十四日目 最初の休日
基本的にこの小説では、長期休暇や行事以外は7の倍数の日(14、21、28日目・・・)を休日として、
自習⇒薬学⇒術式⇒自習⇒薬学⇒術式⇒休日のローテーションで進んでいきます。
今日は学院全体が休日らしく、授業は無い。なので、のんびり過ごすことにする。というより、僕がのんびり過ごすことになっているのは、朝食の時に食堂に来たメリシア先生のこの一言がきっかけだった。
「先生同士の協議の結果学院の訓練室に安全対策として非殺傷結界をつけるので、本日は全ての訓練室の使用を禁止します。訓練室への立ち入りはできません」
ちょっと待って。修行以外の予定を考えていなかった僕は一体どうすればいいんだ。いや、非殺傷結界はすごく大事だし、それ自体は良いことなんだ。暴発やら失敗やらの被害を受けてる側だし。でも、僕は今日どうやって過ごせばいいんだろう。授業も無い、訓練も出来ない。・・・暇だ。
「ちょっと待て。お前の頭には修行以外の予定はないのか」
何でそんな呆れた目で僕を見るんですかクライズ先生?修行以外に無いから暇なんですよ、はあ・・・。
「まあまあクライズ。レイだもん・・・仕方ないよ」
何が僕だから仕方ないんだろう?セフィナ先生は何を言ってるんだか。ちなみに、今僕は風学科の塔に作ったソファーで寝転がっている。することが思いつかないんだからしょうがない。
「だが、いくらなんでも休日にこれは無いだろう・・・。いくらセフィナの生徒が変わり者だと言っても、休日に何もできないからと落ち込む生徒は前代未聞だ」
「あ、うん・・・。これはちょっと想定外だよ・・・」
ああ~。暇だよ・・・。訓練室が使えないだなんて。こんなのただの拷問だ!
「レイ。お前は今、すべての休日が大好きな子供たちに喧嘩を売っているんだ。その辺にしておけ・・・」
・・・そんなかわいそうな子を見るような目で見ないでくださいクライズ先生。僕はただ、術式を作って遊びたい、実験したいだけなんです。何も出来ないから暇なんです本当に・・・。
「うーん・・・。こればかりは私にもどうにもできないよ?」
「お前にもか・・・」
教科書を読むか術式を作るか・・・。それくらいしかないよね、つまらないな・・・。
「よっこいしょっと。部屋の教科書でも読もう、それしかないか・・・」
「メリシアの話を聞いてから戻ってきて、ここに寝転がって、ようやく起きたときの第一声がそれか」
「本当に、子供として大丈夫かな?生徒としてはこれ以上ないほどの逸材だけど、ここまで勉強体質だとちょっと問題だよね・・・」
はあ、部屋の薬学の本でも読もう。それしか無いもん。最初に借りた本?全部もう用済みです。・・・さーて、部屋に帰って教科書読んで寝よう・・・。
「深刻だな。ミリアでも呼ぼうか?アルを呼んでもいいかもしれない・・・」
「そうだね、ここまで勉強中毒だと思わなかった。先生としてはこの行動は良くても、仮の保護者としてはこんなの見ていられないよ」
暇だよ・・・。授業が無いと、実験も出来ないし。訓練室が無いと、術式の具現も出来ない・・・。
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「うわあ・・・。レイ、どうしちゃったの?」
アルが驚いたような声を出した。・・・暇なんです。
「休日に勉強できずに落ち込む人なんて、本当に居たんですね・・・」
・・・ミリア。それの何処が変なの?
「頼む。俺にはどうすることも出来ん」
「お願い。この子を正しい子供の姿にしてあげて・・・」
はあ、先生二人も、放っておいてください・・・。
「うん。こんなの見たら放っておけないよ」
は?アル・・・?何言ってるの?
「レイ、散歩に行こう?」
・・・ミリア?って、ちょっと!?いきなり二人で僕の腕を掴んで立たせないでよ!僕は今から勉強を!教科書読破をするんだ!
「言うだけ無駄だが、少しは遊んで来い・・・」
何でですか!?クライズ先生!?
「・・・勉強だけが生徒のすることじゃないからね?遊んできなさい」
セフィナ先生も!なに勝手に決めてるんですか!?
