温かいもの
レビューありがとう!
十六巻購入してくれた方もありがとう!
――彼女はまだ、あまり多くのことはわからない。
自我、というものが形成され始めたばかりの彼女が思うことが出来るのは、朧げで原始的な感情のみ。
暑いと寒い。
楽しいと楽しくない。
お腹いっぱいとお腹空いた。
気になると気にならない。
安心と怖い。
わかるのは、それら。
人として最低限の、基本的なものを理解出来るようになったという程度で、それ以上のことはわからない。
しかし、今の彼女には……それで十分だった。
「あぶぁあ!」
「フフ、リウは最近、ご機嫌っすねぇ。お母さんは娘が元気いっぱいで、嬉しい限りっす」
温かな腕に抱っこされ、彼女の胸は、安心でいっぱいになる。
彼女はまだ、『母』という言葉は知らないが、しかしこれが無条件に信じられる、自分を守るものだということはよく理解していた。
自分の全てを、任せていられるもの。
怖いを、安心にしてくれるもの。
「おーおー、楽しそうだなぁ、リウ。お前の笑顔は万病に効き、世界に平和をもたらすことだろう!」
そうして抱っこされてあやされ、ご機嫌になっていると、横から聞こえてくる声。
これも、知っている。
これも、安心出来るが、それ以上に楽しいものだ。
一緒にいると、楽しいでいっぱいにしてくれるものだ。
「いやどこの聖女っすか、それ。気持ちはわかるっすけど」
「あうぅ!」
「ん、今日はパパと一緒にいたいようっすね。ご主人、交代っす」
「お、嬉しいね! ほーら、高い高ーい!」
ぐおんと身体が持ち上がる感覚。
それが何とも楽しく、思わず笑い声が漏れてしまう。
「きゃぅっ、うぅ!」
「お? もう一回か? よーし、高い高ーい!」
「あはは、わかりやすいくらいの大喜びっすねぇ。やっぱりリウは、こういう身体を動かすことの方が好きみたいっすね」
「そうだなぁ。ま、他に色々知り始めたら、興味の対象も変わってくるんだろうが。何にせよ、良いことだ。大きくなったら、いっぱい色んな遊びしような! 鬼ごっこにかくれんぼ、そり遊びや水遊び! 楽しいことはいっぱいあるぜ! いったいお前は、何を気に入るだろうかね」
「きゃうぅっ!」
「ウチは遊びがいっぱいあるっすからねぇ。イルーナ達が喜ぶだろうって、ご主人が草原エリアを改造しまくったから」
「大人も楽しいだろ?」
「それは否定しないっす。遊び場じゃないっすけど、特にあの旅館は最高っすねぇ。家なのに、何だか旅行気分を手軽に味わえて」
「俺もあの旅館はお気に入りだ。温泉は良い出来になったし、中庭も結構上手く造れたからな」
そのまましばし、身体が浮かぶ楽しい感覚を味わっていたその時、ふとリウの視界の隅に、ふかふかでふわふわなものに横になっている、自分と近しいものの姿が映る。
「あぅうよ!」
「ん? ……あぁ、サクヤの方が気になるのか?」
地面に降ろされるのと同時、リウは己の手足を一生懸命に動かし、サクヤが転がっている布団へと向かう。
リウとサクヤは、ベビーベッドで寝かされる時もあるが、布団で寝かされる時もある。
特に、昼に誰かの目がある時は布団で寝かされ、夜眠る時はベッドで寝かされることが多い。
そしてサクヤは、ハイハイが出来るようになったリウとは違って、まだ自力では動くことが出来ないので、基本的に布団に転がされたままなのだ。
リウはまだ、弟という概念を理解出来ない。
自分が姉だということもわかっていないし、実は母親が違うなんてことは、もっと理解していない。
だが、それでもサクヤが自分と近しいものである、ということだけは、しっかりと理解していた。
「あぅよ!」
サクヤの近くに辿り着いたリウは、一緒に遊ぼうと言いたげに、その周りをハイハイする。
「うぅ……あぅ?」
「うぅ?」
が、自分と近しいものは、よくわかっていない様子でただこちらを眺めるのみで、動かない。
そんな寝転がったままのサクヤに対し、動いた方が絶対楽しいのに、とリウもまた不思議に思い、彼を見る。
「はは、リウ、サクヤはまだ、ハイハイは出来ないんだ。残念だけどな。……この様子見ると、やっぱリウの方はサクヤを姉弟とはちゃんとわかってるみたいだ」
「結構意識してる感じっすよね、リウ。こうして一緒にいようとするし。――お、セツ! いらっしゃい」
「おぉ、セツ。いらっしゃい」
「くぅくぅ!」
と、その時、毛むくじゃらでフワフワの、温かくて触り心地の良いものが現れ、自分達の下へとやって来る。
これも、わかる。
姿形は全然違うが、これも、自分と近しいものだ。
「くぅ!」
その毛むくじゃらにペロペロと舐められ、それもまた何だか楽しくなってくる。
ちなみに、普段は玉座の間で暮らしていないセツだが、リル達の住処のすぐ横に玉座の間へ繋がる扉が置かれているので、リルかリル妻に頼んで扉を開けてもらうことで、いつでも行き来が可能なのだ。
今では大体一日一回はやって来て、リウ達と遊び、ユキ達に可愛がってもらっている。
そのまま泊まっていくこともあれば、リル達の下に戻ることもあり、もう自由気ままな毎日である。
今のセツは、身体が大きくなり、その分体力も増えたことで、一日を存分に堪能することが出来ているのだ。
リウは、この毛むくじゃらが大好きだった。
見てると楽しいし、触ると楽しいし、舐められると楽しいし、一緒に動くと楽しい。
あのブンブン振られている長いのを追っかけたりするのは、今のリウのマイブームで、特にこの広い空間を、あの長いのを追っかけて冒険する時は、楽しいが止まらなくなり、もう最高である。
セツもやって来たことで、さらにテンションが上がったリウは、ご機嫌なままいっぱい遊び、ハイハイで動き回り――やがて、体力が切れる。
疲れてあんまり身体が動かなくなり、うつらうつらとし始めたところで、リューが彼女を抱き上げる。
「フフ、いっぱい遊んで、お眠っすね」
予め敷かれていた布団に手早く寝かせられ、毛布を被せられる。
温かで柔らかな感触。
「おやすみなさい、リウ。ちゃんとお母さんが見てるっすからね」
頭上から降ってくる優しい声を聞いて、リウの安心感は増し、そのまますぐに、ことりと眠りに落ちた――。
実は、作者の姉が子供を産んで、夏に会いに行ったんですが……いやもう、ヤバかった。赤ちゃんの可愛さというものを、甘く見てました。
そんなに? って思うじゃん。そんなになんだよね。
生まれて初めて抱っことかしたんですが、慣れてないせいでまず抱っこするのが怖い。
けど可愛いし、揺らしてあやすとちゃんと泣き止むのよ。揺らさないとまた泣くのよ。素晴らしかったぜ……。
えー、そんな訳で十六巻発売してます。どうぞよろしく!
現在書いてる新作の方も、どうぞよろしく!




