても時計の音が聞こえない。

 布団から出たくて、けれど出られない。金縛りにあったように動けない冷えた体で、朝を待つことはない。

 悲しくないのに涙が出ることもない。

 明日が来なければいいのにと思うこともない。


 その事実に気付いたとき、私は心底この物語の結末が恐ろしくなった。前から怖かったけれど、更に怖くなった。怖くて怖くて、それなのに、歯を食いしばれば体に力が入る。


 前よりも。前の前よりも。前の前の前よりも。


 私はもう何度か物語の結末を見ていた。

 先代王を殺さない結末。殺す結末。両方見た。そしてどちらも自分が死ぬことはないのだと知った。

 

 でも……どちらも駄目だった。


 何をどうしても、死ぬよりも恐ろしいことが起こるのを知ってしまった。


 だから。

 

 私は、モフモフマリモの願い通り、悪役をまっとうすることに決めた。一発でがっつり決めたわけじゃない。徐々にじんわり、少しづつ、そうなっていった。


 夜のピクニックは最期の思い出作り……みたいなものだ。


 これまでも何度か、十分程度外に出ることはあったが、今日だけは、外で楽しみたいときっちり計画した。

 念のためと、フスタフが影から見守ってくれているから安心だ。


「リリ。ここで食べようか」


 ヘイツが敷物を広げ、ウラガが持っていたサンドイッチを各自の前に置いた。

 私はあめ色のカップをヘイツの前に、深緑色のはウラガの前に、薄紫色のを自分の傍に置いて、それからもう一つ灰色のカップにポットのお茶を注ぎ、サンドイッチと一緒にフスタフの使妖精に渡した。


「これ。フスタフに渡して」


 首を振る使妖精。

 私も首を振る。


「渡してください」


「いえ結構です」


「お願いします」


「いえ」


「頼みます」


 数回しつこくしたら、使妖精はため息をつき、サンドイッチとお茶を受け取ってどこかへ消えた。


 近頃この方法で使妖精にいろいろやって貰っている。

 人じゃないと知っているからか、我が儘を言えて助かる。

 

「じゃあ食べようか。頂きます」


「いただきます」「いただきます」


 いつからか手を合わせる日本式が定着した。前世でそんなことしていなかったのに、日本文化がないここでやるとは。


 不思議。


 私はフっと幸せな吐息を漏らして一口……。


 小さく齧ったサンドイッチを置いた。


 食欲がない。

 力の使いすぎで、始終体調が悪くて、元気なフリが出来ない。


 気分を変えればいけるかと思ったが、全然だめで。


「…………」「…………」


 二人も、同じようにサンドイッチを置いた。


「気にせず食べて。せっかくつく……ったのは二人だけども。私は少しづつ食べるから。お腹はすいてるんだけどね。本当に。なんだろ。月が綺麗だからかな」


 見上げた先は曇り空だった。

 雲に隠れているのに、真っ暗ではない。今日は満月なのかもしれない。


「こんなの食べなくていい。まずいし」「外で食事とか衛生上よくないだろ。虫にでもやればいい」


 私の嘘に嘘で答える二人の方が、病気みたいな顔色をしている。


 鏡で自分の姿を見るよりも、二人を見ている方が自分の状態を理解出来るなんて。


「これおいしいよ。誰にもあげたくないよ」


 私たちは、仲良くなりすぎてしまった。気持ちを共有しすぎてしまった。


 これを失くしたくない。


 二人と過ごした日々を消したくない。


 例え、この先何が起ころうとも。


 この空気をなかったことになんてしたくない。


 愛おしい今日の夜を消さないために。


 私は悪役令嬢になるのだと。

 いずれ雲から逃れるであろう二つの月に改めて誓った。

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