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人魚の夢 ー9

 

 空は見えないのに、光り輝く宝石が夜の星のように輝くから

 風はないのに、どこかで鳴り響く風の通り道が外の存在を教えるから


 道はないのに、後ろに立つ人たちのために、僕は、目の前の大きな水の中に飛び込むしかない。


 そうしないと、僕たちは死んでしまうから


 だから僕は、きっと僕たちは


 今日も絶望している。



 腐った湖へ何の感情もなく飛び込めば、やせ細ってほとんどミイラ化している人魚が必死の形相でこちらに向かって泳いでくる。

 水の流れがなくなって久しいこの地獄では、すべてがもう食い尽くされてしまった。

 僕は食われないように、どろどろとした水の中で必死に武器を振り回す。


 ほとんど死にかけの人魚に一発でも当たれば、今日も僕の勝ちだ。

 教祖によって故意に水の循環を止められた腐った世界では、ほとんどの生き物は死んでいる。かろうじて生きているのは生命力の高い人魚だけ。

 かつては美しい姿、歌声、優しい青緑の髪が海風に靡いていたという。

 今ではその面影はない。


 くぼんだ目の中に獣としての光が強く残るのみ。


 崖の上からロープが垂らされる。


 彼らは「死にかけた人魚の心臓」を欲している

 


「よくやった、これで不老不死への道に一歩近づいた。教祖様もお喜びになるだろう」


 教祖のそばにいつもいるだけの大人たちが、人魚の死体を回収して抑揚のない声で淡々といつもの言葉を投げつける。


「お前はもう下がりなさい」


 昔は彼らに見てほしくて、愛されたくて必死に媚をふりまいていたが、今ではもう嫌というほどわかってしまった。


 彼らにとって僕は「道具」でしかない。


 道具は大人しく道具箱に戻らないと、処理されてしまう。

 あの子たちみたいに……



 



