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風学科入学初日

これ以降の次話は、特に記載が無ければレイ目線で進みます。

 レイside

 ついにこの日が来た。

 子供学校を卒業してここに入って魔法を学べるようになり、まずやりたかったのは風魔法を習得することだ。

 僕の夢の実現には、何よりも風魔法が必要だった。


 空を飛ぶこと、一瞬で別の場所に転移すること、何よりも速く移動すること。

 いずれも、風の力を使いこなせば叶えられる内容だ。

 他にも色々魔法でやりたいことはあるけど、今の目標はとりあえずこれらを完璧にマスターすること、できるようになることだ。


 僕は自由に飛べる生き物を見て、それに憧れた。

 自分の数倍の速さで走り回る生き物を見て、その速さに憧れ、追い付きたいと願った。

 所詮子供の馬鹿な夢、大きくなれば諦める。周りの大人はそう言ってたけど。

 でも、そうはならなかった。僕の夢は、いまだにあの時のまま。

 僕の願う夢は、何一つ変わってない。必ず、不可能を可能にする。


 そんなことを考えながら僕は風学科の教室にやってきた。

 ――――誰も居ない。遅れた?

 そう思い、教室の壁にかかっていた時計で確認すると、25分前を指していた。

 教室はあってるけど、未だに誰も居ない。早く来すぎたかな?

 そう思いつつも、僕は黒板に張ってあった張り紙を見た。

 ――――早いもの順で好きに座って良いみたい。なら、僕が座るのは教卓の前の椅子だ。

 授業を他の何処より集中して受けられる。

 ここを選ばない理由は無かった。


 そうやって席に座ってから15分が経った。

 ――――教室は合っているのに何で誰も来ないのだろう?

 後10分で先生は来るはずなのに……。

 そんなにこのクラスって合格率低かったのかな……?


 後5分。誰も来ないなら一人でやるのかなって思っていたら、誰かが入ってきた。

 ……先生かな? 随分のんびりした感じだけど、大人の女性だし、おそらくそうなのだろう。

 しかし、どこかやる気なさげだ……。


「……全く、どうせここには誰も来ないんだから……ってうおっ! こんなところに来る子が!」


 ……何をそんなに驚いたんだろう?

 合格通知も来たからここに来たのに……。


「……えっと、クラス間違ってない? 風学科に来る子なんてまず居ないんだけど……」


 ……へ?

 それってどういうことなの?


「……ああ! 一人専願で受けたって聞いたけど、その子か!」


 ……うん。

 確かにその子だよ。多分。

 専願で受けたしね。


「その子か。じゃあ、はいこれ」


 その人は突然僕の座っていた椅子の前の机に緑色の水晶玉を置いた。

 宝石のような輝きに思わず目を奪われる。

 ……これは何ですか?


「うん。風学科で入学したんだから、とりあえず手を置いて」


 ……えっと、すみません。

 突然これに触れって言われても話が分からないんで、もうちょっと詳しく説明してください……。


「(説明から?めんどいなあ……)風学科入学の証として、それに触れて風の魔力を取り入れるの。それで晴れて風学科の生徒になるってわけ」


 ……何かすごくめんどくさそうに説明してきた。

 まさか、噂は本当で、風学科は退学への一本道学科だったの?

 でも、もう後には引けないや。先生が駄目でも、努力して自分で乗り越えてやる!


「うわ、本当にやる気……?」


 先生が何か言ってるけど気にしない。

 僕は、風魔法を学ぶためにここに入ったんだ!

 そのために必要なら、ためらいなくこれに手を乗せる!


(……っ!?)


 ……そして水晶に手を乗せた瞬間、何かが僕の体を通り抜けた。

 それが通り抜けた後、僕の中に何か温かい物が湧きはじめた。

 ――――これが風の魔力?


「……本当に乗せちゃった。多分すぐに後悔すると思うけどな~……」


 …………この人はそんなに僕の邪魔をしたいんだろうか。

 ちょっと頭に来たし、一言言ってやる。


「――――僕は、僕自身の意思で風学科に入りました。周りが何を言おうと、ここがどんな所であろうと関係ないです。僕は僕の道を進みます」


 ……この人、なんで目を丸くしてるの?

 そんなに変だった? 今の言葉?


「……これが、時間割表、こっちが、風の塔……緑の塔の鍵と学校の地図ね。なくしちゃだめだよ」


 時間割表は……え?

 何、これ?


「先生、時間割が全て自習ってどういう事ですか?」


「そのままの意味。あなたにやる気があるのなら、自習ですべてを磨きなさいってこと。ちなみに、専願者は君だけ」


 うわあ……。僕一人だけ?

 辞退学科、落ちこぼれ集積場などと言われる意味が良く分かりました……。

 皆さんのあの反対は善意だったんですね……。

 でも、それでも構わない。夢のためなら、なんでもしてみせる!

 でも、その前に一つだけ聞いておきたい。


「先生は、質問すれば正確な回答をくれますか?」


 この人に聞くのはこれだけで良い。

 やる気が無いなら自ら教えてくれなくていいです。

 あらゆる手段を使ってでも、勝手に学びます。


「良いよ。多少なら、答えをあげる」


「分かりました。じゃあ、自習してきます」


「ああ、ちょっと待って。この水晶、持って行っていいよ」


 は……?

