第二十一章:営業再開2日前
ミストナイトクラブの再開まで、あと2日。エントランスは、大小様々な品々で埋め尽くされていた。アレックスが各娼館に営業再開を知らせる手紙を送った際、規模を縮小しての再開であるため、当日の歓迎は遠慮したい旨を伝えていたのだが、その配慮は裏目に出たらしい。再開祝いとして、町中の娼館から届けられた酒や植物、その他諸々の品々が、所狭しと積み上げられていたのだ。
「こんなに貰えるんだったら酒を買わなくてもよかったかもな…。」
先日、客に出す酒や備品などを買い込み、資金の大部分が吹き飛んだ、アレックスの手元には、僅かな運転資金とリリィの衣装の支払い用の予算しか残っていない。
リリィの花屋にも、ここ宛ての花の注文が入ったようで、早朝にはトラックの荷台に満載された花々が配達されてきた。背丈ほどもある観葉植物を手際よく運び込むリリィの姿を見ながら、アレックスは改めて叔父クローブの威光と、その人望の厚さに思いを馳せる。
その時、エントランスのベルが鳴り響いた。扉を開けると、そこには紙箱を抱えたエルミーヌが立っていた。
「アレックスの旦那、リリィさんの服が完成したから持ってきたよ。」
そう言って彼女は紙箱を差し出した。そして、「試着ついでに、細かい修正をするから」と続け、リリィと共に控室へと入っていく。アレックスは、待っている間、胸の高鳴りを抑えきれなかった。
待つこと数分。扉が開き、二人が出てきた。
リリィの仕事着は、一見すると普段着と変わりないように見える。だが、よく見ると、その違いは明らかだった。滑らかで艶のある上質な生地で仕立てられ、首元や袖口には、可憐な花柄の刺繍が繊細に施されている。それは、リリィの持つ清純さを最大限に引き出し、彼女の魅力をより一層際立たせていた。
「着心地がすごくいいんです! 肌触りも良くて……!」
リリィは満面の笑みでアレックスにそう言うと、くるりと一回転してスカートをふわりと翻した。その姿は、まるで花畑に舞う妖精のようだった。
喜ぶリリィの姿を見ながら、エルミーヌはアレックスにそっと耳打ちする。
「あそこまで喜んでくれると、職人冥利に尽きるよ。兄貴はいつもデザインを私に投げて製作を丸投げするのに、今回の仕事は刺繍まで細かく指示してきて……。あんなに熱心になるのは珍しいんだ」
エルミーヌの言葉に、アレックスは驚きと同時に、深い感動を覚えた。
「兄貴がそこまで熱を入れた衣装を着た娘は、みんな大成してる。リリィさんもきっと、この街で一番の売れっ子になるよ」
その言葉は、アレックスの心に確かな希望の光を灯した。
「そういえば」と、エルミーヌはアレックスに伝票を渡す。彼は伝票の数字を見た瞬間、硬直した。
「あの……、事前に聞いていた額よりも倍ほど高い気がするのですが。」
「あー……、制作につい熱が入りすぎちまってな、東洋の天然絹を使ったらすこし足が出ちまった。」
ミストナイトクラブは7億クラウンに買掛金を加え再スタートを切ることになった。




