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かまいたちマミヤの冒険  作者: saksan
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4/22

新しい街

集落を旅立ち新しい街にたどり着く一行。そこは見るもの聞くもの全てが見新しかった。

 ロバ乗りの練習をしてから数えて一週間後、僕はマミヤとウラヌスと共に二頭のロバと二台の荷車を駆って荒野を進んでいた。一頭のロバはウラヌス、もう一頭は僕が乗る。荷車には溢れんばかりの食料と毛皮、マミヤはウラヌスの荷車に乗ってコンパスと地図を持ち、時にはのんびりくつろぎ、時にはせわしなく進行方向を指示した。

 向かう町はマミヤが頻繁に行き来する場所らしい。的確に方向を指示してくれる。

「この荷物でこの人数、野盗が黙っちゃいないな」

 同業者のウラヌスがぼやく。確かに一人で狩りした少しの獲物でさえ襲ってくる連中だ。二台の荷車で大量の食料を載せているのだから、狙ってくれといっているようなものだ。

「うん、まあ二、三度は襲われるでしょうね」

 マミヤは人ごとのように言う。

 町へ旅の二日目。視界に馬車が見えてきた。嫌な予感がする。

「関わりたくねえ、なるべく回避して進むぞ」

「無駄よ」

 マミヤは荷車に寝そべりのんびり空を見ながら答えた。

 ウラヌスは慎重にロバを進めたが、マミヤの言うとおりあっさり追いつかれた。立ちはだかるように馬車が現れ、ウラヌスは仕方なくロバを止めた。

「そのデッカいのがリーダーか? 荷台の荷物を全部寄こしな」

 ウラヌスは言うことを聞いた振りをして、荷物から鉄斧を探る。一戦交える気だ。

 荷車からぴょんと飛び降りたマミヤは、そんなウラヌスの肩をぽんと叩き言った。

「疲れてるでしょ、休んでなさい。これは私の仕事だから」

 初めてウラヌスと会った時と同じ事が起きるんだな、と僕は早くも野盗に同情する。

 マミヤが先頭に立つ。ウラヌスにも意地があるのだろう、鉄斧を持って野盗と対峙する。

 野盗はふんと鼻で笑い馬車から降りてきた。見たところ三人組のようだ。三人全員が鎖を手にしている。見たことのない武器だ。

「鎖分銅か。やっかいだな」

 ウラヌスは鉄斧を短く持った。野盗は鎖を振り回し始める。先端には重りが付いているらしい。なるほどあの鎖の重りを投げつけるのか。ウラヌスが武器を持ち直したのは絡め取られないようにするためだろう。

「だからあんたは見物してなさいって」

 構えたウラヌスを手で遮り、もう一歩前へ踏み出す。と同時に野盗の一人が分銅を投げつけた。マミヤが剣先で払うと、鎖が剣に巻き付く。しかしマミヤの受けが上手かったのだろう、剣を下に振るうと鎖はするりと抜けた。ウラヌスがおっと驚く。

「悪いけど、あなた達と遊んでる暇はないの」

 マミヤはふっと消えた。ウラヌス戦の再現だ。俊足で相手の懐に飛び込み風が如く舞う。あっという間に二人が首から血を吹き出して倒れた。

 残った男が悲鳴を上げる。

「なんで鉄パイプで首が切れるんだよ!」

 気持ちは良く判るが、そんなことより僕は残党に逃げろ! と心の中で叫ぶ。

 僕の叫びが通じたわけではないだろうが、マミヤは、

「で、あなた一人になったけど。どうする?」

 と、切っ先を相手に挑発した。これが生き残る最後のチャンスとも知らず男は、

「ふざけるな!」

 と分銅の長さいっぱいに平に回し遠心力をフルに使い投げつけた。マミヤは地に伏して軽く躱し分銅がもう一周する間もなく敵の懐に飛び込む。今度は両すねの骨を裂いた。あれは痛そうだ! 僕は最初の二人の時と同様思わず目をつむった。男は悲鳴を上げてうずくまる

