回想その9
華やかなパーティ会場に、私を中心としたドーナツ化現象が起きている。私……このままでいいのだろうか。
ハムスターがはむはむチョコレートがかかったドーナツを食べながら、首を横に振った。
『今日行われるパーティは、新しく青い屋根の家に入居した霊爵令嬢と婚期を迎えた妖精一族との婚活パーティのようなものである。
とはいえ、後々番号書いた紙を回収したりしない。選ぶ権利は、ほぼ妖精一族側にしかない。
霊爵令嬢たちが気合の入ったドレスを着ているのは、出来るだけ多くの選択肢……多くの人に選ばれるためなのだ』
ハムスターがドーナツを齧りながらクルっと一回転して、十二単姿に変身した。
『もちろん。誰かの大切な人、炎妃になりたいと、みな心の奥底で望んではいる。しかし一番接点の多い霊爵令嬢が炎妃になったという例は少なく。一説によると、妖精一族にとって霊爵令嬢が、器として映ってしまうことが多いからではないかとのことだ。
どうせ二番になるのなら、愛されないのであれば、よりよい物件を手に入れたいのが世の常ならん。
さて。問題です。
よりよい物件とはなんぞ』
チョコレートで十二単を汚しながら、きどった歩き方で問うてくるハムスター。
かねっ! じゃファンタジー感ないか……地位とか名誉ある人?
ハムスターは、チョコレートドーナツを一口二口三口四口齧り、首を横にふった。
『王族は別物として、それ以外の妖精一族に明確に地位というものは存在しない。評価を形にすることもない。
よって。答えはお金持ちです』
ハムスターが、小さな手でお金ポーズをした。
可愛さとゲスさが半々なところに、十二単とドーナツで、いろいろ乗っけすぎて失敗したマスコットキャラクター感がすごい。
『おほめに預かり光栄です』
ハムスターは、二つめのもっちもち系ドーナツを片手に、ホワイトボードを引っ張って来た。
『各国から入ってくる妖精一族敬金は各家に均等に割り振られている。
これは敬うという字がついているものの、妖魔・妖精に関する予算から出している国が多く。近年、その年の妖魔・妖精に関する事案の出来高にしろと言ってくる国があったりと、金を払うから、妖精・妖魔をなんとかしてくれよというものになりつつある。
安定しているようで不安定なものだ。
こんなものじゃセリエンディは回らないし、妖精一族も良い暮らしは出来ない。
彼らの主な収入源は、踊り歌う際に着る服のスポンサー料や、各国から妖精関連の祭事に呼ばれたりという、地方営業的なもの。
つまり。上乗せされるお金のほぼすべてが、妖精の力の大きさと、人気に左右されるのである。
地位がなくとも格差はあるというわけ』
そっか。どうせなら贅沢に暮らしたいってことね。うんうん。わかるよ。だって妖精一族は他に好きな人を作るわけでしょ? だったら金ってなるわな。
『リリファリアはすでに、妖精の器事情によってエイラスの婚約者候補第一位と言われているため、寄ってくる男性が居ないのは問題ない。モテなくてもまったく問題ないけど、今の状況は問題ありだよ』
モテる以前の問題とな。
お揃いのコスプレをした私とエーゼンの傍には、男性どころか女性も居ない。
遠巻きに見られているのが、目を閉じたとてわかるほど、みなさまの視線が痛い。
ここだけぽっかりと人が居ない状態だ。
「リリ。胸何入れたの? それ妹用だったでしょ。やっぱサイズ微妙よ」
ミーキアが平然とこっちへ来たときは、思わず視線でやめておけと合図した。
がしかし、意に介さず、普通に話しかけてきた。
「ハンカチ。この間買ったやつですわ」
「いつ何時必要かわからないからって買ったやつ。一応役に立ったわね」
今日のミーキアは全身黒い革のベアトップワンピースだ。
上半身はピッタリボディに沿った作りだが、スカートは皮のフリルが段々になって広がっている。
いつもの毛皮の帽子とマスクはかぶっておらず、マスカレード的な鳥の羽で出来た仮面をつけ。黒いわに革のものすごく踵が高いブーツを履いている。
結い上げた黄緑色の髪が動くたびにファッサーと揺れる、その姿はまるで。
「女王様……」
「えっ?」
「あっいやなんでもないですわ……にしても」
みんなそれぞれいろいろな服を着ている。いろいろっていうのは、ミーキアの女王様姿が違和感ない程、様々なジャンルの服が揃いも揃っているということだ。
街に出た時もすごい服装の人が居たけれど、ここに居る人たちは、お金の掛かり方が全然違う。
全然……。
「なんであれが良くて私のが駄目?」
白い包帯を幾重にも重ねたミイラ男のようなドレスの女子が目の端を横切った。
「男受けするかしないかってとこでしょ」
ミーキアはそっけなくそう言って、声を掛けて来たわりに、あっさりどこかへ行ってしまった。
昨日の今日だから、まだ怒ってる?
