エピローグ
「で、テツはどうするの」
マミヤの問いには直接答えずカーンに訪ねる。
「この都市では年中人手が足りないんですよね」
「そうだ」
カーンは相変わらず空を見つめながら答える。
「カーンさん。ジャガンはもうここには現れません。人数も頻度も少なくなるかも知れませんが、これからは僕が働く人を集めます。併せてあの件も調べます。どうでしょう?」
あの件、盗まれた兵器のことだ。
カーンはじっとテツオの目をのぞき込んだ。品定めされている気分だが基準がわからない。
「取り敢えず仮採用としよう」
どこかで聞いた台詞だ。
「一度集めてみれば、君も。君の名前は?」
「テツオです」
「テツオも人集めの労力がつかめるだろう。あの件の調査も結果を見せてくれ。こちらの期待に添えれば本採用だ」
僕とマミヤさんが最初に交わした契約だ。もうずいぶん遠い話のことのように感じる。
「人を紹介したら、それだけ仲介料も頂けるんでしょ」
「もちろんだ」
「はは!小僧も商談するまでになったか」
ウラヌスがちゃちゃを入れる。
「テツオ。ファミリーネームも教えてくれ」
「え。て、テツオ・スターダストです」
カーン以外の三人がぶっと吹き出す。
「だから言いたくなかったんだ」
ウラヌスが我慢しきれず大声で笑い始めた。カーン一人が何も聞こえないような顔で立っていた。
「って事でマミヤさん。引き続き用心棒をお願いします。マミヤさんの目的にもつながりますからね」
マミヤは愁いを帯びた瞳で僕を見つめていた。背後では水面がきらきらと光っている。絵に描いたように綺麗だ。すっと近寄ってくる。抱きしめてくれるのかと思ったらヘッドロックが決まった。
「く、苦しい。絞め技は反則ですよ」
「ひもじい思いは嫌だからね。狩人の仕事も引き続きしなさいよ」
「は、はい。でもジャガンを賞金管理局に連れて行けばいいお金になるでしょ」
「私は現地調達した料理が食べたいの」
締められながら、マミヤの右手に触れるのは初めてだと気づく。掌はグローブのように堅くなっている。十何年も剣を振り続けた結果だろう。
僕は確認しなければならないことがあった。
「カーンさん。もう一度人捜しをお願いしたいんですが」
「誰だ」
「タケル・スターダストとカオリ・スターダストです」
皆がしんと静まる。なんだか申し訳ない気分になる。
「ヒプス、ネームサーチ」
「該当者なし」
今度も即答。結果は想像通りだった。
「記録がある限り、死者も検索できるが」
「ありがとうございます。でも死んだことを確認してもしょうがないですから」
なんだかすっきりした気分だ。皆に笑いかけ、ウラヌスとシュンマに握手する。
「ウラヌス、馬車はもらっていくから」
「おう、大事に使えな」
「シュンマ、お姉さん妹さんとうまく会えればいいね」
「記憶が戻れば最高なんだろうけど、そうすると辛い記憶も思い出してしまうからね。とにかく細かいところは会ってから考えるさ」
この中で一番辛い立場なのはシュンマだな、と思う。
「カーンさん、ここまできた乗り物が壊れたらしいんですけれど」
「わかった。修理に向かわせる。状態は見ていないが一時間もあれば済むだろう。ヒプス、列車の修理工を呼べ」
数分も経たずに職人たちが数名、僕らを見向きもせずにレッシャへと向かった。
「ジャバイジャという町に、出所不明な廃棄物があるらしいんですが」
「おそらくオーシャンセンタニアで出た産廃だろう。ジャガンに後始末を頼んだがどこでどうしたかは聞いてない」
「シュンマ、ライトソードのメンテナンスは?」
「ジャバイジャにミムルという女性がいる。その人に頼めばいいだろう」
「その人も旅に連れ出しちゃおうか」
「無理だよ、足腰が不自由な七十過ぎのおばあさんだから」
「……そうですか」
