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第二十章:至高のデザイン

 自己紹介を終えるやいなや、アルベールは早速リリィに質問を矢継ぎ早に浴びせ始めた。


「用途は? 社交? それとも接客?」


「え、ええと……接客、ですかね?」


 リリィは戸惑いながら答える。


「タイプは? ドレス? ランジェリー? それともコスチュームかい? スタイルは? キュート? セクシー? ゴージャス?」


 流れるような質問の勢いに、リリィは口ごもり、アレックスも圧倒されて言葉が出ない。そんな二人を見かねて、エルミーヌが口を挟んだ。


「やめろ兄貴、お客さんが困ってるだろ。」


 エルミーヌの物言いは荒々しいが、彼女の言葉でアルベールは我に返った。


「おっと失礼、まだ採寸がまだでしたね。どうぞこちらへ、すぐ終わりますよ。」


 そう言ってリリィの腰に手を回し、更衣室へ連れて行こうとするアルベールの後頭部に、エルミーヌの持っていた物差しが直撃した。


「お前が測ろうとするんじゃねえ! ごめんな、お嬢さん。アタシが測るから、そこのカーテンに入ってくれ」


 エルミーヌに付き添われ、リリィは更衣室のカーテンの中へと入っていった。後頭部を押さえてうずくまるアルベールに、アレックスは本題を切り出した。


「彼女に似合う、仕事着を一着仕立てていただけませんか? エントランスから寝室まで、幅広く使えるものがいいのですが……。」


 アレックスの言葉を聞きながら、アルベールはノートとペンを取り出し、テーブルについた。彼の目は、すでに職人の目に変わっていた。


「接客から寝室まで……。と、なると、フォーマルは外れるな…。」


 彼はスラスラとノートにいくつかのデッサンを描き始めた。


「清純なイメージを活かすなら、フリルを効かせたウエイトレス風のエプロンドレス。ただ、これだと彼女の体型とミスマッチか……。」


 彼は短時間で複数のデッサンを描きながら、唸っていた。アレックスも見たが、どれもリリィにはどこか似つかわしくないように思えた。


「普通の娼婦が着ているようなドレスはどうですかね?」


 アレックスが質問したところ。アルベールは首を横に振った。


「いやダメだ。派手に着飾るのは、彼女の魅力を打ち消してしまう。彼女の良さは、これ以上飾る必要のない、完結した美しさだ。それを台無しにしてどうする。」


 アルベールは描いていたデッサンを無造作に丸めて、床に放り投げた。


「そもそもの前提が間違いなんだ……。彼女をこれ以上魅力的にする必要はない、過激な露出も、華美な装飾も、彼女の魅力を汚すだけだ…。」


 アルベールは、まるで自分自身に言い聞かせるように呟いた。そして、更衣室のカーテンに目をやった。


「もしかしたら、このままでいいのかもしれない。」


 アルベールの唐突な言葉に、アレックスは驚きを隠せない。


「どういうことですか?」


「彼女の服装は、既製品の丈を直して長く使っている物だ、流行とは無縁の没個性なデザイン。だが、そのシンプルさが、彼女自身の存在を引き立てているんだ。無理に飾ろうと考えるのではなく、彼女の清純さという魅力を最大限に生かす控えめなデザイン。それが、彼女に最も相応しい衣装になるはずだ。」


 アルベールは立ち上がり、熱意のこもった目でアレックスを見つめた。


「素材を、動きやすくて肌触りの良い、柔軟性のあるものにしよう。そして、デザインは今の彼女の服装をベースに。それを、僕の最高の技術で仕立てましょう。」


 アルベールはそう言うと、アレックスに衣装のデザインを渡す、アレックスそれを見て、思わず頷いた。


 その時、更衣室のカーテンが静かに開き、エルミーヌとリリィが出てきた。


「終わったよ、兄貴」


 エルミーヌは手にしたメジャーを小気味よく巻き取りながら言った。リリィは少し頬を赤らめていて、人前で脱ぐことにまだ慣れていない様子がうかがえた。


「これが計測値。」


 エルミーヌがメモを手渡す、アルベールはちらりと確認すると、にやりと笑った。


「ああ、完璧だ。やはり僕の目に狂いはない。」


 エルミーヌは、アルベールの手からノートをひったくった。


「またかよ…、ほとんど一致してる…。」


 どうやらアルベールは一階でアメリアを見た時に、服の上から目視で正確な採寸をしていたらしい。


「当然だ。これくらいできなきゃ、一流のデザイナーとは程遠い。」


 エルミーヌは顔をしかめ、ゴミを見るような目で呟く。


「うわあ…。」


さてと、と、アルベールはアレックス達に向き直る。


「早速制作に取り掛かります、うちの裁縫師は一流でね、直ぐに仕上げてお届けに上がります。」


そういってエルミーヌの肩に手を置いた、彼女も少し自慢げにはにかむ。


 あっという間にデザインの決まったリリィの仕事着、しかし、アレックスはこの衣装が最高のもだという確信を感じていた。

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