でも寄って来てくれたし、そうでもないのかな。
「男受け……」
どれが男受けして、どれが受けないのかがわからない。なにせ共通点が一つもない。露出が多い人もいる。ヒラヒラしてる人もいる。お上品な普通のドレスを着ている人もいる。
サーカス団員みたいな人も……。
「お嬢様」
突然目の前に赤ワインを差し出されてぎょっとした。
つわものが声かけてきよったーと思って見たら、男性は男性でも使用人だった。
「あ……はいえっと」
目と鼻と口があるだけの、すぐに忘れてしまいそうな顔立ちをした使用人が、ワインを差し出したまま、瞬き一つせず私を凝視している。
ここの使用人たちはものすごい研修か修行でもしているのか、何が起きても動じず、目も虚ろで少し怖い。
『怖くない怖くないーー』
ハムスターのプチヨウヨル講座がまた唐突に開校した。頻度高。
『彼はノット使用人、イエス使妖精である。
使妖精は、姿を現して人のように振る舞えるが、妖精一族が妖精を集めて役割を与えただけなので、意志をもって行動したりはしない。
他の使妖精との間にネットワークを持ち、学習能力もあるため、命令通りにしか動かないわけでもない。
普段接している青い屋根の家に居る女性の使用人も、医務室にファイルを取りに来た人も、王様の横に居た側近も、城で働いてるすべての人が使妖精だとお気づきだっただろうか。
セリエンディでは、人間が住み込みで働くことは出来ない。がしかしここに住んでいる妖精一族は、己の力を発揮する以外の仕事……本来自由を好む性質もあってか、基本雑用のようなことはしない。
妖精王は絶対的な力を持ち、王族も同様に強い力を持つが、他の妖精一族たちに自分たちは王の忠実な臣下であるなどという認識はない。
己の持つ妖精の血が王の力を認め、その身を任せたいと感じた瞬間のみ、王は絶対的な存在となる。
妖精一族の歌と踊りに妖精たちがその身を任せるのと同じように。
それ以外は、己の力に誇りを持って動くのみ。
とかいいつつぅ各家の代表が集まって会議したりするしぃ、多数決で何かを決めることもあるしぃ、他国が絡んだらそこの法もないがしろには出来なかったりぃ。
人間よりな考えもあったりなかったりぃ?
