二十三日目 ヨハン霊薬
今日は、ミリアが来る日だ。‥‥それにしても、昨日あれだけ泣いたからか、一昨日イビルを叩き潰したからか、すごく気分が良い。こんなにすっきりしたのはいつ以来だろう。
「あ、レイ。おはよう」
言ってたら来たね。
「ミリア、おはよう。今日もあの説法を聞く?」
あの説法、役に立つのかな?
「うん。だって、あれを聞いておいても悪いことは無いから」
‥‥物好きと言うか、なんというか。
「分かった。じゃあ座って。そろそろ始まるから」
僕とミリアは薬学の授業に意識を向けた‥‥。
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リオside
はあ、まだこいつら居るんですか。さっさとやめればいいものを。あなたたちのような馬鹿が何をしても無駄ですよ‥‥。まあ、おとなしくなれば現状放置ですけどね。
「おい、ダース。それ、分かるか?」
「ええと、これはラルゴ霊薬が……」
情けない知恵の出しあいですね‥‥。そんな物に頼る時点で駄目なんです。そういうものは、一人で全てやらないと。勉強を人に頼るなんて駄目な人のすることです。こんなの、私なら公式の中の素材を実際に使って覚えますよ。だって、大抵の素材は安物ですからね。
「ねえ、イビル、これは……」
「ああ、ヒルダ。その知力草は……」
ふう。こういったことをしてまで生き延びたいのでしょうか?それとも、この前のレイとの共同討伐の後に観客だった光学科の生徒に更に袋叩きにされたせいでこの学科の人間を信用してはいけないと気付いたのでしょうか。まあ、現実を知ってよかったですねと言ってあげます。弱者であるあなたたちは何をしても駄目なんです。所詮無駄なあがきですよ。
「おい、ジョー。これは……」
「ああ、イビル。それは……」
しかし、彼らだけが共同作業をする中、他の者は皆一人です。まあ、我々にとっては普通ですが。……それにしても、彼らが帰って来た時の表情は最高でしたね。レイに見せてあげたかったです。青ざめてガタガタ震え、全員寄り添って行動していました。まさに虫の集まりのような状態でしたね。レイの名前もあれから一言も出ません。復讐でもするのか?と思いましたが、どうやらその気も無いみたいですね。彼ら六人はただ、生き残ることを目指して結束しています。まあ、当然でしょうね。それだけ洗礼は効いたのでしょう。‥‥あ、メリシアが来ました。
「こんにちは。……おや、落ちこぼれにしては珍しい。まさか、あれで止めないのですか?凄いですね」
まあ、ある意味凄いですよ。あれだけ叩き潰されて無気力になるどころか、結束して強くなりました。メリシアでなくても驚きます。私なんか驚いて思わず「あなた達はマゾヒストですか!?」と叫びかけました。叩き潰されて止める人なら姉の話を聞いても居ましたし、これから沢山出ると思いますが、このようなパターンは前代未聞です。
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レイside
あいつらは馬鹿を通り越した何かなのだろうか。だって、あそこまでやられて止めないなんて‥‥。まあ、もう僕には興味も関心も無くなったみたいだから良いや。関わってこない限り、無視しよう。
「レイ、今日は大丈夫なの?」
「ああ、うん。悩みの種が無くなったしね」
「そう。解決できたんだね」
「うん。本当にすっきりしたよ」
まあ、結果が良かったから良いのかな?他人に頼ることが完全に出来なくなって、生き残るために唯一組めていた六人で一緒になったってところか。
「ねえ、レイ。聞いていい?」
「何?」
「アルと、何かあった?」
「……?……何でそう思ったの?」
「だって、レイの顔、なんか苦しい物を全て捨てきったような感じになってるから」
苦しい物?‥‥ああ、思い当たるものが結構あるよ‥‥‥‥。
「そう……かも。色々吐き出して、空っぽになった」
リオとアルには素直に感謝するよ。本当に。
「そっか。レイにも友達できたんだね」
‥‥は?
「えっと……?今の言葉でどうしてそうなるの?」
「だって、悩みを言ったからすっきりしたんでしょ?そんなの、友達に言うしかないよ」
友達‥‥ねえ。リオは互いに利用する関係だから少し違う。アルは‥‥まあ、少しだけ信じても良いかも。でも、それを言おうとすると何で恥ずかしいのかな?