「だから、教科書」
教科書を読むって決めたのに!
「行くよ、レイ」
アルが勝手に僕の右腕を掴んで引っ張り出した。半ば無理やり連れだされる。
「ちょ、ちょっと!引っ張って行かないでよ!」
何で僕が!行くなら二人で行けばいいじゃん!
「えっと、無理やり連れて行くね?」
ミリアに左腕を掴まれてそのまま引っ張って行かれた。
「何でそうなるの!?」
全くわけがわからないんだけど!っていうか、放して!僕は勉強するためにあそこに残るんだ!
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「少年、完全に心ここに非ずって言うかなんて言うか・・・」
「こんな子が居ること自体が驚きです・・・雷学科は休日は魔法機械で遊びますが・・・」
「・・・さすがに10歳でこれは不味いでしょ・・・」
先生方が何か言ってる。
「えっと、何か、遊び道具でも・・・」
アル、そんな物いいから部屋に帰らしてよ。というか、右腕を掴む手を離してよ・・・。
「少年の作ったサッカーボールだな」
「・・・僕が作った?・・・そうだ、エアメイクの改良でも」
術式でもいじろうかな。
「本当に少年は変人だな。普通は自分の趣味を・・・って、勉強と実験が趣味か」
・・・余計なお世話です。
「あ、良いところに」
「ん?」
この前の光学科だっけ。確か。
「これを添削してくれませんか?」
術式の添削。普通ならやらないけど、いいか。暇だし。
「本来は教師はやらないけど、今日はすることが無いから暇だし、特別にしてあげる」
そう言って術式を書いた紙を受け取る。
「ええと・・・」
うーん・・・。光の矢を放って攻撃する魔法か。威力と速度を重視して、貫通性を上げてるみたいだけど、どこを改良しようかな。
「あれ、レイ、随分遅くない?」
アルが言ってる通り、なんだか頭の回転が鈍い気がする。気のせいだと思うけど。
「いつもなら、すぐに術式を改良するのに」
ミリアも同じことを言ってる。
「確かに。今日はやけに遅いですね。随分ゆっくりです。丁寧なのはありがたいですが」
ここの燃費を悪くしている部分を消して・・・。それからこの連射機能を強化するものを消した方がいいか、代わりに、詠唱を短くしてすぐに発動するように仕向けた方が・・・。うん、こんな感じかな。
「はい、出来たよ」
「ありがとうございます」
「随分ゆっくりだったね?どうしたの?」
「・・・そう?」
アルの言ってる通りなのかな?
「うん。いつもなら「こことここを消して、ここを減らして、ここは強化して!」みたいに、凄い速さで言うんだけどな・・・」
・・・言われてみると、そんな気がする。でもなんだろ、それ、本当に僕ができるのかな?出来る気がしないよ。
「まあ、レイも休日だし、疲れてるんだよ。行こう」
疲れてる?ミリア、それは違う気がする。身体は問題ないよ。多分。
「そうかな?この前と違って、凄く元気そうだけど?」
そりゃあ、アルと初めて会った時は本当に最悪の状態だったもん・・・。
「・・・何の話してるの?」
「ううん。なんでも無いよ。行こう」
「うん・・・」
結局、引っ張っていくんだ・・・。
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セフィナside
「ああ、勉強補助用の魔法が全部消えてる・・・。かけなおさないと」
まあ、しょうがないか。今日かけなおせなかったからレイの魔法もそろそろ、切れてるかな・・・。まあ、さすがに術式の改良なんてやらないだろうし、大丈夫か。
「ふう。またかけておこっか。これが無いと、勉強ははかどらないしね」
いくらレイでも、この魔法が無いとあんなすごいスピードで術式を添削したりは出来ないしね。それに、落ちこぼれを本気で強化するなら、これしかない。記憶力も、発想力も、情報の処理能力も、術式の構成能力も、この魔法で強化してあったからあんなにすごいことになってたんだよね。
まあ、実際にやったことはちゃんと覚えてるから、できないわけじゃない。でも、速度は格段に落ちる。それが本来のその子の力。けれど、これで強化すれば、落ちこぼれ学科のアホ呼ばわりされる子でも天才並みの思考力を得られるくらいに賢くなるし、覚えようとしたときの記憶力も上がる。やる気さえあればこの学科なら何でもできる。それを証明する魔法がこれ。