ん……? ……つまりつまり使妖精は高性能お手伝いロボット的な……。
コレ何の話だっけ……』
ハムスターは首を傾げたまましばらく黙り込み、ブーンとやってきた床そうじする丸いロボットに乗って、スイスイ運ばれ消えていった。
「話が逸れたからって逃げ……。えっとワインは後で使……飲むのでそこにいくつか置いておいてくださいな」
私は、使用人もとい使妖精に頼んで近くの机にワインが入ったグラスを数個置いてもらった。
慣れればハムスターの説明を聞きながら行動したりってのも出来るのかな。でも私車の運転しながら人と会話とか出来ないん…………。
いかん。集中だ。集中せねば。
とにかく今は、イファンとエイラスを探すことだ。
真ん中の方へ来てみたが、結構広くて、ぐるっと見渡した程度では見つけられそうもない。
名前を呼ぶわけにはいかないし。誰かに聞こうにも、歩けば人が避け……そうか、お掃除ロボットだ。
この状態でホール内をグルグル回れば、きっとイファンは避けないだろうから、ふるいにかけたように邪魔者だけが居なくなる。
「あの……ああああの……リリファリア様」
袖をクイっとひかれた。振り返ると、私と揃いのコスプレをしたエーゼンが怯えた目で私を見上げていた。
「ちっ違うのよ。そんな迷惑なこと本当にやろうとか思ってなくて……」
「…………」
口を閉ざして俯くエーゼン。
私がわけのわからないことを言ったせいではない。きっとない。
エーゼンはこの会場へ入ってからというもの、何度話しかけても答えてくれず俯きっぱなしでいる。そりゃもう恥ずかしいからだろうけれど、そのうちやけくそ……じゃなくて慣れるかなと思いそっとしていた。
もしかしてもう恥ずかしレベルが限界かな。
「あのエーゼン様。体調がすぐれないなら一度医務室へ……」
私は、エーゼンの顔色を確かめようと腰を屈めた。
「……」
長い前髪のせいで見えない。
覗き込もうと暖簾のように前髪をかき分けて体を捻り、膝をついた。
「あらっエーゼン様ごきげんよう」
ん?
暖簾から顔を出したら。
着飾った女子三人がヒールの音をさせながら近づいてくるのが見えた。
金髪、赤毛、緑髪。
なんだか見覚えある三人だ。リリファリアの取り巻きになる予定だった子たちかも。
「エーゼン様のお友達ですかっうお」
再び暖簾に顔を突っ込んで声を掛けようとしたら、エーゼンが、ヘッドバンキングの要領で長い髪を床に落とし、俯き加減マックスになった。
何がどうしたっ!?
私は、驚きながらも彼女の髪を拾い上げようと……サラサラすぎて掴めない。
「あらっエーゼン様のそのお衣装」
わたわたしている間に女子三人が傍まで来てしまったようだ。斜め上らへんから声がした。
しかしエーゼンは全然顔を上げようとしない。それどころか、更に床に着く髪の量が増え始めた。
まだ俯く気っ?
「エーゼンっ?」
小声で呼びながらツルツルの美髪に苦戦していたら。
「っふふっふふくっくっ」
女子三人の嫌な感じの含み笑いが聞こえた。
「どこで調達いたしましたの? とってもお似合いですわ」
ん?
「それってあれですわよねぇ。セリなんとか……なんでしたっけ?」
「ふふっ本当に着てくるとかありえないですわよねぇ」
あれ? 馬鹿にされてる? みんな遠巻きなのに直で言いに来た?
私は、腰を上げ―ー
「っ……」
せっかく束ねたエーゼンの髪が床に落ちかけたので、再びしゃがんだ。
「駄目よそんなこといっちゃ。きっと目立ちたかったんですわよ。ねぇエーゼン様」
なんだろう。さっきから、結構わたわたしているのに、三人とも全然私に気付かない。
たまたま目に入った衣装を馬鹿にしに来たのではなく、エーゼンを馬鹿にしに来た……ように見える。
まさか。いじめとかじゃないよね。
「っでも……でもエイン様……が……今日は仮装パーティだとおっしゃられて……オルレシアン様もそうだと」
エーゼンが、床を見つめたまま涙声でそう言った。
最後の方は聞き取れないほど小さな声だったが。
仮装パーティという部分はバッチリ聞き取れた。
「なんのことですの? わたくしそんなこといいましたかしら?」
「言っておりませんわよ。エーゼン様はほらっ本が異常にお好きだから、異常なご趣味で着てこられたのでしょう?」
「人のせいにするなんて、卑しいですわよねぇエイン様」
いやそれ私のせいーー!
