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二十八日目 生贄は不良生徒(1)

 今日は休日だ。と言っても、今日は別に勉強や術式にかかわるつもりはない。アルと模擬戦闘大会を見に行くためにアルを呼び出し、一緒に行くつもりだ。


「レイが僕を呼ぶなんてすごく珍しいね。どうしたの?」


「そうかな?そんなに珍しい?」


「うん。だって僕やミリアが行けば渋々つきあってくれたけど、レイから誘ってくる事は無かったしね」


 ああ。確かに僕からアルやミリア、他の生徒に話しかけようとする気は無かったし、向こうから話しかけてこなかったら無視してたね。


「……別に良いでしょ。それよりも、アルにちょっとした頼みがあるんだ」


「僕に?」


「うん。今日の模擬戦闘大会、見に行かない?」


「ええ!?駄目だよ。魔力の色が違うし、それに……」


「大丈夫。今日は誰でも入れるってリオが教えてくれた。光学科のストレス解消のために使うみたいだけど……」


「……それって、本当に大丈夫なの?実はレイも僕も叩き潰される、なんてことは無いよね?」


 アルがここまで尻込みするって‥‥。まあ、そんなことで諦めないよ。


「はあ……アルが何を恐れているのかはしらないけど、光学科なんて別に怖くないよ?」


「そうじゃなくて、光学科は、その……」


「敵?」


「……うん」


 人にあんな絡み方をしておいて、自分はそんなくだらない理由で逃げるのは許さない。‥‥アルの強引さを見習って無理やり連れて行こう!


「まあまあ。別に殺し合いをするわけじゃないんだしさ……」


「で、でも……僕が闇学科だってばれたら……」


「心配無用!それに、嫌がっても強引に連れて行くからね」


「えええええ!?」


「ほら、行こうよ!」


 無理やりアルの腕を引っ張って連れて行くことにした。まあ、こうすればアルは断れないでしょ。


「ちょっ!レイ!引っ張って行かないで!」


 だって、前に同じやり方で無理やり外に連れ出されたし。別に良いでしょ。


ーーーー


「うわあ……色々な学科から来てるね……」


 赤色、青色、水色、紫色のローブの人があちこちに居る。それに、黒いローブの人も少しだけ居る。


「ねえ、どうしてこんなことになってるの?レイ」


「ふふ……聞きたい?リオから聞いたから間違いない情報だけど」


「……うん。教えて」


「実は、今日の模擬戦闘大会は素行の悪い生徒を叩きなおす役割も兼ねているみたい。だから、今日は光学科の生徒対他の学科になるみたい」


「はあ……というか、どうして他の学科ならまだしも闇学科まで……」


 アル以外にも闇学科の生徒が居る。ほら、だから問題ないって言ったじゃん。


「だから言ったじゃない。問題ないって」


「う。うん……」


 アルは渋々納得したと言う感じだ。


「さて、と。あっちの席でゆっくり観戦しよう」


 ちょうど人がほとんど居ない場所を見つけたのでそっちに行くことにする。


「え!?あ、待って!レイ!」


 僕たちはそっちの席に移動した。


ーーーー


「さすがに、ここからだと試合が良く見えるね」


 結構高い場所に座ったため、試合の行われる場所は良く見える。


「うん……だけど、本当にその模擬戦闘、大丈夫なの?」


「当たり前じゃん。実際に殺しあうわけじゃないんだから」


 そんな実際に殺しあうような真似をするはずがない。


「そうじゃなくて……その、酷いことになったりしないかな?」


 は?


「どういう事?」


「だから、敗者を一方的に攻撃するなんてことに……」


 ああ、なるほど。でもさ、アル。


「それの何が悪いの?」


「え?」


「死にはしないんだから構わないよ。それに、今日は周りに威張り散らしているような生徒を倒すためにやるんだろうしさ。ああいう馬鹿は死ぬか無駄に高いプライドを粉々にしないと治らないもん」


 イビルみたいにさ。


「でも……可哀想だよ」


 アルは優しいのか、甘いのか‥‥。どっちなのかな?


「アルが虐められていた側で、その加害者を周りがやっつけてくれるとしても?」


 僕は直接叩き潰したけど、周りが皆そんなことが出来るとは思わない。この前の水学科のように、オドオドしてまともに話せない人間が仕返しできるなんて思わない。そういう人たちがメインで集まってるんじゃない?もしくは、光学科の魔法を見たいと願う者達。


「それは……でも、やっぱり間違ってるよ……」


「じゃあ、具体的にどうする?いじめをする側を徹底的に潰さないと終わらないと思うけど?」


「レイのようにできれば良いけど……そんなこと出来なかったら、こうやって他の人にしてもらうの?こんなのおかしいよ……」


「……でも、こうしないと駄目なんだ。正義の名のもとに自分にとっての悪を斬ってくれる強い存在が居ないと、弱い人はどうしようもない。守ってくれる人なんて居ないし、自分にはどうすることもできない。それが精神と肉体のどっちの問題とかは全く関係ない。ただ、自分では勝てない。ならば、強い存在に頼る。それしかないんだよ。アル」


