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悪役令嬢はアクマでテンシだけどタイヨウにもなれる  作者: みやっこ
私が悪事を働くためには

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回想その17

 体はそこそこ治ったが、私はまだベッドでゴロゴロタイムを続行中だった。


 イベント一つ目はバレバレのようだが一応成功した。

 二つ目は大成功なのだろうけれども、こっちの気持ちが盛大にへこんだ。


 残りのイベント……特に最後の大イベントをどうこなすべきか。




 ハムスターがバビョーンと元気よく現れ、格好良くウォーキングし始めた。真っ黒な空間の中、前に向かって歩きながら短い手を振り下ろす、と上から滝のごとく文字が流れ落ちてきた。


『最後の大イベントについて僕が知っていること』


 テクノポップな曲が流れる中、ハムスターの手の動きに合わせて現れる文字。


『リリファリアは、エイラスを苦しみから救うためには、直接先代王の話を聞くのがいいと思い手配したが、体調が悪いから、自分の代わりに行って欲しいとイファンに頼む』


『手配とは』


 ハムスターが華麗に回転した。


『第二妃と第三妃に、妖魔を使って息子の幻影を見せ、二人を蘇らせる代わりに、先代王とイファンを会わせるようにと取引をもちかけることだ』


 ステップを踏み、文字を生み出しながら歩き続けるハムスターの姿は、さながらミュージックビデオだ。カッコイイかどうかはフォルムがアレなのでなんとも言えないが。


『イファンは、妃の計らいで使妖精に扮し、先代王に薬を運ぶ。そこで、罰せられる覚悟で正体を明かし、先代王の気持ちを聞き出そうとするが、薬を飲んだ先代王が急に吐血してしまう』


 ここからがサビなのであろう。ハムスターがピタっと立ち止まり、天を仰いだ。降り注ぐ文字たちは、もはやハムスターの指示なし……いや、ハムスターは動かずとも文字を操っている。つい完璧に文字たちを支配したのだ。

 

『イファンが運んだ薬には、リリファリアの企みによって、かつてエイラスが先代王に盛り続けた毒が致死量入っていた。

 すぐさま助けを呼びに行こうとするイファンだったが、扉が固く閉ざされて出られず、三階の窓からカーテンを使って降りようとする』


 三階の窓という文字がハムスターの頭を掠めて毛を刈り取っていった。


『途中カーテンがちぎれ、大けがを負いつつも、エイラスを呼ぶイファン』


 てっぺん禿げハムスター。


『先代王は、死の間際にようやく、エイラスに本音を話す。


「私は家族を愛している、この国を愛している、そして……人を愛している。今ならそれがわかる。それを思い出せる。エイラス、ありがとう。私は自分を御することも出来ない、最悪の王だった。エイラス、本当にすまなかった。私は子に甘えるばかりの、不甲斐ない父だった」


 エイラスの深い闇に、わずかとはいえ光を与え、先代王は息を引き取った』


 飛び交う文字から逃げまどうハムスター。


『先代王は、自分がどんな死に方をしても病とするよう各所に命じていた。そのため、最後の薬……毒を運んだイファンが罰せられることはなかった。


 エイラスとイファン。二人は、王を死なせてしまったという罪を分け合い。

 直後、完全体になれず半端な形で現れた妖魔王を、熱い愛の歌と踊りによって、燃やし尽くす』


 目に頼るんじゃない。感じるのよ。と、ハムスターが目を閉じて文字を避け始めた。


『そしてその一か月後。

 リリファリア断罪イベントが行なわれる』


 トドメの一撃。あえなく断罪という文字に弾き飛ばされたハムスターが、床に倒れ伏した。




「ああっ!」

 

 つい声が出た。

 決してハムスターが倒れたからではない。


 断罪イベントでリリファリアの罪状に、先代王殺害の罪ってのがあったことを……覚えていたけれど、それが先代王の遺志に背くことだと、今更気付いてしまったからだ。


 この罪状がなければ、死刑にまでならないかもしれない。

 一か月の間に、何かあった?

