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幕間:とある平凡な魔法使いの独白

 はじめに:


 この本を手に取った君たちのなかには、著者名に書かれている僕の名前、正確には家名を見てこう思った人もいるかもしれない。

「人間図書館が本を書いている?」と。


 知らない人のために自己紹介をしておこう。

 僕の名前はモブサ・ブック。由緒あるブック家に連なるものである。ブック家は地位こそ伯爵家だが領地を持たない例外的な貴族で、その身分は指定血統魔法保護法に基づく。詳しくは法律の専門書を参照されたい。


 ここで必要な知識は僕の一族が唯記録【モノログ】の魔法を代々受け継いでいるということだ。唯記録【モノログ】は人の心が読める魔法だと思われているが少し異なる。正確には対象の記憶と思考、つまりは人格を読み込む魔法である。

 読み込んだ人格は自らの一部となり、次に唯記録【モノログ】を発現する子孫が先代を読み込むことで、先代が読み込んできた人格達を伝えていくことができる。

異世界の概念を借りるなら、人格をOS、個人をPCに例えると分かりやすい。唯記録【モノログ】によって、他人の人格(OS)を自分(PC)に複数インストールでき、次の世代のPCは前世代のPCのデータをOSごとコピーすることで未来へ譲り渡していける。つまりは歴史上の人物が何を考え、何をしたのかをありのまま保存することができる。

・・・・・・ここら辺の比喩は異世界見聞録を未読の読者にはむしろ分かりにくかったかもしれない。


 ともかく、この魔法故にブック家は王国に重宝され、王国の要請に応じて魔法を使用し、歴史の重要参考人を読み込み、正確な歴史的事実を残す役割を担ってきた。他にも重要な秘密を握る人物の思考を暴く役割もあるが、この人格の保存という役割でもって「人間図書館」とブック家は呼ばれている。


 だからこそブック家は本を書かない。僕たちの発言はそのまま歴史上の重要証拠となりうるし、役割である歴史編纂に必要な情報は国史編纂室に提出するものだ。提出された情報はその後、編纂室の優秀な編集者が綿密な打ち合わせと物的証拠の収集、表現の推敲のうえで王国史全集に掲載される。

 図書館は情報を貯蔵し、必要に応じて開示するためのもので、書を生むものではないのだ。


 ではなぜ僕はこれを書いているのか。

 なにも編纂室の作成した王国史に反目したいわけではない。家業としてあの鈍器のような書物は全巻隅々まで読んでいるが、あれは事実を正確に、ともすれば王国に不利な事実ですら正確に記されている。国王陛下の器が大きいのか、編纂室の官僚の矜持なのかは知らないが事実を正確に残すという意味であの王国史以上のものを僕が書けるとは思わない。


 しかし思うのだ。無機質に淡々となぞられたあの文章の裏にあった彼ら彼女らの物語を。

 王国史全集に間違いはない。間違いなく事実を、情報の漏れなく残している。

 でも、だからこそ、そこに真実はない。僕の中には―――――唯記録【モノログ】には主観と偏見にまみれた真実がある。


 英雄と言われた彼女の真の英雄性、理想の名君と言われた彼の人間性。あの時、あの人がどんな気持ちで…………おっとこれ以上はやめておこう。ネタバレは僕の嫌いなものの一つだ。加えるなら原作理解の浅い二次創作、趣を解さないことを豪快だと勘違いしている野蛮人も嫌いだ。


 さて、もったいぶった口上で始まる物語も嫌いではないが、僕には文才がない。さっさと始めてしまおう。真実があると大言壮語しておいてなんだが、それを余すことなく叙情的に語れるかは大いに疑問だ。受け継いでいる人格の中には優れた文学者や作家もいるが、残念ながら彼らが宿っている僕の脳みそは彼ら程できが良くない。従って僕が紡ぐ言葉も、凡人たる僕の脳からひねり出せる程度のものであることを言い訳しておく。


 だからこそ始まりも変に衒うことなく、あの日から語ろう。僕らが初めて出会った入学試験の日から。王国全史集には載ってすらいない。歴史的にはトゥアル学園の受験生名簿にその6人の名があるだけの単なる1日の話だ。なんでもないその日がいかに馬鹿げた様子だったかをまずは語りたい。


 そういえばもう一つ、語り始める前にことわっておく。

 僕は彼ら彼女の理解者ではあるが、友人でもなんでもない。ただ一方的に唯記録【モノログ】で彼らの内心の秘密を暴いて知っている野次馬のクラスメイトである。物語において僕は唯の記録者であり、閲覧者モブであり、サブキャラクターだ。メインキャラクター足りえる人物は他にいくらでもいる。


そうこの物語にはあまりにも、

――――――――――主人公が多すぎる。

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