086 採掘体験1
フランケンシュタインカフェで知り合った青年、ユアンさんと、エーテルリンクで連絡先を交換した。
なぜなら、殿下の誕生日プレゼント用に化石を掘りに行く約束をしたからだ。
そんな私は、迫りくる殿下の誕生日を前に……言い換えると古代魔法フェスティバルの準備で忙しい時期に、有給を取るという暴挙に出た。
とはいえ、私達の係は魔法使いがテーマのコンカフェだ。
設営などは前日業者が行うし、メニューも殿下のコネにより、王宮の料理担当者数名ほどに任せる事になっている。
何より、私が監修した衣装は却下された。よって、私はある意味当日まで暇だと言える。
そんなわけで私は、フローラ様とジュディを巻き込み、化石を掘りに行く事になった。
帝都で待ち合わせをし、ユアンさんの車に乗せてもらい郊外へと仲良く四人で向かう。
「久しぶりに帝都を離れた気がしますわ」
フローラ様は車内から過ぎ去る景色に大喜びだ。
「あのねティア、こう見えてフローラ様は、男爵家のご令嬢なんだけど」
不機嫌そうな声を出すのは、ジュディ。
「それを言ったら、フローラ様は私の侍女よ?」
私は事実をさくっとジュデイに知らせる。
「くっ、だけどお嬢様にズボンを履かせるなんて」
確かにフローラ様がパンツスタイルで決めている所は見たことがない。
しかしながら、化石を掘るのに可愛いワンピースでショーツを周囲に晒しながら掘るわけにはいかない。見せパンでも駄目だ。あれは結局のところパンツだからだ。
その結果、私達はズボンにシャツにジャケット。ポケットに軍手という完全武装状態で車に乗車しているのである。
「君って、いいとこのお嬢様だったんだ」
ユアン様は、バックミラーでフローラ様をチラリとみて驚いている。
「まぁ、ジュディと私は庶民ですけど」
私は誤解のないよう告げておく。
「でも、ティアの婚約者はエメ……ぐぬぬ」
私はジュディの口を手で塞ぎ、何とか個人情報の流出を阻止する事に成功した。
「よくわかんないけど、まぁ今日はみんなで楽しもうぜ」
細かい事を気にしないユアンさんのお陰で、私は助かったのであった。
他愛もない話をみんなでしながら車で走ること二時間ほど。途中お菓子なんかも食べちゃって完全に遠足気分を満喫する私達は、とうとう目的地に辿り着いた。
海岸に沿って広がる青々とした森に囲まれた、採掘場だ。
採掘場の入り口にある駐車場には古びた看板が掲げられており、そこから奥に入っていく小さな道が見える。
「琥珀採掘体験場、トレジャーランド?」
私は看板に大きく書かれた文字に驚く。
「琥珀って、植物の樹脂が地層に埋もれて化石化した物のことですよね?」
私はユアンさんにたずねる。
「そう。神話では人魚の涙なんて言われたりもするやつ」
「まぁ、素敵ですわ。でもどうして人魚なのかしら?」
フローラ様は素朴な疑問を口にする。
「人魚姫が王子との悲恋に嘆き流した涙が、琥珀になったらしい」
ユアンさんの説明に密かにギョッとする。
「うわ、縁起悪くない?」
ニヤニヤしながらジュディが私を肘で突つく。
殿下と婚約してから、なんとなく周囲の当たりが強くなった気がする。
私は思わず薄目で「琥珀採掘体験場――トレジャーランド――」という古びた看板を眺めるのであった。
◇◇◇
琥珀採掘体験場。その名もトレジャーランドは国が運営する観光施設らしい。
入り口で意外に安い入場料を払い、私達は森の奥へと進んでいく。しばらく進むと、木々の間から採掘場の景色が広がった。
「わぁ、すごい」
「まぁ、如何にも何か掘ってそうですわ」
「フローラ様、何かじゃなくて琥珀を掘るんですよ」
