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雑談休憩


 なんでもない日の旅道中に

 なんだか休憩にとってもよさそうな木陰がある平野にたどり着いたので、少しだけ休むことにした。

 そよそよと優しい風も吹いており、眠気がどんどん押し寄せてくる。


 ふと寝息が聞こえるので、そちらをみれば、ラムダを抱きしめたままツワシは爆睡しているのが見えた。

 

「……おいていく?」

「だめですよ」


 シロハのぼそっと言った言葉に、苦笑いで否定するライラ。

 

「寝てていいよ、オレは周囲に敵がいないか見てくる。クロハはここで見張りしてて」

「ん」


 目を閉じていたクロハは目を開けて頷く。


「斥候なら私がいくけど?」

「いいよ、休んでて。ついでにトイレしてくる」

「ああ……」


 すたすたと歩いて行ったディーを見送った後、シロハはおもむろにライラの膝にそっと自分の頭を乗せた。

 何も言わずライラはほほ笑みながら、月白の頭をゆっくりと撫でる。まるで聖母のような光景にクロハは目を細めた。

 静かな空間の中でやがてシロハもすうすうと寝息を立てた。


「クロハさんも眠りますか? 私が起きていますので」

「ん?」


 目を閉じていたクロハが目を開けて、ライラを横目で見る。


「別に、眠いわけじゃないよ。いい天気過ぎてまぶしいから閉じてるだけ」

「それなら、もっとこちらに寄ってください。ほら」


 おいでおいでと手招きされ、少し距離がある場所にいたクロハはどっこいしょと立ち上がると、ライラの隣に座った。

 ライラはほほ笑みながら自分の肩をぽんぽんと叩いて「もたれていいですよ」と言った。

 