 それって確かすごく重要なんじゃ…………?


「風の魔力を出すトレーニングでもするんだろうから、使っていいよ。どうせ君しか使わないし。ふあ~……」


 眠そうに欠伸する先生。

 さっそく寝ようとするの?

 この人の呼び名、駄目教師から駄目人間に降格してもいいかな?

 ……それはともかく、この水晶は借りていきます。

 ありがとうございました。


「誰も見ないと思うけど、勝手に頑張ってね~……」


 もうこの人に話しかける気力はなくなっちゃったよ。

 いきなり出鼻を挫かれるってこういう事なんだね。

 まあいいや。これから頑張ろう!






ーーーー






「――――こんなに広いのに、風学科って誰も居ないんだね。本当に僕だけだ……」


 教師値を出てから訓練室まで歩いていく。けど、誰にも出会わない。

 ある意味凄いよねこれ……。

 調べていたら分かったけど、訓練室って文字通り魔法を使うための練習場の事みたい。

 そこでなら好きに魔法を使えるって校則にも書いてあったし、そこで魔力を使うための練習をする。


 でもここ、安全なのかな?

 まあ、僕一人しか居ないから問題ないか。

 なんかすごく金の無駄遣いをしてそうだね。

 一人も居ないところにわざわざ金をかけて施設を作ったり、維持できるものなのかな?

 ……ああ、多分試験代金かな。入学辞退しても返金されないから、すごくお金が集まりそう。

 風学科が潰されないのってそのせいかもしれないね。


「っと、ここかな。訓練室。書いてあるし、ここで間違いないね」


 歩きながらこの学科の感想を抱いていたら目的地についたみたい。

 部屋の前の札には「訓練室」の文字が。

 さて、まずは魔力を体の中から出したり、任意で動かせるようにしないと!

 これが出来ないと何も始まらない!


 でも、どうやったら良いのかな? イメージ?

 そもそも魔力ってどうやって使うんだろ?

 ……まあとりあえず、思いつく限りの方法を試してみよう!

 体の奥に魔力らしきものは感じるし、まずはそれを外に出す感じでイメージを固めていこうか。






ーーーー






「うーん。また失敗か……」


 あれから何度も魔力に意識を向け、なんとか体の中を動かすことは出来るようになった。

 でも、体の外に放出しようとしてもうまくいかない。……難しい。


 ――――魔力を外に出す。違う、手の表面に集める?

 これならどうなんだろう。でも、魔法は基本的にイメージだ。

 基本的に身体の奥底にある魔力を何らかの形で物質に変え、作用させる。

 それを魔法の式として構成して、実体化したら完成する、らしい。

 そう入学前に渡された魔法の説明書には書いてあった。


 手の表面に集める、か。よし、次はそれで魔力の移動をやってみよう。

 だってただ闇雲に魔力を外に出すことだけ考えてもうまくいかない。

 だったら、体の中で最も外に近いところに沢山集中させれば!


「……手の先に、指先に……!」


 意識を集中させるために呟きつつ、魔力の塊を手の先に集める。

 ――――直後、手の中に今まで感じたことのない感覚が生じた。

 その感覚を指の先に集めていく。

 指先に集まると入りきらなくなるから、外に、手の表面に指先から流れる感覚をイメージして集中する。

 すると、手の表面に何かが纏わりついたような感覚がした。

 目を開けると、僕の手に緑色の光が纏わりついていた。


「……出来たの?これが僕の魔力?」


 手の表面にまとわりついた魔力を掌に集め、玉を形成するようなイメージを浮かべる。

 すると、先ほどまで手全体を包んでいたものは開いた掌に集まり、形を整えだした。

 掌で覆える程度の大きさの球体を頭で意識したためか、そのイメージ通りに完成し、その球体が手に張り付いていた。

 ――――出来た!

 じゃあ、最後は、これを手の向いている方向に飛ばせれば!

 成功すれば、魔法の完成だ!


 掌に張り付いている球体がそのまま正面に飛んでいくイメージを形作る。

 そして、鍵となる言葉を、魔法の名前を唱える。


「――――エアーショット! 行け!」


 その瞬間、僕の掌から緑色の球体が放たれ、壁に向かって真っすぐに飛んでいき――――そのまま壁をぶち破った。

 そして、それに喜ぶ間もなく僕の体に異変が。

 身体が怠くなり、力が入らなくなっていく――――。


「……え? なんで……? あれ、なんだか、体の調子が……」


 そう。僕はこの時、集めた魔力が自分の中の全部の魔力だったことを完全に失念していた。

 掌で覆える程度の大きさの球体だったが、その中に込められた魔力は腕を通して集めた魔力。

 つまり、僕の中のすべての魔力だった。

 知らず知らずのうちに魔力を圧縮してしまい、見た目に騙されて放ったそれは、僕が全力で出せる最大の一撃だったのだ。そして、魔力切れを引き起こした。


「あ……身体がだるい……全然動けそうにない…………貧血みたいにくらくらする……」


 なすすべもなく倒れた僕。

 ――――不味い。誰も来ないっていう事は、助けを呼べない。

 でも、意識が遠くなってきて……。


「う……。寝ちゃ、ダメ……。誰、か……」


 そのまま完全に意識を失ってしまった。

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