 もしその弱い人が強くなったら話は別だ。でも、そんなことはありえない。だって、強くなることが出来ないからこういう物に頼ってしまうんだ。これでいじめをする奴がいじめなくなることは余り無いからまた同じことが起きる。そしてそのたびに問題が深刻になっていくかもね。でも、これが圧力としてはある意味最適だ。とりあえず効く人には効くんだから。


「レイが言うような強い存在に頼るんじゃなくて、弱い人が強くならないと駄目だよ……こんな方法じゃ、何も変わらない……こんなことに頼るくらいなら、皆が強くなってこれを要らない物にしないと駄目だよ」


 まあ、アルは甘いからね。でも、それもまた一つの方法かもしれない。‥‥皆が強くなったら、か。でもそういう方法だと、皆が強くなったときに元から強い人の相対的な価値はどうなるのかな?これで戦う事で存在を示せている人たちは、どうなるのかな?そう考えてしまうよ。


「分かってるよ。レイの言ってる事と違って、僕のは叶えられるはずもない理想論だってことくらい。でも、可能性は無いわけではないでしょ?」


 ‥‥そういう答えか。‥‥なら、弱い人が変われるか、一度実験してみても良いかな。どうせあの水学科の子には友達も居ないだろうし。ゴミ専用の使い捨てのサンドバッグになるくらいなら強化してみるのも良いかも?それでアルの言うような結果になったらそれはそれで面白いよ。


「……レイ、何をするつもり?凄く面白い物を見つけたような顔になってるけど……」


「ああ、アルには関係ない……とは言わないよ。アルの理論を実証できるか、ちょっと実験してみる」


「え?……実験?」


 ふふ。アルの言うとおりになったら凄いな。でも、そんなことはありえない。あの水学科の子が変われるはずがない。いや、あの子に限らず弱い人は変われないよ。きっと。


「さて、試合を見ようかな。誰が光学科に叩き潰されるんだろう?楽しみだね……」


「……レイ、実験って何?何をする気なの?」


 僕は試合が始まる場所に意識を向けた。いよいよ、試合が始まる‥‥。


ーーーー


 第三者side


 そこは異様な雰囲気だった。光学科の訓練室を使った大会が始まるその時を光学科の生徒たちが試合会場の入り口と反対側のドアの奥で待ち望んでいたのだ。彼らの狙いは屑を徹底的に叩き潰し、ストレス発散することや自分の優秀さ、潰した相手の弱さを周りに知らしめ、自分の強さを誇示することだった。むかついた相手を学科問わず叩き潰せる模擬戦がついに実現した。


「いよいよだ。やっと潰せるんだな?」


 光学科の生徒の一人がこの時を待っていたとばかりに言い放つ。


「生意気な落ちこぼれが。光学科に逆らってただで済むと思うな」


 この生徒も、水学科に喧嘩を売られて勝利したものの、結果を無効にされていたのだ。


「ふふ……やっとサンドバッグに出来るんですね。レイの言った通り、メリシア先生は知らないだけでしたね」


 リオも今回はやる気である。メリシアがこれまで勝手に無効にした水学科相手の決闘の勝利結果を有効にして、更にサンドバッグの請求も「相手から決闘を挑んで来たら」有効にしたのだ。つまり、リオもサンドバッグを潰せる事になる。


「ああ……早く潰させろ……」


「待ちきれないです……」


「ああ、潰してやる……」


 まるで何かに取りつかれたかのように獲物を待ち望む光学科の生徒たち。彼らは、皆水学科の不良生徒に絡まれた結果決闘し、勝ったものの全て無効にされていたのだ。その結果を有効にされたため、満場一致でサンドバッグとしての不良生徒の招待を望んだ。


「リオ、今回のお前の判断はまさに最高だ!」


「メリシアに話は通じないと思っていたが、実は通じたんだな!」


「誰がリオにそんなことを教えたの!?」


 今回の水学科の不良生徒討伐作戦のリーダー格はリオである。レイが言った通り、メリシアは相手が屑だと知らなかっただけなのだ。そしてリオは、そのことをメリシアに伝えた。すると、メリシアはすぐにこれまで無効にしてきた結果を有効に変えたのだ。ここに集まった光学科の生徒全員で合計22回分のポイントが集まった。そのため、まだ後21回彼らをこの模擬戦闘大会で潰せるのだ。それも、時期等問わず。


「ふふ。知り合いも選べって事ですよ。良い人を選べば凄く助かりますしね」


「いいなあ!私にも紹介してほしい!」


「こんなアイデアを出せる奴がいるのか!」


「まあ、内緒ですよ。本人の了解なしに教える気はありません」


「はあ、そんな取引相手が俺にも欲しいぜ……」


 本来対立するばかりの光学科が異常に仲が良くなるのも、この模擬戦闘大会の不思議な効果であった。彼らがいくら普段対立していても、それを消し去ってしまえるくらいの効果がこの模擬戦闘にあるのだ。


「そろそろ生贄が到着しますね。確か、6人でしたっけ?」


「みたいね。実際はこの6人だけに私たちは喧嘩を売られていたみたいね」


「ああ。俺たちの事をなめている奴らだ。徹底的に叩き潰して二度と逆らわないようにしてやろうぜ!」


「そうですね!行きましょう!」


 光学科が水学科の不良生徒と模擬戦を行う。それは本当にただの模擬戦なのだろうか‥‥。水学科の不良生徒を叩き潰すための鉄槌は今振り下ろされた‥‥。

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