061 作戦決行1
今日は私の二十一歳の誕生日。
故郷パトーラではそんな私のめでたい日を盛大にお祝いしてくれる祭りが開かれる事になっている。
街中にピンクのリボンがたなびき、美化された私の肖像画と共に、あちこちに生誕祭のタペストリーが飾られている。街道には屋台がひしめき、人々は日が落ちてから行われるパレードに参加するための場所取りに勤しんでいる。
祭りのフィナーレとして打ち上げられる花火の準備も整った。
否応なしにパトーラの街全体がお祭りの興奮で浮かれる中。私は今日の主役カトリーナさんの控室となった、大聖堂近くの宿屋に来ている。
控室となっている部屋の中では、カトリーナさんが衣装とメイクを済ませ殿下を待っていた。
昨日のヒラヒラとした愛らしいワンピースとはうって変わり、彼女は古風な魔法使いの格好をさせられている。歴史に詳しい人物が監修したとあって、素材もシンプルな見た目も、私が着ていたものと寸分違わずのクォリティー。
「ほんと、良く再現出来てる」
私は衣装の出来に花丸の評価だったのだが。
「何だかダサいですよね。もう少しフリルとかリボンとかあってもいいのに」
カトリーナさんは鏡に映る自分を見て、可愛らしく口を尖らせている。
どうやら現代人の感覚的にはダサいらしい。
当時はそれで普通に街をウロウロしていたし。
全く失礼しちゃうというものだ。
それにリボンやフリルなんかついていたら、戦闘中に邪魔でしかない。
こちとらお洒落を楽しむために、魔法使いをやってた訳じゃないっての。
「とてもお似合いですよ、カトリーナ嬢」
いつもの全て抜きなブラックコーヒー気味な殿下は成りを潜め、砂糖多め、むしろカフェラテになった殿下がカトリーナ様に笑顔を向けている。
「殿下に褒めてもらえると自信がでます。ありがとうございます。うわっ」
カトリーナ様は何もない所でつまずいた。そして手を伸ばし殿下に抱きつく。
因みにカトリーナ様が何もない所でコケたのは、私が数えるだけですでに四回め。わざとコケる事に関し、彼女は相当な手練だと言わざるを得ない。
「大丈夫ですか? カトリーナ嬢」
眉間をピクリとさせながら、殿下はすかさずその細い腰に腕を回し、抱きとめる。
「はい! 大丈夫ですわ。ふふふっ、わたしったらドジですわね」
ドジではなく計算高くわざとですよね?と指摘したくなるが我慢。
なぜなら、将来的に私の名が犯罪者と並ぶことを阻止するために、殿下が今まさに頑張ってくれているのだから。
私はイライラとしながらフリッツ様と並び、二人の様子を眺める。
自然と沸き起こるこのイライラは、別に殿下がカトリーナさんにデレデレしているからではない。
カトリーナさんが一度たりとも私に視線を合わせる事なく、完全に私という存在を無視しているからだ。
普通女の子が二人同じ部屋にいたら仲良くなるよね?
たとえそれがその場だけの付き合いだとしても、うまく取り繕って群れるのが本能だよね?
えー、なんで無視するの?
そんな疑問が頭の片隅に張り付き、カトリーナ様にイライラしっぱなしなのである。
「おっと、帽子が曲がっていますよ。失礼」
殿下がカトリーナさんのトンガリ帽子を直す。
「わわわ、ありがとうございます。殿下って優しいですね。流石です!」
わざとらしい高い声で大げさに喜ぶカトリーナさん。
「最初は私も信じてたんだけどな」
つい愚痴っぽく漏らす。昨日の時点ではカトリーナ様のことを良く知らなかったので、悪い噂はやっかみが原因だと思っていた。
しかしフリッツ様の話と今の態度を見る限り、彼女は自分の魅力を最大限の武器とし、男性が自分を好きになるよう計算高く行動していることは間違いない。
「あの状態のエメルだけみたら、女の子に骨抜きにされてる情けない皇子ですね」
ニヤニヤと微笑みながら私に告げるフリッツ様。
彼の言う通り、こんなデレデレした殿下が周囲に目撃されたら、評判が下がる事は間違いない。
「でも、我らが殿下に、あんな事をさせているのは、フリッツ様なんですからね?」
他人事全開でこの状況を楽しんでいる様子のフリッツ様に、釘を刺しておく。
「わかってますって。エメルには感謝してます。それとティアリス様、あなたにも」
悪びれる様子もなく、明るい笑顔を私に向けるフリッツ様。
彼が付け足すように口にしたあなたにも。その言葉の意味を考えると少々気が重い。と同時にワクワクする自分もいて、複雑な心境だ。
「私の役目はまだです。でもやるからには派手に、それっぽく行きますので、ご安心ください」
結局私もフリッツ様に笑みを返した。
「失礼します。そろそろパレードの方を開始したいと思いますので、カトリーナさんはフロート前に移動して頂いてよろしいですか?」
扉の外からノックと共に、先程生誕祭実行委員だと紹介を受けた男性の声が聞こえた。
「わ、わかりました!今すぐ出ます」
慌てて返事をするカトリーナさん。
「エメル殿下、今日はわたしを守る騎士様になって下さいね」
コテンと首をかしげ、上目遣いでエメル殿下にお願いするカトリーナさん。
「仰せの通りに」
恭しい顔で伝えると共に、徐ろに殿下はカトリーナさんの前に跪いた。
「やりすぎでしょ」
「やりすぎだ」
フリッツ様と私は小さな声で同時に指摘したのであった。




