テツオの武器
テツオの獲物の意外な秘密が明らかに。
マジュラは脳しんとうを起こして倒れている。あれだけ苦戦したのに、あっけない結末だ。そして自分自身に疑問を持った。なぜ当たったんだ?
マミヤは地に墜ちたオーパーツを拾った。
「テツ! グッジョブ!」
と叫んで抱きついてきた。
「やるじゃねえか。仕留めたのはお前だぞ、小僧!」
ウラヌスも足の痛みに汗をかきながら言ってくれた。
マミヤはマジュラのアキレス腱を切った。その激痛でマジュラの意識が戻る。悶絶の悲鳴を上げる。
「ちょっ、ちょっと待て。今の石は何だ! カミキリで防ぎ尚且つ避けたのに、何故当たるんじゃ!」
痛みに顔を歪めながら叫ぶ。
「その石を、ちょっと、ちょっと貸せ」
マジュラは訴えた。マミヤはマジュラの首筋に剣先をぴたりと当て警戒する。
「安心しろ。カミキリを失ったワシは無力だ。手にしている刀も飾りじゃよ。それよりその小僧の石を見せてくれ」
マミヤは警戒を止めない。カミキリ、あの宙を舞うブローチのようなオーパーツの名前らしい。マミヤに目配せする。マミヤは頷いた。僕は石を転がしてマジュラに寄こした。マミヤは不穏な動きを見逃さないよう警戒を続ける。
「愛用の石です。主に狩りをする時に使います」
「そう言えばテツは〝いつも同じ石を使っていたわね〟。」
そう。投てきに〝必ずこの石を使う。他の石を投げたことはない〟。
「見ていろ」
脚の痛みで脂汗を滲ませているマジュラは、僕の石を煉瓦造りの壁に向けて投げる。振りかぶった瞬間マミヤは警戒をさらに強めたが、本当にマジュラに抵抗する意志はないらしい。
マジュラの投げた石は壁にドスンを当たり、マジュラの足下に転がり戻ってきた。マジュラは色んな方向に石を投げたが、不自然な動きで必ずマジュラの足下に戻る。
マミヤとウラヌスは目を合わせる。もちろん僕もきょとんとする。
「これはオーパーツじゃよ」
「えっ!」
三人一斉に驚きの声を上げた。
「持ち主が標的に当たれと念じれば必ず当たる。戻れと念じれば必ず戻ってくる。ワシのカミキリの防御さえすり抜けて、さらに避けたはずのワシの頭に当たった。単純じゃがなかなか応用の利くオーパーツじゃな」
マジュラは石を返して寄こした。
「その石を何処で手に入れた」
僕は懸命に記憶を辿る。
「物心ついた時には既に持っていたと思います。もしかしたら父の形見かも知れません」
「そうか、お前さんの父親はきっと石の正体を知っていたんじゃろうな」
掌に収まった石を見つめる。こいつにそんな秘密があったとは。
「私の質問にも答えて」
マミヤは切っ先に力を入れる。マジュラの首筋から血が流れる。
「あなたのオーパーツ、カミキリ? だっけ。これは私にも使いこなせる?」
僕とウラヌスは驚いてマミヤを見つめる。
「すぐには無理じゃ。この手のオーパーツは持ち主と一緒に過ごした時間と思いが宿って初めて真価を発揮する。あの小僧の石にしたって、標的を確実に狙えるのは小僧だけだろう」
「なるほどね。カミキリは今あなたが念ずれば発動するの?」
「案ずるな。一度ワシから離れ人の手に渡ったら通じない。ワシが強引に奪い返さかければな。しかしそれもこの状況じゃ無理かろう」
マミヤは納得したように何度も頷く。
「ちとお前さん方を舐めすぎたの。カミキリを攻撃に特化すればこうも簡単には破れない」
負け惜しみのようにマジュラは言うが、確かにその通りだろう。一瞬にして三人を八つ裂きにすることも可能だったはずだ。
「あなたを懸賞管理局に引っ張っていくのは簡単だけど、オーパーツについて詳しく話を聞きたいわ。しばらく私達とご同行願いたいけど、よろしい?」
「良いも悪いもないじゃろう。勝手にせい」
マジュラは吐き捨てるように言った。
「歩けない男が二人いるから、テツは荷車を持ってきて。私はここで見張ってる」
「わかった」