「はい、私のお役目終了」

 惰性で回ってきた分銅も軽く避け、剣を腰に納めると、荷車に乗りごろりと横になった。

「あの、この人は」

「放っておきなさい。運が良ければ生き延びるでしょ」

 ウラヌスは鉄斧をもったまま呆然としている。

「鎖分銅相手で圧勝だぜ。俺はあんな女と対決したのか、今生きてるのが奇跡だな」

 のそのそと武器をしまい、いやはやと首を振りながらロバを走らせる準備をした。

 乾いた大地にぽっかり出来た血の池と悶絶している野盗を見つめ、僕は小さく嘆息した。

 こんな出来事が三日で四回ほど繰り返された。顛末はほとんど同じだ。数人を殺しては挑発し、挑発に乗ったらまた殺し……その度大地が赤く染まる。敵が降参すると見逃して逃がしてやるのが救いか。何にせよ人殺しの現場に立ち会うのはいい気分ではない。着いてくるんじゃなかったと後悔しかけていた頃、目的の町が見えてきた。


 地平線から町らしきものが確認できた。木造の家が点々と建っている。おそらく住居なのだろう。

「この辺りに住んでいるのは生活水準の低い人達、けどそう遠くないところに町があるんだからテツの集落よりずいぶん恵まれているわ」

 マミヤが解説する。生活水準の基準がよくわからないが、毎日食うに困っていないという意味だろう。そしてもうすぐ町にたどり着くという意味だ。僕は狩りの時とは違った興奮を覚えた。

 案の定家の数は段々増えてきて、立派な家も目立ってきた。中には背高のっぽの家もある。

「家屋は平屋ばかりじゃなく、二階建て、時には三階建てなんてのもあるわ」

 いちいち感心する。

 やがて門柱が見えてきた。門柱の周りは煉瓦造りだ。赤い煉瓦茶色の煉瓦、その両方を混ぜた建物もある。

「あの門柱からが町の中心部よ」

「取り敢えずロバを留めなきゃな。馬房を探せ」

 ウラヌスに言われてロバを降りる。町の入り口付近をうろうろすると、やたらと長い小屋を見つけた。たくさんの馬がずらりと並んでいる。これが馬房か。その奥には馬車や荷車がたくさん留めてあった。荷物が片付いたら荷車もここに置くのだろう。

「マミヤ、馬房代」

 当然のように言うウラヌスに、

「それくらいの小銭あんたが出しなさい」

 とマミヤはにべもなく答えた。

 ロバを留めるだけでお金が必要なのか。この先不安になる。

 ロバを馬屋に入れ、水と草を与えておく。僕とウラヌス二人で荷車を引き町へ入っていく。マミヤはちゃっかりウラヌスの荷車に乗っている。

 町にはたくさんの建物とたくさんの人々で溢れていた。集落では数十人の人達が全てだったので、この人の多さには目眩に似た感覚を覚える。人混みの中を荷車で分け入るのは気が引けたが、人々は当然のように道を空けてくれる。荷車が通るのに慣れているようだ。

「まずは肉屋だ。この荷車の荷物を片付けないと自由に動けねえ」

「そーね、っと」

 マミヤはぴょんと荷車から降り、肉屋を探しに行ってくれた。

 町には建物内で売っているものもあれば、テントを張って売っているのもあった。露店と言うらしい。その売り物の数々がいちいち珍しくついきょろきょろしてしまう。マミヤはすぐ戻って場所を示してくれた。

