試験のエース
眠いんで短いですけどご勘弁、来週書き足すかも(その場合ページ自体は増えません)
9/19更新しました。
あの日を語るのは彼の目線が面白いので、僕が読みこんだ彼目線で話をしよう。僕が、いや俺が入学試験場に行った時にはそれはもうすごい人だかりだった。
「エースさん、こっちです」
正しくは栄主公人なのだが、こっちの世界の人には発音しにくいのか、俺はエースと呼ばれている。彼女は俺をこの世界で最初に見つけてくれた娘さん、イチセ・イサイ・ハーレンである。ピンクの髪にピンクの目、巨乳で美少女の貴族の娘という男の願望の幕の内弁当である。
綺麗な長い髪を揺らし、修道服と甲冑を混ぜ合わせたような不思議な格好をしている。現代日本で日本人がそんな恰好をすれば目立つこと必須だが、今注目を集めているのは彼女の髪色や服装によるものではない。
「おい、あれ。ハーレン家の聖女様じゃないか?」
どうやら彼女、俺が思っていたよりもやんごとない御身分のようだ。
彼女のことを知っているらしき、同じく身分の高そうな兄ちゃんや親御さんのこっちをみての話をしているのが聞こえてくる。
こっちの世界に転生してから、甲斐甲斐しく俺の面倒をみてくれていたので、俺はもはや彼女のことが好きなのだが、年の差も12あるわけだし、親戚の子供のような距離感で接してしまっていた。もしかして俺、イチセの身分に対してかなり失礼な態度なのでは?
「ありがとう。あの、つかぬことをお伺いするのですが」
「なんですかエースさん。急にかしこまって」
「もしかしてイチセ、いやイチセさんって、ものすごく偉い?」
「ふふっ。そうなんです、実は私、結構偉いんです」
恐る恐る聞くと、イチセはいたずらっ子のように笑った。俺が思春期だったら毎秒惚れている。だが30にして立った俺には他にやることがある。
「今までなめた口をきいて、大変失礼いたしました!」
「わわっ。頭をあげてください。謝罪なんて必要ないですよ。私、権力はないです!そんな畏まらないでください」
慌てて俺の肩を押さえて頭を上げさせるイチセ。そしてそのまま顔を寄せ、周りに聞こえない音量で続けた。
「むしろ、エースさんが導艇の魔法使いであることを考えたら私が失礼なくらいです」
誰が童貞や。と反射で言いそうになるが、それがそういう意味ではないことは既に聞いた話だ。にしても、導艇の魔法使い、そんな偉いのか。
「エースさん優しいから、甘えてしまって。態度を改めた方がよろしいですか?」
「いいえ、これからも末永くよろしくお願いします」
美少女に至近距離+上目遣いで質問された童貞は返事ができただけで偉い。
というより、こっちの世界にきてからの衣食住は全てハーレン家に用意してもらっているごく潰しの俺の方が偉いということはないと思うのだけど。彼女の言葉に甘えて、今まで通り俺は砕けた言葉遣い接していくことにする。
「ええと、護衛とかおつきの者とかいないみたいだけど、大丈夫?ここ、ハーレン家の領地外だよね?」
「それは大丈夫です。ここ魔術学研都市ヘカトリウィアとは良好な関係ですし、私を排除して得する人もほぼいないですから」
ここらへんの国の偉い人たちの話はまだよく分かっていない。とりあえずイチセがかわいいのは分かった。
「それに護衛は、エースさんがいるから大丈夫です!」
なんでこの子、俺のことこんな信頼してくれているのだろう。心底不思議だが信頼には応えたい。そのためにもまずは、
「試験、合格しないと!」
俺だけ不合格ということになれば、目も当てられない。
というのも、俺がこの学園にイチセと通うことがハーレン家のためになるようなのだ。正直詳しい事情はよく分からないし、俺も興味がない。ただ世話になっているわけだし、俺だって元の世界では大学に憧れていたクチだ。学ぶ機会が得られて、それで恩に報えるならこんな有難いことはない。
だがしかし、トゥアル学園の試験は難しい。それは単純に倍率が高いということもあるが、試験問題の難易度が常軌を逸している。問題を作成しているのは、世界から招聘した各分野のエキスパートである教授陣であり、合格基準は試験結果を見た教授陣の誰かに認められること。
つまりは各分野の第一人者に、最低限自分たちが教鞭をとってもよいと思わせる実力を見せなければならない、らしい。当然、各分野の第一線にいる彼らにとっての最低限のラインとは、それなりの難易度のテストでなければ測れないものになる。
つまり筆記テストを受け終わった俺のメンタルは既に瀕死であった。
「問題の意味すら分からなかった……」
茫然と回収される試験用紙を眺める俺。ほとんど真っ白である。ちらっと後ろの席にいた目つきが怖いイケメンの回答用紙を覗くとビッシリと回答用紙は埋まっていた。
え?これでもイチセの家にあった魔術教本は読んだし、過去問はイチセよりも解けていたぐらいなのに。もしかして、これくらい解けるのが普通???