一番体力の余っている僕は駆けだした。荷車にウラヌスとマジュラを乗せ町へ向かう。
マミヤは一端懸賞管理局に寄り、事情を説明してまた戻ってきた。
「捕縛したことは伝えたわ。突き出す前にこっちで預かっても問題ないって。あと医者も手配してもらった」
一行はホテルに向かった。
スイートルームで医者に治療してもらう。医者の見立てでウラヌスは全治二週間、マジュラは手術して数ヶ月かかるとの事だったので、とりあえず痛み止めの麻酔を打った。マミヤは額に血止めの薬と絆創膏、右腕には包帯を巻いた。
「二週間! 身体がなまってカビが生えちまうぜ」
とウラヌスは愚痴をこぼし、マジュラについてマミヤは、
「どうせ死罪になるんだから、怪我を直す必要なんかないわ」
と冷淡に言い放った。
医者が帰った後、
「さて」
とマミヤはソファにもたれ足を組み、マジュラを見据えた。
「オーパーツについて知っていること、残らず話しなさい」
まるで女王様だ。見てくれや振る舞いも似合っている。
「オーパーツは超古代遺跡、人知を越えた兵器と言われているのは知っておるな」
マミヤは頷く。
「そんなレアな道具がそうあっちこっちで見つかるはずもない。じゃが」
マジュラは僕を見つめる。
「あの小僧の石は本物のオーパーツのようじゃな、わしも初めて見た。飾り気なく不格好で用途も曖昧。何より人殺しを前提に作られていない」
そんな貴重なものだったのか。僕は改めて石を見つめる。
「じゃあこの子の持っている石のような、兵器以外の用途があるのが本来のオーパーツ。人殺し目的の兵器はまがい物ってこと?」
「極端に言ってしまえばそうなる」
「まがい物の……オーパーツと呼ばれているものはどこかで作られているの?」
「中央都市に行ったことはあるか」
マジュラは逆に質問した。マミヤは首を振る。
「行きたいとは思っているわ。中央と称する癖にどこにあるのか皆目見当がつかない」
「ワシも知らんが、その中央都市にある組織、武器商人と言うのかな。そいつらが作っているという噂じゃ」
「目的は」
「商人と言うくらいだから売買が目的だろう。強い武器を欲する、強い武器を提供する、商談成立じゃ」
「この世界は言い伝えにある『国と戦争』が存在しないわ。今さらそんな強力な兵器が必要だとは思えないけど」
「だからじゃよ。人には多かれ少なかれ狂気が宿っている。その狂気を制御できない暴走した連中が殺人兵器を欲するんだな。連中にとって人殺しに理由なんてないじゃろう」
理由はない、理由はない。何度聞いた言葉だろう。
「オーパーツとその持ち主との関係は」
「詳しい仕組みは知らんが、オーパーツは――作られたまがい物も含めて――持ち主の意志に呼応するらしい。カミキリは宙に舞っていただろう。あの仕組みもワシは知らん。無言でカミキリに念じただけじゃ」
マミヤは手にしたカミキリをまじまじと見つめる。確かに単体で飛行するような作りにはなっていない。
「オーパーツを自在に操るには意志以外に、これが一番重要なんじゃが、長時間持ち愛用し続ける事じゃ。他人のオーパーツを奪ってもおいそれとは使えない」
「携帯して自在に操れる時間は」
「それはその人物とオーパーツとの相性による。三日で操れるかも知れんし、一年経っても扱えないかも知れん」
「あの」
集落の惨状を思い浮かべ質問する。
「そのオーパーツの中には、一つの集落を焼き尽くすような強大な兵器もあるんですか」
ふむ、とマジュラは考え込む。
「カミキリも含めて、人工的に作られたオーパーツは基本的にタイマン、多くて数人と戦うことを前提に作られているものが多いと聞く。小僧が言ったよう大量殺戮兵器は余程技術の粋を集めて作られたものか、あるいは本物のオーパーツじゃな」
「さっきと話が違うじゃない」
「そりゃ本物も色々さ。中には大昔の戦争に使われたものもあるじゃろう」
「大人数を一瞬にして切り刻む、カミキリの力を強大にしたような大量殺戮兵器について聞いたことはある?」