「へいらっしゃい」

 肉屋の店主は威勢が良かった。

「あのー、肉屋を、じゃなかった肉を売りたいんですけど」

 社会勉強だ、自分でやれ、自分で捕ったものだろ、ウラヌスに言われ一人肉屋に入る。

「はい、じゃあ現物を見せて。うあ、たくさんあるな」

 肉屋の店主は品定めする。

「これは鹿とこれはうさぎと、この肉はなんだい」

「こっちがたぬき、こっちがきつねです」

「うわ、マニアックなものを持ってきたね」

 店主は笑う。

「お兄さん、コロニーから来たの?」

「コロニー? ああそう、遠い集落から来ました」

 店主は匂いを嗅ぎ、ちぎって味見をする。

「味付けは?」

「あ、いえ、特に何も」

「うーん」

 店主は難しい顔をする。

「買わないとは言わないけど、正直状態が良くないから、値段は安くなっちゃうよ」

「かまわないです、お金になるのなら」

「それならねえ」

 店主は重さを量りながら、そろばんをパチパチと弾く。

「狩った獲物そのまま持ってきた方が良かったですか」

「そのまま持ってきてもうちは困るよ」

 店主は笑う。

「それよりね、獲物? 動物を狩ったら精肉屋に持っていくと良いよ」

「せいにくや?」

「肉を食べやすいように売りやすいように加工してくれるプロだ。精肉されたものなら今のよりずいぶんいい値段で買ってあげられるよ」

「そこに持って行けば値段が上がるんですね」

「もちろん精肉するには料金がかかるけどね」

「えっ」

 僕は混乱した。獲物を狩る。それを精肉するにはお金がかかる。けど精肉すれば高く売れる。お金を払ったりもらったりでややこしい。あとでマミヤに聞いてみよう。

「はい、こんなもんだ。大量の肉なのにこれっぽっちで申し訳ないね」

 僕は初めてお金を受け取った。数枚の紙切れと何個かの丸い金属。高いとか安いとかはまだよくわからないけれど、自分で得たお金だ。嬉しくないはずがない。

 さっそくマミヤとウラヌスに見せに行く。

「うへー、あんだけ苦労してあんだけの量があってこれっぽっちか」

「そんなことないわよ。良かったね、お金が稼げて」

 ウラヌスは辛辣に、マミヤは優しく言った。

 次は毛皮だ。僕が肉屋と交渉している間に、マミヤは毛皮屋も探してくれていた。

 大量の毛皮をかかえて店に入る。マミヤとウラヌスがやけにニヤニヤ笑っているのが気になった。

 毛皮は肉と比べものにならない金額を掲示された。

「マミヤさん! ウラヌス! なんかすごいお金もらえた!」

 僕は店から飛び出して二人に報告した。

「良かったわね」

「食い物が安くて毛皮が高いなんて、変な話だよな」

 二人とも口元を緩めながら言ってくれた。肉より格段に高く売れることを知っていたようだ。

 荷車を所定の場所――これも有料――に置き、日用道具を袋詰めにしてウラヌスと二人で担いだ。

「さて、次はあんたの番ね」

「おう」

 とウラヌス。懸賞管理局へ出頭し懸賞金を取り消してもらうのだ。

 懸賞管理局はウォンテッドの張り紙だらけだった。似顔絵ははっきりしているものから僕にも書けそうないい加減な絵まで様々だ。懸賞金一覧表には上に行くほど名前が大きく懸賞金も高い。下に行くほど小さくなり最下部は読み取るのも難儀だ。僕は最下部から注意深くみつめ叫ぶ

「あった! ウラヌスあったよ! すごく小さい文字で!」

「でっかい声出すんじゃねえ!」

 ウラヌスにぽかりと頭を叩かれた。

 ウラヌスとマミヤは二人で懸賞管理局へ入っていった。子分がいなくなり野盗に嫌気が差した。カタギに戻りたい。殺生はしていません。反省しています。前もって予行練習はしてあった。リストから外すには身元引受人というのが必要らしく、それはマミヤが買って出てくれた。

 時間がかかると言われたので町を散策した。建物内のお店より、露店の方が活気に溢れている。町の人達の表情は総じて明るい。毎日じめじめしていた集落とは大変な違いだ。ちょうどお金も手に入ったし、何か買ってみよう。いろいろ目移りして悩んだ挙げ句ポテトというものを買ってみた。食べてみるとイモだったが、僕が知っているイモより数段美味しい。

 お店の人と会話し、色々なものの値段を聞いていると、自分の持ち込んだ肉が如何に安く売られ、毛皮が如何に高く売れたかがわかる。毛皮の代金は露店の品物とは桁違いの金額だった。それを知ると文字通り懐が暖まった気分になる。動物の毛皮は高く売れる、僕は肝に銘じた。

