第二十七章:新人研修
真昼のミストナイトクラブに、張り詰めた空気が漂っていた。
控室のテーブルを挟んで、アレックスとリリィが向かい合い、その奥の席には、スチームハウスの制服を着たPROT-1が座っていた。彼女は不敵な笑みを浮かべてリリィを眺めている。
PROT-1を連れて帰ってきたはいいものの、アレックスはリリィに彼女をどう説明すべきか困惑していた。リリィも、オートマトン自体は見たことがあっても、こうして向かい合って話すのは初めてだ。そもそも意思疎通が可能なのかさえ分からない。
「リリィさん、彼女はロバートさんから借り受けたオートマトンのPROT-1です。これから、一緒に働いてもらいます」
アレックスが口火を切ると、リリィはぎこちなく頭を下げた。
「よろしくお願いします…。」
「よろしくね、リリィ。」
PROT-1は妖艶に微笑む、獲物を狙うような瞳に、リリィは緊張した。
「とりあえず、今日は業務内容を覚えてもらいます。リリィさん、彼女に仕事を教えてあげてください。」
PROT-1は静かに頷くと、リリィの後を追って部屋を出ていった。アレックスは彼女の読み取れぬ思考に脅威を感じていたが、人手が足りない現状では、彼女の働きに期待するしかなかった。
研修中のPROT-1は、先ほどの態度が嘘のように素直だった。リリィの作業を注視し、質問も的確で、驚くほど早く仕事を覚えていく。日が暮れる頃には、二人は協力して作業を進めるまでになっていた。
PROT-1は好奇心が旺盛で、未知の知識に対しては、リリィに詳しい説明を求めた。特に彼女の興味を引いたのは、館内に飾られた花々だ。一つひとつの花の名を尋ね、リリィがその説明をする言葉に、真剣に耳を傾けていた。
会話を重ねるうちに、二人の間にあったぎこちなさは少しずつ消えていく。やがて、リリィは一つの疑問を投げかけた。
「あの、PROT-1さんは、名前はないのでしょうか?」
PROT-1は一瞬硬直した、暫く固まった後、言葉を発する。
「名前……。機体名はあるけど、人間の名前にあたるものは持ってないわ。」
「そうですか……。」
「良かったら、あなたが名前を付けて下さる?」
思いがけない提案に、リリィは戸惑った。しかし、ふと、棚に飾られた白い花が目に留まる。
「カトレア……。」
リリィがぽつりと呟いた。
「?」
「この白い花の名前です。どうでしょうか?」
PROT-1はしばらくその花を見つめ、やがて柔らかく微笑んだ。
「いいわ。これからは、カトレアと呼んで頂戴。」
そう言って、カトレアは再び作業に戻った。その背中を見つめながら、リリィは心の中で、少しだけ嬉しさを感じていた。