俺は不安のあまり安心したくて、同じく難しい顔をしていた隣の女の子に声をかけた。明るめの栗毛が肩口ぐらいでクルンとなっていて、とてもかわいい。元の世界だとかなり目立つ髪色だが、この世界では割と普通の色だ。
「今年の問題、おかしくない?」
「あなたもそう思う?」
よかった!やっぱり例年より明らかに難化しているよね?っと続けようとした俺より先に女の子は言った。
「魔術理の大問3、魔導関数の収束値を求める問題、問題文に魔因数に対する根本的な解釈の誤りがあったわ。2000年前にもよくあった誤謬だけど、まさか今でもあるなんてね」
「あっ、あ~~~。あれね。確かにあれは作問ミスだよね~」
あまりに分からない話過ぎて思わず話を合わせてしまった。
「あれは作問ミスとまでは言えないだろう。魔因数の階層一致性は厳密には成立しないが、実務上無視して運用することはよくあることだ」
分からない話をする人が増えてしまった。後ろに座っていた解答用紙びっしり凶悪目つきのイケメンだ。この世界では珍しい黒髪。思わず日本人かと思って、話しかけようかと思ったが目の色は真っ赤だし、眉間にはしわが寄ってるしで、びびって無理だった。
「私も解答には影響ないから、作問ミスとまでは言わないけど。注釈をつけるなりすべきだったと思うけどね」
「ごめんなさい、作問ミスは言いすぎました。」
だから許してください。
え、もしかして本当に俺の筆記テスト、まずい??
と、この時のエースの心情は焦燥ただならなかったわけだが、ここで僕から注釈を入れておこう。
この年、トゥアル学園の筆記テストの方針は大きく変更された。今までは最低限の魔術リテラシーを問う設問が中心だった(それでも教授陣が思う最低限である)が、かの有名な魔法科教授がそれでは実力を測れないと反発し、この年は試験的に難易度が跳ね上がった。
この年の試験、僕も受けていたわけだが正直アホかと思った。作問者のあのバカ教授をだ。
その分野を正しく、厳密に理解していなければまず理解できない問題文。そのうえで解に至るには逆立ちして宙返りするぐらいの発想の転換を求められ、極めつけには圧倒的な必要計算量。断言できるが教授陣もあのバカ教授以外、時間内に全問正解することは無理だろう。
もちろん僕の素の能力じゃ解答用紙は白紙。仕方がないから僕の中にいる過去の学者たちを総動員して5つある大問のうち、なんとか1つ解き終わったところでタイムアップ。いくら僕の脳みその出来がそんなによくないとはいえ、走らせている思考は過去の偉人級の学者たちであるにもかかわらず、だ。
つまりはエースの反応こそが適切なのだ。唯一満点だった彼女とまあまあ解けていた彼がおかしい。ちなみにこの筆記試験は彼ら以外ほとんど誰も解けず、差がつかなかったため、翌年からすぐに元に戻された。
そんな事情があることをエースは知らない。むしろたまたまイレギュラーな二人が隣と後ろにいたため、周りはみんな解けていると勘違いしている。
そうエースが話しかけた少女こそ、現代に蘇った魔術の祖、エフィロイン・ルルロその人である。そして後ろにいた少年が最年少でS級魔術師に認定されたディダーク・プロタゴニストである。
もっとも、思わず知ったかぶりをしてしまう程度には小物なエースが皆さんもご存知、導艇の魔法使いなわけだが。
これだけでもいかに今年の試験が混沌としたものかお判りいただけるだろうが、本当に頭をかかえたくなるのは午後からの実技試験からである。
すみません、仕事が忙しくて更新さぼってました。
また来週から更新していきます。たぶん