 ウラヌスとマミヤは思ったより早く建物から出てきた。

「私は管理局の職員に顔が利くから、手続きも早かったのよ」

「仮処分で当面は身元引受人と同行、三ヶ月後にまた出頭だとさ」

 つまり少なくとも三ヶ月間は三人一緒だ。このパーティが好きになっていたので素直に嬉しかった。


「もうすぐ日が暮れるわね、ちょっと早いけど宿を取っておきましょ」

「それも有料?」

「そ、町では何をするにもお金が必要」

「マミヤ! お前はいくら持ってるんだ?」

 ウラヌスの問いにマミヤはポイと手帳のようなものを投げて渡した。

「ああ、銀行に預けて……え! おい、はあ! なんだこの金額は!」

 あまりの大声にマミヤはぽかりとウラヌスを殴る。のぞいてみると、細かい意味はわからないが数字が横並びにたくさん記入してある。数字の桁がすごく多いとしかわからなかった。

「一生遊んで暮らせるじゃねえか」

「そんなつまらない一生はゴメンよ」

 マミヤは手帳を奪い返した。

 マミヤの目指す宿屋はさらに町の中心にあった。高さは三階建てのようだが、驚いたのは敷地面積だ。宿は僕がいた集落の半分ほどありそうな広く大きい御殿だった。木造の柱は太く朱色に塗られ、屋根瓦は藍色に、鬼瓦は青銅器のようだ。

「ここに泊まるんか」

 ウラヌスも臆している。

「普段が野宿の毎日だから、町に泊まるときはちょっと豪勢するの。心配しなくても私のおごりよ」

 怖じ気づく男二人の背中を押してマミヤは玄関を入った。

 正面に受付がある。マミヤは慣れた風に受付に近づくと男が近づき、

「いつもお世話になっております」

 と受付は最敬礼し、その所作に僕とウラヌスはさらに尻込みした。

「いつもと同じ部屋。今日は二部屋欲しいんだけど、大丈夫?」

「ご用意できております」

 この後も驚きの連続だった。とてつもなく広い玄関、分厚く広い階段と木目の手すり、歩く廊下も上品な絨毯、つい歓声を上げてしまう。その度ウラヌスに殴られたが、ウラヌスも僕と同じように驚いている。

 最上階に着き、渡された鍵で部屋に入る。

「……」

 筆舌に尽くせぬとはこの事か。ウラヌスと二人、顎のネジが緩んだようにぽかんとする。全ての家具が上等品なのもさることながら、まともに寝たら二十人くらい泊まれそうな広さだ。ガラス張りの窓は壁一面に広がり、ランプを使った照明も至る所に点っている。その広さの上に風呂場も台所も付いている。

「スイートルームってやつね。たまにはこんな贅沢もいいじゃない」

 マミヤはさらっと言ってのける。

「ランプが天井にまである。しかもガラス細工だぜ」

 ウラヌスは呆然と天井を見つめる。なるほど美しい照明が垂れている。シャンデリアと言うらしい。

「じゃ、お二人はその部屋で。私は隣の部屋を使うから」

「あれ、マミヤさんは一緒じゃないの?」

 こんな広い部屋にウラヌスと二人では、すかすかして落ち着かない。

 僕の問いかけに、マミヤはステップを踏んで近づく。

「あのねえ、テツ」

 マミヤは腰を折り、僕の顔をのぞき込んで指を立てた。

「ずっと野宿生活だから実感わかないでしょうけど、本来殿方と淑女は別々の部屋に泊まるのよ」

 マミヤは久々に魅力的なウインクした。淑女という言葉とマミヤはなかなか結びつかなかったが、それは黙っておくことにした。


「まだ陽があるから私はもう一度外に出るわ。懸賞管理局に用があるし買い物にも行くけど、二人はどうする?」

 マミヤが問う。

「俺はここでのんびりさせてもらうさ!」

 高級ソファにふんぞり返って〝らしさ〟が戻ってきたウラヌスが叫ぶ。

「僕はもうちょっと町を歩きたいです」

「じゃあ一緒に出掛けましょうか。途中で別れるけど迷子にならないでね」

 二人で宿を出て、もと来た道を戻るように歩く。いつものマミヤの何か感じが違うと思ったら、剣を帯びていなかった。それだけ町の中は安全なのだろう。もっともこんな喧噪の中では、帯刀している方が浮いて見える。マミヤはウラヌスを連れて行った建物――懸賞管理局――へ、手を振って入っていった。目的は大体想像がつく。新しい懸賞首の情報収集だろう。