私が、我が身を犠牲に彼女らの嫌がらせに加担したせいーー!
「本っは……その……好きですが。今日のこととは関係なくっ……私っ異常ではありませんっ」
エーゼンが顔を上げて、必死に言いかえした。
それが気に食わなかったのか。
「えっ?なんですって?」
「お声が小さくて聞こえませんわ」
金髪の子が、耳を傾ける動作でエーゼンに近寄りがてら。
「きゃっ」
わざとらしく躓き、テーブルにあったグラスを倒した。
カチャンっと小さな音がして。
赤い液体がエーゼンの服と…………しゃがんでいた私の頭にかかった。
冷たい。ワインの香り。冷たい。背中とか冷たい。
「リリファリア様っ」
エーゼンが、悲鳴のような声で私を呼んだ。
ので
「はい」
私は、ゆらり音もなく立ち上がった。
もうなんというか、己の馬鹿さ加減に脱力状態で、すばやく動けなかった。
「…………え」
女子三人が、死角からぬるっと現れた私を見て、まるで示し合わせたかのようにゆっくり口を開け、固まった。
「ごきげんよう」
私は、ワインの滴る前髪を片手で払って軽く会釈した。
「えっ? あっ……なぜ……同じ」
ようやく私とエーゼンが同じ恰好をしていることに気付いたらしい。三人とも表情をひきつらせた。
うん。怖がられてる。いつもの倍怖がられてる。
やはり幽霊部屋ナンバーワンの称号は伊達じゃないぜ。
「氷の幽霊女っ」
一人がポロっと漏らした新たな称号は、そこそこ私の痛いところをついているが、まあいい。それより何より。
なんと私。
今このタイミングでイファンを発見してしまったのですが……どうしよう。
イファンは心配そうに。いや、拳を握りしめてこっちを伺っている。何かあれば飛び込んで来るに違いない完璧な臨戦態勢だ。
他にも、こっちを見ている人が大勢いる。
これはいかんぞ。一刻も早く治めなければ、これからやることに差し支える。ハムスターと相談してる暇はないけど、手持ちのカードでなんとか……なんとかだっ。
私は、とにもかくにも何か言うしかなくて。
「あなたたち知りませんの? これ双子コーデって言いますのよ」
なぜこんな単語が出たのかといいますと。
ついさっきエーゼンと待ち合わせたときに。
女子高生がお揃いの恰好で遊んでいるのとか可愛くていいなと羨ましく思った頃にはもう二十歳を過ぎてて出来なかったなぁ。
などと考えたせいだろう。
「ふっ双子コ……?」
女子三人が眉間に皺をよせた。さっきからシンクロしたように同じ表情で、ちょっと面白い。
私は、ふんぞり返ってフンっと腰に手を当てた。
「仲の良い友達とお揃いの恰好をするんですの。楽しくて可愛らしいでしょう?」
ミーキアのことも発見した。口元が笑っているように見える。この状況見て笑うって……いや笑うか。
「で……でもなぜ双……子コーデですの? ここがどういう場かわかってらっしゃいますの? しかもコスプレ……」
金髪の子が、しどろもどろ言いかえしてきた。さっきまでの勢いがないのは、言葉が通じそうにないやべえ奴を前にしているからだろう。
うん。わかる。わけわかんないのわかる。
私は内心彼女に同意しつつ。
「これは主張ですわ」
反論した。
「……え?」
「あなたがたは、男性に好かれる、愛されたい恰好で来てる」
あそこで楽しそうにしているミーキア曰くね。
「わたくしたちは、愛されたいんではなく、愛したいんですの。だから好かれる恰好をあえて避け、好きな恰好で来たんですの」
私は、ニっと笑った。
なぜか、いつも自由に動かない表情筋が勝手に動いた。
「あ……愛され……っ」
女子三人が、一歩二歩後退した。
周りの見物人も、あきらかにひいている。一人一人みなくても、空気でわかる。
さっきまでたくさんの声がしていたのに、今は使妖精が動き回る音しかしない。
さ……て。
この後どうしよう。
私はワインにかかりたかったんじゃない。かけたかったのだ。
イファンにかけるつもりで、この場に来ていたのだ。イロイロ考えに考え抜いて、エーゼンに借りた悪女ものをパラパラ読んだりもして、まわりまわってなんの捻りもない作戦をたてていたのだ。
それがもう失敗だったのかね。ハムスターよ。
『その恰好で来たことが失敗なのだ』
正論!