 いつものように見慣れた地面を見ながら牢屋に辿り着く、重く冷たい錆びた扉を閉めようとしたら、ふと複数の視線を感じて顔を上げる。


 するとそこには個性が強そうな五人が呆けた顔で此方を見ていた。

 少年が興味深そうに腕を組みながらつぶやく。


「自主的に牢屋に入っていくタイプか」


 目に光の宿らない少女が隣の子に話しかけた。


「ヘイ。シスター。①奴隷②そこを居住としている③いくところがない。どれだと思う?」

「そんなことより、ゲボとヘドロと腐ったぞうきんを掛け合わせたような匂いがする!!」


 白い少女は杖を構えると、こちらに向けて水を吹きかけてきた。

 勢いは強いが、熱くも寒くもない温度だった。

 途中で花のようなにおいの液を、黒い少女が水の中に入れたおかげでフローラルな香りが一通り全身に染み渡る。

 しばらく耐えていると満足したのかぴたっと水攻めが終わった。


「ねえ君、男? 女?」

「名前は?」


 よく見るとそっくりな顔をしている二人は、同時に首を傾げた。


「ぉ、ヴォ、ぼく、な……名前なんて……ない」


 久しぶりに発した声はザラザラとしていて、まるで砂を食べたような無様で歪な音だった。

 双子は何かを察した顔をして、険しい顔をしてこそこそと話し合う。


「僕っ子か、僕っ娘……。どっちだ」

「髪は長いし、体もがりひょろだけど、未発達だと判断つかないしね……」


「しょうもないことで真剣に話し合うなよ……」


 ふわふわの動物を抱っこした少年が、鞄から布を取り出すとこちらに渡してきた。


「これで拭きなよ。風邪ひいちゃうし」


 ふわふわのタオル、久しぶりに触れた。

 呆けていると、赤い髪の少女が心配するような表情で手をのばしてきた


健全ノ祷(スコヤカデアレ)で状態をみましょうか」

「いや、やめておこう」


 優しく触れようとしていたその手をそっと止めるように降ろす、お洒落を楽しんでいる風の男が首を横に振った。


「女神の魔法を今使うのは悪手だ」

「というと?」

「多分ここに棲みついてるのは『現人神崇拝』だよ、気取られる可能性がある」


 ツワシはシロハのほうを見た


「あらひとかみってなに」

「何?」


 シロハはクロハを見た。


「オレ、ニンゲン超えたカミ」

「「なるほど」」


 なんて雑談していると、カツンカツンと足音が聞こえてきた。

 それに気づいて無言だが煩い動きで慌てふためく一行は、あわてて牢屋の持ち主を牢屋の中に押し入れて一緒に中へ駆け込む。

 扉をそっと閉めると、シロハは杖をくるくるとまわした。


 すると、一行の姿がすう…と、どんどん薄くなり、やがて消えた。

 小声で「姿見えなくしただけだから音や声出しちゃだめだよ」と注意しているのが聞こえる。

 そちらのほうを見ていると、どんどん近づいてくる信者たちの会話が耳に届く。


「我らの拠点に侵入者がいるかもしれないと……?」

「ええ、見張りがいうには門番のゴーレムが破壊されていたと」

「教祖様には?」

「いいえ。そんなことであの方の手間を取らせるわけにはいかないと、副長様が」


 信者たちはピタリと牢屋の前に立つと、何の感情も持たない瞳でその中にいるものをみつめた。


「おい、湖に人魚は残り何匹いる」

「……」


 人差し指を立てると、信者たちは顔を見合わせた。


「ううむ、今回の儀式で成功するといいのだが」

「教祖様をさらなる神格を上げるため、不老不死の儀式はなんとしてでも成功させたいが」


 小さく「不老不死……?」という声が聞こえた後、どすッ……と鈍い音が聞こえた。

 信者がこちらをみる。


「なんか聞こえたか?」

「気のせいだろう。……もう何年も儀式をやっているがうまくいかないな」

「副長は今回も材料のせいかもしれないといって、次は人魚ではなく、フェニックスを使う案を考えておられるようだ」

「そうなると、ここも用済みだな」


 会話しながらこちらに一瞥もせず歩いていく。

 響く足音が消えてから一行の姿がみえるようになった。


「うぅ、ひどいよお。鳩尾殴らなくたっていいじゃないかあ」


 青い顔で涙目のツワシ。

 その横でジト目の双子。


「しゃべるなっつったじゃん。ばかなの?」

「お前だけあいつらの前に放置してやろうか」

「だってぇ」


 ぼけぇとみていると、肩をぽんっと叩かれた。


「俺たち、その人魚がいる湖にいきたいんだよね」

「ぅ、ぁ、な、な……んで」

「この鉱山はもう掘りつくされたらしいけど、たった一つまだ残っているという噂があるって聞いてね」


 指を鳴らして魔法で取り出した、ある紙切れをみせてくる。

 そこには映し出された絵なのに、まるでそこにあり、輝きを放っているかのように美しく光る宝石が大きく魅せられていた。


「かつてみんなが望み欲して、この場所をごぞって掘り出したという、最上級の宝石……その名も『月の命』」

「つ……きの……いの……ち」


 なんだかその言葉に、何も感じなくなったはずの胸がドキドキしているような気がした


「名前がないと呼びにくいね」

「自己紹介しましょうか、私はライラで、この方はディー様です」

「シロハとクロハでーす。おまけのツワシ」

「おまけってなんだよお」

 