「知識集めよ。記憶留めよ。忘却は許さぬ。汝に素晴らしき発想力を。膨大な情報をすぐに処理する能力を。これらを、我の名において今与えん。汝も天才への階段を上るがいい。思考活性化術式展開!」
この術式は設置型。訓練室の中にしかかけてないけど、効果は抜群。レイの前に居た生徒には当然大馬鹿も居たけど、全部纏めて天才に作り変えた実績もある。この魔法に当てられれば、その発想は素晴らしいものになる。ほとんどのアイデアは完成していく。実際に自分で実験したから分かる。この強力な効果は本物だ。
「・・・ふう。900あった魔力も一気に空か。薬・・・魔力回復薬っと・・・」
この術式の発動は本当にしんどい。900もの魔力を使ってプログラムしたんだもん。効果と私への代償が比例するように強くなってしまった。でも、これでどんな駄目な子でも天才に作り変えられるなら構わない。努力しても全く意味が無いって言われるくらいなら、これで無理やりにでも意味を与えてあげる。それが間違っていても構わない。やる気のある子すべてに道を作ってあげる。
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「セフィナさん。落ちこぼれ集積場の生徒に連絡は取れますか?」
本当にメリシアが来た。要件は入れ替えか。
「まあ、取れるよ。どうしたの?」
「光学科に意欲の無い学生が居るので、彼らと取り替えます」
「ああ、じゃあ、取り替えるための手続きしないとね」
「お願いします。それと、落とすことになる馬鹿生徒ですが・・・」
「分かってるよ。意欲があれば、入れてあげる。さすがに、意欲も無いのに入れるわけにはいかないけど」
「お願いします。全く、ふがいない生徒たちです」
まあ、私の所も、イカサマ同然の魔法で強化してあげてるからすごい子になってるんだけどね。やる気だけの子を教えるにはこれしかなかったし。便利だから今でも使ってるけど。レイも、ここに入らなかったら至って普通のレベル~ややできる子レベルだっただろうし。
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レイside
「・・・どうして雪合戦なの?」
目の前の場所には一面ふわふわの雪。・・・春なのに。
「だって、こんなに雪が積もってたら、これしかないじゃん!」
そうだけど。アル?この状況をおかしいと思わないの?
「・・・氷学科の人でしょうか?これをしたのは」
だからって、校庭の一角を一面銀世界に変えるって・・・。こんなことしたの誰なんだろう。そっちを疑問に思おうよ、ミリア・・・。
「えい」
うわ!?冷たっ!顔に雪が!アルか・・・!
「もう、ぼーっとしてないで、やろ!」
「分かった!」
・・・やられたら当然やり返す!アル!待て!
「やあ!」
アル目がけて雪を投げた。靴の中に入ったみたいだ。
「うわっ!靴の中に雪が!冷た!」
「えい!」
ミリアも一緒になってアルに雪を投げる。
「ちょ!二人同時に狙うとか酷い!こうなったら…」
アルの右手に闇が出現し、巨大なスコップになった。って、それも十分反則でしょ!
「二対一には及ばないから!」
そのまま、巨大スコップで二人纏めて雪をかけられた。そっちがその気なら・・・
「エアメイク!」
雪鉄砲とでも言うべきものを作って、それをアルに乱射する。・・・ええい、ちょろちょろ逃げるな!
「ふふ。隙あり!」
アルばかり見てたら、ミリアに背中に直接雪を入れられた。あ!ミリア、簡単に逃がさないから!この後、日が落ちるまで僕たち3人は雪合戦で遊んでいた。・・・クライズ先生が来なかったらずっとしてたかも。
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「ん?なんで炎学科の庭に雪が積もってるんだ?まあいいや。帰って寝るか」
「もう!どうしてこの惨状を見てもあなたは平然としてるの!ありえない!これでも駄目なの!?ブリザードまで使ったのに!」
「はあ、ガキだな。まあ、お前たちのおかげ、と言って良いかは知らんが、あいつらが遊べるんだから、感謝するぞ」




