それそぞれの道へ
シュンマはすっと立ち上がり、僕達一人一人を見つめた。
「たぶんあれが、いや絶対あそこが自由都市で、俺の姉と妹がいるところだ。俺一人では決してたどり着けなかった。改めて礼を言わせてくれ、ありがとう」
らしくないシュンマの言葉に僕らにはこそばゆく感じる。
「お代は見てのお帰りってね、まだ礼を言うべきとこまでたどり着いてないわよ」
マミヤは肘でシュンマの横っ腹を突いた。シュンマはこくりと頷いた。
治療と休息した僕らは、自由都市と思わしき場所へと歩き出した。
アルデンに着いたときもジャバイジャに着いたときも不思議な町だと思ったが、目の前にある通称自由都市はさらに奇妙な都市だった。都市の至る所に風車が立っていてのんびり回っていた。風車の下もしくは上には銀色に輝く板が張り付いていた。遠くなので距離感が掴めないがかなりの大きさだ。よく見ると高い建物には必ず銀色の板が張ってあった。
近づくにつれ違和感は大きくなっていく。馬車を引く音がしない、馬の気配がない、そして土の臭いもしない。
門柱らしきものが見えてきた。煉瓦でもコンクリートでもない白くてミルク色をした石で出来ている。おそらく都市への入り口と思えるが馬も馬房もない。
入り口正面には岩石のような大柄の男が立っていた。上背はウラヌスと同じぐらいか。褐色の肌でごりごり角張ってる印象がある。腕を組み、何故か肩にはオウムが乗っている。目を開けて眠っているんだろうか、僕らが近づいても瞳すら動かさない。
「あの~」
僕が声をかけると首だけ動かしぎょっとさせる。
「おお、見ない顔だな。ジャガンの手のものか」
「いや、そうじゃなくて」
と言う間もなく男は、
「ヒプス、彼らは何者だ?」
男はオウムに問いかける。今度は機械仕掛けのオウムが僕らを見回し、
「登録無し」
と素っ気いなく答える。
「ヒプス、ディープサーチだ」
機械仕掛けのオウムの名前はわかった。それ以外は何がなにやら。しばらく間を置いてまたオウムがしゃべり出す。
「 一.シュンマ・アルカイル、二つ名〝銀豹のシュンマ〟、エイジ、十九。
一.マミヤ・カノープス、二つ名〝かまいたちのマミヤ〟、エイジ、二十二。
他二名.該当データ無し」
男は僕とウラヌスを見てふーむと唸り、
「賞金稼ぎとコロニー出身者か」
と無表情で呟いた。
「あなたは?」
「カーンという。門番をしている。ジャガンはどうした」
「えーっと、ジャガンは諸般の事情でここには来られなくなり、たぶん今後も現れないでしょう」
「そうか、それは困ったな」
ちっとも困った顔をしていない。
「ジャガンが連れてきた人たちは、みんなここで暮らしているのか」
シュンマが問う。
「ああ、様々な仕事に就き復興に助力してくれている」
「奴隷としてか?」
「まさか。ここで働いている人にはみんな住まいがあり、働いた分給料も渡している。ここで家族や家庭を築いた者もたくさんいる。この待遇を奴隷とは呼ばない」
皮肉なことにさらわれた人たちは、自由都市に着いてからはそれなりの生活をしているようだ。
「俺は生き別れた姉妹を探して旅をしてきた。どうやらここに連れてこられたらしい。確認できるか」
「名前は?」
「アメリア・アルカイルとソフィア・アルカイルだ」
「ヒプス、ネームサーチ」
とカーンはオウムに訪ねる。オウムは即答する。
「アメリア・アルカイル。南西地区Jブロック二〇一に住居。職業、部品工場手伝い。
ソフィア・アルカイル。住居同じ。鮮魚加工店手伝い」
「つまり」
シュンマの手は震えている。
「聞いた通りさ。同じ地区の同じ部屋で住んでいるらしいな」
シュンマはうつむき両手の拳を握りしめている。歓喜の叫びをこらえているようだ。
「会えるか? すぐ会えるのか?」
「君たちはジャガンから本当に何も聞いていないのか」
「はい」
「ふむ、説明が必要だな」
カーンは遠い目をしていった。
「オーシャンセンタニアでは労働力を常に必要としている。しかしこの都市の特殊性から、一度オーシャンセンタニアに入った者はここに永住してもらうのが条件になっている。これに特例はなく、君のように家族に会いたい、というだけでも二度とこれまでの世界へは戻れない。その覚悟が必要だ」
シュンマの身体が瞳を含め硬直する。シュンマの代わりに僕が問う。
「都市の特殊性って何ですか」
「外観からしてわかるだろう。君たちが旅してきたものとは格段に異質な都市であることを。この科学力をおいそれと外界に持ち出したり喋ったりしては困るのだ」
シュンマはまだ石化している。シュンマの姉妹は記憶を消されている。会ったところで感動の再会とは行かない。
「俺はこの都市に入るぜ」
ウラヌスの一言に一同えっ! と仰天する。
「昔も今も立派とはいえないことばかりしてきたからな。ここで全うな仕事があるのなら、この都市の役に立ちたい。それに……」
ウラヌスは小声になる。
「正直、もう人殺しにはうんざりだ」
僕とウラヌスはマミヤを盗み見る。彼女は静かにうなずいていた。口元で小さく「今までありがとう」と言った気がする
「ウラヌスのフルネームは?」
「ウラヌス・サンズだ」
「形式上診査や検査、契約手続きがあるのでひとまず待ってくれ」
ウラヌスの決心にシュンマも動いた。
「うん。ウラヌスさんが一緒に入るなら。俺もこの都市に永住するよ」
ウラヌスはシュンマの背を押したのかも知れない。
「この土地の治安は?」
「年に一二度、窃盗があるくらいだ」
シュンマはライトソードを投げ捨てた。が、すぐにいそいそと拾いあげる。
「捨てようと思ったけれど引き継ぐ相手がいた」
シュンマはライトソードとライトタガーを僕の前に差し出した。
「テツオ君、受け取ってくれるね」
「はい。使いこなせるとは到底思えませんが、大事にします」
「あ、俺の都合ばかりでごめん。テツオ君はどうするの?」
「それなんですけれど」
僕はライトソードその他を麻袋に入れた。
「カーンさん。質問があります」
「なんだ」
「この都市で造られた大量破壊兵器があると聞きます。それらは全てここで管理されているんですか」
「うーん、どうだろうな」
カーンはオウムの首を捻って砂浜に膝をついた。
何事かとカーンの手元を見ると文字を書いている。
(あった。しかしぬすまれた)
僕は思わず声を上げそうになった。マミヤに合図すると彼女も驚きの表情を浮かべる。オウムの向きを代え文字で書いたのは秘密裏に伝える必要があったのだろう。僕はカーンの書いた文字を消しながら、
「なーんだ、知らないならしょうがないですね」
とわざとらしく呟いた。シュンマとウラヌスには伝えない方がいいだろう。せっかくの決意を鈍らせたら気の毒だ。
最終話 2/24 17時投稿。
よろしければこちらの作品もどーぞ。
http://ncode.syosetu.com/n2136du/