 覚えたと頷けば、にこーっと笑うライラ。安心できる敵意のない笑顔を見るのは何年ぶりのことだろう。

 本当なら侵入者と親しくしてはダメなのに、この子たちには協力してあげたいと思った。


「こ、こっち、ぃ……だ、ぉ、よ」


 一行と一緒に湖に向かっていると、シロハが指を鳴らした。


「名前アンディーとかどう」

「性別男かもわかんないのに?」

「じゃあ、ンザンビ」

「適当にきめてない?」

「じゃあそんないうならツワシいってみなよ」


 えー、と困惑した表情で此方をじっと見つめるツワシ。

 いろんな表情を見せて悩んだ後、小さい声で「ミネラル」といった。


ミネラル(鉱石)……」


 繰り返すと、双子がこちらをみた。


「気に入ったらしい」

「案内よろしく、ミネラルんば」

「ちょっと変えるな」


  ふと、立ち止る。


「どしたの、るんば」

「原型とどめてないんだけど」


 ミネラルは揺れる指であるものを指す


「ゾンビウルフだね」

「生まれた時からゾンビなの?」

「ツワシはもう少し脳味噌使ってからしゃべったら?」


 ゾンビウルフは五体ほどおり、与えられた肉を奪い合いながら食べている。

 まだこちらには気づいていないようだが、薄暗い坑道は一本道で、どうやら避けられないようだ。


「瞬殺しないとだね。なんでかっていうとゾンビ系にかまれると呪い毒によってかまれたものもゾンビ化するからだよ。わかったかなツワシくん」

「ゥ、うん」

 

 困惑しているツワシに双子が続けた。


「ディーはお前が「なんで?」っていうのを先に潰したんだよ」

「そしたら急にどうしたってドン引きしててまじつわし」

 

 といいながらシロハは杖を構える。


「燃や……すと、酸欠になるかな」

「豪爆炎だと下手したらこっちも被害くるから、猛火炎≪中級魔法≫ならいけるかも」

「シスターって精霊と契約したから威力あがったんじゃなかった?」


 クロハの言葉にそういえば、とシロハが言うとゾンビウルフがこちらをみる。


「……」


 予期せぬ客に、予期せぬ展開。

 両者黙ったまま見つめあっていると、先に動いたのはゾンビウルフだった。


 唸り声をあげ、一行にとびかかるが


岩咲茨(トコヨザキ)


