十五日目 アルと盗聴と模擬戦と
今日は訓練室が使えると思ったら、食堂で出会ったアルに光学科の光魔法の授業を聞きたいと頼まれた。まあ、僕は術式を貸すだけならって感じで引き受けたんだけど・・・。
「ねえ、どうして僕も聞く必要があるの?」
「いいでしょ。レイも一緒に聞こうよ」
何故か一緒に光学科の魔法授業を聞くことになった。
「分かった。でも、最近なんか頭の回転が遅くなった気がするから、暗記は出来ないよ」
本当に、どうしたんだろう。昨日から、頭の回転が遅くなってる。やろうと思えば術式作成もできるけど、すごく時間がかかる・・・。
「大丈夫?病気かな?」
違うと思う。体に不調は見られないから。何かほかに原因があるのかも・・・。
「さあ。でも、これが普通な気もするし、そうでない気もするんだ・・・」
「変なの・・・。ねえ、訓練室の中、見ても良い?」
「良いと思う。でも、どうして?」
「だって、風学科の訓練室ってどうなってるのか、気になるし」
「じゃあ、後で行こう。っと、授業が始まるみたいだよ」
「どんなことするのかな」
アルは何故だかすごくやる気だ。どうしてなのかな?
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「さて、本日は光魔法の授業を始めますが…その前に、最近のテストで成績が悪い子たちに最後通告を行います」
光学科の授業が始まった。音声しか聞こえないけど、それだけで内容は全て伝わってくる。
「最後通告?」
「なんだろ?」
「一体どうしたんだろ…」
ざわめいた教室。・・・無理も無いよね。最後通告って一体なんだろう。
「静かに。この最後通告は、私の授業に対する意欲があまりに低い生徒たちに突きつけます。白紙回答を提出した者、そして、やる気が全く見られない者に突きつけます」
・・・それは、確かにやる気のない人もいるんだろうけど、実際は違ったりするんじゃ・・・。
「一体、何人いるんですか?」
「現時点では、テストで5名、授業態度で2名です。この2名は、授業態度が非常に悪いので、通告しました」
「おいおい、誰だよ?」
「お前じゃねえの?」
「あなたじゃないかしら?」
「私じゃないわよね・・・」
「静粛に!発表します。トム、トーマス、ゴードン、メリー、ジェシー。あなたたちは白紙答案をずっと出していますね。そして、フール、スリプ。あなたたちは授業態度にやる気が感じられません。この7名を今週のテストの結果次第で、いえ、今日と明日のテスト、授業態度によって判断し、その結果によっては落ちこぼれの塊学科に追放し、落ちこぼれの塊学科から7名連れてくることになります」
「なんだと・・・!」
「うそだろう・・・」
「落ちこぼれに入れられる?」
「どうすればいい?・・・どうすれば・・・」
「そんな・・・。あんなところに入れられるの?」
「それがどうした?こんなの覚えても無駄じゃねえか・・・」
「・・・zzz・・・」
「スリプ馬鹿だろ・・・。なんで寝てるんだよ・・・」
「フール、お前本当にやばいぞ・・・」
「あ?知るかよ」
「さて、授業を始めましょうか。光魔法を1つ覚えましょう。これは、聖なる光で闇を切り裂き、夜道を照らし出すことによって人類に夜でも活動できる術を与えた魔法です。今から詠唱文を言います。これをノートに書き取り、丸暗記しなさい」
出たよ。丸暗記法。アルもショックを受けるかな?
「では言います。神聖なる光よ、神様のお与えくださった神聖なる光よ。我らに神聖なるお導きをお与えください。深淵を切り裂き闇を照らし、聖なる光にて我らの道しるべを作り出さん。ライト!」
ーーーー
しかし、本当に詠唱が長い。こんなのでいいのかな?
「レイ、こんなのが僕たち闇学科の対抗勢力なの?」
「多分ね。だって、そうでもないと闇と二分する人気に説明がつかないよ」
「こんなの、普通に勝てると思うけどなあ・・・」
「自主的に頑張る子は強いから、気をつけないとだめだよ?」
「捨て石になって実際の戦いに出てくる子?」
「うん。バリアを維持し続ける精神力や魔力もあるしね」
「ねえ。今、君の魔力っていくつ?」
「調べてないね、そういえば」
「やってみてよ」
「分かった」
魔力の塊を小さい塊に分けていく。24個になっていた。
「・・・どう?」
「24個」
「うそ!?僕より4つ多いの!?」
「アルは20個なんだ」
「やっぱり、魔力を使うことを考えないと伸びないよね」
「うん。使っていかないと駄目みたい。そろそろ訓練室に行こっか」
「そうだね。この授業は全くあてにならないし」
僕たちは訓練室で普通に練習しよう。
ーーーー
「ほら、ここが訓練室」
「へえ・・・。ここもすごく大きいね・・・」
あれ?さっきまで頭の回転が遅いなって思ってたら、また元に戻ってきてる?