「片方は取引相手で片方はただの知り合いだよ」
「取引相手?それも十分友達だよ」
言われるとそんな気がするけど、違うと思う。‥‥とりあえず話を聞こう。
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「さて、それでは、本日の薬学の講義を始めます。本日は、22ページを開けてください」
「22ページ……愛の秘薬?なんじゃこりゃ?」
「愛なんて、薬でどうにでもなるって事かな?」
「はい。静粛に。この霊薬を作ったのは、ヨハンと言う学者です。彼は学者でありながら詩人でもあり、意中の相手には愛を囁き続けたとも言われる変な男ですが、彼の霊薬は二人で一緒に飲むと恋に落ちるとか言われていますね。まあ、所詮迷信は迷信。そんなことは起こりません」
まさか、今日はそんなへんてこな薬を作ることになるのかな?‥‥馬鹿馬鹿しい。
「それでは、薬の概要を説明しますね。これは、ヨハン物質Lとヨハン物質Oとヨハン物質Vとヨハン物質Eから構成されている霊薬です。この四つの根源物質から構成されている霊薬の効果は、同時に飲んだ人を恋に落とすとか言われていますが、そんなことはありません。胸の鼓動が早くなり、顔が熱くなる。その程度の薬ですよ。その症状を目の前の相手も起こしている。だから、互いに相手が好きなのだと錯覚させる。そんな薬です。なので、絶対に作ってはいけません。材料も高いですし、無駄に金を出す必要はありませんからね。こんなものに頼ってはいけませんよ、良いですね?」
‥‥何だ。くだらないな。さすがに今回は飲まないでおこうか。毒薬のようなものだし。
「ねえ、レイ。……一緒に、飲まない?」
好奇心が強いのは良いけど、それは嫌‥‥。
「嫌。飲むなら一人でどうぞ」
「だよね」
「こんな毒薬飲む馬鹿居ないって……」
それって、いわば魅了の一種だし。
「さて、こんなくだらない薬の事はこれくらいにしましょう。さて、今の内容、構成物質の事を覚えなさい」
はあ、くだらない話だったね‥‥‥‥。
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「じゃーん!今日は、このジュースを飲んでもらいます!」
‥‥先生がやけにハイテンションで言ってきた。
「失礼します」
‥‥やっぱりか。帰ろう。
「って、ちょっと待て!いきなり逃げるってどういう事!?」
「だって、それ毒薬ですよね?」
「ヨハン霊薬を毒薬呼ばわり!?これでも、夜の薬って別名があるのに!」
「ますます要りません。失礼します」
「あ、先生。私も結構です。失礼します」
「あ!ちょっと……!……はあ、子供に恋の秘薬は早すぎたか……でも、待てよ。光学科の子と一緒に飲ませれば……」
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「リオ?珍しいね……」
「……何故か、呼ばれてレイと一緒にこれを飲んでくれと言われました……」
「……捨てよう」
「まあ、これがヨハン霊薬だということは知っています。でも、しょせん薬の効果は一時間も無いですよ」
「そうだとしても……」
「……さすがに、これを簡単に捨てるわけにはいかないんです。運が悪いと、植物や動物の異種交配まで起こりかねませんし」
考えるだけで恐ろしいことを言わないでよ。
「……仕方ない。どうせ僕もリオも打算だけで動く人だし大丈夫だろう」
「では、これを。私はこっちを飲みます……」
まあ、リオがそんな表情をするなんて想像もできないけど。そう考えながら、霊薬を一気飲みした。
「……う!?胸が、顔が、熱い……!」
胸がドキドキする!顔が熱くなってくる!
「……大丈夫、所詮これは薬の効果……私がそんな愚かなことを考えるはずがない……」
どうしよう。胸の鼓動が急に早くなって顔が熱い。‥‥所詮薬と馬鹿にしてたけど、そうと分からなかったらこれは不味いかも‥‥。
「……大丈夫、ですか?」
‥‥リオ!?一体どうして、何でそんなことに‥‥!ああ、薬か、薬の効果か‥‥。
「……もちろん……」
不味い。これが薬の効果って分かってても、目の前の相手が好きだと勝手に体が思い込んでる‥‥。もし気づかず飲んでたら、この子は僕と両思いだ!って勝手に思い込むかも‥‥。
「……不味いです。体を抑えきれなくなるかも……」
「え……!」
リオ!?目がなんか怖いよ!?