 誰かが裏切った? 


 主役のイファン、恋仲になる妖精一族は、最終的にリリファリアが犯人だと気付いているが、先代王の遺志に背くことはしないだろう。

 先代王の妃たちは怪しいが、そそのかされたとは言え彼女らも先代王殺害に加担し、そもそもが互いの息子……王子を殺している。妖精一族が身内の罪を明るみにするか定かでないにしろ、糾弾出来る立場なのだろうか。


 考えれば考えるほどわからないぞ。わからないのかわかれないのかすらわからない。


「う~~……ん……んんん」


 この空白の一か月の間に起こる何かをくい止める。

 もしくは、先代王を殺さずに済む方法を探すことが、リリファリア生存ルートへの道につながるのではないだろうか。


 イファンとエイラスがリリファリアのことを気にせずひっつけるかどうかってのが、罪の度合いと比例するとしても、イファンにチンピラをけしかけたことがバレるだけで十分だと思う。


「う~~ん」


 うんうん頭を悩ませていると、気配がした。


 モフモフマリモがベッドの上からこっちを見ている。

 一体何しにきたのだろうか。呼んでも来ないことの方が多いのに。


 モフモフマリモは両手を前に突きだして、パントマイムをし始めた。

 

「何? 釣り?」


 首を振るマリモ。


「あっわかった。運転? バイク? ゲーム?」


 パチンパチン指を鳴らすマリモ。たぶん、おしいらしい。


「え。なんだろ」


 マリモが両手を組んで、キラキラした目をした。


「神様っ神様降臨したっ」


 マリモがダンダン足を踏み鳴らして首を振った。


 そんなやりとりが割と長めに続いた後。


「ああわかった。乙女ゲームね。ってことは『ヨウヨル』?」


 モフモフマリモがげっそりした顔で頷いた。


 こういう役割は今までずっとハムスターが担っていたはずなのに、なぜ急にマリモが。


「で……それがなに?」


 『ヨウヨル』

 がどうしたんだろ。私、いっつも『ヨウヨル』のこと考えてるし今だって、先代王を殺さなきゃならないのかってので悩んで……。


「ああ!!」


 盲点だった。完璧に盲点。


 私はあのゲームをプレイしている。だからいろいろ知っている。情報だけじゃなくて様々に分岐した道の先も知っている。


「そっか……そうだ」


 先代王に毒を飲ませない選択肢ありました。

 そして、その選択肢を選ぶとエイラスが妖魔王になってしまうバッドエンドを迎えるっていうのも……知ってます。


 他のキャラクターでも、先代王に毒を飲ませるイベントは必須だった。

 攻略サイトで、この選択肢バッドエンド確定と赤文字で書かれていた。


「そのイベントだけは回避するなって言いたいの? それを言うために出て来たの?」


 モフモフマリモが頷いた。


「絶対に?」


 また頷いた。


「どうして?」


 モフモフマリモは頑固に頷くしかしない。しつこくしつこく聞き続けたが、しつこくしつこく頷かれた。怖いくらい頷かれた。


 私は、頭を抱えた。


 目先のことやら、周りのことやらでいっぱいいっぱいで、人を殺すという……現実味のない……けれど言葉にすると生々しいものがあることを、忘れていた。


 いや。忘れたふりをしていたのかもしれない。


 私はこの物語の主人公ではない。プレイヤーでもない。

 リセットボタンは、イファンのためだけに存在している。

 こんなのわかっていても受け止めようがない。だって私の人生の主人公は永遠に私でしかない。どこへ行っても、どんな立場になっても、私視点で私の考えしかないってのに。


「おおうぅふ……」


 人生ってなんでこうなんだろう。

 なんで自分の意志に関係なく進んじゃうんだろう。こっちの気持ち関係なしにどんどんどんどんどん……。


「リリ? また具合悪いの?」


「どんっ!?」


 現実に意識を戻すと、いつの間にやらミーキアとエーゼンが心配そうに私を覗き込んでいた。


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