20 シレの自分探し(3)
柊の自分探しを手伝うことになった翌日、レッスンのあと香奈太たちは再び夜月家に来ていた。
「へー、そんなことになってたんだ。で、カナちゃんは何してるの?」
「型紙の用意。シレくんのは後回しにするけど、他のみんなの分はデザインのオーケー出されたから、さっさと作っていかないと」
「おれのやつ!?」
「いいや、結弦くんの」
「なーんだ」
何故かついてきたユメが、自分の家かのようにベッドでくつろぎながら聞いてきた。
しかし、香奈太が作っているのが自分のものではないとわかった途端、興味をなくしてベッドの上で転がり出す。
「おい、布団落とすなよ」
「はーい」
注意すると、今度は足をばたつかせ始めた。
ユメを落ち着かせることは不可能なようだ。
そんな二人のやり取りを、座布団に座って見ていた柊が口を開く。
「……ふたりは、仲が良いよね」
「まあ、小さい時から知ってるから」
「そうだよー!知り合ったのは、小学校の低学年の頃なんだけど、カナちゃんはその時からダンスが上手でね。もう一目見た瞬間ビビッときたんだよね!」
その言葉に、初めてユメと会った時を思い出す。
ユメがダンスクラブ・ウェンヅに入ってきたのは、香奈太がクラブに入ってから三年経った頃だった。
所属期間が長かったこともあって、香奈太は同じ年代の中では実力が高い方だった。
だが、クラブにはプロのダンサーとして活躍する大人たちもいて、当然彼らのが香奈太よりもダンスは上手い。
にも関わらず、ユメはクラブに入った当初から、香奈太のダンスが一番好きだと言って香奈太に付き纏ってきたのだ。
同じ先生の元で学びながら、ユメはメキメキと成長していった。
実力もすぐに香奈太に追いつき、香奈太が辞めた頃には追い越していたと思う。
「二人で一緒に大会出たりもしてねー。おれ、カナちゃんとなら、最強だって思ったもん。なのに、カナちゃんが急にクラブ辞めちゃってさー。まだ携帯も持ってなくて、連絡先も知らなかったから、話も聞けないし。おれ、ショックだったんだけど〜」
「……悪かったって」
「べっつにぃ。偶然、DiAとして再会して、また一緒に踊れることになったからいいけどねー」
ベッドからの視線が痛い。
確かに、辞める前も特に相談せず、唐突に辞めてしまったのは良くなかったと思ってる。
言い訳をするなら、小学校卒業という区切りで他にも辞める人がいるというのを聞いていたから、自分も話した気になっていたのだ。
「……なんで?」
「ん?なにが?」
「……ダンス、辞めた理由」
「おれもちゃんと聞いてなかったかも。結局、カナちゃんはなんでダンス辞めたの?」
少し窺うように見つめてくる柊と、あっけらかんと聞いてくるユメ。
二人の性格の違いがよくわかる。
「服作りに目覚めたから。ダンスの大会って、みんな個性にあった色んな服きてくるでしょ。そん中で自作している人もいてさ」
「あー、あの人ね。確かに、自作とは思えないクオリティーしてた」
「そう。元々着飾るのは好きだったんだけど、その人から話聞いてるうちに、作るのに興味湧いてきて。実際やり始めたらどハマりして、ダンスやってる時間も服を作る方にあてたくなったんだよ」
この間、香奈太は一切手を止めないまま、会話をつづけていた。
型紙の上に不織布でできた透ける紙を置いて、鉛筆で線をなぞる。
その動きには迷いがなく、慣れた作業であることがうかがえた。
「そんなことより、シレくんのことだ。デビューまで時間に余裕が無い。早いところ、カメラに慣れさせないと」
「人気俳優がカメラに慣れてないってのも、変な感じがするけどね。でも、要はシーちゃんが自分のことを知るのが大事ってことでしょ?」
「まあ、そうだな」
「じゃあさ、おれたちが教えてあげればいいじゃん!」
いいことを思いついたとでも言うように、ガバッと起き上がったユメがドヤ顔で言い放つ。
その拍子にベッドから落ちたクッションを拾いながら、柊が首を傾げた。
「……ユメたちが、教える?」
「そう!何かを知るためには、人から教えてもらうのがやっぱ一番手っ取り早いじゃん。でも、一人からだと偏るから、シーちゃんを知ってる色んな人から教えてもらうの」
ユメの言葉を手を止めて検討する。