「ん?何か、ここだと自分が賢くなったような気がする」
「アルも?何でだろうね?」
僕がおかしいわけじゃないみたい。不思議な感覚。
「ここで練習しても良いかな?」
「まあ、非殺傷結界もあるし、仮に事故があっても、大丈夫だよね。それに」
「それに?」
「僕一人しか使わないし、別にいいんじゃない?一人増えても、大丈夫だよ」
「僕たちだけで使おっか」
「まあ、アル次第だね」
ミリアは呼んでも良いけど、他はまだそんな関係じゃないし。さて、訓練でもしよっか。それから、しばらく離れて自主訓練をしていた。
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「ねえ、模擬戦しても大丈夫かな?」
「うーん、どうだろ?」
非殺傷結界はあるけど、やっていいのかな?
「一度やろうよ」
「・・・まあ、僕は受けても構わないけど、ルールどうするの?」
「そうだね、戦闘不能以外には、場外に出たら負け。このラインを場外にしようか」
アルが示したのは、非殺傷結界の大きさを決める時の目安になる3本の四角い線のうちの一番外側の線だった。
「分かった。じゃあ、試合開始の合図はどうしようか?」
「レイのエアメイクで、ここに足場を作って重りをつけて5秒後に落ちるようにする。それでどう?」
「分かった。それでいいよ」
じゃあ、本気で戦うからね。そう思っていたら、重りが落ちて、地面に着いた。・・・今だ!一瞬で終わらせる!
「サイクロン!」
先手必勝。この攻撃ですぐに沈むと思った。でも
「ダークバリア!」
漆黒の球体のようなバリアを張って凌がれた。だけじゃない。地面に食い込ませて浮かないようにしてるみたい。なんて厄介な。バリアから棘のような物を出して地面に突き刺しているからかいつまでたっても浮く気配が無い。巻き上げて一瞬で切り刻むサイクロンでもあれではバリアが上手く削れないみたいだし、それならば・・・
「トルネー…」
だったらこれでも食らえ!トルネードですぐに終わらせてやる!
「やらせない!ダークショット!」
トルネードの発動を阻止するためか、サイクロンの切れ目を狙ってアルが魔法を撃ってきた。漆黒の球体らしきものを作ったと思った時にはすでに僕とアルの中間にその球体が来ていた。・・・なんて速さだ。
「エアメイク!」
バリア作成!間に合え!・・・緑色の壁を周囲に展開して何とかその球体を防ぐことは出来たが、その直後にアルは詠唱を完了させていた。
「ブラックホール!」
僕の周囲に一瞬で闇が集まり、その中に取り込まれる。闇が重力の塊のように集結し、そのまま中に居る僕を四方八方から押し潰そうとする。このままだとバリアごと潰されて確実に倒される!そうはいくか!
「エアメイク!」
最初に張ったバリアが壊れる前に何とか補強できたため、潰されることは免れた。・・・やられっぱなしで終われない!ここで逆転する!
「・・・やったかな?ブラックホールなら潰せたと思うけど・・・」
よし、効果が消えかかってきた。エアメイクで何とかしのげたし、これで倒す!エアーショットと一見同じように見える風の塊。でも、これは違う。これは着弾したときに爆発するんだ。最悪バリアごと吹きとばしてやる!ブラックホールが消えた直後に叩き込む!・・・今だ!
「ウィンドボム!」
ブラックホールが消えた直後に奇襲同然に放った一撃は、一気にアルを目指して突き進んだ。・・・よし、アルはこの出来事に咄嗟に対応できてない。当てられる!
「え!?しまったダークバリ・・うわあ!」
無防備なアルに風の塊が当たった直後、アルは緑の爆風に飲まれて背後に吹き飛んだ。バリアも張らずに受けたなら、場外に吹き飛ばすくらいの威力は出るだろう。事実、アルは場外に吹き飛んだ。・・・僕の勝ちだ。
「ああ、やっぱり強いよ。完敗だ・・・」
「無詠唱の魔法まで使えるのに、よく言うよ。本当に負けるかと思った・・・」
無詠唱の魔法が凄い速さで飛んでくるとは思わなかった。それに、サイクロンすら防がれたし。…トルネードに頼った作戦が失敗だったね。
「ふう。魔力を大量につぎ込んだのに、疲れないね・・・」
「非殺傷結界だしね。本当に便利だよこれ・・・」
「ここに居ると、頭が良くなったような気もするしね」
「本当に、不思議だよね」
だって、訓練室に居ると頭が良くなるなんて・・・。
「そろそろ、昼食の時間じゃない?」
「そうだね。言われてみると、もうそんな時間だ。行こう」
「うん。・・・今度は、ミリアも誘ってここで練習しよう」
「そうだね。そうしようか」
久しぶりの模擬戦は、なかなか楽しかったし、アルは強かった。これから楽しくなりそう。
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食堂でアルとご飯を食べた後、アルに質問したいことがあったので、聞くことにした。
「ねえ、アル。聞いていい?」
「ん?どうしたの?」
「クライズ先生って、闇魔法の授業ではどんな風に教えてたの?」
僕から技術を吸い上げて闇学科のレベルアップに繋げようとしてたけど、僕が居なかったらどうなんだろう?どんな教え方なのかな?