 地面から岩でできた棘が突きあがり、ウルフを串刺しにしていく。

 それでもなおまだ生きているのか、よだれをダラダラとながしながらガチガチと歯を鳴らしている。

 一匹が大きく遠吠えをすると、ほかのウルフも呼応した。


「今の技私も覚えたーい」

「中級だからすぐ覚えられると思う。教えてあげるよ」


 シロハの言葉にディーは返すと、ちらりと背後をみる。


「とりあえず今は『逃げ』かな」


 その言葉と視線に後ろを振り向くと、壁から生まれるようにサンドマンがどんどんあふれ出てくる。

 人の形をしているが、皮膚はなく、砂や泥をべちょべちょと垂らしながらこちらにむかって増え続けていた。


「ツワシ、ミネラル運んで」

「えぇ、僕?! ええっと、マッチズム、おねがい」


 ラムダからマッチズムにチェンジすると、お願いされたマッチズムはミネラルをお姫様だっこすると、みんなと同じ方向に逃げ出した。

 右へ行ったり、左へ行ったり、そうこうしているうちに、目的の場所にたどり着く。


 深い深い崖になっているその下に、腐敗した水が溜まっている。


 シロハは鼻を抑えて不快感を露にした。


「くちゃいッ空間聖域(キヨキマスノメ)!……っぷはー……吐くかと思った」

「吐しゃ物を放置した雑巾の匂い」

「したことあんの?」

「たとえ話だよ」


 双子とツワシの幼馴染コンビが会話していると、上から大きな岩が三つ落ちてきた。

 突然の揺れに身構えながら一行が振り向くと、降ってきた岩がめきめきと形を変えてゴーレムへと変貌した。人の数倍もあるソレは、無機質に目を白く光らせている。


「えーっと、ゴーレムがいるってことは」


 ディーは体を横に傾けてゴーレムの後ろを見ると、信者たちがゆっくりと歩いてきているのが見えた。


「我らの拠点に入り込むネズミどもよ、覚悟するがいい」

「何が目的か、誰の指図か、吐いてもらおう」


 魔術師が二人、前衛なのか剣を持っているのが三人、そしてゴーレムを操り指示している召喚士が一人、おそろいの白いロングフードを着てこちらを威嚇している。


「そんなにぞろぞろ来なくてもいいのにね」

「こういうカルトってどこで募集かけてるんだろうな」


 双子がのんきに会話しているが、信者の一人がミネラルに気が付くと、指をさして怒鳴った。


「貴様が手引きしたのか、出来損ないがッ」


 怒号が耳に届いた瞬間、全身に恐怖が支配する。身を少しでも守るためにしゃがみこんで頭を抱えた。

 勝手に体からでる震えを抑えることも、許しを請う声を出すこともできず、心の中でごめんなさいと何度も繰り返す。


 ごめんなさい。ごめんなさい。何度でも謝るし、何でもするのから、どうかどうか殺さないでーーーと


 ふと、影ができたかと思うと、信者から隠すようにクロハが前に立っていた


「人間失格どもが何言ってんだか。脳まで腐ってんじゃねーの?」


 舌をだし、中指を立てるクロハに信者たちはぴきっと青筋を浮かべる。


「くそがきが……捕まえろ」

 

 ゴーレムが三体動く。


 ディーが背後のメンバーに指示する。


「みんな、この不安定な場所で戦うのは不利だ、いったん退こう」

「戦術的撤退!」


 シロハがうんうんと頷く。


「崖から飛び込むんだ」


 マッチズムがツワシとミネラルを抱き上げ、ひょーいっと飛び降りる。

 それに続きクロハも飛び降りたが、ふと後ろを見る。


「……おいっ」


 クロハのいい加減にしろという言葉は水の中に溶け込んだ。



 水の中にはヘドロのような藻が生えており、それに絡まるように死んだ目の骨がむき出しの魚がいる。

 それだけでなく、大型の動物の骨なんかもあるらしく、もがけばもがくほど服に引っかかりどんどん沈んでいってしまう。

 半ばやけくそになりながら水面を目指して泳ぐときに何かが手に当たった、いらだちを抑えきれずそれ粉砕してやると思いながらを握りしめる。


 光の届かない暗いこの場所では、どちらに向かえばいいかわからず、酸素がどんどん減っていく。


 少しばかりヤバいかもしれないとおもったとき、柔らかいなにかが腕に巻き付くと、ぐんっっと強い力で引っ張られた。

 特に抵抗もせず、身を任せると、水面から引き上げられ、陸の上に放り出される。


 どうにか地面に着地すると、息を大きく吸う、吐く、を繰り返し、心臓を整えた。


 頭をぶんぶんと左右に振り、顔についた水をぬぐうと、ツワシとミネラルが目の前におり、あほ面の二人と目が合う。

 腕についた何かは、触手だったらしい。


「……マッチズム、だっけ。ありがと」

「んんぬっ」


 どういたしましてといわんばかりのマッスルポーズ。

 ふと、無意識につかんだ手の中のものをみるとぶん投げればそこそこの凶器になりそうな岩だった。

 いつか、むかつくやつにぶん投げてやろうと異空間に放り込む。


「クロハ! 大変だよ」

「んかーーーーーーっ……ぺッッッ」

「おっさんみたいなことしてないで聞いて?!」


 涙目でツワシは叫ぶ


「他の三人がいないんだよおーっ!!!」


 よぉー……よー……よー…とエコーがかかりどんどん小さくなって消えていった。

 