 夕暮れ時を迎えた商店街は、ますます活気づいていた。見るもの聞くものが珍しい。有る露店では肉片を串に刺して焼いたものが売っていた。焼き鳥と言うらしい。あまりにもいい香りなので二本買ってみる。口の中でじゅわっと肉汁が溢れて堪らない味だ。テツオが持ち込んだ肉に閉口した肉屋の店主の気持ちが良くわかる。値段を付けてくれただけ有り難い。もしかしたら施しを受けたのかなとも思う。後でお礼を言いに行かなくては。

「この肉は何ていう鳥なんですか」

「はは、これは鳥じゃねぇ、牛だよ」

 牛! 最高級に属する肉として聞いたことはある。一生に一度は食べてみたいと思っていたが、こうもあっさり手に入るとは。

「牛の肉なのになんで焼き鳥なんですか」

「さあ、なんでかなぁ。ホントに鳥の肉使ってるのもあるんだけどな」

 店主は苦笑いしていた。

 露店の品物と今の所持金を比べるといくらでも買えそうな気がするが、やはり節制しなければ。とは言いつつ食欲は増すばかりだ。そういえばマミヤとウラヌスは夜の食事をどうするつもりだろう。

 今度はさっぱりした果物が欲しくなった。やはり串刺しにされたパインという果物を買う。とにかく酸っぱくて驚いたが淡い甘みもありこれまた美味だった。

 気づくと食べ物屋ばかり物色している自分に苦笑いする。でも確実に一泊はするのだから、日用品などのお店は明日回ってもいいだろう。

 日が暮れてきた。真っ暗になると帰り道がわからなくなりそうなので、宿屋へ戻ることにした。

 部屋に戻るとウラヌスが開口一番、

「マミヤが大変なことになっているぞ」

 と真剣な目でささやく。

 背筋がぞわりとした。楽しいことは長く続かない。マミヤに何があったのか。慌てて隣りの部屋をノックする。

「テツオです」

「どうぞ」

 扉を開けると豪勢な広い部屋に知らない女が立っていた。いや間違いなくマミヤだった。フリルのアクセントを付けた半袖のブラウス、白地に藍色の模様が入ったロングスカート。珍しく腰まで下ろした髪が背中で揺れている。

「どう、似合う?」

 マミヤはくるりと一回転して僕を見つめる。白い生地の服と小麦色の肌がよく似合っている。妖精のように美しい。ウラヌスに騙されたという気持ちさえ吹き飛んだ。

「と、とっても綺麗です」

「そ、ありがと」

 マミヤはまんざらでもなさそうに返事をした。

「そろそろ食事の時間ね。テツは何か食べた?」

「少し買い食いしたけど、お腹は減ってます」

「じゃあ料理を注文しましょ。食事はテツ達の部屋で食べようか」

 マミヤと共に部屋に戻ると僕は無言でウラヌスの足を蹴飛ばす。ウラヌスはゲタゲタと勝ち誇ったように笑った。

 宿屋が用意した夕食は案の定上品で豪勢だった。

 僕は皿を持ってくるウエイターにいちいち食材を聞いた。肉料理はやはり牛で、露店で食べた焼き鳥より深い味わいがある。初めて食べる魚料理は逆にさっぱりして風味が良かった。他にも野菜、甘味全てが言い尽くせない最高の食事だ。僕とウラヌスは舌鼓を打つ。