 すこし考えて、クロハはゆっくりと頭を預けた。


「……いい匂い」

「え、あ、ありがとうございます」

「ライラってさ、最近謝罪しなくなったよね」

「そういえば……そうですね。みなさんとご一緒になってからは、自己嫌悪に陥る暇がないので」


 くすくすと笑うライラの声を聴きながら、クロハは小さく微笑む。


「まあ、筋金入りの問題児なので」

「ディー様に出会うまで、あの方以上の問題児はいないと思っていましたが、上には上がいるものですね」

「越えられない自信はある」


 和やかに会話していると、ドドドドドドドドド……と微振動が聞こえたと思うと、目の前にそれは現れた。


「……」


 バチバチと放電しながら四つの角が生えた羊のような魔獣が突然現れ。じり、じり、とこちらに向かって足踏みしている。なぜかやる気の満々のようだ。


「バフォメットですね。当たり屋の魔獣です。かすっただけでも痺れますし、変に苦しませると呪いを発動させます」

「厭らしい魔獣だな」


 クロハは立ち上がるとモーニングスターを出し構えたが、何か考え直したのか武器をしまった。


「どうかしました?」


 すたすたと羊の魔獣に向かってあるきだすと、威嚇の鳴き声をあげたあと、猛スピードで走り出した。

 直撃した、という瞬間に、電流の光がクロハの全身を巡ったが、全く意に介さずそのまま角を掴み上げ、大地に向けて叩きつける。


 骨が折れる音が聞こえると、ピクリとも動かなくなったそれを引きずっていくクロハ。


 途中でピタリと歩みを止めると、ちらりとライラのほうを見た。


「なんかあったら大声で呼んで」

「え、あ、はい。どちらに……?」


 つかんでいる角を持ち上げながら、ナイフを取り出す。


「解剖」

「あ、はい」


 そのままズルズルと姿を消した。

 グロイ光景にいまだに慣れないライラに配慮したのか、眠っているシロハに血の匂いを嗅がせないためなのかはわからないが、クロハは少し離れたところで解剖しているようだ。


 そして入れ違いに戻ってくるディー。


「あれ、クロハは?」

「えっと、バフォメットの解剖に行きました」

「ああ、即殺しないと時間差で遅効性の呪殺かけてくる嫌な奴ね。……解剖??」


 なかなかに厄介な敵だったよなと思い出した後、ふと気になる単語に引っかかった。 

 聞き直すと、クロハが向かったほうを指差す。


 恐る恐る見に行くと、バフォメットのごわごわした毛を丸禿に刈り取っている最中だった。


「……ねえ」


 声をかけると、ナイフをもったまま真顔で振り返る。

 殺人現場を見たみたいで怖い。

 バフォメットの首を切ったあと、足を紐にくくりつけると、近くにあったしっかりした幹に縄をつなぎ、逆さにつるす。


「今から解剖すんの?」

「血抜かないとだからちょっと置いとく」

「いつまで?」

「うーん、サイズ的に50分はおいておきたい」


 ディーは複雑そうな顔をしたが、何も言わず頷いた。


「じゃあ……今日はここらへんで一日すごそうか」

「適当にしといて」

「ところでそれ……」


 血がしたたり落ちているそれを指差しながら嫌そうな顔で聞いた。


「食べるの……?」

「毛と皮を剥げば、ただの肉と変わらんべ」

「バフォメットって見た目は羊だけど、悪魔族に分類されるんだけど……」


 はあ? って顔をしているクロハにディーは説明を諦め、好きにしてと言ってほかのメンバーのところに向かうことにした。


 お昼寝しているメンバーのところにいくと、ちょうど起きたようでシロハはぐぐぐっと背伸びをして大きなあくびをしていた。

 コチラを見ると首を傾げる。


「シスターは?」

「チヌキ」

「へえ……」


 何かを察したのかそれ以上問うことはなかった。


「ってことで、急ぐ旅でもないし、今日は一日ここでゆっくりしよう」

「それなら……パンを焼きます。ディー様、カマドを出していただけますか?」

「はいよー」


 石で出来た竈を異空間から出す。

 それを見てシロハは呆れたような顔をした。


「普通そんなの持ち歩く?」

「だって焼きたて食べたいじゃん」

「ライラかわいそー」


 本人は気にしていないのか、いそいそと材料を異空間から出して準備に勤しんでいる。

 こういう作業は嫌いではないらしい


「シロハさんも一緒に作りますか?」

「えー?」


 めんどくさいという感情を隠さず声にだすが、ふと今日はもうここから動かないと思うと、暇じゃないかと思い直し、手伝うことにした。

 ライラが出した袖まであるエプロンに少しだけ不満あったが、ほかにないようなので我慢した


「強力粉をふるっておいてください」

「このちっさい網にわざわざ入れるの? そのまま使っちゃダメなの?」

「混ぜる時にダマになりにくくなるんですよ」

「へえ」


 よくわかっていないがとりあえず返事をして、粉をふるっていく。サラサラとボウルに落ちていく様を見るのはちょっと面白い。

 

「できましたら、イーストと塩、砂糖をいれて……軽く混ぜる」

「ほいほい」


 白い粉に吸収される色付きの粉を見て、シロハは真顔になる。


「混ぜる意味ある?」

「何事も意味があるものですよ」


 そういいながら、ライラは別でやっていた卵とミルクを混ぜていたものを粉に少しずつ混ぜて合わせていく。口には出さなかったがどうせ混ぜるならやる意味あったのかなァと思うシロハだった。


 ある程度ボウルの中で混ぜ合わせると、それを打ち粉をしていた机の上に出していく。


「べっちょりんこ」

「手で根気よくこねていきます」

「正気?」


 ボウルの中で混ぜただけでも手首が痛いのに、まだやるのかと目をまんまるにしていると、机に押し付けるようにぐんぐん伸ばしながら捏ねていく。


「ほらシロハさんも」

「……私、ツワシのばーちゃんにハンバーグのタネつくるの手伝えっていうアレすごい嫌いだった」

「これはほら、生臭くないので」


 根気強く捏ね捏ねしていくと、生地につやがでてきて、終わりが見えたとシロハの目が輝き始めたが、捏ねた生地の上に、そっとバターを置かれる。


「……」


 無言でライラのほうを見ると、にこっと優しい笑顔で頷く。


「次はバターを織り込みながら捏ねていきましょうね」


 絶望の表情を浮かべているが、誰かと作るパン作りが楽しいのか、いつもは空気が読めるいい子なのに、うっきうきで浮かれていて気付いていないようだ。

 あきらめて素直に従い捏ね捏ねしていると、油によってか艶がでてきた。


「どやさ!」


 手首をプルプル震わせながら涙目で完成を宣言すると、ライラはよくできましたーと手をぱちぱちと叩いている


「焼くの?」

「いいえ」

「い い え ?!」


 捏ねた生地をボウルにいれると、ふわりとラップをかける。


「これが今より二倍に膨れるまで、ちょっと待ちます」

「どのぐらあい?」

「うーん、天気がよいので30分ぐらいでよさそうですね」


 シロハは木にもたれるように座り込む。


「もう疲れちゃったぁ」

「これどうぞ」


 ふわふわの泡のようなものが乗った茶色い何か。


「くんくん、コーヒーのいい匂い」

「ダルゴナコーヒーです。ミルクの上にコーヒーをふわふわの泡にした飲み物ですよ」


 シロハは一口飲むと、ニコッとした。

  