 クロハは耳の水を抜きながら「知ってる」と返す。


「知ってるって?」

「飛び込むときに後ろみたら、あいつら飛び込む気ゼロだったからな」

「そんな……まさか、僕たちを逃がすために……?」


 クロハは大きいため息を吐くと、上着を脱ぎ絞る。


「ライラならともかく、あの魔法組がそんなタマじゃないのは考えればわかるだろ」

「じゃあ、まさか」

「そう。そのまさか」


 魔法組の共通点。---自分を汚したくない。


 どや顔であんな汚いとこ飛び込めるわけないじゃん、とピースしてる二人の顔が容易に想像つける。


「ライラは純粋に高いところ苦手みたいだったから、飛び込む勇気無くてタイミング逃したんだと思うよ」

「今頃つかまってるのかな……」

「知らん」


 絞った服をぱんぱんと広げながら、クロハは周りを見る。

 崖と腐った水以外特にめぼしいものはなさそうだ。


「ん、なんか違和感あるな」


 湖の先に、丸い大きな岩が見えた。


「ぁ、え、あ……れ、教祖……様が、水を塞ぐために、ぉ、おた、おいた、岩」

「じゃあアレぶっ壊したら水抜けるのか」

「抜いたって僕たちに意味あるのかな」


 ぼこぼこと水面が泡立つ。

 何かの気配を感じてそちらを見ると、ヘドロが絡みついた髪がゆっくりと水面から出てきた、くぼんだ眼窩に炯々と光る目がこちらをじっと眺めている。



「ぎゃあああッお化けええ?!」

「ぁ、ぃ、ぎゅお、人魚、だぅぉ」

「あれが?! 僕の想像してるのと全然違う」

「理想と現実ってやつか」


 突如人魚から地の底から響く低い音が鳴り響く。


「ひぃぃ、唸り声かな……」

「腹の音に似てるな」


 マッチズムの後ろに隠れるツワシ

 人魚はちゃぽんと水の中に隠れると、水面がゆれた。


 数秒ののち、水しぶきが激しく飛び散り、「キィシャアアア」と叫びながら人魚が飛んできた。その威嚇の声を上回る声で絶叫するツワシに絞っていた上着を投げつけた後、異空間からあるものを取り出し、飛んできた大きな口を開けた人魚の口の中に「ソレ」をぶちこんだ。


 人魚はバランスを崩しながら地面に寝転がるも、それをもぐもぐと食べている。


「な、なに入れたの」

「ライラのパン」

「……しまってたの?」


 クロハは頷く。


「毎日パン飽きる。残すとライラ悲しい顔するし」

「いやわかるけどしょうがない……じゃなくて、人魚、人魚」


 口に入れられたパンを食べ終わった人魚がこちらを見る。


「召喚士なんだからこういう魔物系とも交流しろよ、三流」

「え、ええ……知能高すぎる魔獣とかはレベルもっとあげないと対話すらしてくれないよ」

「物は試しだろ」

「う、うん」


 マッチズムの後ろにいるまま、ツワシは人魚によっ、と言わんばかりに手をあげる。


「こんにちは! 僕たち敵じゃないです。通りすがりです。襲わないでください」

「対話じゃなくて懇願じゃないか?」

 

