子供達との海《3》
書いててすごいバーベキューやりたくなった……自分で自分に飯テロを食らうとは……。
「よし、それじゃあ……特に何かある訳でもないが、何にもない素晴らしい一日に、乾杯!」
『乾杯!』
俺達はグラスを掲げ、それからワイワイと食べ始める。
「ここからここまで、シィのりょういき~! おにくキングダムの、けんこくをせんげんするよ!」
「……それなら、ここからここまでは、エンの領域。我らが海洋帝国、この進撃を阻む者無し」
「もー、二人とも、ちょっと意地汚いよ? お肉もお魚も、それこそ食べ切れないくらいいっぱいあるんだから」
「もちろんシィも、ゆーこーじょうやく? をむすぶことは、やぶさかじゃないよ! いまはね、タレをぬった、トウモロコシさんがたべたいところ!」
「おっ、この焼きとうもろこしに目を付けるとは、お目が高いぜ! よろしい、ならばシィよ、我が焼き野菜王国と友好条約を結び、貿易を行おうじゃないか」
「……海洋帝国も、是非ともその条約に参加したい。三国で強固な同盟を結ぶことで、安全保障を増し、国力を増大させることが可能になる。アスパラ食べたい」
「カカカ、では我ら一市民は、労働を行うことで報酬を頂くとするかの。どれ、どんどん焼いてやろう!」
「しょうがないなぁ……それじゃあわたしは、国家間貿易を行うやり手の商人として、流通を一手に担うよ! ある程度、私腹を肥やさせてもらうけど!」
「あくとくだー!」
「……悪徳商人」
「悪徳じゃないですー。企業努力ですー」
「あはは、イルーナ達は、どんどん言葉使いが巧みになっていくねぇ」
「本当っすねぇ。流石、レイラの里で学んでるだけはあるっすよ」
「ふふ、けれどそれは、彼女らがしっかり意欲的に勉強に取り組んでいるからこそですよー」
「シィは、いみはよくわかってないけどね!」
「……威張って言うことじゃない」
俺達は笑い、パチパチと爆ぜる火を囲み、ジュウジュウ焼ける音を聞き、バーベキューを楽しむ。
酒が進む。
ちなみに、本来はリウとサクヤを楽しませるためのバーベキューでもあったのだが、準備の段階でテンション高めの俺達に釣られて二人ともちょっと興奮しており、「おうよ! あぅ!」「あぶぅ! うあう!」と元気だったものの、そのせいで実際にバーベキューを始める段になったら、電池切れのようにコテンと眠りに就いてしまった。
今も、各々のベビーカーの上で、スヤスヤと眠っている。
まあ、二人が本格的にバーベキューを楽しめるようになるのは、もうちょっと先だな。こればっかりはしょうがない。
今は、レイス娘達がふよふよと周囲を漂い、魔力食材をポリポリ齧りながら、様子を見てくれている。
俺達もそれとなく二人の様子は確認しているが、ありがたいもんだ。あの子らも、しっかりお姉ちゃんになって来たな。
「どうだセツ、美味いか?」
「くぅくぅ!」
俺の言葉に、リルが焼いた特大肉をガツガツと食べていたセツは、尻尾をブンブン振りながら「さいこー!」と返事をする。
「はは、口周りがベタベタだな。ま、いっぱいあるから、好きなものを好きなだけ食べていいぞ! 何たって、バーベキューだからな!」
「くぅ!」
「クゥ、クゥウ」
セツの頭をクシャクシャと撫でてやっていると、リル奥さんがニコニコしながら「今日はお呼びいただき、ありがとうございます」と言いたげに鳴く。
「いやいや、これは俺達がやりたかっただけですから。それにこういうのは、数が多い方が面白いってもんですし」
「そうじゃぞ、リル妻よ。我が家では事あるごとにばーべきゅーをするからの。お主らにも慣れてもらわんと」
「リルなんて、慣れ過ぎてもはや自分で肉が焼けるからな。器用なもんだ」
「クゥ」
笑って「ここでの暮らしももう長いので」と答えるリル。
リルは獲物の解体から始まり、血抜き、火起こし、焼き肉、何なら簡単な調理まで出来る。器用に爪と口を使って、調味料を適切な量掛けるということが出来るのだ。
無理な動きは俺達の方で代わってやることで、今ではもう将棋とかチェスに始まり、人生ゲームなんかも一緒に出来るからな、リルは。
しかもコイツは超賢いので、真面目に勝負しないと普通に負けることになる。
ペットに負ける飼い主、という非常に情けない状況が当たり前に発生するのが、我が家である。
リル奥さんの方も器用だとは聞いているので、その内一緒に遊べる日も来るだろう。
恐るべしは、フェンリルという種の優秀さか。セツにも、もうちょっと大きくなったら、その辺りのボードゲームの遊び方を教えてみるとしよう。
「……リル奥さん、これが、エン達の好物。絶対美味しいから、食べてみて」
「あっ、それなら、シィのおすすめのおにくも、たべてほしいな! おにくはねぇ~、タンがおいしいよ! やくみがのった、タンが!」
最近思うんだが、シィの食事の好み、結構渋い気がするんだよな。
いや、確かに薬味の乗ったタンは上手いんだが。焼き肉には欠かせないわ。
ちなみに俺は、肉の部位だとモツが一番好きである。モツ鍋とか超好き。
「それならわたしは、さっきも言ったデカアサリを食べてほしいな! ほら、これとか今、多分良い感じだと思う!」
融けたバターと醤油で、良い感じにジュワァと焼けている……というか、沸騰しているデカアサリ。
俺がメチャクチャ好きなので、バーベキューをやるとなったら必ず買ってくるのだが、その影響かイルーナはこれがかなり好きだ。
まあ、嫌いな奴の方が少ないだろう。大人組も大好きだ。酒に超合うからな!