「……!違う!これは所詮薬の効果!一時的に惑わされているだけです!」
‥‥大丈夫なの?僕も一瞬でも気を抜いたらリオに抱き着くかもしれないから必死で押さえつけてるけど‥‥。エアメイクで鎖と縄を作って自分で自分を縛って止めてるし。
「こんな無駄な事……要らないんです!私には、そんな感情は要りません!」
‥‥ある意味凄い自制心。ここまで抵抗するって凄いよね‥‥。横で見てると頭を押さえて蹲って変なことを口走っている痛い人にしか見えないけど。
「はあ……はあ……抑え込むだけでも一苦労です……」
「大丈夫?」
「……あなたは、随分余裕ですね……?」
「そりゃ、動けなくしたら抱き着けないよ」
今も身体はリオに飛びつきたがっているけど、そんなことはさせないし、しない。僕の理性がある限り、エアメイクの鎖がある限り。縄がある限り。
「……」
「……リオ……?」
ゆっくりと立ち上がったリオの目を見たとき、恐怖で薬の効果が消えてしまった。‥‥なんて言えばいいんだろう?‥‥壊れてる?エアメイクを解除して離れよう‥‥。そう思ってすぐに逃げ出した。でも
ガシッ
「ひい!?」
「どこに行こうというんですか?あなたは私の物なんです。誰にも渡しません……」
は、速い!?一瞬で捕まった!?しかも、怖い!可愛いとかいう以前に、怖いよ!
「あ!」
「え?……!」
向こうの方を指さして注目させるアレをやった。‥‥引っかかったから咄嗟に腕を払い、飛びのいてエアメイクで空中の足場に逃げる!
「ふう。さすがに、これなら……」
周りは四角い壁で覆った。だから安心――そう言おうとしたら、後ろから抱きつかれた。‥‥リオ、本当に人間?
「……なんで……」
「決まっているじゃないですか……逃がしませんよ?」
そう言って後ろから抱きつかれたら簡単にほどけない。‥‥何故かものすごく力強いし、後ろからリオの息がかかるたびに僕も‥‥って、これは完全にリオの飲んだ毒薬のせいだ!‥‥すぐに解毒の術式を作らないと!
「ふう。やっと、おとなしくなってくれました?」
今すぐに解毒しないと!セフィナめ、後でサンダーボルト叩き込んでやる!えっと、術式を組むには‥‥。
「駄目ですよ。私の言う事は聞いてくれないと。……怒りますよ?」
えっと、ここをこうして、こっちをこうして‥‥。何か抱きしめられて頭をなでられている気がするけど、そんなの無視だ!どうせ薬でさせられてるだけだし。
「ああ、このままずっとこうしていても……」
えっと、魔法の発動コードはディスペル!魔法のコストは1!効果は、薬や魔法による異常な状態全般の治療と解除!詠唱破棄可能!
「さ、私と」
「ディスペル!」
魔法を当てた瞬間、固まったリオ。‥‥僕を地面に寝かして、いったい何をしようとしてたの?
「あ、あれ?私は……」
「気が付いた?……僕の上から降りて」
後少しでも遅かったら、大変なことになってたかも‥‥。
「え……あ!ごめんなさい!」
急に顔を真っ赤にして慌てて離れたリオ。‥‥はあ、助かった。
「じゃあ、僕は寄るところがあるから、そこに行ってから帰るよ」
「……そうですね。黒幕には、お仕置きします。行きましょう」
「行こっか」
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第三者side
「ん?レイとリオは?あの後そういう展開になったかな~って思ったのに。居ないね……」
セフィナはレイとリオがいつの間にか訓練室から居なくなったので探していた。リオには明らかに強力な原液を飲ませたので、今頃はそういう関係になっているんじゃないかと探していたのだ。彼女が最後に見たのはリオがレイに襲いかかるところだったので、そうなっていると思ったのだが‥‥。
「ん?ああ、ご飯の時間「魔法封印!」ふえ!?」
突然魔法封印の術式をかけられ、魔法が使えなくなる。
「え!?何!?」
突然魔法が使えなくなり、薬を出そうとするが、その前に攻撃がとんできた。
「サンダーボルト!」
「きゃああああ!手が!足が!痺……痺れ……」
さすがのセフィナも、不意打ちで手と足と魔法を封じられれば動けない。もちろん薬も持ち歩いてはいるが、手が痺れて動かない。無理やりに開けようにも、落としてしまって開けられない。
「って、ちょっと!教師にこれは無しでしょ!」
「黙りなさい。人が薬に操られて恥ずかしいことをしていたのを見てにやにやしていたんでしょう?」
「げ……なんで薬が切れてるの!?今頃二人はベッドの中だと思ったのに!」
「そういう人には、これでお仕置きしても構わないよね?非殺傷だし」
「って、ああ!ちょっと!手と足と魔法を奪って放置なの!?放置プレイ!?止めて!」
リオとレイはさっさと立ち去ってしまった。セフィナは結局その晩、メリシアが来るまで放置されていたとか。
こんな物があれば誰でもハーレム作り放題です。作者はハーレム系が大嫌いなので絶対しませんが。
実際の効果と説明のあきらかなずれは後の話で。いくらメリシアでも、こんな物の詳細を伝えるわけにはいきません。ハーレム願望を持つものが詳細を聞いて作り出したら明らかに危険ですしね。




