↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺物扱いされる私と、遺物マニアの皇子殿下  作者: 月食ぱんな
第二章 とりあえず、巣立ちます
35/94

035 エーテルフォンは文明の力

 クラブ・レベンディスに行った翌日。

 非番である私は、ニナ様の寝室に呼び出された。


 部屋に入った途端、ぷぅんとお酒の匂いがして私はたまらず窓をあける。


「あー飲みすぎた。完全に途中から覚えてない。あんたは覚えてるわけ?」


 ベッドの上で半身を起こし、頭を押さえるニナ様。


「いいえ。まったく」


 水の入ったグラスをニナ様に手渡しながら、正直に告白する。


「じゃ、どうやって帰ってきたのよ」


 私も目が覚めて、それが一番気になった。

 しかし、その謎はすでに解決ずみだ。


「同室の子の話しだと、屋敷前までタクシーとやらに乗車し帰宅。その後メイド達とフローラ様のお力をかり、なんとか自室に戻ったそうです」


「なるほどね。あーあ、ショーンと過ごす時間は、あっと言う間だわ」


 ニナ様はため息をついたのち、グラスに入った水を一気飲みした。


「今日はもう寝て過ごすから、行っていいわよ」


 ニナ様はそう私に言いつけると、布団の中に潜り込む。


「因みに、私は今日から三日ほど非番ですので」


 念のために伝えておく。


 というのも男爵夫妻が不在のため、全体の業務内容が減った今。

 私達使用人は順番に三連休を取る事を、アーチ様より許されたのである。


 各々実家に帰ったり、普段会えない友人に会いに行ったりと、この休暇を充実させたものにしようと、前々から計画している。


 もれなく私だってそうだ。


「わかってるから、早く寝かせてよ」


 シッシッと虫を払うように、ニナ様はこちらに手を振る。どうやら本日に限り、彼女の戦闘力はゼロなようだ。こういう日に非番である事が少し悔しい。


 しかし、休みは大事だし、そもそも今この瞬間もサービス残業のようなものだ。長居は不要というもの。


「では、失礼いたします」


 私は軽く頭を下げ、寝室を後にする。


「二日酔いなんて、百五十年ぶりなんだけど」


 私はズキズキと痛む頭を押さえる。


 塔の中でアルコールを発見できず、仕方なく断酒していたので、昨日は本当に、本当の意味で百五十年ぶりのお酒だった。だから余計に悪酔いしたのかも知れない。


「さてと、休日は有効に使わなくちゃ」


 私はその場で伸びをして、いそいそと屋敷の玄関に向かうのであった。




 ※※※




 屋敷を後にしてから数時間後。私はついに、みんなが揃って「持ってないの?」と驚く、例のアレを入手した。


 また一歩、現代社会に飲み込まれてしまった私は、美味しい紅茶が飲めると評判の店にいた。


 柔らかな灯りが落ち着いた色調で統一された店内を照らしている。のんびりと穏やかな雰囲気に二日酔いもだいぶよくなってきた。


「赤くて可愛い、嬉しいです」


 私はゆったりとした椅子に身を沈め、手のひらサイズのエーテルフォンを眺める。


「ようやくティアがその存在に気づいてくれて、私も嬉しいわ」


 向かい側の席からシャローゼ様の声が飛んでくる。


 実のところ、もともと今日は彼女とお茶をする約束をしていた。


 ニナ様の予定が急に入り振り回されてしまったが、今日は這ってでもシャローゼ様とお会いする事に決めていたのである。


 なぜならシャローゼ様が事前に「巷で一番人気の機種」と謳われているエーテルフォンを購入し、セットアップという作業まで完了した状態で、私に譲ってくれる予定になっていたから。


 お手間を取らせてしまった上に、当日キャンセルは人として有り得ない。しかもお金も払わなければならないので、今日は絶対に外せない日だったのである。


 そもそもエメル殿下の元を去った私が、なぜ殿下の親類であるシャローゼ様と連絡が取れたのかというと、私が彼女のお屋敷に手紙を送ったからだ。


 たくさんお世話になったのに、挨拶もなしに姿を消すのはルール違反だと思ったし、何よりこの時代で初めて出来た同性のお友達。さらに彼女は私の素性を知っている数少ない人でもある。だから彼女との縁は大事にしたかったのである。