各々、いつも通りな感じで、初めて見た採掘場の感想を漏らす。
採掘場は大きく開けた空間だった。既に掘り起こされた土や砂があちこちに積み重ねられており、作業員がクレーンやショベルを動かしている姿が見受けられる。
採掘場の中心部には、大きなテントや作業小屋が建てられており、どうやらそこで作業員たちは休憩をとったりしているようだ。テントの周りには掘り出された土や石が山積みにされていた。
「俺たちはここじゃなくて、あっち。小さな採掘場の方な」
ユアンさんが指差す方を見ると、人が横に並んで二人ほど入れそうな、採掘場を抜けるための坑道があった。
「この辺の鉱山は国の所有物なんだ。大きい採掘場は研究用に採掘して、研究価値のなさそうなものは、お土産として売ったりしてる。だから俺たち観光客はこっちの小さい方を使う」
ユアンさんの説明を聞きながら、みんなで坑道内を歩いていく。
ユアンさんが言うには、小さな方の採掘場も国が所有している。けれど、管理と運営は国から委託された業者が行っているとのことだった。
なんだかんだ歩くこと数分。先程より小ぶりの採掘場に到着する。
「今日はわりと空いてるね」
そう言ってユアンさんが目を向けた先には、すでに採掘に励む年配男性が数人ほどいた。皆おしゃべりをしながらもしっかりと手を動かしている。
「こんにちはー」
ユアンさんが彼らに挨拶すると、彼らも元気よく返事をしてくれた。
「おっ、今日は別嬪さんを連れてんじゃねーか。しかも三人も」
「モテる男は罪づくりだねぇ」
「おう!ユアン。今日はよろしくな!」
現在二十三歳だというユアンさんよりずっと年上の、いかつい中年男性達だ。その手には採掘用なのか、アイスピックがしっかりと握られている。見た目は少し怖いけど、どうやら悪い人ではなさそうだ。
「こちらこそよろしくお願いします」
代表して私が挨拶を返すと、奥にいた比較的若い男性が声をかけてきた。
「今日はよろしくお願いします……あ!もしかしてエメル殿下の婚約者のティアリス様!?」
どうやら私の顔に気付いてしまったようだ。
「お化粧してないから、イケると思ったのに」
プレス用にと撮影した殿下と私の写真は、かなり本気の化粧をした私。よって普段街を歩いていても気付かれる事はそんなになかった。
しかし採掘場場程度の街より圧倒的に人が少ない。それに加え、女子は三人だけという状況だ。物珍しさでよく観察した結果、気付かれてしまったのかも知れない。
「ええええ。じゃ君の婚約者って、エメル殿下だってこと?あ、そっか。殿下は古代魔法研究所の副所長だもんな。なるほど」
ユアン君が驚きの叫びをあげ、その後落ち着き、一人で納得してくれた。
実に手のかからない青年だ。
「でもなんで、そんな高貴なお方がこんなとこに」
「実際、高貴なのはこの子だけらしい。フローラさんは男爵家のお嬢様なんだってさ」
驚くおじさんの疑問にもさりげなく返事をする出来る人、ユアンさん。
「そういや、エメル殿下の婚約者っちゅう子は、庶民出の苦労人だとか」
「あぁ、うちの母ちゃんが、すでにファンだ。後で写真を一枚いいか?」
「ええ、私でよければ、是非」
私は快く了承する。なぜなら皇族マニュアルに「応えられる要求であれば、出来るだけ受け入れる広い心を持ちましょう」と記されていたからだ。
「じゃ、さっそく始めよっか」
ユアンさんの言葉に、採掘初心者の三人は大きく頷く。
有給が許された日は今日のみ。必ずや殿下が喜ぶ琥珀を手にして帰宅する。
私は久々何かに対峙する時に感じる、熱い気持ちが込み上がり、闘志をメラメラと燃やすのであった。




