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ずっと一緒に  作者: 川崎 春
隣国編

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<閑話>クリスの交渉

 メイフィーは、シルフィ夫人の手紙を読むと食欲が落ちる。

 カイン殿からの手紙によれば、シルフィ夫人はメイフィーの居場所を知ってから、情報をどうにか集めようと躍起になっていた様だ。


 商会を立ち上げようとしていたと言う話には驚いた。そこからこの国やメイフィーの情報を得たうえで移動しようと考えていたらしい。商会の立ち上げは元公爵が阻止したが、危ない。


 その事は教えていないが、メイフィーは夫人へ返事を書き続けた。


「突然お母様が現れるのではないかと思うと、怖いのです。その考えが頭から離れません」

 コリーヌにも、夜中にうなされていると報告を受けた。

「手紙を書いて読んで、返事を書いている間は……お母様はあの国を動けません。あれでも、娘の話は信用するんですよ。返事が届くと思うと、移動しないと思います」

 空元気で無理して言うメイフィーは痛々しい。


 シルフィ夫人の評価は、母国ではとても高い。王子妃(ディアナ)を大事に育てたからだ。

 そんな人が、メイフィーにだけおかしな事を言っておかしな事をさせる。当然、周囲は信じない。だから言っても無駄だと思い、耐えて育った彼女にとって……夫人は、彼女の真実を全て塗り替えてしまう恐ろしい存在なのだ。


 だから父に連絡を取って、ある法案についてそちらの国でも早く施行するように手紙を書いた。何度も。我が国では麻薬の件もあって施行して数年になる。

 メイフィーとこのままでは結婚できないと漏らしたら、

『まさか、私情で他国の法律にまで口出しするとは』

 との嫌味も手紙にあったが、父も考えていた事だと分かっていたので、単に施行を早めてもらっただけの話だ。


 それは、通行証がない者を入出国させないと言う法律だ。


 旅をするのは、基本貴族か商人に限られていた。商人手形と貴族身分を証明する紋章があれば、国境を越えたり入ったりは自由だったのだ。

 しかし最近では裕福な平民が違う国に行く事も増えてきたため、通行証は重要になってきた。

 だから、貴族でも紋章を見せるだけで国境を超える事はできなくなったのだ。夫人には通行証が発行されない。これは陛下の決定だ。


 陛下は、この事でも苦しんだと言う。僕は陛下が苦しむ必要はないと思っている。陛下の伴侶が一人なのは決まっていた事だ。選ばれない未来も考えるべきだったのだ。


 父に聞いたが……王妃様は備えていたそうだ。万一の場合には縁談をと実家に相談していたとか。元々周囲の評価はシルフィー夫人に大きく傾いていた。だからだろう。

 逃げ支度を感じ取り、必死で追いかけたのが陛下だ。それを父が後押しし、暗躍し、下馬評を覆した。

 父は、王妃様の危機感に対する嗅覚のようなものは国政に役に立っていると言っていた。


 事実「美しいだけの候補」から「麗しの王妃様」に変わり、国民の人気も高く、今も年齢不詳の美しさを維持している。手紙を僕も検めるから分かって来たのは……シルフィ夫人の能力が見せかけでしかなかったのだと言う事だった。


 ディアナ妃が産む子供が王妃様の孫である事など、結婚前から分かっていただろうに。

 「本当の孫を抱きたい」と言う言葉が毎回出て来て、「また会いたい」と締めくくるのだ。あまりに身勝手だ。カイル殿にも子が産まれるのに、それに触れていない事も複雑な気持ちになる。


 父も敏い貴族も、この事を把握していた様だ。

 それを利用する者達は、父の政敵と化していた。だからシルフィ夫人と共に彼らは一掃され、父は清々していた様だが……まさか息子の結婚を左右するとは思っていなかった。


『父上は鬼ですね』

『お前の父親だからな』

 手紙で言い合っても現実は変わらない。シルフィ夫人の人生を狂わせたツケを早く清算せねば。

 

 未来を予想出来ない、金だけ余る程持った傷心の夫人が、自分が好き勝手出来る人形のように扱うためだけにメイフィー(むすめ)の元にやってこようとしている。

 その大元が親世代のやらかしである以上、止める責任があるのだ。

 メイフィーは傷ついている。シルフィ夫人を傷つけた挙句に傷を憐れんで、メイフィーの傷を軽視するなら、僕は母国を敵に回しても構わない。


『そうならないようにするのが一番だ。そうでしょ?父上』

 手紙は届き、法は施行された。

ちなみに古語地図暗記は今の王太子妃から廃止されているので、シルフィー専用の特例です。王妃は王族なので身分証そのものがない上に、既に公務で国外に何度も出ているので適応されません。


通行証は主に貴族や平民の富裕層の出入国を国が管理するものです。

悪事に手を染めている場合に、身分が高かったり商売で羽振りが良い場合、怪しくても検問で止めるのが難しかったのですが、各国がこれを導入する事により、出入国の記録が残り、密売などを完全ではないものの防ぐ効果があります。犯罪に手を染めた者は、基本国外に出られません。


母国の王様は、宰相に脅されて決断しました。

「息子がいつまでも結婚できないと、怒ってエンキーの騎士を差し向けて来るかも知れません」

「わ、わかった!」

エンキーの強さは密かに知れ渡っていますが、同時に霊峰信仰も有名で付き合いが難しい事も知られています。クリスはエンキーと友好関係を築いている為、かなり怖れられています。

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