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ずっと一緒に  作者: 川崎 春
隣国編
9/19

8 平和と腐敗

 隣国へ到着すると、クリス様が公爵になる為の手続きが速やかに行われた。

 この国では婚約者がいないと爵位を継ぐ者と認められない為、私との婚約手続きも速やかに行われた。


「名前を変えるのですか?」

「王族には国際情勢も入る事になる。ディアナ嬢が王子妃になった時に気付かれない為にも必要なんだ」

 お母様によく似た名前は、あまり好きではなかった。けれど、クリス様に呼んでもらって好きになった。だからどうしようかと思っていたら、前公爵……クリス様の叔父様が言ったのだ。

「愛称として今の名前が使えるようにすればいいよ。苗字もあるし少し違うだけで印象は変わるものだからね」

 そこで、クリストファーとメイフィーアと言う原型を残した改名になった。


「君達の事は今日から公爵家の一員として扱う。……この国にクリスに来てもらった理由について話すけれど、いいかな?」

 この話は周囲に話さない方がいい話だからとクリス様には言われ、ここに来るまで伏せられていた。

「はい」

 私が背筋を伸ばすと叔父様は話を始めた。


「王太子と息子は……麻薬に手を出した」

 男爵が引き取った愛らしい顔立ちの庶子。彼女を使って男爵は学園に麻薬を広めた。

 貴族の子息令嬢の集まる場所は、社交の練習場としてある程度の自由があった。寮生活する者達も多く、休み時間の教室やクラブの談話室で静かに広まる事になった。

 食事や飲み物は調べられている。そんな大人達の思惑をかいくぐって得る禁断の快感に彼らは夢中になった。侍女や護衛達が異変に気付いた時には、学園に蔓延している状態だった。結果、判断力も体も壊された彼らは暴走し……悲惨な結果を招いた。


「男爵が麻薬を広めたのは、単なる金儲けの為だった。裏など無かったよ。……息子達がこれ程(おろ)かで、我が国がこれ程に(もろ)いとは、考えていなかった」


 背徳感のままに率先して麻薬を広めた王太子と公爵令息の罪はとても重いものだった。

 身分の高い者に勧められれば、拒むのは難しい。大勢の令息や令嬢が、今も麻薬の禁断症状に苦しんでいると言う。多くの令息令嬢達が未来を断たれ、彼らの親は王家と公爵家を酷く憎んでいる。

 だから王太子殿下と公爵令息が毒杯を賜り、親戚が拒んだ爵位にクリス様が呼ばれたのだ。


 覚悟を問われた時には分からなかったその理由は、想像以上のものだった。


「我々には改革が求められている。しかし、私にはもうそれを行うだけの人望も気力も無い。投げ出すようで申し訳ないが……頼む、この国を救ってくれ」

 叔父様は、息子を失って体調を崩している夫人を優先したいのだと言う。元王女の夫人は、既に別荘で過ごしていると言う。

「最善を尽くします」

 クリス様は硬い表情でそう言った。この翌日、叔父様は王都を出て領地の別荘に戻った。


 そこから新しい日々が始まった。

 学園は閉鎖されていて、私はまだ学園に通う年齢だが通う事は出来なかった。母国となったこの国の知識が足りない事もあり、教師を付けてもらって様々な事を学ぶ事になった。

 そこで学園で教えていた先生が、私の為だけに来てくれる様になったのだ。


 隣国でも切れ者で有名だと言うクリス様のお父様……母国の宰相様の事があり、クリス様はかなり期待されているらしい。それで私にもいい先生が付けられた様だ。

 とても丁寧に教えてもらえて助かっているが、言葉の端々に今の状況に対する責任を感じているのが分かってやり辛い。しかし関係者でもないので軽々しく慰める事もできない。


 クリス様は城に泊まる事も多いのだけれど、帰宅できる日には私の様子を聞いて、不都合がないか確認してくれる。

「勉強の方はどう?」

「とても分かりやすく教えて頂けてありがたいのですが、私一人ではもったいないと思ってしまっています」

 まさか、先生達が罪悪感を滲ませて授業してくるので一人は辛いです。なんて言えない。


「そうか……」

 クリス様は少し考えてから言った。

「友達でもつくってみたら?」

 このお屋敷に同年代の方を招いていいと言う事だ。

「そうします」

 現状を打開できる事に少し安堵したものの、ツテがない。

「執事のジョセフに相談してみるといいよ」

 クリス様がそう言うので、そうする事にした。

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