命を紡ぐ《1》
聞きたいことは、それはもう数多ある俺だったが……しかし、俺が口を開くよりも先に、神槍――本当は『ルィン』という名らしい骸骨の神様は、スッと骨の指を真っ直ぐ伸ばす。
釣られて視線をそちらにやると、いつの間にかそこには、何か球のような光が浮かんでいた。
何もない、本当にただの光としか表現できないもの。
純粋な力の塊、といった印象を受ける。
俺が怪訝に思っていると、そこに変化が訪れる。
顔はわからないが、恐らく女性であろう人影が、突如としてふわりとその場に現れる。
女性は、ゆっくりと手を伸ばすと、光に手を触れ――次の瞬間、彼女らの足元に大地が生み出される。
その大地は、最初は何もないただの岩肌だったが、数瞬するとそこに、生命力を感じさせる鮮やかな緑が生み出される。
青々と生い茂る木々が森を形成し、窪んだ大地に水が溢れ出して海となり、最後に太陽と月が頭上に昇っていって空が形成される。
何もなかったそこには、もう、世界が生み出されていた。
これは、この世界の神話だろうか。
以前レイラ達に聞いた話と、非常に酷似している状況だ。
となると、あの女性は女神『ガイア』で、光の球が――始原の神『ドミヌス』か。
ルィンを見ると、彼は次に別の方向へと指を向ける。
そちらは……さっきのとは別の場面だな。
女神ガイアが、何か祈るようなポーズをしており、すると次の瞬間、そこに新たな人影が生み出される。
数は、八。
やはり顔は見えないものの、それぞれ影の造形が異なっており……わかる範囲では、人間、ドワーフ、エルフ、獣人族がいるだろうか。
一つだけ四つ足の、身体がデカい神様がいるようだが、あれは龍だろうか。角と尻尾、そして大きな翼があるのがわかる。
そして、ちょっとわかりにくい形のヒト型も三体いるのだが……あれは魔族か?
現在の魔族は非常に数が多く、ただ『魔族』として一括りにされているが、神話の時代は違ったのかもしれない。
あの八体が――いや、八柱が、最初の生物であり、神だったのか。
「アンタは……あの、魔族っぽい三柱の中に?」
俺の言葉に、ルィンはコクリと頷き、端の一体を指差す。
当たり前だが、彼は、あー、彼だよな?
うん、まあ合ってるだろう。彼は、元々骸骨という訳ではないんだな。
そうして生み出された八柱は、各々眷属を増やす能力を持っているらしく、大地にどんどんとヒト種が増えていく。
この間、女神ガイアは彼らに対し、基本的に不干渉のスタンスだったみたいだな。
常にドミヌスと共におり、魔物などの新たな生物を生み出し、世界を広げることに集中していたようだ。
やがて、出来上がったばかりの世界にてヒト種は、神々に導かれながら、今と比べれば規模は小さいものの『国』を形成する程に数を増やしていった。
こうして、世界が始まったのか。
……今更だが、俺は今、とんでもないものを見せられているらしい。
「けど……これを今俺に見せるのには、理由があるのか……?」
そう問い掛けると、ルィンは待てと言いたげにこちらへ手のひらを向けてから、また別の方向へと人差し指を向ける。
まだ続きを見ろと、言いたいのだろう。
促された通りに顔を向けると、そこにいるのは二人。
女神ガイアと、先程の神達の中で、魔族っぽい一柱である。
魔族っぽいと言っても、ルィンではない。別の神様だ。
その彼が、何かを女神ガイアに向かって懇願している。
内容は……自らの眷属に関することだろうな。
何やら女性の亡骸のようなものを胸に抱いており、涙を流しているのがわかる。
あの様子からすると、死者の蘇生でも懇願しているのかもしれない。
だが、その訴えは聞き入れられなかったようだ。
女神は悲しそうにしながらも首を横に振って拒絶を示し、その一柱の前から離れて行った。
残された魔族の神は、呆然とした後に地面に跪いて慟哭し、しばらくの間涙を流し続け――そして、武器を生み出した。
自らの肉体から、魂の欠片のようなものを取り出し、それを『武器錬成』スキルっぽい力を用いて変化させ、武器としたのだ。
形状からして、あれは長剣か。
……武器とは、戦いのための道具。
相手を倒し、自らの願いを力で押し通すためのもの。
あの神様は、いったい、どういう思いで武器を生み出したのか。
すると、その魔族の神が生み出した種族もまた、他種族に対し敵対的となり……そこで、世界が生まれてから初めての争いが起こった。
恐らく、魔族と人間だろう。
何が理由かはわからないが、その後の流れでどうやら、魔族側が人間を殺してしまったらしい。
そのことに怒った人間の神は……恐らくネルんところの女神様だな。
彼女は、魔族の神に抗議を行ったようだ。
それに対し魔族の神は――真っ直ぐ、剣の切っ先を人間の女神へと向けた。
だが、斬りかかることはしなかった。
静かに、彼女に向かって口を開く。
怒りを見せていた人間の女神は、次に驚いた様子になった後、悲しそうにツー、と涙を流し、何事かを魔族の神に問い掛ける。
魔族の神は、フルフルと首を横に振り、人間の女神へと言葉を返す。
それを最後に二人は別れ、ルィンの見せたいものが終わったのか、シーンが終了した。
……大分簡略化して見せられているので、詳しいことはわからない。
俺がわかるのは、大雑把な流れだけ。
それでも――わかることはある。
「争ったのか。神々で」
ルィンは、ゆっくりと首を縦に振る。
……神槍もまた、その争いの過程で生み出されたのだろう。
「となると、ここにいるアンタも、さっきの剣みたいに魂の欠片なのか?」
彼は再び頷いて肯定した後、次に両手を広げ、空間に二つの陣営らしきものを生み出す。
女神ガイアを守るようにしている、人間の女神側の陣営と、それを狙う魔族の神側の陣営である。
関わっていないのは、龍神だけだな。
その中でルィンは……どうやら、後者の魔族の神側に付いたようだ。
「アンタは、魔族の神の味方になったのか」
この流れを見れば、詳しくはわからずとも、あの魔族の神には武器を手に取るだけの重い理由があったことがわかる。
槍の中にいたこの神様にも、きっと、同じだけの理由があったのだろう。
そこで、ここまで全てを映像のようなもので説明を続けていた彼は、この場所に来てから通算二度目の口を開いた。
――反抗期デナ。
「反抗期かい!」
思わずそうツッコんでしまってから、ハッとするが……恐らく笑っているのだろう。
見ると、ルィンはくつくつと笑うように、肩を揺らしていた。
ぐっ……こ、この神様、意外とやるぞ。




