088 古代魔法フェスティバル1
三年に一回ほど開かれる古代魔法フェスティバルは、前夜祭、本祭、後夜祭と三日間にわかれて行われる。
ちなみに本祭と呼ばれる中の日が、エメル殿下とメレデレクの誕生日。
前夜祭は夕方より始まり、本祭は一日中。後夜祭は夕方には撤収するという流れのようで、主催となる古代魔法研究所の職員達は休日返上、家族総出でこの三日間を乗り切るらしい。
開催日が近づくにつれ最終準備に追われ始める研究所の職員達。もれなく私も忙しい日々を過ごしていた。
そんな中、みんなに協力してもらい手に入れた琥珀は、すでにきちんと箱に入れ、包装紙で包み、紫のリボンをかけたという状態で保管されている。
後は当日渡すだけ。恥ずかしいので、本祭終了後に屋敷で手渡すつもりだ。
「殿下が喜んでくれるといけど」
その点だけが心配だけれど、掘った時の苦労話を加えれば、殿下もきっと喜んでくれるに違いない。
私は準備万端で、当日を待つのであった。
◇◇◇
雨に見舞われることなく無事に、古代魔法フェスティバルの一日目が開催された。
古代魔法フェスティバルは三年に一回という周期で開催されるため、局長による開幕宣言がされた時には、すでに期待に胸を膨らませた多くの人が会場に集まっていた。
そんな大盛り上がりの会場となっているのは、帝都国立公園だ。
シティ・オブ・インペリアルに位置する大きな公園であり、普段は都会に疲れた住民が緑に癒やしを求めて訪れる、とても静かで平和に満ちた場所。
ただし今日から三日間は、楽しい曲調の民族音楽が会場中に鳴り響き、広場には多くのテントが張られ、屋台がひしめき合う事となる。
広場中央に飾り付けられた噴水はライトアップされ一際お祭り気分となっていた。
因みに噴水の真ん中に立つ英雄の像は、どうやら私達を模った石像のようだ。他の場所同様、石像も美しい花で飾られており、周囲には見物客からも花が捧げられていた。
みんなが私達の功績を、今なお忘れてないでいてくれること。それは地味に嬉しいと私も最近では素直に思えてきた。
今回のお祭りは古代魔法研究所主催ではあるが、抽選で選ばれた人々が出店をしたり、出し物をしたり、古物のフリーマーケットなども開催されている。
そもそも入場無料だし、帝国民のためのお祭りなので、貴族だけが優先的に遊べるなど、そういったことは一切ない。よって身分の差なく、みんなで楽しめるイベントになっている。
そんな中、古代魔法研究所の職員は大道芸人となり曲芸を披露していたり、占いの館で人生相談に乗ったり、お化け屋敷でストレス解消とばかり人を驚かしたり、公園内に存在するモニュメントの案内ツアーを開催したりと、趣向を凝らし来場者を楽しませていた。
エメル殿下率いる私とデミアン君のグループは、『魔法使いの館』というベタな名前のコンセプトカフェを開き、友人達をも巻き込み、来店するお客様をもてなしている。
大きなテントの下は、古代の魔法書や魔法具のレプリカが飾られ、天井からはキャンドル型の明かりがいくつも吊るされている。
テーブルには魔法陣を模した模様が描かれたテーブルクロスが敷かれ、わりと可愛らしい感じに仕上がっているのが特徴だ。
問題となるのは、制服のみ。私が史実に忠実にと頼まれ却下された制服の代わりに手渡されたものは、実に酷いものだった。
もちろん生地がどうとか、そういう意味ではない。古代魔法フェスティバルというお祭りの趣向を考慮した場合、「いいのか、これで?」と頭を捻りたくなる酷さということだ。
まず問題となるのは、頭に乗った三角帽子。
「この服をデザインした者によると、何でもそれは絶対に外せないそうだ。まぁ、三角形は、古代から魔法や魔術の象徴とされてきたからな」
こんなのおかしいと主張する私に対し、エメル殿下はもっともらしい事を口にし、私に三角帽子の必要性を説いた。
お次は、黒いソックスにストラップシューズ。
「足元が守られてないし、こんなの脛に石が当たったら痛いです」
「今日の場所に砂利はないし、石も飛んで来ないから安心しろ」
私の主張はあえなく棄却された。
「この白いエプロンと黒いワンピースはいいとして、なんでワンピースがミニ丈なんですか?ズロースをいますぐ要求します!」
怒りマックスで、ダンと魔法陣のテーブルクロスに手を付ける私に、エメル殿下は怯まない。
「その上にこのローブを羽織るから見えないと、奴らはそう言っていた」
殿下は黒いローブをヌッと私に差し出した。
「因みにテーマは魔女っ子らしい」
「はぁ?魔女っ子って何ですか、魔女っ子って!百歩譲って魔女ならともかく、いやそれも嫌だけど、「っ子」をつける意味が理解不可能なんですけど。ちょっとこのデザインを担当した人を今すぐ呼んで下さい、今すぐ!」
鼻息荒く告げる私に殿下は一言。
「だがしかし、似合ってるぞ」
「え……」
「可愛いな」
ちょっと照れた様子で、殿下はニコニコしながら私の三角帽の位置を直し、去って行った。
唖然とした顔を殿下の背中に向ける私に背後から声がかかる。
「惚れた弱みって、まさに先輩のことですね」
黒いパンツにベスト。それから白いシャツに黒いローブという、どこかのカフェで見たような安易な格好に身を包むデミアン君のからかいは、今日も健在のようだ。
「殿下がその格好を見たかったから、周囲の暴走を止めなかった説を僕は推します。まぁいいじゃないですか、喜んで鼻の下伸ばしてたし」
「……デミアン君、とりあえず頑張るわよ」
私はため息をつきつつ、どこか嬉しいような、またもや私は殿下にしてやられたような……複雑な気分を抱えたまま、業務に付くのであった。
そんな私を出迎えたお客様第一号はシャローゼ様。
「ティア、可愛い。写真取っていい?」
シャローゼ様から、エーテルフォンに搭載されたカメラ・レンズを向けられる。
「いいですけど、魔法使いがこんな格好しないですけどね?そもそも、こんな短いスカートで風魔法なんか使ったら、スカートがめくれるのが気になって、最悪死にますよ?」
「もう、台無し。今はミニ丈を謳歌出来る平和な世界よ。はい、笑顔」
指示されるがまま笑顔になり、何なら手にしたウイッチワンドボールペン付きでポーズまでちゃっかり取る私。かなりこの時代に毒されてしまっている。
心の底から、そう感じた瞬間だった。