 骨と皮だけの人魚はクロハに手を伸ばす。


「モッ……ト……ミズ……モ、ホシ……イ」

「やっぱ飢えてるのか」



 クロハは異空間から大きなバケツと水をとりだし、人魚の前に置く。

 ずるずると這うようにそのバケツの中に人魚は入ると、その汚れが流れていった。


「肉くうなら、バフォメットの肉焼くけど、食うか」

「え? ばふぉm……え? なんて??」


 聞き捨てならない言葉を聞いたツワシは信じられないものを見る目でクロハを見るが、いつものごとく無視される。

 異空間から乾いた木をコロンコロン出現させた後、顎をくいっとする。


「ツワシ、火」

「えぇ、僕が起こすのお? 体力無いのにぃ」


 めんどそうな声を上げたツワシに、クロハは呆れた顔をした。


「私より魔法初級使えんだろ」

「あぁ、そっか」


 ツワシは薪の前にたち、両手を広げる。


「むむう」


 待ってる間に、クロハは人魚の口にカエルの干物を入れる。


「ミネラルも食う? カエルの干物」


 首を横に振ったので、クロハはもう一つを自分の口にいれてバフォメットの肉を取り出す。


(ホムラ)!」


 ぼうっと瞬間的に火がおきると、薪に火が付く。


 干物を食べながらクロハはツワシに近寄る。


「ほんとにおっせえな」

「僕スキルポイントラムダに全ぶりしてるから」

「バカじゃん」

「……え、まって。何食べてんの??」


 マッチズムが手伝い、バフォメットのお肉がどんどん焼けていく。

 てんてんてん、お上手に焼けました、と


 お肉が焼きあがると、よだれを垂らす人魚に渡す。

 勢いよく噛みついたが、熱かったらしく悲鳴をあげて落とした。


「人魚って雑食なんだな」

「まあ、魔物よりだし」


 落ちた肉を拾い上げ、うちわを取り出しパタパタと仰いで冷ます。

 それをしながら周りを見れば、天井が大きく、丸い穴からオレンジ色の空が見える洞窟のような場所だった。

 ほかの坑道は狭かったが、この場所は開けているため、息苦しさは感じないが、やはり水がくさい。

 シロハがかけていた空気清浄の効果がなくなったのか、ツワシがつらそうな顔で鼻を掴んでいる。


「なんで平気そうなの」


 ケロッとした顔で肉を食べるクロハに、ツワシがそう聞けば、しれっとした顔で答える。


「なれた」

「適正能力高い……ミネラルも平気なの?」


 ミネラルも頷く。

 

「そもそもずっとここにいるんだから」

「あ、そっか。……あああ、新鮮な外の空気をすいたい」


 ツワシの言葉に人魚は反応する。


「ん?」

「ソト……ソト……カエリタイ……カエリ、タイ」


 そういいながらぽろぽろと涙を流すと、地面に落ちる前に宝石となって転がった。乳白色からどんどん黒い歪みのある色に変わり、最後に真っ黒にそまった真珠になった。

 クロハそれを拾い上げるとまじまじと眺める。


「人魚のナミダって本当に宝石になるんだな。……まあ、そう泣くなって。生きてりゃ帰れるって、知らんけど」

「僕も泣きそう、こんなカルト集団の巣窟にクロハと一緒だなんて」

「私は別に一人でもいいけど」

「おいていかないでぇ」

「めんどくさいな」


 スンスン泣いていた人魚に肉を渡すと、すぐに泣き止んで食べ始める。

 骨まで食べきった後は、どうやらすっかり敵意は消えたらしい。


「とりあえず、三人を助けに行こう」

「めんどいけど、しょうがないかあ」

「ぅ、ぅ、たぶん、さい、祭壇に、いるとおも、う」


 ミネラルのほうを2人は見る。


「祭壇?」

「牢屋なら楽だったのに」

「ぃ、ぃ、イケニエ、いるから、儀式」


 なるほど、と頷くクロハは、ふと人魚のほうを見る。


「なんで人魚みてるの?」

「いや、こいつも復讐がしたかろうとおもって」

「……えぇ……?」


 何を言い出したか理解できない状態のツワシを無視して、異空間から斧を取り出すクロハ。

 何も言わず、それをミネラルのほうに差し出す。


「ぅえ……?」

「ミネラルもさ、やり返したほうが前に進めるでしょ」

「ぇ、え?」


 手に持った斧はそんなに大きいものではないが、刃がずっしりとしていて重い。振り回せば自分事持っていかれそうな気がした。


「人魚は……これやるよ。玉切れしたら涙を玉にしな。やれるか」

「ヤレ、ル」


 ミネラルの返事を聞く気がないクロハはゴムパチンコセットを人魚に渡す。

 試し打ちの動作をする人魚は意外と適応力高そうだ。知能が高いだけある。


「狙うなら目だぞ」

「ワカッタ」


 殺ル気満々の人魚がはいったバケツごと持ち上げる。


「そ、その状態で行くつもり?」

「ズム、ツワシちゃんともっとけよ」

「んぬっ」


 マッチズムはツワシを持ち上げる。


「正気?!」

「人魚、ミネラル。憎しみを糧に行くぞぉー」 

「オーッ」

「ぇえええ」


 バケツの上で人魚が腕を上げる。

 ミネラルとツワシはドン引きしながらも走り出したクロハの後を追いかけた。


 

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