14) 「微笑む街、泣く路地」
巨大な門をくぐった。
アマンダは立ち止まる。
目が大きく見開く。
壁じゃない。
その先に広がる光景に息をのんだ。
白い石の舗道が陽光に輝く。
広く、清潔な通り。まるで川のようだ。
建物はまるでアニメから飛び出したような美しさ。
ステンドグラスが色とりどりにきらめく。
花のガーランドが飾られた繊細なバルコニー。
空気が香りに震える。
高価なスパイス。焼きたてのパン。
そして…何か。魔法?富?
すべてが輝き、すべてがまぶしい。
豪華な服をまとった人々。
ゆっくりとした足取り。
笑い声が、鈴のように響く。
(楽園…これが楽園?)アマンダの頭に閃く。
隣を歩くロレンツ。
唇に皮肉な笑みが浮かぶ。
「気に入った?」低い声、わずかに嘲るような響き。
「ここはアイロンヘイヴンの表の顔だ。」
「大事な客や金持ちの商人に見せる場所。」
彼は角を曲がる。
世界が一変した。
広い通りが消えた。
狭い路地に変わる。
白い石の舗道は、踏み固められた泥に。
香りは消え、鼻をつく臭い。
焦げた安物の油。汗。洗っていない体。
家々がひしめき合う。
歪んだ壁。雨漏りする屋根。
ボロボロの服を着た子供たち。
泥の中で空き缶を蹴り合う。
大人たちは門のそばに立つ。
虚ろな目で、通り過ぎるキャラバンを眺める。
「これが裏の顔だ。」
ロレンツの声。感情はない。
「ここに住むのは、あの『楽園』を支える者たちだ。」
「高級酒場の皿洗い。下水掃除人。」
「才能も賄賂の金も足りず、上に上がれなかった下働きたち。」
アマンダは黙る。
ルビーのような瞳が大きく見開く。
同い年くらいの二人の少女。
彼女の(まあまあ)きれいなマントを見る。
ギルドの人間であるロレンツを見る。
すぐに目を伏せ、顔を背けた。
(恐怖…そして、妬み?)
アマンダの肌がそれを感知する。
「どこに行けばいい…?」
アマンダの声は小さかった。
初めての揺らぎ。不安が滲む。
ポケットに一文無し。
頭上の屋根もない。
ロレンツが足を止める。
振り返る。
「今は、俺と一緒だ。」
声は落ち着いている。
「ギルドは簡素な宿を用意している。臨時雇いの者や…有望な人材のために。」
彼の目がアマンダを貫く。
「選択肢はある、少女。」
「礼を言って、ここで別れることもできる。」
「この路地で生き延びることを試みてもいい。ルビーの瞳と、空のポケットで。」
「だが、はっきり言う。長くはもたない。」
沈黙。
言葉が彼女の胸に突き刺さる。
「それとも…俺たちと来るか。」
「共同部屋のベッド。スープ一杯。」
「その代わり…」
ロレンツの声が低くなる。
「その瞳と頭脳を差し出せ。他人に見えないものを見る。聞き逃す音を聞く。」
「だが、一番大事なのは…お前の『知識』だ。」
(知識…?)
アマンダの心がざわめく。
「その『知識』はあまりにも貴重だ。」
「溝で朽ちさせるには惜しい。」
「ギルドはそれを守りたい。そして、増やしたい。」
3
再び広い通りに出る。
あまりの違いに、アマンダの頭がクラリと揺れる。
輝くショーウィンドウ。
珍しい果物。豪華な布。
だが、耳にはまだ路地の子供たちの声が響く。
(選択肢なんて…なかった。)
ロレンツはそれを知っている。
「…あなたたちと行く。」
アマンダの声は静かだ。
「賢い選択だ。」
ロレンツが頷く。
「明日から新しい生活が始まる。」
彼の目が鋭い。
「覚えておけ、『私の投資』だ。」
「アイロンヘイヴンはただの街じゃない。罠だ。甘い誘惑の罠。」
「ここにいるほとんどの者は、すでにその中に囚われている。」
彼が遠くの壮大な図書館を指す。
「一部は贅沢に。」
「一部は絶望に。」
「どちらにも捕まるな。」
アマンダは彼の隣を歩く。
拳を握りしめる。
美しい、醜い、二つの顔を持つ街を見る。
心の中で恐怖と決意がぶつかり合う。
(私は罠の中にいる。)
だが、今、彼女にはベッドがある。
そこから脱出の道を探す第一歩。
武器は剣でも魔法でもない。
鋭い頭脳。
そして、知っている真実——
どんなコインにも、この街と同じく、表と裏がある。
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