十二日目 ミリアと薬学
メリシアさんの長文は1つだけ。でも作者もこんなのは覚えられる気がしません。
ミリアが約束通りに来た。まあ、あんな薬学受けても仕方ないと思うけど…。でも、準備は済ませた。術式の中身を聞くための物はもう1つ作ったし。
「あの、ここでやるんですか?」
「そうだよ、二日前に言ったし、出来たでしょ?」
「あ、はい。…えっと、教科書は…」
「大丈夫。貸すから」
「ありがとう…あ、始まりました…」
ミリアの言葉通り、薬学と言う名の暗記術が始まった。術式の中から、メリシア先生の声が聞こえる。
「さて、まずはこの前の成績からですね。はっきり言います。舐めているんですか?私の授業を?」
いやいや、薬学をなめてるのは先生だと…。あんな長文何の役にも立たないよ…。
「成績は、3人を除いて不合格です。全く、嘆かわしい…」
「あんなの暗記して何の役に立つんだよ…」
全くだよ。僕にはそこに干渉するなんてできないけど。
「そこのあなた!私の授業に文句をつける気ですか!?文句があるならば、落ちこぼれ学科に行けばいいじゃないですか」
「な…光学科をやめろって言うんですか!?」
「そういう事です。私に逆らうということは、光学科の教育プログラムに逆らうという事です!恥を知りなさい」
無茶苦茶だ…。
「…もしそうなったら…」
「もちろん、あなたが退いたところ、つまり、あなたの今いる場所に、風学科、いえ、風学科にくっついている落ちこぼれの塊学科からあなたの椅子に一人乗せることになります」
落ちこぼれの塊学科って…。確かに休み続けてるけど、酷…。風学科と彼らを分けたのは驚いたけど。
「な…!」
「それでもよろしければ、どうぞそちらにお行きなさい?落ちこぼれにエリートの資格や価値をもぎ取られ、あなたが落ちこぼれに入るのであれば、私はそれでも構いません」
「…無茶苦茶だ…」
プライドがあるから光学科に居たい。だから逆らえないし、出ていけないって事なんだね…。自分の場所を誰かに取られるって…。
「文句があるのなら、出ていきなさい。これだけです。どうします?せっかく狭き門をくぐり抜けて光学科に入ったというのに、わざわざ落ちこぼれ学科に入るのですか?」
「…分かりました…申し訳ありません」
「ふう。分かればいいのです。では、授業を始めましょう。教科書の10ページを開けなさい」
「ミリア、10ページを開いて」
「はい」
「準備はよろしいですね?では、今日もこれから私が言う内容を覚えてください。2回言いますね」
「じゃあ、僕が長文を書く…ホントにミリアが書くの?しんどいよ?」
ミリアが書くと主張した。…本当に大丈夫?
「…頑張って書きます」
「…じゃあ、任せるね」
まあ、一度任せてみよっか。
「では行きます。セシリア公式です。この公式は、学者セシリアによって作られました。セシリアは、東部デルテミア…現在の海辺辺りにあった町にて、この公式を新暦429年午前11時37分28秒に作成しました。彼女の公式は、フェナテリスの物よりも難解ですが、説明しましょう。セシリア物質Aはその根源たる物質であるセシリア物質Bとセシリア物質Cより成り立ち、そのセシリア物質Bは、更に根源たるセシリア物質Eと、セシリア物質Fより成り立ちます。セシリア物質Aの根源たる物質の片割れであるセシリア物質Cは同じく根源たる物質であるセシリア物質Gとセシリア物質Hより成り立ちます。そして、根源たるセシリア物質Aとセシリア物質Bの合成により、セシリア物質Dがこの世に誕生しました。このセシリア物質Dはあらゆる病を治すと言われ、霊薬として用いられることになりましたが、その効果が死者をも蘇生するほどと言われたのを契機に、封印されることとなり、世の中からは姿を消したと言われています。しかし、それは異なります。セシリア物質Dは今なおこの世の中で使われており、フェナテリス物質同様に重要な存在となっているのです。さあ、今日はサービスとしてこれだけを課題にします。私が後二回言ってあげますから、丸暗記しなさい。せめて、6行は書いてみなさい」
当然、向こうからは阿鼻驚嘆の叫びが…。ミリアも手は動いてるけど茫然としてる。えーと、公式公式。
公式
A=B+C B=E+F C=G+H D=A+B
セシリア物質A 体力回復薬
セシリア物質B 体力草
セシリア物質C 生命果実
セシリア物質D 回復の霊薬
セシリア物質E 土の魔力
セシリア物質F 炭素
セシリア物質G 炎の魔力
セシリア物質H 炭素
霊薬を作るためにセシリアが発表した薬の作成方法。この霊薬は非常に強力なもので、瀕死の人間をも一瞬で再生させる力がある。仮死状態の人間が復活したため、死者にも効くと言われた。もちろん、現在はそんなことは無いと実証されている。
相変わらず無駄に長い…。たったこれだけで中身が終わるなら、纏めもそこまで時間はかからないかな…。
「えっと、実際の中身は…?」
「ああ、これ。はい」
「え…?たったこれだけですか?本当に?」
ミリアが驚くのも無理はない。確かにノートには書いたが、その内容はそれほど多くない。これはただの回復の霊薬の作り方なんだから。
「うん、要するに、体力回復薬に体力草を加えて合成すれば、回復の霊薬になるって話」
「…ノートにはすごく沢山書いたのに…」
「…お疲れ様」
ホント、よくこんなに長い話を喉も枯らさずに3回も言えるよ。メリシア先生は一体どうやって喉を潤してるんだろうか?…もう言い終えてる…。どうしてなのかな?
