リューの家族とレイラの家族《1》
感想等、いつもありがとう、ありがとう!
俺は今日、リルを連れて、久しぶりにダンジョンを出ていた。
向かった先は、魔境の森から最も近い位置に存在している、アーリシア王国の街。
辺境の街、アルフィーロ。随分前に街の近場に扉を設置してあるため、行き来は一瞬である。
パートタイム感覚で勇者の仕事を熟しているネルが、現在拠点としている街であり、俺としてもここの街とは縁が深い。
初めてこの世界で訪れた街が、ここだからだ。レフィと観光に来たのが懐かしい。
ただ、以前に来た時と比べると、一目で違いがわかるくらいには、変化のあるところが今のこの街には存在してる。
それは、飛行船だ。
空を飛び交っている飛行船。この街には航路が通っているため、今も頻繁にそれが空を行き来しており、駅としてしっかり機能しているのが窺える。
各国が協力しているローガルド帝国程ではないだろうが、すでに船も相当数増産されているのだろう。
その関係からか、人の活気も増えているように見えるし、商店などの数も大分増えているように思う。
何より、街にいるのが人間だけではない、というのが大きな違いだろう。人間が一番多いのは変わらないが、こうして見ただけでも、別の種族の者が普通に歩いている様子が窺える。
そのせいか、こっちに向けられる視線も多い。リル連れてるから当たり前っちゃ当たり前なんだけど。
ただ、もう何度もこの街に訪れたことがあるし、俺とリルのコンビもそれなりに知れ渡っているようなので、衛兵が戦闘態勢でこっちに来るようなこともない。
ちょっと緊張した様子で、チラチラと見てくるくらいだ。魔境の森に俺が住んでいることはこの国の上の者達は知っている訳だし、何かしら言い含められているのだろう。
――今日ここに来たのは、交流大使としてこの国に駐在しているはずのリューの一族、『ギロル氏族』に連絡を取るためだ。
ようやくウチが落ち着いたので、リューの子が産まれたことを、彼女の両親に伝えようと思ったのだ。
「あ、おにーさん! リル君! こっちこっち」
と、俺達を見つけてこちらに手を振るのは、ネル。
街に行くことは昨日の内に家で伝えてあるので、今日の俺達の対応をするのも彼女である。
俺とリルだけで行くと色々問題あるのはよくわかるので、アーリシア王国において俺達の対応の窓口兼案内役となるのは、やはりネルなのだ。
「よ。領主のおっさん達は元気か?」
「いやぁ、あんまり元気じゃないかも。仕事が舞い込み過ぎて大変みたいだね。この街、人が増えたから防壁を拡張しようって話になってて、ドワーフの技術者さんと相談するために、今も王都の方に行ってていないみたいだよ。おにーさんが来ること伝えようと思ったら、いなかった」
いないのか。
久しぶりだから、挨拶しようと思ってたんだが、またの機会にするか。
「へぇ、そんなことになってるのか。まー、魔境の森のこちら側は、ほとんどリルの縄張りになってるとはいえ、全部が全部支配下って訳でもないしな。壁は必要なもんか」
「クゥ」
そりゃ大工事になりそうだ。
となると、ドワーフの協力は、確実に欲しいだろうな。
こういうところで……この世界が一つ変わったことを、感じられるというものである。
「そうだね。僕自身、大分感覚がおかしくなってる自覚はあるけど、どんなに弱くても魔物って脅威だからね。ウチにいるとすーぐ忘れちゃうよ」
「初めてウチに来た時のお前に聞かせたいセリフだ」
「うっ……そ、それはもう、忘れてほしいかな」
「レイス娘達に驚かされて、腰抜かして動けなくなって……」
「うぅぅ~!」
「わははは、いてっ、いてっ、わかったわかった、悪かったって。もう忘れた、忘れましたー!」
可愛らしく、ポコポコ叩いてくるネルさんである。
「その記憶は、封印するように!」
「アイアイマム」
ちょっと顔が赤いまま、彼女は気を取り直したように一つ咳払いする。
「オホン。で、えーっと、リューの親戚の人達だよね。こっちこっち。――僕もちょっと気にして挨拶したりしてるんだけど、人間社会に馴染むのに苦労しているみたいだよ」