「ちょっと長いよ?」
「うん、良いよ。聞かせて」
「分かった。・・・最初は、魔法を使う上での心構えを言われた。魔法は素晴らしい力だが、同時に危険な力でもあるって事」
「魔法が危険でもある、か。まさにその通りだね」
「うん。次の授業では、魔力を動かしたり、身体の外に出してみる授業だった」
「やっぱり、皆同じことをするんだね」
「うん。でも、出来る人と出来ない人の差が出てしまうと、出来る人が暇になるよね」
「暇になって・・・何かしでかしてしまったの?」
「魔力弾を構成して、撃ってみた。撃ったのは良いんだけど、その魔力弾は全ての魔力を込めている物だったし、それが他の人に当たりかけてしまった」
「え!?」
「どうせ当たらないだろうと放ったら、変な方向に曲がったんだ。医務室に行く前にそれが少し見えた。そして、気づいたらベッドの上。先生が見に来てた」
「怒られた?」
「ううん。ただ、事実を言われただけ。「お前が放った魔力弾が人に当たりかけた。後数センチずれていたらそいつの命は無かった」って、ストレートに言われた」
「怒られるよりも辛いよね・・・」
「うん。ガミガミ言われるよりも、よっぽど辛かった。でも、その後に言ってくれた言葉があったんだ」
「どんなことを言われたの?」
「「アル。お前が魔力弾を放ち、その気が無かったとはいえ人を殺しかけたのは事実だ。だが、だからこそ、二度と失敗しないために魔法の制御や安全確保を出来るように頑張るべきじゃないのか?」って言われたよ」
「・・・良いこと言うんだね。そういえば、最初は良いこと言ってたよ。僕にも」
「レイは、先生にとっては僕たちに超えさせる壁らしいよ。「あいつはすごく高い壁だが、お前たちが慢心や変なプライドを捨て、真剣に挑めば必ず太刀打ちできるようにしてやる!」ってあの模擬戦の後に言ってた」
「ああ、やっぱりあの模擬戦の後で方針を変えたんだ・・・」
道理で、あんなことになったんだ。最初は本気で受けさせる気だったんだけど、そういうレベルを超えられたって思われてるのかな?
「先生、あの時にレイを完全に自分の教え子が超える目標に掲げたもん。「レイにはこの年に教えることなどもはや無い。むしろ、レイに闇学科が学ばせてもらってその差を埋めておきたい」って言ってたのを聞いた」
「・・・本当に、僕をなんだと思ってるんだろ。そんなに強くないし、すぐに差が埋まってしまいそうだよ」
アルとか、本当に強かったし。もっと努力しないと不味いよ。
「まあ、クライズ先生にも事情があるんだよ・・・。セフィナ先生にだけは絶対に勝てないみたいだし」
「それで、生徒を対抗相手にしてるからって僕に教師役を押し付けたんだ・・・」
全く迷惑な。そうやって先生が僕を使い捨てにしようとしてたから、嫌な感じがしたのかな・・・。
「ははは・・・。大目に見てあげてよ・・・。あの人も子供なんだから・・・」
確かに、一番精神年齢は高そうだけど、変なところで勝ちにこだわるもんね。
「はあ、クライズ先生の思惑はよく分かったよ・・・」
「あの人も悪気はないんだ。あんまり酷い目で見ないでね?この前の授業の時とか先生の扱いも酷いし・・・」
僕を実験台にしようとしたから反撃してミリアの攻撃魔法をクライズ先生に使わせようとしたこと?
「努力するよ。一応」
「それと、最後にはレイにも負けない」
「へ?」
「僕にはまだ足りないものが多い。技術も魔力も全然足りない。でも、必ず補って、レイに追い付いて見せる。だから、また風学科の訓練室で勝負して」
「挑戦状?いいよ、風学科の訓練室で、何度も戦おう。それでいい、アル?」
「うん。ありがとう。絶対にレイに追いつくから!覚悟してね!」
「簡単に追いつかせてあげないよ!」