「何だお前ら、好物の話でもしてたのか?」
「うん! あのね、さっきリル奥さんにわたし達の好物を教えてあげるって話をしてたの。バーベキューは美味しいものいっぱいだから、それを食べて欲しいって思って。セツも、せっかくだからわたし達の好きなもの、紹介してあげる!」
「くぅ~?」
「セツ、見て、これがアサリだよ! とっても美味しいから、食べてみて!」
「くぅ~……くぅ!」
「クゥ」
イルーナ達が持ってきた美味しいものの数々を、どうやらセツとリル奥さんも気に入ってくれたようで、「美味しいね、お母さん!」「えぇ、本当に」といった会話を交わす。
うむ、気に入ってくれたなら何よりだ。
さっきレフィも言っていたが、我が魔王一家では事あるごとに――いや、別に何にも特別なことが無くとも気分でバーベキューをやるからな。
「人生とはバーベキュー、バーベキューとは人生……これもまた、一つの真理……」
「こんがり焼けそうな人生じゃな」
「美味しそうだね」
「ご主人、何でもないような顔して、実は大分酔ってきてるっすね? ま、でも、大丈夫っすよ! 酔って寝ちゃっても、ウチらが面倒見てあげるっすからね!」
「そうですねー。人生とはバーベキューで燃え上がる火のようですねー。この火はそんなに燃え上がったりしませんがー」
「うむ、レイラも大分酔っておるの。いつも以上に言動がフワフワじゃ」
「あはは、それじゃあ僕も、もっとお酒飲もー! はいレフィ、かんぱーい!」
「はいはい、乾杯。ほれ、肉が焼けたぞ。食うか?」
「食べるー!」
「みてみてー! やまもりおにくの、おにくどん! んー、しあわせー!」
「……おー、エンもお肉丼やる。エンはそこに、マグロのカマとプリプリのエビも追加。名付けて、贅沢丼」
「ふふーん、二人は甘いね! せっかくのバーベキューなんだから、白米でお腹いっぱいにしちゃうのはもったいないよ! だからわたしは、白米はちょっとだけで、お肉の方いっぱい食べちゃうもんね!」
「……むむ、流石やり手の商人。その意見には一理ある」
「えー、でも、ごはんいっぱいたべられるのも、しあわせだからな~」
「あれじゃな、お主らはほんに、もう我が家以外では生きていけんな。まあ、儂もそうなんじゃが」
「白米無いもんね、外だと。基本的に主食、どこもパンだし」
「あと、忘れちゃいけないのが、調味料っすよ、調味料。食材より何より、普通はこんな風に無尽蔵に調味料なんて使えないっすからね」
「しかも種類豊富ですからねー、我が家の調味料ー。食材もそれも大量にあるおかげで、お料理が楽しいというものですよー」
「おうレイラ、使いたいものがあったら何でも言ってくれな! すぐ用意するからさ」
「ふふ、ありがとうございますー」
「外で暮らさないからいいもーん! わたし達のお家はここだから!」
「よしんばでても、りょこーだけだね!」
「……ん。それに、そういう時は主に白米出してもらう。ね、主」
「はは、あぁ、勿論だ! 一年分でも二年分でも、どれだけでも用意してやるぜ!」
「親バカじゃのー」
俺達は、バーベキューの火に照らされながら、夜の浜辺でのひと時を共に過ごす――。
新作『彼方へ紡ぐ』、五十話まで更新してます。
そちらもどうぞよろしく!