 ウラヌスとマミヤが何か言い合いをしている。

「そんな可愛らしい服着てどうすんだよ」

「町にいる時くらいは、気分も切り替えたいからね」

「すぐにまた出発するんだろ」

「出る時は売るわ。売った代金はあんたにあげる」

「俺にかよ」

「いらないの?」

「いる」

 そんな二人の会話はよそに、僕は夢中に食事した。

 食事が一段落し、三人で紅茶というものを啜る。

「ここには何泊するんだ」

 ウラヌスが聞く。

「三日はゆっくりするつもりよ」

「なんで三日なんだ」

「四日もいたら退屈するだけだから」

「なるほどマミヤらしいや。俺は一所に根を張りたいがな」

 ウラヌスには似合わない意外な事を言う。

「お二人はともかく、私の目的は懸賞管理局での情報収集だから。情報集めて大凡の、本当に大雑把だけど進路を決めて旅を続けるわ。つまりあんたは」

「わかってるよ、マミヤ様とご同行だな。元賞金首が賞金稼ぎと旅するとは、笑えねえぜ」

「戦力としても、ちょっぴり期待してるから」

 ウラヌスはふんと鼻で笑う。


 事件はマミヤが定めた三日目に起こった


 町へ来て二日目の朝。ふかふかで寝心地良さそうなベッドが却って寝づらかったが、いつも通り夜明けと共に目を覚ました。窓から外を見ると町全体が眠っているように人気がない。どうやら生活のリズムが僕のいた集落とこの町とでは違うらしい。とりとめもなくだだっ広いスイートルームをうろうろしているとウラヌスも目を覚ました。

 ウラヌスと窓の外を眺めのんびり過ごしていると朝食の連絡があった。僕らの起床時間にあわせてくれたらしい。昨日同様着飾ったマミヤも加わって三人で食事をとる。

 六時を回った頃、ようやく町が活気づいてきた。マミヤは三日間この街にいるといっていた。

「今日は一日、町を散策してきます」

 マミヤとウラヌスに断り、町へ飛び出した。

 朝の町は昨日とはまた違った活気があった。行き交う人々は老人、特に老女が多い。露店も昨夕とは違った商品が並んでいる。すぐ食べられるものより、加工前の食材が多く売っているようだ。

 テツオはまず肉屋に寄った。昨日のお礼をするためだ。

 肉屋は開いていたが仕込みでもしているのか店頭には誰もいなかった。

「あの~」

 テツオが声をかけると昨日の主人が顔を出した。

「お、昨日の兄さんだね。もう新しい肉を獲ってきたのかい」

「いえ、そうじゃなくて。……昨日はありがとうございました」

「ん?」

「町に来て、きちんと調理した肉を食べました。あんな不味い肉に値段を付けてありがとうございます」

 店主の顔がふっと緩んだ。近くにあった椅子に腰掛ける。

「んー、持ち込みの品はなるべく買い取るようにしているからね。それに」

「はい」

「兄さんコロニー出身だって言ったろ。俺もコロニーで生まれ育ってね。兄さんより若い頃コロニーを、村を飛び出したんだ。いろいろ苦労してこの店を先代から任された。だからほら、同郷のよしみって奴だ。同じ集落じゃあないだろうけどな」

 肉屋の店主は優しく笑った。

「兄さんはこの街に居付くのかい」

「いえ、旅を続けるつもりです」

「そうか、気をつけてな」

「本当にいろいろありがとうございました」

 礼を言い、テツオは店を出た。

 昨日は食べ物屋ばかりだったので、今日は落ち着いて日用品や雑貨を売っている店を見て回った。包丁、ナイフ、のこぎり、ロープなど身近なものもあったが、中には使い道がさっぱりわからないものがたくさんあった。店の人にいちいち用途を聞いていたが、買う気がない客と思われ次第に邪険にされてしまった。皆が肉屋の主人のような人ではないらしい。

 ふとウラヌスのロバのことが気にかかり馬房に寄ってみた。きちんとエサは与えられているようだ。これなら馬房の利用が有料なのもうなずける。

 昼になったが宿には帰らず町の店で食事を買ってみることにした。焼きそばは麺に肉や野菜をふんだんに盛りつけてあってとても美味しい。宿の食事は上品だが、僕は町の露店で売っている食べ物の方が気に入った。

 普段集落や森や草原を歩き回っていたので、町の商店を丸一日歩き回っても全く疲れない。結局日が暮れ始めるまで町を散策していた。

街で大事件が発生。次回12/13 17時掲載。

よろしければこちらの作品もどーぞ。

http://ncode.syosetu.com/n2136du/

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