頭の中で突っ込みを入れたら、モフモフマリモが現れ、三人娘の頭上にスタンバった。
「う……」
急に冷や汗が出てきた。
私、戻りたくない。絶対戻りたくない。
ジトっと女子三人の方を見たら。
「エ……エーゼン様っなんてことっ! リリファリア様にワインをかけたりなんかしてっ」
金髪の子が、急に声を荒げてエーゼンを指さした。
「わたくしも見てましたわっ」
あとの二人も、すぐに便乗して、チームワークよろしく騒ぎはじめた。
見物人たちが、え? そうなの? という顔でエーゼンに注目したが、当の本人は私の頭にかかったワインを拭くことに必死すぎて気付いていない。
実はさっきの謎発言しているときから甲斐甲斐しく私の頭や顔を拭いてくれていたので、ありがたいけどちょっとしゃべりにくかった。
「あの……急に何言って……」
「いくらリリファリア様に意地悪されたからってワインをかけるなんてよくないですわよっ!」
「そうですわ!」
話についていけない。
『やったのはあなたたちでしょう! って言い返す?』
いや駄目だよそれは、喧嘩が続いちゃうよ。今はほんと、それどころじゃなくて。イファンのドレスイベントを起こしたいんだし。
でもエーゼンが疑われるのは困……っていうか目撃者居るよね絶対。
『探す?』
周りに声かけたら余計騒ぎが大きくならないかな。
「やったのはあなたたちでしょうっ!」
ハムスターとうだうだ会話してたら。
満を持してのヒロインが登板した。
イファンが……イファンが彼女らの後ろからズンズン歩いてきて、腕まくりした。まさかの暴力? 優しくて明るいヒロインがまさかの?
ついでに。
いやついでじゃない。イベントのメインであるエイラスが大階段から降りてきて……バッドタイミング登場した。
これは危機? それとも好機?
答えを出す時間がない。でも戻るのは嫌だ。絶対嫌だ。だったら何が何でもイベントを起こすしかない。今やるしかない。
『やるって何を?』
私は、テーブルに置いていたもう一つのワイングラスを掴みとり。
「これよっ!」
おもいっきりイファン方面めがけ。
投液した。
透明な赤い液体が、宙を舞う。みんなの口がポカンと開くのが、まるでスローモーションのように見えた。
戻りたくない。
もう一度あの少年と会ったら……会ってしまったら……私は……。
「ひっ」「きゃぁあ」
いくつか悲鳴が聞こえた。たぶんイファンの声はしなかった。
恐る恐る前方を見る……と。
見事。女子三人とイファンのドレスに赤い染みが出来ていた。
成功だ……成功……。
みな呆然としている。
周りの方々も呆然としている。
私も……同じく。
「…………」
使妖精たちが、タオルを持って集まって来たが、誰一人としてそれを手に取ることはなく。
ホール全体にどよめきが広がりだす。
私は、無理矢理背筋を伸ばし、胸を張った。
みんながこっちを見ている。訝し気に。眉間に皺をよせ。私を見ている。
みんな……みんな。たくさんの人が居るけれど、手を差し伸べてくれる人なんて居ない。
私はもうあるとは思わない。居るとも思わない。
ドアを開けた先に期待なんてしない。
自分でなんとかしなきゃ。なんとか……出来るって……私だけでも信じる……しか……ない。
「っ……」
反発するように人混みを睨んだら。
ふと……こちらを見つめる穏やかな瞳と目が合った。