思わずマミヤを見つめる。
「小僧が言った炎のオーパーツも含めて、そんな強力なものは聞いたことがない」
マジュラはお手上げのポーズをして言った。
「あなたはこのカミキリを何処で手に入れたの」
「武器商人から買った。わしはジャバイジャに住んでおってな。あそこはすさんだ町だった。家族を全て亡くし……これも意味もなく殺されたんじゃがな、家族みんなでコツコツ長い間かけて稼いだ金だけが残った。そんな折に武器商人の方から声がかかった。失敗作だからくれてやるとな」
失敗作。僕は唖然とする。
「家族を亡くして捨て鉢になっていたワシはやけくそで全財産と交換した。カミキリだけが手元に残り方々で悪事を働いておったわけじゃが、こんな珍妙なパーティに捕縛されるとわな」
「買ったのはいつ頃の話?」
珍妙なパーティの飛びきり珍妙なマミヤが問う。
「ワシがじじいになる前、遠い昔の話じゃ」
「その武器商人というのは?」
「何も聞くな。それが取引の約束じゃった」
「なぜあなたに売ったのかしら」
「知るか、そんなこと。同情されたわけではないわな」
マジュラはヒヒヒと笑った。
「ジャバイジャに行けば何かわかるかしら」
「どうかな、わしはカミキリを手に入れてから帰ったことがないから、何とも言えん。そもそもあの町は、ヒヒヒ」
「何が言いたいの」
「変わった町じゃ。それだけじゃ」
「町には名前があるの」
僕は小声でウラヌスに聞いた。
「当たり前だろう。この町はアルデン。特に商業が盛んなとこだ」
「ジャバイジャへの行き方は?」
マミヤの問いにマジュラは地図を書いた。
「けっこう距離があるわね」
「しかも昔の記憶じゃから、道すがらの様子も変わっているじゃろうな。」
マミヤは地図を凝視し頷く。
「私が聞きたいことはこんなとこ。お二人は?」
僕とウラヌスは黙って首を振る。
「じゃ、マジュラは懸賞管理局へ連れて行くわ。テツ、手伝って」
マジュラに肩を貸し歩く。何か複雑な気分だ。
「マミヤ! 懸賞金の独り占めはなしだぜ!」
せっかちなウラヌスが叫ぶ。
「当たり前でしょ、山分けよ」
「マミヤ! かまいたちのマミヤか!」
マジュラは驚きの声を上げる。マミヤは表情を変えず反応しない。
「その通りだ!」
代わりにウラヌスが答える。
「ちっ、カミキリのマジュラがかまいたちに捕縛されちゃあ洒落にならんな」
マジュラは悔しそうに言った。
「真剣勝負で遊んでるからよ」
「全くじゃな」
懸賞管理局へマジュラを引き渡す際、マジュラは僕に声をかけた。
「小僧」
「は、はい」
「お前はコロニーから来たのか」
「……はい。遠い集落から」
町の人はみな集落のことをコロニーと呼ぶ。
「この先、辛いぞ」
「はあ」
意味がわからない。
「それよりな。本物のオーパーツは持ち主と共に成長すると聞く」
「成長する」
石をまじまじと見つめた。
「その石、大事にしろよ。まずはどんな投げ方をしても手元に戻るよう訓練するんじゃ。あと名前も付けた方が良い。その先は自分で考えな」
「はい」
幼少の頃を思い出す。この石で必ず的に当てられたわけではない。練習を重ね精度が上がり、いつしか外す気がなくなっていた。石は僕と一緒に成長したのだろうか。
「それから、かまいたち」
マミヤがギロリとマジュラを睨む。
「カミキリを使いこなすのに必要なこと。最後の一つは闘争心じゃ。闘争心との呼応に関しては小僧の石より高いじゃろう。案外お前さんにぴったりかもな」
マミヤは表情を緩めて頷く。僕とマミヤはもう二度と会うことのないだろう老人の背中を見つめた。
今事件の事後処理や賞金の受け取り手続きに時間がかかるとの事なので、二人は一旦懸賞管理局から出た。夕暮れが町を染めていた。
「マミヤさん」
「ん?」
「あのお爺さん、マジュラは死に場所を探してたんじゃないでしょうか」
マミヤは黙って僕を見つめる。
