プロローグB:ダンジョン修行のすゝめ~デッドエンドからタイムリープした俺は未来の知識で武装する~
設定を練るときに色々調べるのが好きです。
今回は日本製の銃器について調べてました。
所詮付け焼刃の知識なのでおかしなところがあればぜひ教えてください。
遠くで何かが爆発した。おそらく、また仲間が死んだ。ここは総力戦が行われている最前線の少し手前、後方支援部隊だ。戦友たちだけ最前線に立たせ、俺はまだ安全な場にいる。最終決戦に出向くには実力が足りず、かといって無関係を決め込むには俺の無駄に高い地位が許さなかった。結果無能な上官として、俺は戦友たちが戦う姿を後ろから眺め続けていた。この最終決戦だけでなく、ずっと前から。
「ああ女神様、どうかお慈悲を」
隣で俺の隊の新人が両手を合わせて祈っていた。後方支援部隊とはいえ、ここを戦場だと忘れたのか。
「祈るな、手がふさがるだろ」
「でっでも、女神様は祈るものを必ず救って下さるんです」
「俺の死んだ戦友も最後まで祈ってたよ。女神様にとっちゃ死が救いなんじゃないか」
「隊長だって女神教でしょう。洗礼名まで授けられているのに、そんなこと言ってたら女神さまのお怒りを━━━━」
唐突に新人の言葉が途切れた。いや途切れたのは言葉ではない、彼の人生だった。最前線の戦場がある方向から飛んできた風の刃が新人の首を切断していた。
ここは最前線ではない。そしてこの拠点に至るまでにいくつも防衛線があり、見張りがいるはずだが俺には何も伝わってきていない。つまりは伝令も間に合わぬ速度で敵は侵攻してきたのだ。そんなことはあり得ないと思いつつも、すでにあり得ない事態を何度も経験してきた俺は希望を切り捨てる。最前線にいるはずのあいつらがどうなったのかは考えたくない。
すぐさま隊員たちに指示を出そうとした瞬間、俺は空にいた。近くに着弾した何かしらの攻撃で俺は吹き飛ばされていた。
「がはっ」
拠点から遠く離れた森の地面に受け身をとったとはいえ、たたきつけられ、遅れて猛烈な痛みがやってきた。ここ最近じわじわとずっと感じていた絶望が満を持して、全霊をもって俺を襲っていた。
「クソ、何が女神だ。祈ってたあいつより俺が生き残ってんじゃねえか」
軽口をたたいて痛みを無視する。絶望はもはや親友だ。俺は死ぬ。隊員とははぐれ指示は出せない。ならばすべきことは決まっている。あの拠点の後ろにはもう非戦闘員しかいない。最前線の奴らが突破された敵をここで食い止められるとは思えない。それでもこの命を使いつぶして少しでも時間を稼げれば、わずかでも誰かが生き延びる可能性を上げられる。
背中の荷物から、ごく一部、あいつの友人にしか配られていない装備を並べる。簡単に分解していただけだからすぐに組み立ては完了する。あいつはハチキューと呼んでいた。引き金を引くだけでB級魔術並みの殺傷能力がある弾丸をどんな魔術よりも早く、連続で放つ魔法の武器だ。使うのに色々覚えることが多く、結局実戦で使えるのはあいつと俺だけだったが。
カチッと切り替えレバーをレ(連射:フルオート)に合わせた時、敵の一体が現れた。
「吹っ飛ばしといてお迎えが遅いじゃねえか。待ちくたびれて白髪のじーさんになるとこだったぜ」
それはたった一人の孤独な戦いだった。だれも応援に来ない時点で戦況はお察しだ。ここでこいつ一体を食い止めたところで何の意味があるのだろうか。それでも、俺は文字通り死ぬ気で敵と戦った。
弾は尽きた、魔術ももう使えない。左腕はどこかに落とした。右目の視界は真っ赤でなにも見えない。
それでも勝ったのは俺だった。
「無意味な勝利だってのは分かってるから、もうちょい余韻に浸らせてくんねえかな」
そして俺は敵に囲まれていた。たった一体で瀕死の俺には、もうどうようもない。無数の絶望を前に俺はどうすればいい?
敵の中の一体が何かを吐き出した。ゴロゴロと転がるそれは女の左手だった。その薬指には見覚えのある指輪が光っている。見覚えがある?違う、俺が贈った指輪だ。この指輪の、左手の持ち主は、一体どうなった。
「――――。」
まだ落としていない手でそっと左手を拾い、彼女の名を呼んだ。間違いなく彼女の手だった。もうその手は温度を失っていた。「あなたの手、冷たいのね。私の手を懐炉にしたらいいわ」と笑っていた彼女の顔が浮かんだ。
絶望が嗤っている。被害妄想甚だしいかもしれないが、俺にはそう見えた。同時に思考は腹の底から湧き上がる激情に塗りつぶされた。
戦線がここまで来ている時点で分かっていたことだった。だがそれを最期に俺に突き付けて愉快かよ、なあ女神様。
言葉にならない怒号をまき散らした。敵の攻撃で両足の膝下が切断された。無様に仰向けに倒れるも、残った四肢は右腕しかないため起き上ることはできない。いや十分だ、右手があれば彼女と手をつないで逝ける。
「届いて、きっとあなたなら大丈夫よ」
唐突に頭に彼女の声が響いた。瞬間、俺の人生でため込まれた全ての経験が、哲学が、理論が噛み合った。腕一つあがらない、むしろ腕が一つない有様で俺は全能感に身を包まれていた。これがあいつらの境地、これが魔法使いか!
たった今、俺は魔術師から魔法使いになったのだ。俺にはわかる。これから何をすればいいのか、何を唱えるべきか。すべてのパーツは俺の中にあった。
「この結末を拒絶する。彼の死を、彼女の死を、世界の全てを拒絶する。駆けろ、あの時限へ。賭けろ、この命を。反逆の時だ、耐無遡源【リェベティム】」
文句ありげな絶望に、ざまあみろよと嗤ってやった。
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目を覚ますとよく見知った自宅の天井だった。しかし、失ったはずの左腕があり、視界は良好だ。16歳の時に付いた傷跡もなくなっている。使用人を呼びつけ今の暦を聞き、魔法の成功を確信する。俺はトゥアル学園に入学する直前の15歳の春まで戻ってきたのだ。
「今度こそ、必ず」
家族やまだ出会ってもいない仲間を守り抜く。
ところで、俺は俺が同じ行動をする限り、前の時系列と同じことが起こると思っていたが、違うことが起こった。女神教の教会へ行ったとき、新たな洗礼名を授けられたのだ。
最悪の結末のあの時系列で俺はミドルネームとして洗礼名の「ノット」を使っていた。古代神聖語で「神の導きを信じ進む」という意味があるらしい。新しく授けられたのは「ビー」。「自ら導き進むもの」という意味の、ある種不遜な、一部の信者には「神に背くもの」とも揶揄される洗礼名である。
俺はヒーロ・ビー・ラック。今度こそ、誰も死なないハッピーエンドへ俺が導く。
「敵」は何なのかはまだ秘密にしたいのですが、描写せずに「敵」って言葉ばっか使ってると間抜けな文章に見えてくる。