山の民《2》
超ざっくり前回のあらすじ:ドワーフの里へ到着。
「鍛冶っつっても、俺が出来るのは『武器錬成』のスキルだけだ。それでいいんだな?」
「おうよ、それで構わねぇ。前に話したと思うが、儂らにとってそのスキルは、初代ドワーフ王のみが自在に扱えた、言わば伝説の技術。実際に見ることが出来るとあっちゃあ、何が何でも見てぇってのがドワーフってモンじゃぜ」
少年のような、憎めない非常に楽しげな笑顔を浮かべる彼に、俺は苦笑を溢す。
この様子なら、エンを嫁さんらに預けといて正解だったな。
ウチの子が人気になり過ぎて、身動き出来なくなってたかもしれん。
「わかった、それじゃあ――ドワーフ王、アンタの武器はハンマーだったか?」
「うむ、コイツだ」
そう言って彼は、壁に立てかけてあったハンマーをこちらへと渡す。
受け取ったソレは……ん、いい重さだ。
エンと同じように、ズシリと来るかなりの重量をしており、美麗な彫刻が施されながらも決して実用性は失われておらず、あくまで戦闘用の武器だということがわかる。
すげーかっこいいハンマーだな。
流石、鍛冶を生業とする一族の作品である。
「サンキュー、いいものを見せてもらった」
「おう、お前さんにゃあ、ザイエン嬢ちゃんを見せてもらったことがあるからな。そうだ、お前さんの嫁さんらと嬢ちゃんは?」
「今は里の方を回ってもらってる。後で挨拶させるよ。アンタらにエンを見せたら、もう身動き出来なくなってたろうし、その方が正解だろ?」
「ガッハッハッ、そうだな、間違いねぇ! ザイエン嬢ちゃんもまた、その存在自体が伝説級のシロモノ。ウチの奴らぁ、今こそ大人しくしてやがるが、そうなったら止めらんなくなるだろうな」
愉快そうに笑い、肯定するドワーフ王。
――そこで俺は、一旦会話を切り上げ、集中する。
……せっかくだ、俺も一本ハンマー作って、手土産代わりじゃないが、ドワーフ王にあげるか。
素材は、希少金属だがDPのコストパフォーマンスが良く、故に俺が使い慣れており、キロ単位でアイテムボックスに突っ込んであるアダマンタイトが良いだろう。
高級であり、だが高級過ぎず、使い勝手の良い魔法金属だ。
ただ、先程見せてもらった通り、ドワーフ王はすでに最上の一振りを持っている。使い道のないものを送りたくはない。
であれば俺は、もうちょっと尖った運用のものでも造るとしようか。
普段使えるものではなく、特定の状況のみで使えるもの。
造形は……。
思考を巡らせ、細部を決めた俺はアイテムボックスからアダマンタイトを取り出すと、魔力を十分に行き渡らせ――そして、スキルを発動させた。
数瞬の後、そこに生み出される、一本の槌。
おぉ、という背後のドワーフ達の声を聞きながら、俺は出来上がったソレを、ドワーフ王へと渡す。
「コイツはアンタ用に造った。手土産という訳じゃないが、受け取ってもらえると助かる。銘は、『轟砕』。デカいヤツを相手にしなきゃならん時に使ってくれ。例の、冥王屍龍のようなのを相手にする時とかな。かなり重いが、アンタなら使えるだろう?」
轟砕:魔王ユキの作成した、黒の大戦槌。困難を打ち砕き、前へと道を切り開くための槌。
品質:S-
尖った運用が出来るもの、と言っても、ドワーフの彼ら程武器の造形に理解がある訳ではない俺では、何か凝ったものを作ろうとしても一段下のものにしかならないだろう。
勝負するならば、別のところで。
そして、俺が出来ることと言えば、やはりデカく、重く。
魔王の魔力を込められるだけ込め、ドワーフの膂力でも振るうのはギリギリであろう重量のものを。
生半可な力の持主ならば、もはや持ち上げることすら出来ないだろうが……以前にエンを軽々と持ち上げてみせたドワーフ王ならば、この槌も自在に扱えることだろう。
俺から轟砕を受け取ったドワーフ王は、職人の目つきとなり、細部へと視線を走らせる。
それから数度素振りを行った後、やがて満足したのか、コクリと一つ頷く。
「……うむ、良いものじゃ。ありがたく、受け取らせてもらおう」
彼の言葉に、背後のドワーフらから、再びおぉ、というどよめきが聞こえてくる。
……今のは何のどよめきだ?