「おいしーい」

「ふああー……なに飲んでるの?」

「ツワシずっと寝てたの?」


 やっと起きたらしいツワシはシロハの持っているものをたずねながら目をこする

 

「ラムダの羊毛はすごーく気持ちいいから寝すぎちゃうんだよね」

「んめえ」


 褒められてツワシの腕の中でご機嫌な鳴き声をあげるラムダ。


「ツワシさんも飲みますか?」

「んー寝起きだから水のんでくるよ」


 そういって歩いていくツワシ。

 入れ違いにやってくるクロハ。


「ライラ、調味料セットちょーだい」

「いいですが、料理なさるのですか?」


 ライラの言葉に首を横に振る。


「んーん。肉を味付け保存する」

「シスター。終わったの? ちぬき」

「まだもうちょい」


 と会話をしているとツワシが悲鳴を上げてもどってきた。


「そそそそそ、そこで魔獣が頭落とされて吊るされた! 蛮族の儀式だよきっと!」

「あぁ、いえそれは」


 涙目でわあわあわめいているツワシを見て、双子は顔を見合わせる。

 ライラが説明しようとしたが、ゆっくりとツワシに近づくと、クロハは無言で腹をぶんなぐって気絶させた。

 倒れこむツワシの首根っこを掴んで、再び最初に眠っていた木の幹のほうに放り投げた。一部始終をみていたラムダは震えながらライラのお腹に顔を押し付けている。


「えっと……」

「煩いから」

「ですよね……」


 ツワシに振るわれる暴力は基本的に「黙れ」というときに執行される。

 木の上にいたディーが下りてきた。


「俺はそろそろテントはるよ」

「じゃあ私もやろーっと」


 シロハとディーがテントをはれそうな場所を選びにいき、クロハも調味料をもらっていなくなった。

 気絶しているツワシを除けば、今ここにいるのはライラだけ


 気合い入れてパン作りを再開する。


 発酵したパンを取り出し、軽く打ち粉をすると何等分かに小分けにして、くるくると丸めるように捏ねていく。

 饅頭みたいなまんまるの白い生地ができあがると、それに濡れ布巾をかけてまたしばらく待つ。


「さて。待っている間に」


 スープを作るために、材料を用意して切っていく。

 水を沸かしていると、クロハがやってくる。



「調味料ありがと」

「終わったのですか?」

「まあ、とりあえず。……今日は食えないけど。みんなが存在忘れたときにこっそり出して食わせよう」

「バフォメットを食べようとしているのは、世界でもクロハさんが初めてかもしれませんね」


 クロハはライラがつくっておいていた白い塊をじっと見る。


「……まんじゅう?」

「パンの生地ですよ。ちょうどスープもできたので。これの続き、一緒にやります?」


 シロハ同様料理系に興味がないのか、真顔のままみじんも動かない。


「軽く押さえて丸みを潰して、ここを片手で抑えつつ、めんぼうで伸ばして……くるくるーって」


 めんぼうで伸びた生地を、手前に戻すようにくるくると巻いていく。

 すると見たことがある形になった。


「ロールパン?」

「そうです」


 慣れた手つきでくるくるとやっていく。

 クロハもすすめられてやろうとしたが、生地がちぎれた。


「軽くでいいんですよ」

「こういうの苦手なんだよね……工程がめんどくさくて飽きる」


 とかいいつつもなんだかんだとやっていくクロハに、にっこりとご満悦の笑みを浮かべるライラ。

 竈にマキもくべて火をつけ、焼きの工程に入る。


 夕日がおちて星が出てきたころ、おいしいスープと、焼きたてバターロールパンができあがった。


「良きーにおーい」


 ルンルンでパンの匂いを嗅いでいるシロハ。


「はい、シロハさんが頑張ってくれたのでおいしくできたと思います」

「えへへーちょーがんばった」


 ふわふわでほんのり甘くてあったかい。


「たまにはこういう日も、悪くないね」


 そういったディーに同意するクロハ。

 ふと、何かを思い出したようにディーは周りをきょろきょろと見渡す


「ツワシは?」

「あ」


 木の前で倒れているツワシはまだ気絶しているらしい。

 クロハが様子を見ると、ライラのほうを見る。



「ひん死」


「クリティカルヒットしちゃってたんですね」


 ライラに無事蘇生してもらったツワシは無いも覚えておらず、寝すぎちゃったーというのを誰も何も言わずに食事を再開したのだった。


 



ちょこっとどうでもいい補足、略して ちょこどー




ツワシ、双子、ディーは同い年


ライラは実は一つ下の世代生まれ




見た目年齢は14~18のどれか

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