「どう?気に入った?」


「はい。でもみんながとても便利そうに言うけれど、私はまだこれの良さがわかりません」


 私はジッとテーブルの上に置いたエーテルフォンを眺める。


「そうね。そうやって眺めるものじゃないからね。ほらここ、画面をタッチしてみて」


 言われるがままに私は自分が映る、黒い部分に触れてみる。すると画面と呼ばれた部分が急に明るくなり、済ました顔のエメル殿下の写真が現れた。


「うわ、びっくりした」


「ふふ。驚くだろうなと思って、私が待ち受けに登録しておいたの」


「悪趣味ですね」


 私はこちらを見つめるエメル殿下から、たまらず視線をそらす。


「あら、それは皇族の公式ホームページで公表されている中で、唯一エメルがカメラ目線の写真なのよ?その写真を待ち受けにしてる貴族の令嬢を私は何人も知ってるわ」


「じゃ、勿論シャローゼ様もですよね?」


 絶対違うだろうなという確信を持ち、あえてたずねる。


「私は飼ってる魔物のモコちゃんよ。ほら可愛いでしょ」


 得意げに自分のエーテルフォンの画面をこちらに向けるシャローゼ様。


 そこに映るのは、一見するとうさぎのような、ふわふわした黒い魔物だった。


「そんな魔物もいるんですねぇ」


 少なくとも百五十年前にはいなかったと、私は記憶を遡り確信する。


「これは私達人間が、魔物とうさぎを交配して作った品種よ。だからティアのいた時代にはいなかったと思う」


「そんなことまでしちゃうんですね」


 私は複雑な気持ちになる。


 百五十年前には恐ろしいものの代表格だった魔物。それが今や元々自然界にいた動物と交配され、新たな生物として人々から愛されているという事実。


 敵さえも愛玩する対象にしてしまう人間こそ、実は一番恐ろしい存在なのかも知れない。


 正直、私にとって未だ魔物は忌むべき存在で、この世界から消去すべき存在だと思う気持ちが消えていない。


 だから魔物を愛でることは、まだ当分無理そうだ。


 けれど、魔物にとっても、人間にとっても、争わず共存する事ができるならそれに越したことはないとも思う。


 実に複雑な問題だ。


「そう言えば、エメルにあなたのエーテルリンクのアドレスを教えておいたから。そのうち連絡が来るかもね」


 一人しんみりする私に、シャローゼ様がとんでもない爆弾を落とす。そもそもエーテルリンクとは、一体なんのことなのか。それをまず私は知りたい。


「エーテルリンクはほらここ。このアイコンを押してみて」


 まるで私の心を読んだかのようだと驚く。


「百五十年のブランクがあるもんね」


 シャローゼ様はニコリと微笑む。

 優しい彼女に感謝しつつ、指示された通り、画面に表示された緑色の四角いアイコンに指先で触れてみた。


 すると画面の中に二名の名前が表示された。

 一つはシャローゼ様で、もう一つがエメル殿下だ。


「余計なお世話かなと思ったんだけど、一応エメルはティアの身元引受人だから。それと、私の連絡先も登録してあるから、今度からはこれで連絡とろう」


「はい」


「これは通話だけじゃなくて、メッセージも送信できるの。今ためしにティアにおくるね」


 シャローゼ様は言いながら、自分のエーテルフォンを慣れた手付きで操作した。するとすぐにテーブルの上に置かれた私のエーテルフォンがブルルと音をたてた。そして画面に「やっほー」と文字が表示されている。


「まさかこれは」


「そう、今私が送ったの。じゃ、今度はティアから私に送ってみて」


 私はシャローゼ様に操作を教えてもらいつつ、なんとか文字をうつ。そして送信ボタンをポチッと押してみた。すると今度はシャローゼ様のエーテルフォンがブルルと震えた。


「もう到着したんですか!」


 驚いた声をあげながら私が顔をあげると、シャローゼ様が自分のエーテルフォンの画面をこちらに向けていた。そこには「こんにちわ」と私が先程打った文字が書かれている。


「すごい……」


 思わず言葉を失ってしまう。


「ね、手紙より楽でしょ?」


 シャローゼ様の問いに、私は大きくうなずく。


「これを発明した人は、石像となって後世まで語り継がれますね」


 むしろアルカディア城の前にある私達の石像が風化し、ボロボロになって崩れてしまったら、是非ともこの技術を開発した人の石像に変えるべきだと、本気で思う。


「確かに。でも安易に連絡が取れるからこそ、気を病む機会も増えちゃったんだけどね」


「どういうことですか?」


「ふふ、すぐにわかるわ。それより他に連絡先を登録したい人はいないの?私がやり方を教えてあげるわよ」


 シャローゼ様に問われ、私は登録者二名の画面をジッと見つめる。なんだか知り合いが増えた気がしたけれど、私には連絡先を交換する人が二名しかいないようだ。


「あ、でも屋敷に帰ったら、メイド仲間数人の連絡先が増えるかも」


 画面に表示される友達が増えるのは、ちょっと楽しみだ。


「そういえば」


 私はふと、とある人物から手渡されたカードの存在を思い出したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。