十三日目 レイの頼み
今日は魔法術式の日だ。クライズ先生は僕に丸投げする気だが、ただで僕の全てを明け渡す気はない。代価は、闇学科含めてすべての受講者の所属する学科の魔導書だ。…だって、こうでもしないといずれ皆が上達したら相対的に僕の価値ってなくなるよね?せっかくの有利な状況を失うわけにはいかない。…だって、ある日突然要らない子にされたら相当傷つくし。
「よし、今日も頼んだぞ、レイ」
「良いですけど、僕に教えを請いに来る人たちにちょっとした頼みがあるんです。良いですか?」
「…?何だ?」
周りも、興味津々で見てる。まあ、代価ってことで、これを要求するよ。
「図書館の全ての魔導書の術式のコピーを、僕にください。そうすれば、もっといいものを作ってあげられます」
これは事実だ。その学科の魔法を知ることができれば、随分有利になるだろう。知識が無いよりも、あった方が術式の改良をしてあげやすくなる。…さあ、どうする?
「ねえ、ここには何人も同じ学科の人が居るけど、全員全部コピーするの?」
ああ、そこまでしなくても大丈夫。僕が欲しいのは一冊だけだから。
「ううん。学科ごとで良い。やってくれる?」
ふふ。さすがにクライズも妙な表情だね。考えが読めないなら、それでいいや。
「すいません。水学科には回復魔法もあるんです。それもですか?」
「うん。…駄目?」
「い、いえ!5人も居るので、分担してやります!」
回復魔法もこれで使えるようになるかもね。
「よし、俺たち炎学科が、土学科の物も一緒に持ってきてやるよ!」
…え?そんなこと無理でしょ。相手はあの頑固おやじだよ?
「レイ先生!安心してくれ!俺たち炎学科の勢いに、あんな頑固おやじが勝てるわけが無いんだ!」
「ええ!さあ、行くわよ!目標は土学科の塔!魔導書を全てコピーすること!」
…ええと…。土学科は止めた方が…。止めるべき?
「な!何を勝手な!私達氷学科の方が、土学科から魔導書を借りてくるのです!炎学科などに負けません!」
「そうだそうだ!炎学科などに手柄は渡さん!」
「そうよ!私たちが勝つのよ!」
…この対抗意識は何なんだろう…。氷と炎…。何かあったの?そう思ったら、クライズさんが近づいてきて耳打ちした。
「氷学科の奴は、炎学科を目の敵にしてるんだよ。ライバルみたいなもんだ」
「ライバル…ですか?」
「そうだ。氷と炎の教師が正反対でな、激しく戦う…いや、氷がちょっかいをかけても炎は全く気にしないから氷が注目させるためにやってるんだよ」
「何か、変わった争いですね…。好きな子に振り向かせるためにちょっかいをかけるような…」
「ああ、氷学科の教師は、炎学科のあいつに惚れてるんだよ」
「…それを言わないんですか?」
「言えるわけが無いんだ。対外的には嫌い嫌いと言いまくってるからな」
「…何か、大人が子供みたいなことをしてるって言ったら良いのか…」
「あいつらは、両方とも中身はガキだ」
言い切りますか…。
「まあ、教師も人間だ。そういう事もあるだろう」
「はあ…」
「あ、レイ…先生」
「ミリア…別に畏まらなくても…」
「えっと、これで術式は良いでしょうか?」
「えっと…。これは、回復魔法なの?」
「はい。自作ですけど…」
「…実際に使わないと何とも…」
だって、回復魔法の術式なんて知らないし…。次の魔法術式の授業で手に入れるのなら分かるけど…。でもこれ、攻撃魔法じゃない?
「おいおい。先生が生徒の実験台になるのは良くあることだぞ?」
ほう。ならば、ちょうど良い実験台が居ますね。ね、クライズさん?
「ミリア。クライズさんに撃ってみよう?」
「え!?えええ!?」
「おいおい!待て!早まるな!そんな物を教師に向けるな!」
「まあ、この反応から分かる通り、攻撃魔法になってるよ」
「あう…組み方を間違えました…」
「レイ!冗談はやめろ」
「どうしてですか?クライズさんが言い出したんですよ?教師は生徒の魔法を受けるって…」
「くっ…」
「教師の座から降ろしていただければ、楽を出来るんですが…」
「それは駄目だ。絶対に駄目だ」
「じゃあ、余り怒らせないでくださいね?クライズさん?」
「…分かった」
「…レイ先生…怖いです…」
「おいおい、生徒が怖がってるぞ?」
…ちっ。ミリアを盾にしたか。
「ああ、大丈夫だって…。ミリアは悪くないから…。悪いのは全部クライズさんだから…」
「さり気に責任を俺に擦り付けるなよ…」
「…は、はあ…はい…」
「えっと、この魔法の作り直しは、次の魔法術式の時にしてあげるからね」
「…はい!」
「それで、君はどうしたの?」
「…光学科の魔法を持ってこれば、改良していただけますか?」
「ヒントは上げるけど、実際にするのは君だよ?それに、山積みになってきたら引き受けてあげられないし」
「…そうですよね。では、これはどうですか?」
「…セイントバリア?」
「はい」
セイントバリアの魔導書の術式が書いてある。…無駄だらけでコストが高いのに効果時間は…。
「君の魔力はいくつだっけ?」
「20です。だから、5以下に抑えたいんです」
「…えっと、こことここを消して、ここも消す。代わりに、時間を20秒、強度1,3倍に出来るから」
「凄いです…本当にコスト5で使えます…」
ええと、そこの君は何の用かな?