皆が収まるところに収まりそうだ。久しぶりにリラックスして談笑する。
日が傾いてきた。乗り物の修理も終わったらしい。そろそろ出発だ。
「ウラヌス、いろいろありがとう」
「おう」
「シュンマ。いろいろ教えてくれてありがとう」
「君に会えたのを誇りに思うよ」
「マミヤさんからは?」
「特になし。今生の別れってわけじゃないでしょ」
「いやもう永遠に会えないですよ」
全員が突っ込む。
マミヤは赤くなりながら、
「とにかく元気で。それだけね」
言うが早いかきびすを返して歩き出してしまった。背を向けながら手をひらひらさせている。
「小僧、いやテツオ。マミヤをよろしくな。なんだかんだマミヤを御せるのはお前だけだ」
僕は少し照れて肩をすぼめた。
「それじゃ」
僕はマミヤの背中を追った。
まずは乗り物に乗ってジャバイジャに戻る。ジャガンは捕縛したが、組織がかなりあると聞いたから残党狩りをしなくては。もう一人くらい仲間が欲しいな。ウラヌスが抜けた穴は大きい。ジャバイジャは陰気な街だが滞在していれば残党や兵器の情報が得られるだろう。そして世界中を回り中央都市に永住する人々をスカウトしよう。表立ってはできないのでやはり集落を回ろうか。使命感で気持ちは高ぶる。
「よし!」
「気合い入ってるわね」
「やることいっぱいですから」
「狩人の仕事も忘れないでね」
さっきから食い意地ばかりだ。
太陽が海に沈もうとしている。海面が美しく揺れている。ほんの一時でも、こんな光景があるだけで、苦労して旅をした甲斐があると思う。
これからも。きっと。
※
三年後。
兄貴の武器庫からこの兵器をちょろまかすのは何度目だろう。
様々な武器を自在に使い分ける兄貴だが、この兵器だけは違った。
「これは派手すぎて足がつく。滅多に使えない」
「もう少しほとぼりが冷めてから使う」
兄貴はいつももったいつけた事を言う。普段「武器は定期的に使わないといざというとき役に立たないぞ」と言っている兄貴がだ。
兄貴の機嫌がいい時に兵器の扱い方を聞いたことがある。正直最初はしょぼい武器だと思った。だがそこかしこに常識では考えられない機能があった。俺はその不思議な機能と兵器の能力を試したくなった。だから武器庫から拝借した。
結果は絶大だった。仕掛けた俺が唖然とするほどの威力だった。自分が火之神になった気分だ。こいつは癖になる。俺はこの武器を火之神と名付けた。もちろん俺だけに通じる名前だ。
俺は今夜も闇に乗じてコロニーに近づいた。家屋の数は四十棟程度か。住人に恨みはない。ただ殺りたいだけだ。俺は火之神を操作する。ミサイル砲にも似た細長い部位には円盤状の固形燃料が詰まっている。武器を操作すると円盤は管から出て自走で集落に転がっていく。何故目的地がわかっているのか、その仕組みは俺も知らない。火之神はいくつもの円盤を武器から吐き出していく。数はちょうど集落の家と同数の四十、全て家の真下まで転がり止まる。手にした武器にあるランプの色が変わる。散布終了の合図だ。後はこの引き金を引けば全てが炎上する。円盤から何千度の炎が発生し家屋が集落が火の海になる。一番興奮する瞬間だ。
引き金を引こうとした瞬間ガツンと武器に衝撃が走り、手を離してしまう。石を投げつけられたようだ。
「誰だ!」
俺は慌ててライトを探す。
「何年も探していたオーパーツと称されたものが、そんな玩具だったとは残念だよ」
声のする方向へライトを向ける。細身のようだが背は高い。緑色のマントで全身を覆い、頭にはつばの長い麦わら帽をかぶっている。左手には黒いボール、右手には刀の柄を握っている。
「緑の外套……。グリーンマントのテツオか!」
俺が言い終わらないうちに男は光の剣を握って躍り出た。
長い間おつきありがとうございます。