「さあ、前とルールは同じです。落ちこぼれ学科に自分の居場所を取られたくなければ、丸暗記してでも死守しなさい!時間は30分です。始めなさい!」
「ミリア、出来る自信ある?」
「…無理です…」
「だよね…僕にも無理だよ…」
丸暗記はとてもできそうにない。よくもまああんな方法を続けることが出来るのやら…。まあ、これから実験できるこっちには関係ないけど。
「ミリア、この後何も無かったっけ?」
「…でも、実験は出来ないですよね…」
「今から、実験しに行く?」
「…え?でも、学科が…」
「…大丈夫だよ。ねえ、セフィナ先生?」
「…さすがに気づくか…」
「え…ええ!ど、どうして風学科の先生が…!」
「まあ、実験の材料を持ってる先生を見たら分かるけど、今から実験も出来るよ?」
「どうする?風学科の授業だけど、やる?」
「あ、はい!お願いします!」
ーーーー
「じゃあ、セシリア公式の内容通り、回復薬と体力草を合成し、回復の霊薬にします」
さっそく見たことも無い物が並んでいる。黄色い草二つと、燃えるように真っ赤な果実だ。ミリアも、興味津々といった感じに見える。
「じゃあ、二人ともこのコップにその二つを入れ、この棒で潰して混ぜてね」
「さて、やろう…」
黄色い草と赤い果実を入れ、その上から棒を突き刺す。これをしばらくして、それから、更に黄色い草を入れて潰すらしい。…ミリアも、本当はこっちがやりたかったみたいだ。
「うん…そんなもので良いかな。じゃあ、この液体にこれを入れて、潰してみて」
「「はい」」
先ほどの二つが混ざったオレンジの液体に、また黄色い草を入れて潰す。…どんな色になるんだろ?オレンジ+黄色か…。…何色?
「よし、そこまで。もう十分な色になったね」
そう先生に言われたので止める。棒の先にはオレンジ色の液体がついている。…魔力回復薬とは別の甘い臭いがしてる。
「じゃあ、舐めてみたら?」
「え!?良いんですか?」
「うん。実際に飲まないと信じられないでしょ?」
「分かりました。…じゃあ、舐めてみます」
二人の話がひと段落するまで待ってから、それを舐める。…ちょっと甘酸っぱい味がする。喉を通すと、体の疲れが吹き飛んでいった。
「わあ…すごくおいしい…」
「疲れが、吹き飛びました」
「回復の霊薬は、死んでなければたとえ腕が吹き飛んでも再生させるってすぐれものよ。魔法の作成で疲れたときや暴発でダメージを受けたときにも使えるし、使い道は本当に多いわ」
これがあったら、昨日のような状態でも治せたのかな?
「じゃあ、これは二人に作ったものを小分けして渡すからね。それと、レイ」
「はい?」
「この前の魔力回復薬、今渡すから」
小瓶に入ってたのはこの前飲んだ赤紫の液体だった。間違いなく魔力回復薬だね。
「じゃあ、今日の授業はこれで終了!」
こうしてミリアと一緒に受けた薬学は終了した。
「ミリア、どうだった?」
「あ、すごく楽しかったです!…次も、一緒に受けて良いですか?」
「うん。良いよ」
「ありがとう!またね!」
ミリアは次の授業のために走って行った。…さて、と。僕も明日のために準備しないと。
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メリシアside
「さて、あれだけ言ったんですからちゃんと覚えられたんでしょうね?」
全く、なんて生意気な…。私は光学科の教師ですよ!?まさか私のやり方に反発するとは…。所詮あなたみたいな生徒は落ちこぼれ学科とお相子なのですよ?向こうにもこちらを志望していながら落ちた生徒はいっぱい居ます。いくらでも代えならきくんですよ?せっかくエリート学科に入れてあげたというのに…。エリート学科に入ったのですから、わざわざ去る理由など無いでしょう?私のいう事だけ聞いていれば良いんです。全く…。
「えっと…。相変わらずやる気のない白紙の回答が5名。彼らにはこれでも駄目ですか。そんなに落ちこぼれ集積場に行きたいなら、行かせてあげても良いですよ?全く…。次に、1行から5行が20名。これは、まだ意欲がある生徒ですね。大目に見てあげましょう。そして、6行が19名。最低ラインは守っていますね。そして、8行が1名と。この子は優秀ですね。褒めてあげましょうか」
ふう。やる気のない生徒を落ちこぼれ学科に放り込んで、代わりに名前だけ置いている学生を何人か引き取ってあげますか。退学勧告をしてあげなければ…。籍だけ置いて遊び呆けている怠け者でしょうしね。…セフィナのやり方に反発するのは止めましょう。もし、この落ちこぼれ学科の管理をしているのであれば、生徒を出してくれないかもしれません。それに、本気の風学科は非常に強いですしね。それは認めましょう。…ですが、この方針の方が伸ばせるはずなんです!あんな放任主義はやはり認められません!
「さて、落ちこぼれコースに送るべき生徒は…下から3、5、11、14、33番目ね。まあ、やる気が無いなら良いわ。勝手に落ちこぼれ学科で遊んでなさい」
あなたたちの代わりなど、落ちこぼれ集積場にいくらでもいます。それを忘れることがどのような事か、存分に知らしめてあげますからね。次の薬学で最後通告をするわ。それで駄目だったら…さようならね。