「先生!我々が必ず土学科の魔導書を押収し、あなたに捧げます!」
「ああ…うん。頑張ってね…」
この妙な迫力、こっちが圧倒されそう…。何でこんなに熱血なの?こんなに熱くなくても…。
「さて、今日の所はお前らも自習にしたらどうだ?術式の構成の授業の前に、持ってこないといけないものがあるだろう?」
「…まあ、全員で協力するとすぐに終わると思うけど…頼んでいい?」
「はい!必ず!我々炎学科が持ってきましょう!土学科の魔法も携えて!」
「いいえ!氷学科が!炎学科などには負けません!」
「雷学科の本でしょ?構わないよ」
「水学科の回復魔法と普通の魔法?簡単です!」
「まあ、光学科の魔法のためですしね。私しか使いませんが」
「…で、闇学科は?」
「…おいおい、俺よりもこいつに本気で教えてもらう気か?…俺の仕事を奪うなよ?」
「…闇学科は辞退しますか?クライズさん?」
「…誰が勝手にしようと、俺の知ったことじゃない…」
「…私が持ってきます」
ミリアも闇学科か。そういえば。
「…いや、僕がやるよ」
「…え、私が…」
「僕が…」
「だから、私が…」
「…はい、二人で一緒に持ってきてください」
さて、次の魔法術式の時は荷物だらけになりそうだね。
ーーーー
「セフィナ、居るか?」
「ん?何?」
「いや、実はレイの事なんだが…」
「ああ…。馬鹿だね、クライズ。レイは簡単に扱えないよ?自分の一度手にした価値や優位性は必死に守ろうとするから」
「…間違っていたのか?あいつの実力なら、生徒のレベルアップに使えると思ったんだが」
「そういう意思でやったら、さすがに気づかれるか。純粋だから、悪意には敏感だしね」
「…あいつを使えば追いつけるし優位性も無くなる。そう思っていたんだが…」
「簡単には、ううん。絶対全部は教えてくれないよ」
「やはり駄目か…」
「当たり前じゃん。何でわざわざ個人主義のレイが敵に全ての塩を差し出すの?」
「…そうだろうな。俺でも出さないな」
「じゃあ、何でわざわざ?」
「…勝ちたかった、勝たせたい。そんなところだ…」
「まあ、無理だったってわけね…」
「なあ、何かあいつから技術を引き出す方法は無いか?」
「…それを担当教師に聞く?普通…」
「聞かないな。だが、それでも、俺は闇学科を勝たせてやりたい」
「まあ、それなら放任主義が一番じゃない?」
「…そうなるな…やはりそれか…」
「一応、レイと仲良くなってる子も居るじゃん。その子を放任主義で任せるとか?」
「…アルか?ミリアもそうだな」
「まあ、どれを選ぼうと私にはどうでもいいよ。名誉も権力も要らない。あえて言うなら、実験できる場所が欲しいかな」
「薬学か…ミリアがすごくうれしそうにしていたな…」
「まあ、暗記術と薬学のセットだけどね…」
「…レイに飛行魔法を教えないのか?」
「駄目だよ。あれは、一人で完成させていい物じゃない」
「何故だ?レイ自身の夢でもあるだろう?」
「分からないか。…レイはね、凄く素直だから、凄く危ないの。信頼できる仲間を作らせないと、どんなところに転がり落ちるか…」
「…仲間、か」
「それにね、今のレイには、絶対に飛行魔法は作れない。発想が自分の物しかないから、一つの術式で作ろうとして、ずっと失敗する。確実にそうなる」
「それは、自分の経験を踏まえた上での判断か?」
「うん…。私も、レイと似たところがあるから、1つの術式で組み立て続けた苦い経験がある。レイがその魔法を仲間に自分から公開して、一緒に考えてもらわないと無理だよ…」
「…尚更、難しいな…。早くても半年近くかかるって言っていたのはこういうわけか」
「まあね。だから、仲間を作らせたり、クライズの思惑通りに動かしてあげたりしてるんだ」
「…もうこの話はよそう。それよりも、そろそろメリシアが何か言ってくるのではないか?」
「ああ…落ちこぼれ集積場だっけ?私は確かに名簿の管理はしてるし、風学科に入れておくのが一番だって思ったから置いてあるだけだよ」
「ああ。それで、出すのか?」
「まあ、生徒が望んでるしね。落ちこぼれ塊学科でも、メリシアには数合わせで必要なんだよ」
「あいつらが退学すると、風学科の評判が悪くなるのでは無いのか?」
「本気で受けにきた人以外、育てる気はないよ?それに、今年は自習形式だし」
「薬学と自習か…」
「そういう事。じゃあ、明日は休日だから、私はまた寝るから」
「ああ…俺ももう寝ることにする。じゃあな」