人から教えてもらうのがいちばん早いという考え方は、どんな人とでも仲良くなれるユメだからこそだろう。
ひとりでの作業に慣れた香奈太にはない発想だ。
「んー、なんて言えばいいかな〜」
「……?」
あまり理解できていなさそうな柊に、ユメが言葉を探す。
そして、ふと柊のカバンに目を止めた。
「あ!じゃあさ、シーちゃんは役について理解する時、どうしてる?」
「……台本にはセリフや行動しか書かれてない。だから、そこから、その人がどんな考え方をして、どんな性格をしてるかを逆算する」
「やっぱり!なら、それを柊シレっていう人物に対してもできないかな?」
その問いで、香奈太もユメの意図がわかった。
専門家でもなく、まだ出会って間もない香奈太たちが手伝えることは少ない。
だからこそ、柊の得意分野に持ち込んでしまえ、と言いたいのだ。
(それに、この方法なら俺が付きっきりでいる必要は無い。正直、シレくんの手伝いに時間をかけすぎると、衣装作りにこだわる余裕がなくなる。俺にとっても、グループにとっても初めての衣装は、できるだけ凝ったものにしたいし)
「いいんじゃない。シレくんにあったやり方で」
「……わかった。やってみる」
柊も納得したのか、すんなりと頷いた。
しかし、ここで気づくべきだったのだ、真桜が柊独りでやらせなかった理由に。
後に香奈太は、自分の欲を優先してしまったことを後悔する事になる。
そうとは知らないまま、まず、香奈太とユメから見た柊について話していくことになった。
「おれから見たシーちゃんはね、なんか、雪みたいな感じ」
「……ゆき」
「そう!冷たいって意味じゃないよ?雪ってふわふわしてて、音を吸い込むじゃん。シーちゃんは踊り方も雰囲気もふわふわしてるし、おれのおしゃべりいっぱい聞いてくれるでしょ?だから、雪みたいだなって。シーちゃんは、いつでも俺の話を目を見ながら聞いてくれる人だよ」
人と話すのが好きで元気なユメと、会話の間は独特だが相手の話をよく聞く柊の相性は、意外なほど良い。
グループで練習している時の休憩でも、元からの知り合いである香奈太が他のことをしていると、ユメは柊の元へ行って話しかけていることが多い。
柊も、口数の少ない香奈太とだと沈黙になりやすいが、賑やかなのが嫌いなわけではなく、よくユメの話を興味深そうに聞いている。
「俺もふわふわしてる印象はあるな。純粋で、ちょっと天然。感情が豊かな時とそうじゃない時の差が激しい。あと、割と聞きたいことを端的に聞いてくるから、マイペースに見えるかも」
香奈太はユメよりもさらに柊と共に居た時間が短い。
そのうえ、あまり他人に興味がない性格なため、表面的なことしか言えなかった。
一応事前に調べた俳優としての柊シレについての情報はある。
しかし、それを伝えてしまうのは、それとは違う個を確立したくて自分探しをしているのに、本末転倒である。
「んー、でもやっぱ、これだけだと足りないよね」
「ああ。他の人にも聞くべきだな。できればシレくんをよく知ってる人がいい」
「俳優の共演した人とか、前のマネージャーさんとか?」
「別に仕事関係の人である必要はない。学校の友達でもいいし、普通に家族とかな」
言いながら、香奈太はチラと柊を伺う。
昨日の家にほとんど人がいないという言葉が気にかかっていたのだ。
今どき、両親が共働きで家にいないというのは何も珍しくはないが、柊は子役をやっていた人だ。
親の協力なくしてできるはずがない以上、少し引っかかる。
どこまで突っ込んで聞いていいものかがわからない。
柊の表情からは何を考えているかは読み取れなかった。
「できるだけたくさんの人に聞いたほうがいいよね。仕事関係の人は、和佳奈さんに調整を頼もう!家族には家で聞けばいいとして、学校の友達に聞きにいくのついていってもいい?」
「……いいよ」
「やったー、じゃあ明日の昼休みにシーちゃんの教室に遊びにいくね」
何も気にしてないユメが話を進めてしまう。
柊も特に反対しなかったため、また続きはいろんな人から話を聞いてからということになった。
この度は作品を呼んで頂きありがとうございます。
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