ネルに連れられ、俺はリルと共にアルフィーロの街の中を進む。
「あー、今までとは環境が丸々違う訳だもんな。多分、ギロル氏族の彼ら以外も、苦労してんだろうな」
「そうだね、色々失敗とかもあるみたいだけど、でも交流自体は順調に進んでるみたい。その点、我が家はとっくに他種族交流を果たして、家族になってる訳だけど!」
「同じ種族の、ものの見事に一人もいないもんな。いや、リウがウォーウルフとして生まれたから、そこで初めてか」
レイス娘達は同じ種だが、あの子らは三人で一人みたいなもんだし。
「いやぁ、リウは種族の表示はウォーウルフかもしれないけど、でもおにーさんの血が入ってるからね。純粋なウォーウルフと比べると……って感じだと思うよ。ハーフとか、そういうのじゃなくて」
「リルのことは一発で気に入ってたが」
「そこはウォーウルフの血だろうけどさ」
笑って、そう言うネル。
……まあ、言いたいことはわかるが。
「多分だけど、僕とおにーさんの子が出来ても、種族は『人間』だろうし、レイラとおにーさんで子が出来ても、種族は『羊角の一族』だろうね」
「……確かに、そうなりそうな気がするな」
「サクヤなんかは、やっぱり表に出てる情報はレフィのものだけど、リウよりもっと強くおにーさんの血を引いたんだと思う。種族『魔王』の血を。おにーさんもう『覇王』だけど。……今更だけど、種族覇王って何さ」
「それは俺が一番聞きたい」
そんなことを話している内に、俺達は獣人族が多く出入りしている建物に辿り着く。
どうやらここが、獣人族の大使館のようなものになっているらしく、リルには表で待っていてもらい、ネルに続いて俺もその中へと入る。
「ウィラリさーん! こんにちはー!」
「あら、ネルさん! こんにちは、お久しぶりです。そちらは……もしや、旦那さんの」
ネルが声を掛けたのは、俺の知らないウォーウルフの女性だった。
二人の方は面識があるらしく、気安い様子だ。
「どうも、ユキです。ネルと、リューの旦那の」
「この存在感、確かに……どうも、初めまして。私はウィラリ=ギロル。ここの職員として働いております。ネルさんには良くしていただいてまして」
顔立ちは似ていないが、ギロル氏族である以上は、リューの縁戚なのだろう。
「いやいや、こちらこそ。どうやら、ウチのと仲良くしてもらっているようで」
「時間が合った時とかに、一緒にお昼食べたりとかしてるんだ。ウィラリさんも旦那さんがいるから、そういう話をしたりね」
「フフ、ネルさんから色々とお話は伺っていますよ、ユキさん」
「……い、色々と?」
「えぇ、色々と」
「色々だよねー!」
楽しそうに笑う二人に、何も言えず苦笑する俺。
ネルも、外でこうやって交友関係を築いているんだな。……色んなところにママ友が出来てそうだ。
「それで、本日はどうしましたか?」
「あぁ、えっと、リューと俺の子が産まれたから、その報告をリューのご両親に伝えたくて」
「! りゅ、リューお嬢様の!?」
ガタンと椅子を立ち上がるウィラリさん。
リューお嬢様。
「は、話には聞いておりましたが、もう生まれたのですか! こ、こうしてはいられません! お、お祝いの品を用意して、一族で祭りの準備を――いや、連絡! 連絡が先! 今すぐに飛行船の手配をしなければ!」
「あー、うん、はい。出来れば連絡を先にお願いしたいです」
そうして彼女は、居ても立っても居られない様子で、全てを投げ出してアワアワと建物の奥へ走って行った。
残される俺達である。
……とりあえず、リューが親族に愛されてることがよく伝わってきて、何よりだ。
「……ネル、友人なんだろ? 話してなかったのか?」
「えーっと、一時的に里の方に帰ってたみたいでね。実は僕も、ウィラリさんと会うの、三か月ぶり。今日ここにいることは知ってたんだけど。それに、詳しいところはおにーさん達が自分で伝えたいかなって思って」
「あぁ、なるほど……」
単身赴任……かは知らないが、他所の国に仕事に来てる訳だし、一時的に自分の国に戻ってる時期もあるか。国というか、彼らの場合は里か。
最初にネルと挨拶してた時も、久しぶりって挨拶してたしな。