俺が怪訝に思っている間に、ドワーフ王は自身の部下達へと声を掛ける。
「さあ、お前ら、見てぇモンは見たな。今の魔王の技、その眼に焼き付けておけよ。こっからは真面目な話になる。全員仕事に戻れ」
そうして、興奮冷めやらぬ様子のドワーフ達が全員退散したのを見てから、残ったドワーフ王は口を開いた。
「それじゃあ、本題に入ろうか。お前さんは、どういう理由でこの里へ?」
「あぁ、実は今、神話に関して調べてるんだ。けど、そういうのは一か所に留まっててもわかんねぇだろうから、色々行ってみようと思ってな。それで、前に遊びに行かせてもらうって約束もしたし、せっかくだからこの里に来させてもらったんだ」
俺の言葉に、ドワーフ王はジッと考える素振りを見せてから、返答する。
「ふむ……わかった。なら、今からお前さんを、儂らが崇める祠へと連れて行こう」
* * *
その後、ドワーフ王に連れられた先は――山。
里の、すぐ裏に屹立していた山である。
幾つもの坑道が存在し、観光目的として、一般に開放されている通路も多くあるようだが……現在通っているここは、多分一般には開放されていないんだろうな。
壁一面に輝くのは、宝石のような鉱石群。
明かりなど一切設置されていないのだが、鉱石群が放つ七色の輝きで足元が暗いということはなく、普通に前が見えている。
なかなかファンタジーで、胸に来るものがある光景だ。
「……とても、綺麗」
「ね、ビックリだよ。こんなところがあるなんて……これが、リューの言ってた宝石坑道?」
「はいっす! ……いやでも、ウチが知ってるものより、色がもっと鮮やかな気がするっす。ここが特別なんすかね……?」
「おう、良い目をしてるな、獣人族の嬢ちゃん。ここのは、一切採掘してねぇのに加え、他の坑道より魔力の質が良いから、鉱石の輝きが良いんだ」
ウチの嫁さんらの言葉に、そう答えるドワーフ王。
別行動を取っていた彼女らだが、「良いモン見せてやるから、せっかくだから呼んだらどうだ」というドワーフ王の言葉に甘え、こうして合流したのだ。
「へぇ……これが、全部鉱石なのか」
「おう、この鉱山の特性でな。同じ石でも、魔力の吸収の仕方で色味が変わるんだ。この通路を見せてやれるのは今だけじゃが、後で表の方の宝石坑道を見ていくといい」
そんな感じで、雑談を交わしながら歩くこと数十分程。
「さ、着いたぜ。ここが、この霊峰の深奥じゃ」
彼の言葉の後、目の前が開け――瞬間、今までとは比べ物にならない程の光が飛び込んでくる。
熱。
赤。
煮え滾り、火の粉を放つ、ドロドロのマグマである。
恐らく魔法で通路を保護しているのだろうが、それでも汗すら燃え上がりそうな程に暑い。
何もない状態だったら、すでに身体が発火してるだろうな。
そして、この道の続く先には――祠が、一つ。
シンプルで小さな祠だが、この空間全てがあれのために存在しているかのような、非常に神聖な、圧倒される荘厳さがある。
祠の中心には、古びた石板が置かれており、どうやらあれを祭るためのものであるようだ。
石板に彫られている文字は……『触レヨ』、か。
触れよ?
祭るにしては、変な文字だな。
「アンタが見せようとしたのは、これか……?」
「おう、つっても何も彫られてねぇ、のっぺりとした石だがな」
「え? 文字が彫られてるだろ?」
「あん? 文字? ……お前さん、コイツが読めるのか?」
そこで、ドワーフ王は非常に真剣な顔つきとなり、俺を見る。
「……あぁ。触れよ、だ」
彼は、ジッと俺を見詰めた後、それから石板の方へと視線を送る。
「……ドワーフの王には、一つ言い伝えがあってな。神を探す者がいたら、ここに連れて来いっつーものなんだが……そうか、お前さんが……」
何事か、納得したような様子を見せてから、ドワーフ王は言葉を続ける。
「魔王、触れてみてくれ」
「……わかった。エン、一緒にいてくれるか」
「……ん。当然」
擬人化を解き、担いでいた刀へと彼女が戻ったのを見てから、俺は他の三人に声を掛ける。
「三人は、ちょっと下がっててくれ。何があるかわからん」
俺の言葉を聞き、ドワーフ王は怖いくらいの真剣な顔で、ウチの嫁さん二人はちょっと緊張した様子で下がったのを見てから、石板の前に立つ。
文言が示す通り、恐る恐る右手で触れると、瞬間その文字が消え、新たに別の文言が浮かび上がる。
この感じ。
これは……そうか。
これは、ダンジョンのメニュー画面と同質のものだ。
形状が石板というだけで、俺がいつも使っているものと同じである。
俺には、これを操作する簡易権限が付与されている。
多分、シセリウス婆さんもここには来たのだろうが……彼女には何も起きなかったのだろう。
条件は、魔王であるかどうか、だろうか。
変化して、浮かび上がった文字は――『神ヲ冠セル武具ヲ』。
神を冠せる?
……もしや、神槍のことだろうか。
俺がアイテムボックスから神槍を取り出すと、どうやらそれが正解だったようで、浮かび上がる文字がさらに変化する。
『唱エヨ。彼ノ真名ハ、ルィン』
「ルィン……?」
その瞬間だった。
俺の意識が、一瞬空白となる。
ぐにゃりと、天地がひっくり返るような不快な感覚。
「ッ……」
あまりの急激な変化に、俺は立っていることが出来なくなり、エンの刀身にもたれかかるようにして膝から崩れ落ちる。
――いや。
俺は、崩れ落ちなどしていなかった。
俺は、その場所に立っていた。
全てが白。
彼方まで、全てが白く、何もない空間。
上下がわからない。
平衡感覚が定まらず、果たして俺は、真っ直ぐ立っているのか、斜めに立っているのか、逆さまに立っているのか。
静寂。
――導キ手ト成リシハ、吾カ。
いつの間にか、俺の目の前に、ソレがいた。
髑髏。
骨の身体。
腕らしきものは数本あり、尻尾と角も見える。
ヒト種からは、大分外れた異形のナリの、ソレ。
圧倒的な、圧し潰されてしまいそうになる、その存在感。
だが、俺はこれを知っている。
この感覚を、感じたことがある。
「神槍か」
俺の言葉に、ソレは。
神槍は、ゆっくりと首を縦に振ったのだった。
へい!
本日、『魔王になったので、ダンジョン造って人外娘とほのぼのする』の11巻と、コミック版の5巻が発売しやす!
どちらも、どうぞよろしく……!
11巻のね、リューの花嫁衣装が超絶良いのよ。