「町の外れで騒動を起こして、聞けば怪我人は多かったけど即死した人はいなかったらしいですね、失血の重傷者がいたくらいで。あんな強力な武器を持っていたのに。僕らにしたって奴が殺ろうと思えば一瞬で全滅でした。けれどマジュラは半ば弄ぶように、こちらの攻撃を待ち構えるように、攻撃されるのを楽しんでいたように感じました」
マミヤは僕を見つめたままだ。
「それに最後のアドバイス、闘争心でしたっけ。マジュラからそんなもの全く感じませんでした。やる気がないっていうと語弊があるけど、今考えると対峙した時のマジュラは緊張感なかったです。もしかしたら、奴は命のやり取りに嫌気が差したのかも知れない」
マミヤはマジュラから奪ったカミキリをブローチのように左胸に飾っていた。
「これを手に入れて十何年、何十年も人を殺めてきたんでしょうね。武術や剣術ではなく道具に頼った殺しに虚しさを感じたか、罪を重ねる毎に胸にぽっかり穴が空いてしまったのか。こればっかりは本人にしかわからないけど、強大な兵器を持つのも考えものね」
「マミヤさんはやっぱり」
「ええ。オーパーツ探しを続けるわ」
今日の事件のせいか、今日は何となく町に活気がない。閉店している店もある。
「以前、テツは私に敵討ちするのかって聞いたでしょ」
「はい」
「私はそんな事より危険なオーパーツを集めて二度と使わせないようにしたい。それが亡くなった人達へのささやかな手向けになると思うの」
「マミヤさんはそのカミキリを使いこなしたいんでしょ」
「護身用よ、あくまでね。降りかかる火の粉は払うわ、今までもそうしてきたから」
マミヤは僕の頭にぽこんと手を乗せた。
「それって」
と言いかけたがマミヤは言葉を遮る。
「子供の頃の記憶をなくした話はしたでしょ。あの時の村の惨状、真っ赤な血の大地になった村の様子は今もはっきり覚えている。トラウマっていうんだっけ? 普通の神経なら血を見だけでショックを受けるくらいの体験だったけど、私は逆に正気に戻ってからは血で血を洗う生き方をしていた。殺生にためらいがなくなってしまったの。あの地獄絵図に比べれば、私が剣を振るって流す血、絶える人の命に対して私は無感情なの」
マミヤの瞳は寂しげに輝いている。
「賞金稼ぎで名を挙げるまでは悪魔だ鬼神だと蔑まされたわ。もちろん敵意のない人、武器を持たない人、罪人でない人、つまり一般の人に刃を向けたことはないけど。でも端から見たら同じ事よね、ただの人殺し。テツは集落からアルデンまでの道中やマジュラ退治が辛くなかった? 辛かったでしょう。だから私と一緒に旅を続けるのが嫌になったのなら、パーティから外れていいのよ。アルデンで仕事を見つけて働くのも一つの道だと思う」
マミヤは言葉を切った。考える間を与えてくれたのだろう。夕空を見上げながら考える。十六年間の集落での生活、十年以上続けた狩り。その全てを失った。この町でマミヤ達と別れて後悔しないだろうか。留まって後悔するか進んで後悔するか。
「僕の目的は人身売買組織の壊滅です。それはこの町に留まっては出来ません。マミヤさんのオーパーツ探しと深く関わっていそうだし」
視線を空からマミヤの瞳に移した。
「マミヤさんについて行きます。それが僕の目的につながります」
マミヤはまた心をのぞき込むようにじっと見つめた。
「わかった。もう二度と聞かない。その代わり泣き言はなしよ」
マミヤは僕のおでこを指で優しく突いた。
「じゃ、後の手続きは私一人で十分だから、テツは先に帰ってて」
僕の肩をポンと叩き、懸賞管理局から追い出した。
僕はとぼとぼと宿へ向かう。夕焼けは今日の血なまぐさい事件を思い起こさせたが、夕日の赤と血の赤は似ても似つかなかった。
一行は次の町へ旅立つ準備をする
次回 2/15 17:00投稿。
よろしければこちらの作品もどーぞ。
http://ncode.syosetu.com/n2136du/




